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対バングラデシュ国別評価

1.対象国名:バングラデシュ

・面積: 14万4千km2(北海道の2倍程度)
・人口: 130.2百万人(2000年アジア開発銀行)
・一人当たりGDP: 373USドル
 (99/00年バングラデシュ国統計局)

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2.我が国の対バングラデシュ援助実績の概要

1990~99年度までの我が国の対バングラデシュ援助累計額は、有償・無償資金協力(交換公文ベース)、技術協力(JICA経費の支出額)を合わせて約3,766億円である。同期間の形態別援助実績では、債務救済無償資金協力が約1,504億円(全体の39.9%)で最も多くなっている。

我が国の対バングラデシュ援助重点分野は、(1)農業・農村開発と農業生産性向上、(2)社会分野(基礎的生活、保健医療等)の改善、(3)投資促進・輸出振興のための基礎整備、(4)災害対策分野であり、4分野に共通する課題である人材育成、制度面の強化および環境面について配慮した幅広い支援を行っている。

3.評価調査団:

鈴木 基義: 鈴鹿国際大学 学長
河合 明宣: 放送大学 助教授
盛 信博: (株)コーエイ総合研究所 調査研究部部長
宮崎 慶司: オーバーシーズ・プロジェクト・マネージメント・コンサルタンツ(株)
坪郷 太郎: (株)コーエイ総合研究所 研究員
青津 暢: (株)コーエイ総合研究所 研究員

4.調査実施期間:2001年11月19日~3月29日

5.評価目的:

日本の対バングラデシュ援助の効果を総合的に分析・評価するとともに、今後の対バングラデシュ援助計画に反映させるに資する提言を得ることを目的とする。

6.評価結果:

(1)他ドナーを含む対バングラデシュ援助全体に対する評価

  • 本調査で試みたマクロ経済分析によると、ODAの累積的なインパクトが認められる主要な分野は、「教育」および「社会保障、女性・青少年開発」である。その他、「農村・組織開発」や「通信」、「保健医療・家族計画」分野も比較的インパクトが認められる。また、効果的なODAタイプは資金協力と技術協力との連携を強化したタイプである。
  • 世銀によると、経済成長に関する理論・実証的な研究の結果、開発モデルの重点は物的な資本投資重視から、効率的な投資・人的資本の開発支援や技術進歩の助長を通じ、成長を促進する制度や政策重視のモデルへと移行した。本調査で試みた マクロ評価結果においても、このような開発モデルがバングラデシュ国の経済成長ひいては貧困削減に効果的であることを示している。

(2)我が国の対バングラデシュ援助に対する包括的評価

  • 我が国の対バングラデシュ援助は無償資金協力が全体の6割近くを占めており、その約7割が債務救済に当てられている。
  • 政府開発投資(ODAを除く政府自主財源)と我が国ODAの分野別配分割合(1990-99年累計割合)を比較すると、共に運輸・通信分野への配分割合が最も高く、それ以外の経済インフラ整備に対する資源配分割合も概ねバングラデシュ政府の重点分野に順じている。我が国からの教育、保健医療などの社会開発分野への資金協力は比較的少ない。
  • バングラデシュ国に対しては、南西アジア諸国の中でこれまでに最も多くの協力隊が派遣されている。また、専門家派遣や研修員受入も積極的に行っており、草の根レベルから上位レベルまでの人的支援が行われている。
  • 専門家派遣を通じた成果や影響があまり認識されていない。課題を明確に絞込み、成果重視型の専門家派遣が求められている。
  • 青年海外協力隊派遣はバングラデシュ側の事情や国民に適合性が高く、かつ受け入れられ易いスキームであり高く評価されている。しかし、隊員の任期は、延長制度はあるも、一般的に2年と短く、1年かけて現場に馴染むと帰国年になるというのが現状であり、改善が要望されている。
  • バングラデシュ側有識者に対するアンケート調査結果より、我が国の支援投入量に見合うプレゼンスや広報機会が得られていないと言える。また、貧困削減に向けた取組みの認知度が低い。
  • 農村開発に対する我が国支援の期待度が特に大きい。

(3)重点分野別評価

農業・農村開発と農業生産性向上

日本の農業技術援助が肥培管理技術などの向上に大きく貢献し、灌漑施設、道路などの農業基盤整備が補完する形で実施された点は注目される。今後の方向性としては、農村住民を組織し、村落内の相互扶助的関係を強化する地方自治体の育成支援への重点化が検討される必要がある。また、住民参加を可能とする村落組織の評価や、協同組合の再評価、行政機構の改善(財政の強化、地方分権による住民サービスの調整・強化)など制度面(Institutional Building)に関する協力がより一層必要となる。

社会分野(基礎的生活、保健医療等)の改善

・保健医療: 保健人口セクター・プログラムのようにバングラデシュ政府およびドナー間の協調と連携に基づいたセクター・プログラムが策定されている分野においては、我が国のプロジェクト・ベースによる援助アプローチも効果的に機能する余地が大きい。
・教育: 開発課題のひとつである理数科教育は我が国の経験が生かせる分野でもあり、協力隊による協力に加え、カリキュラム開発や教員養成における質の向上への協力意義が高い。また、教育分野における我が国の援助人材を育成する観点から、特に本分野で経験豊富なUNICEFと連携して協力を実施し、人的交流を含めこの分野における人材育成を進めていくことが必要である。
・上下水道: 砒素流出問題は保健医療との観点からも早急な対策が必要な優先課題であり、今後も我が国が関与すべき課題である。砒素対策は我が国の経験が生かせる分野でもあり、我が国がリーディング・ドナーとして率先して取組める領域と思われる。

投資促進・輸出振興のための基盤整備

・産業育成: 主要産業である肥料製造セクターへの資金協力を重点的に支援を行っているが、農業国であるバングラデシュ国にとって農業生産性の向上という形で貴重な役割を果たしている。一方、バングラデシュの産業構造と発展水準を考慮すると、輸出振興の観点から有望な産業を抽出し、支援を拡大するのは困難であったものと思料される。
・インフラ: 各プロジェクトの妥当性は認められ、橋梁は河川で分断された国土の統合、電力や通信では、その容量の多くの割合が我が国の援助により整備された結果となっている。しかし、整備水準は依然低く、施設の運用やサービスの提供状況もバングラデシュ側の実施運営能力の低さに起因しあまり芳しくないのが現状である。従って、施設の運用・維持管理の改善、制度や組織の改善など組織と制度造りにより焦点を当てたソフト面の強化が求められる。有償資金協力に積極的に技術協力を連携させ、インフラの有効活用を図る必要がある。

災害対策

洪水、サイクロン対策および気象・洪水予警報システムの整備に重点が置かれており、「自然災害の克服」は恒久的かつ人道的な性格を有する。従って、我が国が災害対策を優先付け、重点分野とすることは妥当である。援助の効果は数値的に容易に認識できるものではないが、多目的利用を図るサイクロンシェルターなど受益住民の教育機会の向上に貢献しているものもある。課題としては、洪水対策施設建設時の住民参加(貧困層や土地無し層への配慮)、災害対策施設の整備と予警報システムの連携、予警報関連機材の適切な維持管理の必要性がクローズアップされる。

7.提言

(1)各重点分野の今後の取組み

農業・農村開発と農業生産性の向上

  • インフラ整備と組み合わせた人的資源の開発、保健衛生、社会資本の整備を一層強化する。特定地域を対象として、無償、有償、草の根無償、プロジェクト方式技術協力、ソフト支援としての協力隊派遣等を組み合わせた援助をセクター別、あるいはセクター横断的に組み立てる。
  • 農村開発の担い手や受益者である住民が、末端の行政サービス機能「タナ/ウポジラ」を通して農業生産や生計を向上させるために、地方分権と住民参加をより推進する必要がある。この点で、住民組織の育成支援を強化し、また地域における各行政サービス(農業生産、保健医療、衛生、教育など)間の連携を強化する必要がある。

社会分野(基礎生活、保健医療)の改善

  • 社会セクター全般的に、政策や制度の改善、人材の育成、社会サービス提供システムの確立などソフト・コンポーネントを重視した支援、ならびに他ドナーやNGOとのパートナーシップによる支援形態が大きな比重を占めつつある。我が国もこの流れに柔軟に対応できる体制の強化が望まれる。チーム派遣やコンサルタントの活用により、連携事業の調査計画、事業管理が有効であろう。草の根で活動する協力隊と各援助スキームとの連携強化も図る必要がある。

投資促進および輸出振興のための基盤整備

  • 貧困の削減を効果的に実現していくためには、持続的な経済成長が重視される。本重点分野では、雇用機会を提供し得る産業の発展に貢献する支援を重点化する。
  • 2004年に多国間繊維協定が失効するなか、輸出振興および投資促進に必要な基盤整備としての物流インフラの整備および物流コスト解消に向けた支援を強化し、競争力の向上を図る。
  • 従来以上にソフト面での改善(組織と制度造り)を支援するコンポーネントをパッケージ化し供与する。資金協力と技術協力との連携を一層充実させ、専門家派遣、研修事業、プロ技協など技術協力の一定部分を戦略的に資金援助が集中する重点分野、セクターに配分する(実施形態はハリプール発電所拡充事業がモデルとなろう)。
  • ソフト面の改善コンポーネントの提供では、充分に到達可能な目標を検討のうえ設定し、成果重視型の技術協力を展開する。成功した取組みはモデル化し継続的に改良と見直しを重ね、他に展開を図る。

災害対策

  • 住民参加型の計画策定に重点を置き、コミュニティにおける災害対策施設の役割や設計上の要望、維持管理の主体と内容について充分な検討を行わせることが望ましい。

(2)プログラム・アプローチによる取組み

貧困の緩和に向けて個別セクター毎の取組みに限定せず、対象地域を絞ったうえ、インフラ整備、教育、保健衛生、生計向上などを束ね、クロス・セクター・プログラムとしてパッケージ化する。同時に、地域行政のサービス提供機能を強化し、コミュニティの組織化を図ることで、行政を評価する地域行政評議会を育成する。プログラムの立案や計画は我が国が主導的に行い、実施に必要な外部リソースはドナー機関やNGOに働きかけて協力体制を構築する。また、プログラムとその構成案件を包括的に計画調査、統合、調整、実施および進捗管理していくには、コンサルタントなどのオルガナイザー機能を活用する。

その他の上位課題(クロス・セクター・イシュー)に対しても、貧困緩和と同様に、課題別のプログラム形成を検討し、既存スキームにとらわれない実施体制と管理手段で援助に当ることが望まれる。

援助計画実施上の留意点

  • 我が国が関与するセクターに対しては、事前に必ず政策の方向性と妥当性を検討する。必要であれば、政策内容の改善とそれを実行支援するための法制度や組織体制に係る検討と提言を行うことを目的とした、政策アドバイザーを派遣(チーム派遣も含め)する。
  • 20を越える分野毎の援助協調会合(LCG)、保健医療分野などで行われているセクター・プログラム・アプローチへの協力、そして人口・保健分野におけるUSAIDとのコモン・アジェンダ協議などを継続して重視する。
  • 社会開発や農村開発(生計向上や生産性の向上)に効果的に介入するために、現地NGOとの積極的な連携とNGOの活用強化が望まれる。

援助の実施体制やスキームについて

  • 成果指向型の援助を実現するためにも、援助の実施過程に一層の柔軟性を持たせる必要がある。例えば技術協力における実施過程の柔軟性は、協力要員の投入(時期と量)やスコープ、追加経費充当のための予算配分などの変更を行う際に求められる。柔軟な対応を可能とするための実施機関側の運用改善が望まれる。
  • 今後、国別援助計画を見直す際に検討しなければならないことは、援助計画全体の成果指向化と最適な援助取組み策に関する検討と見直しのシステム化である。成果指向化とは、我が国が援助をとおしてその実現と達成に貢献したい目標と指標の設定である。
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