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カンボジア国別評価

1.テーマ:カンボジア国別評価  
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2.国名:カンボジア
3.評価者他:
(1)評価主任
 橋本ヒロ子 外務省ODA評価有識者会議メンバー、十文字学園女子大学社会情報学部教授
(2)監修者
 廣畑伸雄 日本政策投資銀行国際協力部課長
 天川直子 アジア経済研究所地域研究センター東南アジアII 研究グループ長
(3)業務従事者
 湊 直信 (財)国際開発高等教育機構(FASID) 国際開発研究センター所長代行
 渡邉恵子 (財)国際開発高等教育機構(FASID) 国際開発研究センター主任
 野本綾子 (財)国際開発高等教育機構(FASID)事業部主任
4.調査実施期間:2005年8月18日~2006年3月31日

5.評価方針

(1)目的
 a. 対カンボジア援助に関し、中間評価として、これまでのわが国の援助政策をレビューし、今後のより効果的・効率的なODAの実施に向けた教訓を導き出し、提言を行う。
 b. 調査結果を公表することにより、説明責任を果たし、カンボジアにおけるわが国のODAに関する国民の理解を促進すること。

(2)対象・時期
 2002年2月に策定された「カンボジア国別援助計画」とする。評価対象期間は2002年から2005年8月までとするが、必要に応じて前後の社会・経済状況や援助政策にも言及する。

(3)方法
 「ODA評価ガイドライン」(2005年5月)に準拠し、カンボジア国別援助計画の1)「目的」、2)「結果」、3)「策定・実施プロセス」について調査・分析し、それぞれの項目について評価を行った上で総合的に検証する。

6.評価結果

(1)わが国の対カンボジア国別援助計画の「目的の妥当性」に関する評価
 対カンボジア国別援助計画は、わが国のODA上位政策、カンボジアの開発ニーズに合致していることが確認でき、援助計画の目的の妥当性が確認された。しかし、国別援助計画の重点課題・分野には、カンボジアの開発ニーズの中で「民間セクター強化」や「人口対策」などの分野はカバーされておらず、その理由が明記されていなかった。「民間セクター強化」については既に活動として実施されているが、現在の国別援助計画ではカバーされていない分野もあり、カンボジアの現在のニーズをより反映した援助計画の改訂が求められる。また、効果的・効率的な援助を実施するためには、援助計画は重点分野の中での優先付けや、目標達成のためのアプローチ、そして具体的な指標を明確にすることが望まれるであろう。指標については、現在のカンボジアの開発計画であるNSDPにおける指標であるカンボジアミレニアム開発目標(CMDGs)をマクロ指標とし、その達成への貢献という位置づけの援助計画の作成も検討すべきであろう。

(2)わが国の対カンボジア国別援助計画の結果に関する評価
 わが国の支援は、経済成長および貧困削減(生活・社会面の格差是正)の双方で、バランスのとれた支援を行っていると言える。特に、インフラ整備では、成長の足かせの一つと言われているインフラへのアクセスの欠如・高コストという阻害要因を取り除くことに貢献していると思われ、各関係者からもカンボジアの開発にインパクトを与えていると評価されている。また、シハヌークヴィルには、互いに連関するわが国の民間セクター開発・貿易促進と物流インフラ整備の支援が集中しており、今後援助の集中の効果の発現が期待される。一方、生活・社会面の格差是正では、保健・教育・上水整備共に、アクセスの改善に寄与しているものの、格差是正という観点からは、わが国の援助はプノンペンやシアムリアップなどの都市部に集中しており、都市部と農村部の格差是正の貢献は限られている。過去、治安上等の問題からわが国の援助は都市部に集中していたが、治安が改善されつつある中、格差是正を果たすためには農村部への展開を検討したい。
 また、援助協調に対するわが国の対応は積極的な姿勢であると受け取られており、他ドナー、NGOにも歓迎されている。わが国の援助は、通信セクターへの支援における郵電省改革をセットとした有償案件、PRSO支援を通じた民間投資環境に関する政策助言なども行っており、こうした援助を通じ援助の効果向上だけではなく、カンボジアの政策にも影響を与えている。

(3)わが国の対カンボジア国別援助計画のプロセスに関する評価
 援助計画策定過程で様々なステークホルダーとの対話が持たれており、プロセスの透明性が確保されている。大使館やJICAカンボジア事務所など現場の方針が反映されていない部分もあり、民間セクター開発など現時点でカンボジアにとって重要な政策への支援を強調しても良かったであろう。国別援助計画の策定以降、WTOへの加盟、総選挙、四辺形戦略の発表、援助協調の進展など、カンボジアを取り巻く環境の変化は早い。民間セクター開発への支援などは国別援助計画で明確に記載されていないものの、援助の実態は環境の変化に対応している。現在、現地ODAタスクフォースが設立され、より現場重視の方向にあるが、今後の国別援助計画策定や重点分野・セクター戦略の策定などに関して、現地ODAタスクフォースの活用を強化し「オールジャパン」としてニーズの変化への素早い対応・方針を打ち出す必要があるだろう。
 案件形成・実施プロセスにおいては、大使館・実施機関とカンボジア側との協議は密に取られており、カンボジア側の案件形成能力を図りつつ、適切なプロセスが取られている。また、各スキーム間の連携、ドナーとの連携、NGOとの連携も図られ、援助の効率的・効果的な実施に努めている。これらの連携は、スキームを越えたプログラム・アプローチへの推進、カンボジア政府側のニーズの変化への対応などで効果を上げている。

7.次期国別援助計画に対する提言

(1)NSDPとのアラインメント
 次期国別援助計画はカンボジアの国家開発計画であるNSDPにアラインしたものを策定する必要がある。次期国別援助計画では、NSDPの目標、具体的には「CMDGs達成への貢献」を上位目標とする体系図の策定の可能性も検討すべきであろう。

(2)国別援助計画の明確化と迅速な援助計画の見直し
 次期国別援助計画の際には、援助の効果をより明確にするために、より体系的かつ論理的な構成を重視するのも一案であろう。また、開発目標や中間目標には曖昧さを可能な限り排除するため、指標を明記することも検討すべきであろう。同時に、カンボジアの経済社会状況の変化に応じ、必要な場合にはタイムリーかつ迅速な計画の見直しや修正が望まれる。

(3)支援分野の優先順位づけ
 現在、日本はほぼすべての分野をカバーして支援を行っているが、今後よりメリハリのある援助を実施するためには、支援分野間、または支援分野におけるサブセクターでの優先順位づけの検討も念頭に入れる必要があるだろう。優先順位づけの基準は、例えば、経験や知識面での日本の比較優位、他ドナーとの連携により相乗効果を生み得る活動、現状ではCMDGsの達成が難しいと予想されるサブセクター等の情報などが考えられる。

(4)ガバナンスの向上および行財政改革への日本の貢献分野
 ガバナンス向上へは、これまでも支援を行ってきた司法改革、そして国税、関税、ジェンダー主流化の分野の取り組み強化により、貢献が出来ると思われる。特に今後財政支援も見据えた上、重要となってくる歳入面で、現在も行っている会計や税務調査などの歳入面での人材育成を更に強化することが考えられる。

(5)プノンペン-シハヌークヴィル間の援助の集中の効果
 プノンペン-シハヌークヴィル間は、現在カンボジア経済成長の原動力となる成長回廊と見込まれており、わが国の支援は、シハヌークヴィル港拡張や、光ファイバー敷設、経済特区整備など、民間セクター開発に繋がる「集中」効果が期待でき、今後の援助の在り方への参考となる。また、これらのプロジェクトはほとんどすべてメコン地域開発に繋がるものである。わが国は、ASEAN諸国内の格差是正を促すため、地域協力に関するイニシアティブを打ち立てており、カンボジアを支援する際の横断的視点または留意点として念頭に置かなければならない課題であろう。

(6)「オールジャパン」としてのスキーム間の連携・協力による援助の効果・効率の向上
 多くの案件でスキーム間の連携が見られ、持続性、維持管理などの面で効果的な成果が発現されていた。更に、今後「オールジャパン」として一体感を強化するために、外務省・JICA・JBIC間でより連携した形で「国別援助計画」の策定も検討されてもよいであろう。その際には、カンボジアの開発ニーズに応えるためにも、現地ODAタスクフォースが実質的にも中心的な役割を担い策定するべきであろう。

(7)援助協調における現地ODAタスクフォースの役割の整理
 援助計画の策定、実施、モニタリングにおける現地ODAタスクフォースの重要性が増加し、援助協調の動きが早いカンボジアでは、現在の人員体制ではかなり負担がかかっている。援助協調に対しては、要員の増加・力強化が必要とされる。同時に、様々な援助協調における会合に対し、目的を区分しながら、大使館、JICA、JBICがどのように対応するか、役割分担を含めての整理が必要であろう。

(8)東京サイドからの支援体制構築
 援助協調などの議論は常に動いており、世界的な動きに関する情報や他国でのグッドプラクティスの共用、各種ノウハウの提供などが大いに有用であり、東京サイドから現地を支援するような体制(重要イシューに関するヘルプデスクの設置、有識者の照会システムなどのバックアップ体制)が必要であろう。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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