1.テーマ:
地球的規模の問題への取組(環境・森林保全)(重点課題別評価) |
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2.調査対象国:全世界
現地調査国:インド及び中国
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3.評価チーム:
(1)評価主任:望月 克哉 *
(アジア経済研究所新領域研究センター専任調査役)
(2)アドバイザー:
増田 美砂*(筑波大学生命環境科学研究科助教授)
関 良基(地球環境戦略研究機関客員研究員)
(3)コンサルタント:
伊藤 毅*(アイ・シー・ネット株式会社)
浅野 剛史*(アイ・シー・ネット株式会社)
池田 研造(アイ・シー・ネット株式会社
*=現地調査団メンバー |
4.調査実施期間:2006年8月~2007年3月 |
5.評価方針
(1)目的
本評価調査は、これまでのODAによる森林保全に関する様々な取組を、森林の多面的な効果(温暖化防止、生物多様性保全など)も含めて、包括的に評価することを目的とした。また、今後のより効果的・効率的な協力に役立つ教訓と提言を示すとともに、評価結果を公表することで国民に対する説明責任を果たすことも目的として実施された。
(2)対象・時期
評価対象案件は、1999年度から2005年度の間に開始された日本の森林保全に関する援助事業(有償資金協力、無償資金協力、技術協力)とした。本評価調査では「森林保全」のうち、特に森林造成とその管理工場のための協力をとり上げて、これを主要な目的とするものを対象案件とした。植林や森林保全を含んでいても、農業・農村開発や生物多様性保全を主な目的とするもの、土木的な要素が強いものなどは除外した。
ケーススタディの対象国として、複数の対象案件が実施されており総体的な政策レベルの評価ができる中国とインドの2カ国を選択した。
(3)方法
本評価調査では、外務省の「ODA評価ガイドライン第3版」(2006)の評価方法にのっとり、「政策における位置付けの妥当性」「プロセスの適切性」「結果の有効性」、「地球的規模の問題」対策への貢献という4つの視点から評価の枠組みを策定した。「地球的規模の問題」への対策の具体的な分野として、「温暖化防止」「砂漠化対処」「生物多様性保全」「農村地域の生活改善/貧困削減」の4つを選んだ。
本評価調査は、この評価枠組みに従い、国内での文献調査とインタビュー調査、在外公館とJICA現地事務所への質問票調査、インドと中国での現地調査により実施した。
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6.評価結果
(1)政策の位置づけの妥当性
森林保全に関する取組は、ODA中期政策やEcoISDに明確に位置付けられており、上位政策との整合性に問題はない。「国別援助計画」の中での位置づけ、被援助国の開発政策やニーズとの整合性についても、妥当性は高い。
(2)結果の有効性
投入実績については、ODA予算が漸減傾向の中で一定の水準を保っているものの、上位政策の変化に対応した明確な変化は確認できなかった。成果の達成度については、終了案件ではおおむね達成されており、実施中案件でも大幅な遅延はみられなかった。調査の時点では事業全体のインパクトは把握できないが、有効性はおおむね確保できると期待される。
(3)プロセスの適切性
プログラム化が援助スキーム間の連携などの総合的・包括的な枠組みによる協力という観点から不十分な面があったこと、長期的なモニタリングの体制が十分でないこと、環境保全への取組を積極的に促す政策協議までは至っていないことなどが指摘できるが、被援助国との政策協議、他ドナーなどとの連携、我が国の経験と科学技術の活用、案件のモニタリングなどは適切であり、プロセスの適切性はおおむね高い。
(4)「地球的規模の問題」対策への貢献
温暖化防止に関しては、植林総面積などは確認できるものの、それらの温暖化防止への直接的な効果は判断できなかった。砂漠化対処に関しては、乾燥地や荒廃地への植林案件が豊富にあり、この面で一定の貢献が期待される。生物多様性保全に関しては、植林樹種に在来種を用いるなど限定的な形での配慮がなされているが、生物多様性保全への絶対的な意味での貢献度は限定的である。農村地域の生活改善/貧困削減に関しては、森林生産物の分配、貧困削減などを目的に含む事業も多く、住民の生計向上に貢献することが見込まれる。
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7.提言
(1)植林事業の成功の可能性を高めるための提言
植林事業では、長期的な貧困削減と森林再生をセットにして、植林に協力する農家の生計向上など貧困削減への配慮を組み込むことが重要である。また、有償資金協力による植林事業では、被援助国側に国家政策としての目標、基本的な植林技術、そして政府の強力なリーダーシップが備わっていることが成功につながると考えられ、これらの状況を確認して援助を決定することが必要である。
(2)二国間援助で「地球的規模の問題」に取り組むための提言
地域住民が必ずしも実感できない地球的規模の問題は、二国間援助での要請が上がりにくい。そのため、地球的規模の問題を重視する日本の姿勢を明確に示し、案件の発掘・形成を相手国に対して促すこと、国際条約の履行義務を果たせるような案件の発掘・形成を支援すること、そうした案件を優先的に扱うなど要請を出しやすい環境を整えることが重要である。そのためには、国際条約に関する政府方針を、ODA事業に反映させるための具体的な仕組みの強化が必要である。そのほか、森林の持つ多面的な機能は、多くの地球的規模の問題と関連しており、これらの便益を副次的な効果として明示することで地球的規模の問題との関連性がわかるような事業デザインが求められる。
(3)森林保全の技術を活用するための提言
異なる自然条件下での経験や情報を整理するとともに、森林と地域社会との関わりに関する知見や情報も整理し、必要に応じて事業の計画や実施に活用できる体制を構築することが重要である。また、政治・経済・自然などの条件に適した前例「グッドプラクティス」を、同一国内に限らず周辺国でも活用することが有効である。人材活用は、周辺国の専門家も含めて効率的・効果的に行うべきである。
(4)効果的なモニタリング・評価を実施するための提言
森林の多面的機能を測るには、長期的なモニタリング・評価が必要である。長期的な評価では、当初は想定できなかった状況の変化を十分に考慮することが必要である。また、植林面積などだけでなく、森林の質に関する評価指標も用いて総合的に評価することが求められる。
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注)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。