1. 調査対象国:ブラジル |
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2. 評価チーム: (1)評価主任:今里義和 (2)アドバイザー:高木耕 (3)コンサルタント: |
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3. 調査実施期間:2009年6月~2010年3月 | |
4.評価方針: イ.日本の対ブラジル援助政策を全般的に評価し、今後の援助政策立案及び援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得て、対ブラジル援助政策に反映させること ロ.評価結果をブラジル政府・機関関係者や他ドナーにフィードバックすることで、政府開発援助(ODA)実施国における改善を図り、あわせて結果の公表により日本のODAの広報と国民への説明責任を果たすこと ハ.今後新規策定が予定されている対ブラジル国別援助計画の検討作業に活用されるべく情報を提供すること (2) 対象・時期 2004~2008年度における日本の対ブラジル援助政策を対象とする。 (3)方法 外務省発行の「ODAガイドライン第5版(2009年2月)」及びその後のODA評価有識者会議での議論に基づき、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の視点から総合的に検証を行い、今後のブラジル国別援助計画策定に向けて提言を行った。 (4) 評価の制約 「結果の有効性」の検証作業では、対ブラジル国別援助計画が策定されておらず、援助目標や重点分野において定量的な目標値や指標も設定されていないため、目標達成度を目標値と実績値の対比から判断することは不可能であった。また、ブラジルの政府財政支出の規模に比して外国援助がわずかであることから、国全体の開発課題に対する日本や他ドナーの貢献度を定量的に把握すること自体が大きな意味をなさない。こうした制約下で、定性的な情報を活用した上で、有効性を総合的に判断した。また、「プロセスの適切性」の検証作業も、評価対象期間当時の担当者とのインタビューが可能でない場合が多かったため、入手可能な当時の文書・資料及び現担当者からの聴き取りに依拠している。 |
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5.評価結果 (1)「政策の妥当性」に関する評価 日本の対ブラジルODAは、国別援助計画が策定されていない中で、ブラジルの国家目標である経済成長、貧困削減、所得・地域格差是正、環境保全などを一貫して支援してきた。こうした支援内容は、(a)日本の上位政策(政府開発援助(ODA)大綱、中期政策等)、(b)ブラジルの開発計画・政策ニーズ(「多年度計画(PPA)2004~2007年」、「飢餓撲滅プログラム」、「成長加速プログラム(PAC)」等)、及び(c)国際的な優先課題(ミレニアム開発目標(MDGs)、気候変動問題等)と高い整合性を有するとともに、(d)他ドナーの援助政策とも相互補完的である。ただし、関係者の間には、今後、(a)両国の関係を強化する上でのODAの戦略的活用について、対ブラジル援助政策の再検討が必要である、(b)2002年以降比較的安定した経済成長と所得格差の是正を遂げたブラジルに対して「なぜ援助をするのか」という問いに明確に答える政策目標を設定することが重要である、といった認識が見られた。 (2)「結果の有効性」に関する評価 日本の対ブラジル援助は、その政策目標である「所得格差是正」及び「環境保全」について一定の役割を果たしたと評価できる。ブラジルでは1990年以降貧困削減と所得格差是正において顕著な進捗がみられ、地域間の所得格差も縮小する傾向にある。日本の援助の直接的な貢献度を測るのは困難であるが、日本をはじめとするドナーによる支援はこうした改善を助けたといえる。環境保全に関しては、所得格差是正ほど顕著な改善がみられていないが、自然環境分野では衛星画像を利用した違法伐採監視、森林保全と森林資源の持続的利用など、都市環境分野では下水道・下水処理施設の整備、大都市圏の洪水対策、廃棄物処理の改善などに資する日本の支援はブラジル政府から高く評価されている。 日本の対ブラジル援助の重点分野(環境、工業、農業、保健及び社会開発)について、日本の援助は資金投入の点では限定的な貢献に留まっているが、各分野において技術移転や人材育成、組織的能力強化などの面から一定の貢献をしたと評価できる。草の根・人間の安全保障無償資金協力事業は、1件当たりの供与金額が小さくても両国の政策目標への貢献度が高く、各供与先に大きなインパクトをもたらすとともに、日本にとっては外交的ツールとしての効果が高い。日本・ブラジル・パートナーシップ・プログラム(JBPP)の枠組みに基づく「第三国に対する支援」は、日本の援助資源(資金、人材、特定分野の技術など)の不足を補う一方、ブラジル側実施機関・専門家の能力向上を支援するという点で、また、ブラジルとの関係強化という点で日本にとって極めて意義が高い。 (3)「プロセスの適切性」に関する評価 2004~2008年度向け対ブラジル援助政策は、日本政府・ブラジル政府間の年次政策協議や首脳会合で確認された政策目標や優先分野に基づいて策定された。ブラジル政府はオーナーシップが高く、案件の形成・採択は、その過程で様々な協議が必要となるが、同国政府の意向に十分配慮し、適切に行われてきたといえる。日本の援助事業に対するモニタリング・評価も適切に実施されている。技術協力プロジェクトのモニタリング・評価では、ブラジル側実施機関の参加度が高いことが特筆される。ブラジルは他の多くの開発途上国とは異なり、一部を除き援助協調は活発に行われていないが、大使館やJICA事務所は、世界銀行、米州開発銀行(IDB)、ドイツ等の主要ドナーと随時コミュニケーションを図っている。 ブラジルにおける広報活動は、日本がブラジルの社会・経済開発に貢献していることをブラジル国民に印象づけており、親日感情の醸成、日本のプレゼンス向上、両国の関係強化などの点から有意義なものとなっていると評価されるが、より効果的な訴求方法という点では今後検討の余地がある。 | |
6. 提言 (1)ODAを当面継続し、将来にわたるブラジルとのパートナーシップ強化の礎とする ブラジルは、世界有数の食料及びその他資源の供給国であり、世界で最も将来を嘱望されている新興国の1つである。世界最大の熱帯雨林であるアマゾンを抱え、世界の環境・地球温暖化問題に決定的な影響力を持つ。日本と伝統的に友好関係を有し、世界最大の日系人社会に加え、ブラジル国民全体が日本への高い信頼感と親近感を抱いている。このようなブラジルの重要性を日本の国民に認識してもらうとともに、ブラジルに親日国であり続けてもらうためには、将来の日本とブラジルとの関係を睨んだメッセージ性の強い協力を行う必要がある。これからの対ブラジルODAを、やがてODAという媒体がなくなった後も日本がブラジルと良好な関係を維持し、より強いパートナーシップを築いていくための礎とすることを目指して、世界銀行の基準上「卒業国」となっても当面は有償資金協力を含むODAを継続するとともに、過渡期における対ブラジルODAの役割を再定義することを提言する。 (2)地球規模課題への対応、互恵協力、三角協力を柱とする 日本の優位性をいかしてブラジルとのパートナーシップを強化し、三層構造の利益(ブラジルの国益、国際社会の利益及び日本の国益)に貢献するため、今後の対ブラジルODAは以下の3つをODAの柱として実施することを提言する。これらは、中進国向け有償資金協力の対象4分野(環境、人材育成、防災・災害対策、地域間格差の是正を目的とした経済社会基盤整備)で、かつ、両国がパートナーとなり得る互恵分野と、国際社会・第三国を対象として共同で取り組める分野である。
(3)「国別パートナーシップ計画」を策定し、成果を評価し、広報する ブラジルに対するODAには他の国にも増して戦略性が重要であり、高い説明責任が求められるため、国別援助計画の策定が不可欠である。計画の名称は、双方にとって有益なパートナーシップを築き、互恵的課題のみならず、地球規模課題にも対応するという意図を国内外に明確に示すために、「国別パートナーシップ計画」とすることを提案する。また、対ブラジルODAでは、メッセージの発信という点で、両国における効果的な広報がこれまで以上に重要になる。日本側では、国民への説明責任を果たすことに留まらず、一般国民の対ブラジルODAの有用性に対する理解を高め、支持を得ることが肝要である。ブラジル向けの広報では、マスメディアに取りあげられるためには協力案件を単に紹介するだけでなく、同国の国民が日本に親近感を覚えるような工夫も必要である。 |
注) | ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。 |