6.評価結果
(1)目的の評価
(イ)国際社会の潮流に照らした妥当性
我が国が取り組んでいる対地域協力支援は、冷戦崩壊後の地域協力の枠組みの発展、進化の過程に対応しようとするものである。順調には発展、進化することが現実には難しい、地域協力の枠組みに対する支援でもある。
(ロ)我が国の上位政策との整合性
ODA大綱「地域協力の枠組みとの連携強化を図るとともに、複数国にまたがる広域的な協力を支援する」やODA中期政策「国や地域に跨る広域インフラの整備を行うほか、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材の育成を積極的に支援する。」をみても、我が国の対地域協力支援への取り組みは妥当である。
(ハ)中米地域における地域協力のニーズとの整合性
我が国の対中米地域協力支援は、1995年より始まった「日本・中米『対話と協力』フォーラム」を援助の大きな枠組みの窓口とすることで、中米統合の理念やその進捗段階に資する協力テーマが設定される仕組みとなっている。これより中米地域のニーズと、我が国の対地域協力支援との整合性はあるといえる。
(ニ)我が国の中米地域に対する上位政策との整合性
我が国の対中米協力に関する上位政策には、日本・中南米新パートナーシップ構想(中南米全域が対象。いわゆる「小泉ビジョン」)、東京宣言および行動計画がある。
東京宣言では、我が国が「中米統合のプロセスを支持すると共に、広域的なプロジェクトに対する支援を継続」することを謳っている。また、「行動計画」では、「中米域内協力網構想」を掲げており、「小泉ビジョン」と共に対地域協力支援を推進するものといえる。
(ホ)国際社会がみる中米地域の優先課題との整合性
現地調査を通じて、各ドナー機関、SICA機関、政府機関、新聞メディアなど様々な立場から、現在の国際情勢下における中米地域の優先課題として、「自由貿易や開放経済の推進」が挙げられた。この優先課題と照らし、我が国の対地域協力支援は、「域内のインフラ整備と拡充への支援」と「弱者支援」の2点より、妥当性が確認できた。(ヘ)他ドナーとの比較における我が国の優位性
我が国の対地域協力支援は、現地新聞等メディアや他ドナーに高く評価されていた。我が国の対地域協力支援にみられる比較優位の特質として、実施体制を指摘する声も挙げられた。このように我が国の対地域協力支援には優位性がみられることから、我が国は対地域協力支援に取り組むに相応しい援助実施国であると評価できる。
(ト)地域の特性からみた妥当性
中米各国ではいわゆる1980年代の「失われた10年」を経た後、現在までに、民主化の推進や、「自由貿易や開放経済の推進」に取り組んでいる。このパラダイムシフトを中米地域の特性と捉え、我が国の対地域協力支援と照らすと、和平合意、SICA設立後に実現されたという「適時性」や、経済統合や物流を促す効果のある有償・無償資金協力、人や技術知識の共有を果たす技術協力などの「協力内容」の視点から妥当性がみられる。
(2)結果の評価
(イ)地域協力の発展、進化にどのように貢献しているか
国内関係者からの聞き取りによれば、我が国の対地域協力支援は、「一国から周辺国への技術ノウハウの普及を効率的に実現できる」、「国境を越えた人の交流を促進できる」、「二国間協力のみでは対応が難しい課題に取り組めることがある」など貢献していることが認められた。地域協力の発展、進化に対する、我が国の対地域協力支援の有効性はあると考えられるが、「全世界に広がる地域協力の発展、進化の中で、我が国の対地域協力支援に有効な結果がみられるか」どうかについては、本調査を通じて十分に検証することは出来なかった。
(ロ)中米の地域協力の目標にどのように貢献しているか
中米統合の目標は、経済統合のみならず、政治・社会的統合をも視野に入れた」持続的な地域の発展、平和と民主主義の定着である。この目標を実現する上で、我が国の対地域協力支援は、「域内後進国の自信の喚起を促す」、「人的交流を促進する」などの面で有効な結果をもたらしている。
(ハ)地域統合の分野ごとのニーズがそれぞれどの程度達成されたか
我が国の対地域協力支援は、シャーガス病対策、インフラ整備・拡充、算数教育、防災、廃棄物総合管理、警察支援などの分野で成果が見られる、あるいは今後の成果が期待されている。
(ニ)二国間協力には見られない、結果の有効性があるか
我が国の対地域協力支援には、二国間協力には見られない有効性として、「知識や技術経験を域内で共有できる」、「国境を越える性格のある課題に対応できる」、「援助実施コストの削減すなわち効率性が認められる」、「規模の経済効果を得られる」などが確認された。
(3)プロセスの評価
(イ)我が国による対中米地域協力支援の、案件形成段階の「プロセス」の評価
案件形成段階のプロセスからは、関係者が試行錯誤を繰り返しながら苦労して取り組んでいる様子が浮き彫りとなった。
苦労を伴う第一の原因は、我が国側の合意形成の足並みが揃わないことにある。対地域協力支援では援助対象が何カ国にもわたるため、企画形成段階には様々な関係者による合意形成が必要となる。しかし合意形成には(a)我が国のODAが二国間協力を主体としている、(b)用語、定義が不統一である、(c)対中米地域協力支援の上位政策(行動計画)が十分に認識されていないなどが原因となり、足並みがなかなか揃わない。
苦労を伴う第二の原因は、地域機関との連携にある。現地では、地域機関の中には、対地域協力支援の受け皿として、実務能力が十分でない機関が多いことも指摘された。
こうした苦労は、特にC型に分類される対地域協力支援に多くみられる。
(ロ)我が国による対中米地域協力支援の、実施段階の「プロセス」の評価
我が国の対中米地域協力支援は、特にC型にみられるように、実施段階に入るとプロセスの上では二国間協力と同様の手法がとられる。これによる対地域協力支援の実施段階のプロセスの問題点として、(a)実施段階での地域機関との連携が十分でない、(b)ある国で培われた協力成果を近隣国に伝搬、普及活用する場合の、協力の投入量の見極めが十分でない、(c)プロジェクトの開始時期、あるいは終了時期の足並みが揃わないなどが認められた。
(ハ)我が国の対中米地域協力支援の、他ドナーとの連携「プロセス」の評価
我が国の対地域協力支援は、B型にみられるように、地域機関と連携することで、ドナー協調が促進されやすくなる場合がある。なお他ドナーとの連携は、各国におけるドナー社会の連携の機運や、他ドナーの考えにも左右されやすい。
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