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カレラ市職業技術訓練所建設計画

1.評価対象プロジェクト名:
 カレラ市職業技術訓練所建設計画
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2.国名:チリ
3.援助形態:
 草の根無償99年度、2.3百万円
4.被供与団体:
 カレラ市役所
5.評価者:
 荒木 光彌 (株)国際開発ジャーナル社編集長
 中畝 義明 (社)世界経営協議会研究調査部長
 幡谷 則子 アジア経済研究所地域研究2部副主任研究員
 橋本 吉之 アイ・シー・ネット(株)企画部プログラム研究員
6.現地調査実施期間:2001年1月20日~2月5日
7.プロジェクトの目的:
 本案件は、カレラ市内の貧困女性に対する、職業訓練・生活向上促進重点プロジェクトのうち、きのこ(ヒラタケ)栽培プロジェクトを、職業技術訓練所(きのこ栽培所)を建設することによって支援するものである。貧困女性対策は、本案件の裨益団体であるカレラ市役所として重要課題である。きのこプロジェクトは、カレラ市内の貧困女性に対しきのこ栽培及び経営・自己啓発等の包括的技術訓練を行い、現金収入の道を開く貧困対策・生活向上を目的としている。
8.評価結果:
(1) 本案件は、青年海外協力隊と現地の草の根組織(コミュニティ組織、母親の会)とがタイアップして形成、実現された点が評価される。案件形成は青年海外協力隊員であった村落開発普及員の助言に負っている。同協力隊員と現地の村落女性との意見交換を通じて、女性のイニシアティブによって生まれた。草の根無償被供与団体は地方自治体、カレラ市ではあっても、まさに地元住民の意見が下から吸い上げられたという点で、草の根無償の理念を生かした案件形成であったといえよう。草の根無償の案件選択、実施に関して、青年海外協力隊や専門家との連携を今後考えてゆくには、格好の参考例である。
(2) 本案件は女性庁の実施団体である、PRODEMU(女性プログラム)やFOSIS(社会連帯基金)などの支援も受けている。チリ政府機関は、ソフト面(訓練者派遣など)や事業運営面など、草の根無償が供与できない分野で支援している。この意味で、チリ政府と日本の草の根無償とが共同で女性の地位向上促進政策を支援していることになり、意義深い。
(3) 本案件の最大の効果は、きのこ栽培プロジェクトに参加した女性達の家庭内での地位向上(特に自尊心、自立心を養うこと)と経済力の向上である。カレラ市の集落では、これまで女性は主に主婦に徹するか、あるいは周辺農園に収穫要員などとして短期季節労働に従事するほかに、雇用機会がなかった。本きのこプロジェクトは、職住間距離の接近(同じコミュニティ内に仕事場がある)、労働時間帯の融通性(2人組になり、一日2時間、週3回)を得た上で、現金収入の道が開けるという、子供をもつ女性にとっては絶好の労働条件を供与したことになる。
(4) また、女性が経済的自立、自立的自己形成の道を模索したことで、家庭内の立場も変化してきた。こうした定量的に評価できない変化については、きのこ栽培センター(コミュニティセンター)視察時に、参加女性たちとの意見交換において明らかにされた。
(5) 現金収入を得た女性たちの目標は、子弟の教育の質を向上させることに集中した。また、家庭からの移動距離が短いことから、育児や家事に専念する時間を規則化することが可能となり、それが生活水準の向上につながっている。
9.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
(1) プロジェクトの内容自体、まだテストケースであることは否めない。まず、今後自立的発展ができるだけの採算があう生産を実現するには、規模が小さすぎ、販路も開拓する必要がある。現在のきのこ生産高は一月あたり約6Kgだが、これが商業ベースにのるためには、月生産量を約55kgに拡大しなければならない。そもそも、きのこ自体現地チリの食生活になじみがなかったという初期条件のもとで、日本の「ヒラタケ」を生産プロジェクトにとりあげることに、文化的な困難性が伴った。
(2) こうした難しさをかかえる本案件が今後継続してゆくには、技術指導の継続が必要である。本案件発案者の協力隊員の帰任後は、チリ国内の別地域からJICA専門家が個人的に月1回ほどの割合で技術指導に訪れているが、十分ではない。本案件を持続・発展させるには、きのこ栽培に詳しい協力隊員あるいは専門家の派遣が急務である。
(3) 生産規模・販路の拡大に加え、それらに先立つ現地の食文化への「ヒラタケ」の浸透をはかることがより大きな課題である。この実現には長期的展望が必要であるが、例えばきのこ類の調理方法や、チリの食文化にも馴染みやすいメニューなどの紹介などが考えられるが、これらはすでに現地側からの要望としてもあがっており、具体化を検討すべきであろう。
10.外務省からの一言:
(1) 提言を受けて早急に協力隊員か専門家の派遣を地元の要望を踏まえつつ検討したい。
(2) このプロジェクトのお陰で、女性のやる気が高まったことが肌で感じられた。日本人協力隊員の活躍で、日本の顔の見える援助としても今後協力隊員を巻き込んだ草の根案件の発掘に努めたい。
(3) このプロジェクトの実施地区は、チリの貧困撲滅対策の一環としてのチリバリオプログラム(各市町村の貧困地区の自助努力に対し社会投資を行う包括的プログラム)の対象地域に属し、もともとカレラ市からの貧困家庭対策の企画・実施要望に対し青年海外協力隊員を配置(特に未婚の母・母子家庭が多数存在)していた所であり、そうした地域における婦人活動の一環として取り組まれていたものが参加女性の自己啓発を伴いつつ結実したものとして高く評価されている。
(4) また、このプロジェクトは関連するキノコの生産法人の登録名に協力隊員の名を記念した名称を使用していることからも分かるように、活躍する協力隊員との連携により非常に効果的に実施出来たものと考えている。


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