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ブータン国別評価

1.テーマ:ブータン国別評価  

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2.国名:ブータン
3.評価者他:
(1)評価主任
 池上清子 国連人口基金(UNFPA)東京事務所長
 (ODA評価有識者会議メンバー)
(2)アドバイザー
 村田俊一 関西学院大学教授/国連開発計画
 (UNDP)東京事務所長
(3)評価補助業務従事者
 寺田 幸弘(財)国際開発センター 主任研究員
 シーク美実(財)国際開発センター 主任研究員
 高杉 真奈(財)国際開発センター 研究員
4.調査実施期間:2006年7月25日~2007年3月31日

5.評価方針

(1)目的
 本評価は、主に(1)日本の対ブータン援助政策を全般的に評価し、一層効果的・効率的な援助実施に向けた改善点を特定し、具体的な提言を行うこと、(2)評価結果を公表することにより、納税者への説明責任を果たすこと、(3)ブータン政府関係者や他ドナーに評価結果をフィードバックし、今後の同国開発の参考となる情報を提供すること、さらに、(4)日本の対ブータン援助の広報に貢献することを目的として実施された。

(2)対象
 ブータンは「国別援助計画」の策定対象国ではないため、明文化された策定基準や政策協議を踏まえた援助方針は特に策定されていない。公開資料としては、ODA国別データブックに記載されている「対ブータン援助の基本方針」(以下、「基本方針」)があるが、ここで示された「基本方針」は、ブータン政府の開発計画やニーズ、これまでの援助実績に基づいた援助の基本的な考え方や重点分野を簡潔に記述したものである。したがって、本評価では、「基本方針」をはじめとする「過去20年間の日本の対ブータン援助全般」を評価の対象とした。すなわち、最初の個別案件が実施された1981年から2005年までの期間に実施された技術協力プロジェクト、無償資金協力、開発調査等、全ての援助事業を対象としている。ただし、同国及び日本のデータ、資料等の入手可能性を考慮し、重点となる評価対象期間は過去10年間程度とした。

(3)方法
 「ODA評価ガイドライン」に基づき「目的の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点から評価を行った。

6.評価結果

(1) 目的の妥当性
 日本の対ブータン援助は、日本の上位政策、五ヵ年計画やGNH(国民総幸福量)をはじめとするブータンの開発計画、及びミレニアム開発目標(MDGs)などの国際課題と概ね合致している。また、日本はこれまで農業及び経済基盤整備を重点的に支援しており、ハードとソフトを組み合わせた支援は先方政府及び他ドナーからも高く評価されていた。このことから、日本はドナー間の役割分担に従って必要とされる分野に援助を行ってきたと評価できる。他方、「国別援助計画」が策定されていないという条件の下、援助方針が簡略な「基本方針」に留まっている現状では、日本の援助方針や援助の目的、それを達成するための戦略を先方政府及び日本・ブータン両国内において伝える手段として不十分な点があると思われる。

(2)結果の有効性
 1964年から28年間農業専門家として活動し「ダショー西岡」として広く知られている西岡京治氏やボランティアに代表される日本の顔の見える援助は、両国の友好関係の促進に大きく貢献してきた。また日本は、主要ドナーの一つとして、ブータンの社会経済開発や、1980年代より着実に進展している民主化に貢献してきたと言える。各重点分野における援助活動については、分野毎に支援実績、日本の資金的貢献度、セクター別のマクロ・地域指標の改善度、ブータンの開発ニーズへの対応度合いを検証したところ、ブータン政府からの要請が強く、投入量の多かった「農業・農村開発」及び「経済基盤整備」分野(道路・橋梁、電力、情報通信)の改善に対する貢献が特に大きかった。「社会開発」及び「良い統治」分野は、投入量が少ないため、総体として日本の貢献は限られていたと言える。

(3)プロセスの適切性
 日本側の援助実施体制、案件形成・実施過程、相手国関係者とのコミュニケーション、ブータン側の受け入れ体制、他ドナーとの連携、日本のスキーム間の連携の6つの観点から検証を行った結果、実施過程において大きな問題は見られなかった。ブータンに日本の在外公館がなく、JICA事務所が駐在員事務所であるという条件の下、より効果的・効率的な援助実施のためには、日本側関係者間の意見交換、見解の統一を強化する必要があると思われる。また案件形成は、政策に基づくというよりは、むしろその時々の現状に応じて対応してきたのが実状であり、今後は明確な援助政策に基づいた戦略的な案件形成が望まれる。

7.提言

提言1:大使館・JICA間の意見交換の強化、及びブータン側との二国間レビュー会合の継続
 対ブータン援助の効果的・効率的実施のためには、日本側関係者間で対ブータン援助に関する日本側の問題意識、政策の方向性等について定期的に議論を行い、これにより日本側の政策レベルでの見解を統一し、さらにその見解に関して政策協議を通じブータン側に伝えていくことが必要である。そのためには、将来的に在インド日本大使館、JICAブータン駐在員事務所から成る「現地ODAタスクフォース」を設置する方向が望ましい。現実的には、まずは2007年度中に、以下の2点の実施を提案する。

1.1 在インド日本大使館・JICAブータン駐在員事務所間の意見交換を定例化する
 将来的なタスクフォース設置に向け、在インド日本大使館とJICAブータン駐在員事務所との間で定期的に協議を開始し、日本側の政策レベルでの見解の統一を図る必要がある。これに際しては、2008年にJICAとの統合が予定されているJBICのニューデリー駐在員事務所も可能な限り巻き込むことが重要である。意見交換を通じて、重点分野毎の現状や課題を定期的に分析し、援助の狙いをより具体的に設定し、それを踏まえ重点分野間の優先順位付けをすることが、対ブータン援助の戦略性につながるからである。このような体制を作ることは、ブータンのように国別援助計画の策定の予定がない国や日本大使館がない国において、援助の戦略性を高め、援助実施体制の強化にもつながるモデルとなると期待できる。

1.2 ブータン側との二国間レビュー会合を定例化する
 2006年デリーで初めて開催された日本・ブータンの二国間レビュー会合は、両政府の政策対話の枠組みとして重要であり、定例化することが望ましい。この会合のタイミングに先駆けて上記1.1の意見交換を行い、そこで得た現状分析と日本の統一見解をブータン側に伝えることが重要である。これにより、同会合における協議の内容を案件レベルから政策レベルに転換することが可能となり、両者にとってさらに有意義な対話の場とすることが期待できる。

提言2:今後強化すべき援助の方向性
 2008年に予定されている憲法制定と国民議会選挙実施、及び第10次五ヵ年計画の始動に向けてブータンの状況は大きく変化しており、このような状況を的確に捉え、その時々の状況に則した協力を行っていくことが望ましい。今後の案件形成や要望調査において強化すべきと思われる日本の協力分野及び方向性は以下の通りである。

2.1 2008年に向けて「良い統治」分野の支援を強化する
 2008年に向け、引き続き「良い統治」分野の支援を行うことが重要である。新体制下で重要性が増す地方行政分野に関しては、同分野で実績を有する日本とUNDPが、過去の協力から得られた教訓や考え方を共同で整理し、その結果をブータン政府及び他ドナーに紹介すること、また、協力対象地域の分担や協力手段について今後どのような連携が可能であるか、及び新たに参入してくる他ドナーとはどのような協調を行うかをドナー会議の場で積極的に示していくことが肝要である。

2.2 貧困削減に対する支援を強化する
 2008年に開始される次期第10次五ヵ年計画では貧困削減が大きく打ち出されることが分かっており、日本の協力も次期計画を踏まえ、貧困削減への貢献により狙いを絞った協力内容、協力対象地域となるよう見直していく必要がある。ただし、ブータンへの援助額は限られているため、財政支援への移行、社会開発分野からの撤退といった最新のドナー動向、ブータンの経済指標の推移を注視しつつ、「選択と集中」の観点から重点分野間の優先順位を決定すべきである。
 農業分野では、もし2KRを今後ブータンにおいて継続するとすれば、これからは、地域ごとの貧困層の特性を踏まえ、貧困削減を重視した支援を行うことが肝要である。同時に、2KRを補完・代替する支援として、ソフト面を重視した支援の継続や、農村道路整備等、道路へのアクセスが困難な農民を直接対象とした支援の強化も検討に値する。
 現在の日本の4つの重点分野のうち、「社会開発(教育・保健)」への支援は他の重点分野に比べて極端に少ない。経済基盤整備の支援を無償資金協力以外の予算でまかなうことができれば、これまでブータンに対して供与してきた無償資金協力あるいは技術協力の予算の一部を社会開発分野への支援強化に充当することが可能となるものと思われる。日本の強みであるハードとソフトの組み合わせによる支援を維持しつつ、重点分野間の資源配分を貧困削減への貢献の観点から見直し、特にソフト面での社会開発分野への支援も充実させることが必要である。
 さらに、貧困削減は分野横断的な課題であることから、分野別にのみ対応するのではなく、道路整備と農業開発、道路整備と教育等、案件形成段階で分野間の連携を図り、相乗効果を狙うことも検討していくべきである。

2.3 統計データ整備に対する支援を強化する
 ブータンの統計データはここ数年で大きく改善しているが、この分野では依然として支援が必要であることは間違いない。GNHの指標化や、貧困削減の進捗やMDGsの成果を測るデータの精度を上げることは、ブータン政府にとっても日本を含むドナーにとっても重要であることから、日本もUNDP及びブータン政府と連携しつつ、先ずは統計局や日本の重点分野関係省の政策企画局(PPD)等に統計整備の専門家やボランティアを派遣するところから同分野への支援を開始することも一案である。また、ODAのアカウンタビリティを高めるためには最終裨益者へのインパクトを確認することが重要であり、この点においても統計データ整備の支援の強化が望まれる。

2.4 重点分野にボランティアを可能な範囲で位置づける
 「国別事業実施計画」において、ボランティア活動の一部をプログラムに組み込むことを今後も強化すべきである。ボランティア事業の性質や、青年海外協力隊とシニア海外ボランティアの性格の違いを踏まえた上で、重点分野のプログラムの中に位置づけられる職種(道路建機維持管理等)と位置づけは困難だが現地のニーズが高い職種(伝統建築の保護、都市計画等)を整理すべきである。プログラムの中に位置づけられる職種については、日本の他案件との連携を考慮し、重点分野の目標達成への貢献を意識した派遣計画を作成していくことが望ましい。

提言3:広報活動の継続
 JICA駐在員事務所及び外務省による広報活動は、日本・ブータン両国において日本の対ブータン援助に対する理解を推進し、「顔の見える援助の推進」につながるものであり、今後とも継続されることが期待される。また、日本の援助に関する情報を如何に現地報道で取り上げてもらうかというノウハウは、他の国でも参考となると考えられ、これを広く共有していくことが望ましい。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。
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