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「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)に関する評価」
(重点課題別評価)

1.テーマ:成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)

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2.調査対象国:ケニア、エチオピア
3.評価チーム:
(1)評価主任:橋本ヒロ子
 (十文字学園女子大学社会情報学部教授)
(2)アドバイザー:
 黒田一雄
 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)
(3)コンサルタント:
 財団法人 国際開発センター
4.調査実施期間:2007年7月~2008年2月

5.評価方針

(1)目的

 本評価は、今後の日本の基礎教育分野における援助政策の立案や援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得て、評価結果を公表することで国民への説明責任を果たすことを目的として実施された。

(2)対象・時期

 本評価は、日本初の基礎教育援助政策であるBEGINを対象とする。BEGINは、2002年6月に開催のG8カナナスキス・サミットにおいて国際社会に向けて発表された。本評価は、BEGINと同様、初等教育、前期中等教育、就学前教育、ノン・フォーマル教育(青年・成人識字教育等の学校外教育)を含む基礎教育分野を対象サブ・セクターとした。対象期間は、2000年の「万人のための教育(EFA)ダカール行動の枠組み」以降とした。

(3)方法

 本評価では、(イ)基礎教育分野における国際潮流、日本の援助動向、BEGIN策定の背景とプロセスに関する情報収集・分析、(ロ)現地ODAタスクフォースが設置された国の日本大使館及びユネスコ日本代表部へのBEGIN取組に関するアンケート調査、(ハ)ケーススタディ国(ケニア、エチオピア)におけるBEGIN取組に関する現地調査、(ニ)基礎教育プロジェクトに関する事例研究と報告書レビュー等の調査・分析を行い、その結果に基づいて、BEGINに関する「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」について評価を行い、教訓と提言をとりまとめた。

6.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 G8カナナスキス・サミットまでの教育援助の流れを受け、それまでの日本の教育援助経験を整理して、日本初の基礎教育援助政策(分野別開発イニシアティブ)であるBEGINを発表したことは、日本が基礎教育援助を重視するという姿勢を国内外に示す上で画期的であったと考えられる。
 BEGINは、その上位政策である旧政府開発援助(ODA)大綱及び旧ODA中期政策や、現行ODA大綱及び現行ODA中期政策とも、整合性は高いと考えられる。しかし、日本の基礎教育援助におけるBEGINの位置付けは明確にされなかった。このため、国別援助計画や援助実施機関の国別事業計画では、それらの上位政策であるにもかかわらず、BEGINはほとんど言及されていない。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 BEGINの重点分野のうち、「教育の質の向上への支援」は、教員養成等、技術協力プロジェクトを通して成果が上がっており、成果の体系的とりまとめも進んでいる。「教育の機会確保への支援」は、技術協力プロジェクトや草の根・人間の安全保障無償資金協力を通して推進されているが、面的な広がりに欠ける。一般無償資金協力による学校建設では、制度上の制約から、相手国の自助努力やコミットメントの強化に重要とされる学校建設の計画作成や実施段階への住民参加が生かしきれていない。成果の面的展開や相手国の自助努力を進める上で、有償資金協力の活用が望まれる。「マネジメント改善」は、徐々に成果が蓄積されつつあるが、手法や成果の体系化、自立発展性の確保等について拡充が望まれる。
 BEGINは発表時には外交的な役割を果たした。しかし、それ以後は、フォローアップや広報が十分に行われず、途上国や他ドナー、多くの日本の援助関係者にも、BEGINは明確には認識されておらず、外交面でのインパクトは限定的であったと思われる。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 外務省と文部科学省の連携の下に、日本初の教育援助政策であるBEGINが策定されたことは意義があることと言える。ただし、BEGINは、成果目標や、その達成に向けた選択と集中による戦略的な予算配分、具体的なプログラム等が含まれておらず、効果的なイニシアティブとは言えない。BEGINの基本理念や重点分野は、実現への方策や、数値目標が示されていないため、精神論にとどまっている。
 国際協力機構(JICA)は、基礎教育援助において柔軟で効果的なアプローチをとるために、案件形成や実施において、BEGINを有効に生かしている。国際協力銀行(JBIC)では、BEGINよりもミレニアム開発目標(MDGs)への貢献が意識されている。JBICは、基礎教育セクター事業への有償資金協力による支援強化や、教育セクターを含めた財政支援に有償資金協力を通して参加する等、有償資金協力の特性を生かした基礎教育のあり方を検討・実施しつつあるが、その取組の成果はいまだ限定的であり、今後のさらなる貢献が望まれる。

7.提言

(1)イニシアティブの策定に関する提言

 日本のODAは、今後更に量的な拡大は難しくなるため、質的な拡充を図り、国内外に対して顔の見える、より効果的な援助を展開していくことが重要と考え、以下を提言する。

(イ) 外務省が策定する分野別開発イニシアティブは、新たなプログラムの実施、成果目標の提示、優先分野に対する選択と集中による予算の戦略的な配分等、具体的な計画を提示し、即効性・実行性のあるものとすることが望まれる。

(ロ) イニシアティブ策定に当たっては、広く国際機関や援助の現場の意見を参照し、実効性のあるものとし、発表に先立って他ドナーに連携の働きかけを行い、発表後はフォローアップ体制を整備し、広報も適切に実施することが重要である。

(ハ) イニシアティブの策定から評価に至る指針を策定するとともに、イニシアティブを横断的にモニタリング・評価する部署を設置することが望ましい。

(2)BEGINの政策的位置付け・主流化に関する提言

 BEGINによって、基礎教育援助関係者が1つにまとまって、同じ方向へ進むには、いくつかの改善が必要と考え、以下を提言する。

(イ) BEGINを基礎教育援助の上位政策に位置付け、BEGINに沿って国別援助計画や国別事業計画が策定されるよう関係部署に徹底することが必要である。

(ロ) BEGINの基本理念や重点分野を精神論的努力目標に終わらせないように、成果目標を明らかにし、数値目標を入れた年次計画、実践へのガイドラインやフレームワークを設定することが必要である。

(ハ) 相手国の自助努力やコミットメントを重視した支援を行う場合、過去のプロジェクト経験に基づいて一定のフレームワークを提示し、国際社会への発信を意識しながら、案件形成やプロジェクト実施に反映することが重要である。

(ニ) 2008年、日本はEFA-ファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)の共同議長国となることから、共同議長国としての役割を適切に果たすだけでなく、日本としての、BEGINの基本理念を生かして、FTIに対する具体的かつ有益な取組を工夫し、実践する必要がある。

(ホ) ジェンダー格差への取組について、日本の教育援助における知見・経験を整理し、他ドナーの経験も踏まえて、体系化されることが必要であり、全ての基礎教育援助プロジェクトにおいて、意識的に取り組むことが重要である。

(3)BEGINの実施体制に関する提言

 2008年度の新JICA発足は、援助形態の組合せにより、基礎教育援助の更なる展開が期待される。こうした認識を背景に、最後に以下を提言する。

(イ) 一般無償資金協力の学校建設において、自助努力や現地リソースの活用等、BEGINの基本理念に沿った援助ができるよう制度面での改善が望まれる。

(ロ) 教育への機会確保について、相手国のコミットメント重視や自助努力支援につながり、面的な展開が期待されるという特性を生かし、有償資金協力による基礎教育支援を拡充していくことが有効と考える。

(ハ) 教育の機会確保や質の向上、マネジメント改善において、技術協力プロジェクトは重要な役割を果たすことから、無償資金協力や、有償資金協力との連携により、面的な広がりを持つプロジェクト展開を目指す必要がある。

(ニ) 基礎教育援助と他の開発セクター(水供給、保健衛生、生計向上等)との連携について新たな実施戦略を検討し、国別援助計画に反映して実践することが必要である。

(ホ) BEGINの理念を実現し、政策目標を達成するには、オールジャパン体制を確立するために、財務省、外務省、文部科学省、新JICA、非政府組織(NGO)、コンサルタント、研究者との定期協議の場を開催する必要がある。

(ヘ) 「ポストBEGIN」として、明確な数値目標・成果目標・年次計画を持ち、ODA上位政策によりバックアップされ、フォローアップやモニタリングの実施体制を伴う等、上記提言を踏まえたイニシアティブが策定されることが望まれる。同時に、JICA・JBIC統合によって、各教育サブセクターの位置付けをどうするのかについて明確にすべきである。現行の教育協力の質を高めつつ、他ドナーへの働きかけを拡充させるための新教育戦略の策定が今こそ求められている。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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