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バングラデシュ国別評価

1. 調査対象国名:バングラデシュ人民共和国
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2. 評価チーム:

(1)評価主任:野田真里
(特定非営利活動法人名古屋NGOセンター理事・中部大学国際関係学部准教授)

(2)アドバイザー:伊東早苗
(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)

(3)コンサルタント:財団法人国際開発高等教育機構
3. 調査実施期間:2009年6月~2010年3月

4.評価方針:

(1) 目的

 本評価は、日本の対バングラデシュ援助政策を全般的に評価し、今後の日本の援助政策立案及び援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得ることを目的として実施された。また、評価結果をバングラデシュ政府や他ドナーにフィードバックすることで同国の開発の参考とし、併せて結果の公表により、日本のODAの広報と国民への説明責任を果たすことを目指している。

(2) 対象・時期

 評価対象は2006年改定版の国別援助計画(以下「援助計画」)とし、評価対象期間は2006年5月から本件現地調査時点(2009年10月)までとした。ただし、実施中の案件と関連する過去の案件についても適宜参考にした。

(3)方法

 「ODA評価ガイドライン(第5版)」に基づき、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点を中心に総合的に評価を行った。

5.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 援助計画における日本の対バングラデシュ援助政策は、日本の上位政策(ODA大綱、中期政策)、バングラデシュ政府の主たる国家開発計画である貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)、国際的優先課題、主要援助国・機関との援助政策、さらには日本によるイニシアティブのいずれの側面とも整合性があり妥当性は高い。しかし、援助計画策定後の変化には十分に対応できていない。例えば、援助計画策定後にPRSPが2回改訂され、マルチセクター的な対応への必要や、気候変動への取組が求められる等の新しい潮流も打ち出された。PRSP II改訂版(NSAPR-II:Second National Strategy for Accelerated Poverty Reduction)では最貧困層への重点的対応が表明されるなどバングラデシュ政府の優先課題に変化が生じている。今後は状況の変化に応じた柔軟な見直しを図る必要性がある。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 援助計画の最重要課題である貧困削減については、貧困率の軽減は進展が見られる。しかし、経済成長の恩恵は必ずしも貧困層・貧困地域へ十分に裨益しておらず、社会開発を通じた人間の安全保障の実現についても、グッド・プラクティスが確認される一方でスケールアップが十分でない。また、これら諸問題を解決する前提となる、社会サービスを提供する制度インフラとでもいうべきガバナンスにおいては、意欲的な試みはみられるものの、行政機能の脆弱性を克服するには至っていない。
 重点セクター別の日本の支援は、バングラデシュ政府の各セクターにおける目標達成に向けての支援のプログラム化、または同政府のセクタープログラムの枠組みの中での協力が行われているケースが多い。さらに、他の援助国・機関の援助活動やプログラムとの補完的関係や、協調関係も見られる。このような枠組みの下、日本の優位性をいかしつつ限られた資源に焦点を絞って投入した結果、各支援の質も高く、定められた地域内において成果が発現しているケースが多く、有効性は比較的高い。
 ただし、現行の援助計画の目標体系図は貧困削減について各セクター内での成果を目指すものとなっており、実際の協力の成果もセクターの枠をほとんど超えていない。従って、目標体系図における最重要課題である貧困削減に対し、セクターを越えて統合的に支援がなされているとはいえず、個別課題を超えたより大きな課題に対するインパクトは限定的であると言える。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 援助計画の策定プロセスに関しては、援助計画改定の体制、バングラデシュ側の関与、現地ドナーとの調整、ステークホルダーの関与の観点から評価を行った。援助計画改定は、現地ODAタスクフォースが主導し進められ、その体制と知見が改定に果たした役割は大きい。一方でセクターグループ中心のタスクフォース の体制が出来上がっていたがゆえに、セクターを越えた重点課題への対応や重点分野の絞り込みを難しくした側面もある。バングラデシュ側のニーズの反映に関しては、援助計画改定プロセスとPRSP策定プロセスを合わせることで両者の整合性を高めることが試みられた。日本以外の主要3ドナーと政策上の連携、調整も密に行われた。ただし、策定の際のコンサルテーションに際し、重要な開発アクターであり、高い専門性と能力を持つNGO/市民社会等の参加が限定されていたこと、策定プロセスが長引いたこと等は改善すべき課題である。
 援助計画の実施プロセスに関しては、援助計画の実施機関の援助戦略への反映、援助計画に基づいた案件発掘・形成、バングラデシュ側との継続的な協議に基づく案件発掘・形成等、実施過程はおおむね適切であった。また、(2)「結果の有効性」で見たとおり、他援助国・機関との相互補完や分業、プログラム化により、限られた資源を有効活用してのODAの実施が試みられている。以上の過程において現地タスクフォース の果たした役割は高く評価される。しかし、新JICA誕生により、無償資金協力、有償資金協力、技術協力という3つのODAスキームを一元的に実施する体制が整う等環境の変化に伴い、現地タスクフォースの再検討が必要であろう。NGO/市民社会との連携は、グッド・プラクティスを産んでいる一方、連携事例は限られている。かかる連携は支援が断片的となり継続性が担保出来ない、代替することで政府のサービス提供の努力をかえって阻害する、といった懸念は存在する。しかし、政府の能力に限界がある中では、貧困層等の社会的弱者に開発の成果をもたらすためには、NGO/市民社会との連携やその持ち味をいかした支援は、検討すべき課題である。

6. 提言

 バングラデシュ国別計画改訂にむけての提言の基本的考え方-人間の安全保障実現のためのより効果的・効率的支援に向けての4つの「新機軸」
 上述のような課題と分析結果を踏まえ、次期援助計画改定・実施に向けて以下のとおり提言を行う。基本的考え方として、日本の政府開発援助の基本指針である人間の安全保障の実現のためのより効果的・効率的な支援にむけて、「選択と集中」、「政府のPDCAサイクルの強化」、「グッド・プラクティスのスケールアップ」、「NGOや社会的企業等の多様な開発アクターの持ち味をいかした支援」各々に関し、以下のとおり4つの「新機軸」あるいは「発想の転換」を示したい。

(1)重点課題に対するセクター横断アプローチによる「選択と集中」

 ODAの効率的な運営が求められている現状、今後の援助計画策定に際しては、セクターの絞込みではなく、課題志向の横串的なセクター横断的アプローチを採ることにより「選択と集中」を行うことを提案する。このアプローチは、日本が幅広いセクターで積み上げてきた援助実績のストックを無に帰さないためにも有効であろう。日本が支援すべき課題をまず選択し、その解決のためにセクターの枠にとらわれず、同じ課題に向かって援助活動を行うことにより、プロジェクト間の連携も行いやすく、相乗効果も生みやすい。その結果、インパクトはより高いレベルにも到達しやすくなり、更には国際的にも影響力のある援助のメッセージ性を高めることが可能ともなる。日本が採るべき重点課題の例としては、(a)貧困削減に資する経済成長(pro-poor growth)、(b)社会的弱者への支援と社会サービス提供のための「制度インフラ」の強化、(c)気候変動に対する脆弱性への対応が考えられる。

(2)効率的なモニタリング体制の整備と現地ODAタスクフォース再編による政策のPDCAサイクル強化

 援助計画の実施に際しては、援助計画のモニタリング体制整備と現地タスクフォースの新たな体制や役割を検討・整備することにより、計画策定、実施、モニタリング・評価、評価結果の計画へのフィードバックのPDCAサイクルを有効に機能させることが重要である。

イ. 効率的で持続的なモニタリング体制の整備

 現地のニーズや経済社会環境の変化に迅速に対応するためには、モニタリング体制を整備する必要がある。ただしモニタリング自体の目的化を避けるため、既存の枠組みを最大限活用した効率的な体制にすることが重要である。また、PDCAの全ての過程で、持続性のある体制でのぞむことが重要である。例えば、援助計画策定における東京国別援助計画タスクフォースが引き続き東京サイドとしてモニタリングを担当し、現地タスクフォースを中心としつつも、両者でコミュニケーションを密にして行うことが考えられる。

ロ.現地ODAタスクフォースの機動性の向上:体制と役割の抜本的見直し

  現地タスクフォースの果たした役割は高く評価される一方、日本のODA体制の変化等により、その役割や在り方を見直す時期に来ている。具体的には以下の形が考えられよう。第1に、現地タスクフォースのトップの機能として大使館、JICAのトップレベル間でのODA戦略にかかわる重要事項の意思決定に置く。第2に、マネジメントレベルの機能として、上述の重点課題別チームをおき、大使館及びJICAのマネージャーレベルで、援助計画の策定・実施・モニタリングを行う。第3に、セクターチームについては、JICAの実務レベルを中心に重点課題への各セクターの貢献を検討し、セクター別のドナー連携等外交的視点が必要な場合には大使館も参加し、セクター固有の課題に対応する。各レベルにおいて、必要に応じて専門的知見を有するNGO/市民社会やJETRO、外部有識者等の参加も得る。

(3)他のスキームや他ドナーとの連携によるグッド・プラクティスの「スケールアップ」

 教育・保健分野でのプールファンド型支援と技術協力の連携といったグッド・プラクティスは、スケールアップの試みがなされ始めている。これらの経験を踏まえ、日本は、「開発のアイデアや好事例」を持ち込んでいるという認識に立ち、プールファンダー等他ドナーとも連携によるグッド・プラクティスの「スケールアップ」戦略をより一層推進すべきである。ただし、スケールアップのためにプールファンド自体に参加するべきか否かについては、さらに検討の余地がある。

(4)NGO/市民社会や社会的企業1等の多様な開発アクターの持ち味をいかした、「people to people」支援の拡大

 バングラデシュでは優秀な現地のNGOや社会的企業等の市民社会の開発活動での実績は世界的に知られており、社会サービス提供の担い手として不可欠な存在である。開発から取り残された層への支援に関しては、かかる支援に優位性を持つNGOや社会的企業等の多様なアクターの持ち味をいかすことが必要であり、4つのタイプの連携が考えられよう。
 第1に、草の根のニーズに即したきめ細やかな援助であり、これは従来のスキームの拡充や現地ニーズに応じた改善が望まれる。第2に、NGO/市民社会との連携等による行政の強化・エンパワーメントである。現在、技術協力においてグッド・プラクティスがあるが、その他のODAスキームにおいてもこのような協力の拡充・改善が望まれる。第3に、行政の能力不足に対し、これらアクターが貧困層等への社会サービスの提供を代替・補完する連携である。行政の能力に限界がある一方、全国的サービスを提供するアクターが存在する以上、「人間の安全保障」の実現のためには、彼らを通じた、人間一人ひとりへの直接的支援も視野に入れられてしかるべきであろう。第4に、今後、特に注目される社会的企業については、インキュベーション支援や活動のスケールアップ支援を、政府、NGO/市民社会、民間企業等がプラットフォームをつくって行っていく方法も重要であろう。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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