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地域協力への支援に関する我が国の取り組みの評価
(重点課題別評価)

1.テーマ:
 地域協力への支援に関する我が国の取り組みの評価

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2.国名:中米地域
 現地調査国:エルサルバドルとホンジュラス
3.評価者他:
(1)評価主任:今里義和 *
 (東京新聞論説委員/ODA評価有識者会議メンバー)
(2)アドバイザー:丸岡泰 *
 (石巻専修大学経営学部助教授)
(3)評価コンサルタント:
 和田泰志 アイ・シー・ネット(株) 
 シニアコンサルタント
 堀恒喜  同コンサルタント*
 大橋由紀 同コンサルタント*
 小谷慶子 同コンサルタント*
 *=現地調査団メンバー
4.調査実施期間:2006年8月~2007年3月

5.評価方針

(1)評価の目的
 本評価は、これまで実施された、あるいは実施中である我が国の「地域協力への支援」を検証し、教訓や政策提言を得るとともに、評価結果を公表することで国民に対する説明責任を果たすことを目的として実施された。

(2)評価の対象
 本評価は、ODAによる地域協力への支援(以下、対地域協力支援と呼ぶ)を評価対象とした。対地域協力支援の定義は、現時点では統一的に広く定着しているわけではない。本評価では対地域協力支援を「地域協力の枠組みを対象として、同枠組みの目的の推進や、地域の共通課題への対処に協力する支援」と定義し、関連する用語である「広域協力」とは区別した。
 本評価では、我が国の援助実施プロセスに着目し、対地域協力支援を3種類((A)地域機関に対する直接的な支援、(B)地域機関を窓口とし、複数国に対して一つのパッケージとして協力する手法、(C)地域機関との合意を得た、域内複数国への支援)に分類して評価した。この分類を以下、A型、B型、C型と呼ぶ。
 調査は2006年7月~2007年3月(現地調査は2006年11月)に実施された。

(3)評価方法
 本評価では、外務省が実施する政策レベル評価の基本方針にならい、目的、結果、プロセスの3つの視点から評価の枠組みを作成して、評価を実施した。本評価は、国内文献調査、国内インタビュー、現地調査によって進められた。

6.評価結果

(1)目的の評価

(イ)国際社会の潮流に照らした妥当性
 我が国が取り組んでいる対地域協力支援は、冷戦崩壊後の地域協力の枠組みの発展、進化の過程に対応しようとするものである。順調には発展、進化することが現実には難しい、地域協力の枠組みに対する支援でもある。

(ロ)我が国の上位政策との整合性
 ODA大綱「地域協力の枠組みとの連携強化を図るとともに、複数国にまたがる広域的な協力を支援する」やODA中期政策「国や地域に跨る広域インフラの整備を行うほか、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材の育成を積極的に支援する。」をみても、我が国の対地域協力支援への取り組みは妥当である。

(ハ)中米地域における地域協力のニーズとの整合性
 我が国の対中米地域協力支援は、1995年より始まった「日本・中米『対話と協力』フォーラム」を援助の大きな枠組みの窓口とすることで、中米統合の理念やその進捗段階に資する協力テーマが設定される仕組みとなっている。これより中米地域のニーズと、我が国の対地域協力支援との整合性はあるといえる。

(ニ)我が国の中米地域に対する上位政策との整合性
 我が国の対中米協力に関する上位政策には、日本・中南米新パートナーシップ構想(中南米全域が対象。いわゆる「小泉ビジョン」)、東京宣言および行動計画がある。
 東京宣言では、我が国が「中米統合のプロセスを支持すると共に、広域的なプロジェクトに対する支援を継続」することを謳っている。また、「行動計画」では、「中米域内協力網構想」を掲げており、「小泉ビジョン」と共に対地域協力支援を推進するものといえる。

(ホ)国際社会がみる中米地域の優先課題との整合性
 現地調査を通じて、各ドナー機関、SICA機関、政府機関、新聞メディアなど様々な立場から、現在の国際情勢下における中米地域の優先課題として、「自由貿易や開放経済の推進」が挙げられた。この優先課題と照らし、我が国の対地域協力支援は、「域内のインフラ整備と拡充への支援」と「弱者支援」の2点より、妥当性が確認できた。(ヘ)他ドナーとの比較における我が国の優位性
 我が国の対地域協力支援は、現地新聞等メディアや他ドナーに高く評価されていた。我が国の対地域協力支援にみられる比較優位の特質として、実施体制を指摘する声も挙げられた。このように我が国の対地域協力支援には優位性がみられることから、我が国は対地域協力支援に取り組むに相応しい援助実施国であると評価できる。

(ト)地域の特性からみた妥当性
 中米各国ではいわゆる1980年代の「失われた10年」を経た後、現在までに、民主化の推進や、「自由貿易や開放経済の推進」に取り組んでいる。このパラダイムシフトを中米地域の特性と捉え、我が国の対地域協力支援と照らすと、和平合意、SICA設立後に実現されたという「適時性」や、経済統合や物流を促す効果のある有償・無償資金協力、人や技術知識の共有を果たす技術協力などの「協力内容」の視点から妥当性がみられる。

(2)結果の評価

(イ)地域協力の発展、進化にどのように貢献しているか
 国内関係者からの聞き取りによれば、我が国の対地域協力支援は、「一国から周辺国への技術ノウハウの普及を効率的に実現できる」、「国境を越えた人の交流を促進できる」、「二国間協力のみでは対応が難しい課題に取り組めることがある」など貢献していることが認められた。地域協力の発展、進化に対する、我が国の対地域協力支援の有効性はあると考えられるが、「全世界に広がる地域協力の発展、進化の中で、我が国の対地域協力支援に有効な結果がみられるか」どうかについては、本調査を通じて十分に検証することは出来なかった。

(ロ)中米の地域協力の目標にどのように貢献しているか
 中米統合の目標は、経済統合のみならず、政治・社会的統合をも視野に入れた」持続的な地域の発展、平和と民主主義の定着である。この目標を実現する上で、我が国の対地域協力支援は、「域内後進国の自信の喚起を促す」、「人的交流を促進する」などの面で有効な結果をもたらしている。

(ハ)地域統合の分野ごとのニーズがそれぞれどの程度達成されたか
 我が国の対地域協力支援は、シャーガス病対策、インフラ整備・拡充、算数教育、防災、廃棄物総合管理、警察支援などの分野で成果が見られる、あるいは今後の成果が期待されている。

(ニ)二国間協力には見られない、結果の有効性があるか
 我が国の対地域協力支援には、二国間協力には見られない有効性として、「知識や技術経験を域内で共有できる」、「国境を越える性格のある課題に対応できる」、「援助実施コストの削減すなわち効率性が認められる」、「規模の経済効果を得られる」などが確認された。

(3)プロセスの評価

(イ)我が国による対中米地域協力支援の、案件形成段階の「プロセス」の評価
 案件形成段階のプロセスからは、関係者が試行錯誤を繰り返しながら苦労して取り組んでいる様子が浮き彫りとなった。
 苦労を伴う第一の原因は、我が国側の合意形成の足並みが揃わないことにある。対地域協力支援では援助対象が何カ国にもわたるため、企画形成段階には様々な関係者による合意形成が必要となる。しかし合意形成には(a)我が国のODAが二国間協力を主体としている、(b)用語、定義が不統一である、(c)対中米地域協力支援の上位政策(行動計画)が十分に認識されていないなどが原因となり、足並みがなかなか揃わない。
 苦労を伴う第二の原因は、地域機関との連携にある。現地では、地域機関の中には、対地域協力支援の受け皿として、実務能力が十分でない機関が多いことも指摘された。
こうした苦労は、特にC型に分類される対地域協力支援に多くみられる。

(ロ)我が国による対中米地域協力支援の、実施段階の「プロセス」の評価
 我が国の対中米地域協力支援は、特にC型にみられるように、実施段階に入るとプロセスの上では二国間協力と同様の手法がとられる。これによる対地域協力支援の実施段階のプロセスの問題点として、(a)実施段階での地域機関との連携が十分でない、(b)ある国で培われた協力成果を近隣国に伝搬、普及活用する場合の、協力の投入量の見極めが十分でない、(c)プロジェクトの開始時期、あるいは終了時期の足並みが揃わないなどが認められた。

(ハ)我が国の対中米地域協力支援の、他ドナーとの連携「プロセス」の評価
 我が国の対地域協力支援は、B型にみられるように、地域機関と連携することで、ドナー協調が促進されやすくなる場合がある。なお他ドナーとの連携は、各国におけるドナー社会の連携の機運や、他ドナーの考えにも左右されやすい。

7.提言

(1)対地域協力支援への取り組みの、さらなる推進
 冷戦後、新たな秩序の構築を模索する国際社会にとって、地域協力の枠組みは、平和と安定の基盤を広げる上で重要である。対地域協力支援には、この重要な地域協力を促し、地域の安定を実現する施策として意味がある。対地域協力支援には、我が国の国益に結びつく効果もある。我が国は、この重要な意味を持つ対地域協力支援に、引き続き発展的に取り組むべきである。
 他方、我が国の対地域協力支援には、問題が無いわけではない。対地域協力支援はODAの新しい切り口であるため、概念上の整理が十分ではない。案件形成や実施段階のプロセスにも、いくつかの問題点を抱えている。
 我が国は引き続き対地域協力支援に取り組む一方で、概念を整理し、実施体制を強化する必要がある。

(2) 概念上の整理

(イ)まず用語を統一し、概念や定義を確立する
 対地域協力支援の概念上の整理を行う上では、まず用語の統一から始める必要がある。その上で概念や定義が、さらに「どのような案件が対地域協力支援の対象となるか」といった「要件」が確立される必要がある。この「要件」は援助の相手側とも共有されるべきである。
 定義や用語、あるいはその分類方法をめぐっては、今回の調査のみで結論づけるのは尚早であり、今後さらなる議論が必要とされよう。中米地域のみならず、他の地域の状況を十分に踏まえて議論する必要もある。こうした議論には、世界の多くの地域機関を巻き込んで行われるのが望ましい。

(ロ)形式に拘らない、柔軟な対地域協力支援の運用を
 我が国の対地域協力支援は、地域機関と連携して取り組む形式を理想としつつも、実務能力が十分でない地域機関と連携することが必ずしも最善とは限らない。一方で成果を上げつつあるC型の意味を、プロセスのみに着目するばかりに、「地域機関と連携していない」からといって軽視すべきではない。
 対地域協力支援の運用は、先方の地域機関の実務能力を見ながら、可能な場合は連携を、そうでない場合は出来る範囲で連携するという、A型、B型、C型などの形式に拘らない、目的の達成に主眼をおいた、柔軟な運用に努めるべきである。

(3)具体的な対地域協力支援の強化策、プロセスの改善に着目して

(イ)十分な合意形成や議論の場を:広域(地域)ODAタスクフォースの有効活用
 我が国の援助関係者には、個別の要請の必要性について関係者間で論じ、できる限り迅速に合意形成する場が求められる。
 その具体的な場として、広域(地域)ODAタスクフォースは有効となろう。まずは同タスクフォースを通じ、関係者間で地域の共通課題などについて議論し、協力の必要性について認識を共有する必要がある。広域(地域)ODAタスクフォースは現在でも存在するが、関係者の調整や合意形成の場として機能を強化する必要がある。

(ロ)対地域協力支援の実施に向けた予算の優先的な配分を
 対地域協力支援には「地域の安定」を支援するという重要な役割がある。対地域協力支援の効果は地域一帯に及ぶだけでなく、それが我が国の国益につながることは、安保理決議をめぐる事例からも見ることができる。その意味では、「地域の安定」にふさわしい優良な案件が発掘されれば、それに対して優先的に取り組む価値は、十分にあるといえる。
 対地域協力支援を促進するにあたっては、予算配分はそれぞれの二国間協力の枠にこだわらず、柔軟に考慮すべきである。対地域協力支援は「地域の安定」につながり、さらにその国にとっても有益であるので、その趣旨は被援助国にも周知しておくべきである。

(ハ)長期的な視点にたち、地域機関の更なる強化を
 我が国の対地域協力支援には、A型~C型をめぐる形式に拘らない、柔軟な運用が求められることは既に提言した。しかしその一方で、将来的に地域機関との連携が更に促進されるよう、長期的な視点にたち、地域機関の更なる強化を支援することも、検討されるべきである。我が国が国際機関に拠出した資金との連携や、他ドナーとの援助協調なども検討に値する。

(4)その他、実施段階での更なる工夫・効果の最大化を目指して

(イ)行動計画の移行計画および中間見直しの必要性
 我が国が中米地域に対し継続して先方のニーズに応えていくためには、現在の行動計画の有効期間を明示し、失効時に評価を行い、教訓を導き出し、次期行動計画に反映させることが望ましい。そのためには「日本・中米『対話と協力』フォーラム」などの場を通じ、失効時の評価や次期行動計画の策定をどうするか、先方と改めて確認する必要がある。上述フォーラムや広域(地域)ODAタスクフォースも活用できよう。

(ロ)ノウハウの蓄積に努める、適正な対地域協力支援の実施量の見極めを
 ある国の成果を他国に伝搬、普及活用する場合には、それに必要な適正活動量をより正しく見極め、専門家などの投入量が適正とされる必要がある。
 我が国の対地域協力支援には今暫く、「効率性への期待」と活動量との均衡をめぐる経験の蓄積ないしは試行錯誤が必要とされよう。経験の蓄積を続け体系的に整理する作業が重要である。

(ハ)対地域協力支援の実施対象国間の、開始の足並みを揃える
 対地域協力支援は、取り組みの対象によっては、地域で一斉に開始することで二国間協力のみでは得られない、付加価値的な効果を最大化できる分野がある。例えば感染症対策に必要な媒介虫駆除は、一つの村で駆除しても、しばらくすれば近隣国から再び入ってくる場合がある。理想的には、こうした分野ではできるだけ、多国間での事業開始から進捗にかけての足並が揃えられるべきである。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

 

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