6.評価結果:
(1)他ドナーを含む対バングラデシュ援助全体に対する評価
- 本調査で試みたマクロ経済分析によると、ODAの累積的なインパクトが認められる主要な分野は、「教育」および「社会保障、女性・青少年開発」である。その他、「農村・組織開発」や「通信」、「保健医療・家族計画」分野も比較的インパクトが認められる。また、効果的なODAタイプは資金協力と技術協力との連携を強化したタイプである。
- 世銀によると、経済成長に関する理論・実証的な研究の結果、開発モデルの重点は物的な資本投資重視から、効率的な投資・人的資本の開発支援や技術進歩の助長を通じ、成長を促進する制度や政策重視のモデルへと移行した。本調査で試みた マクロ評価結果においても、このような開発モデルがバングラデシュ国の経済成長ひいては貧困削減に効果的であることを示している。
(2)我が国の対バングラデシュ援助に対する包括的評価
- 我が国の対バングラデシュ援助は無償資金協力が全体の6割近くを占めており、その約7割が債務救済に当てられている。
- 政府開発投資(ODAを除く政府自主財源)と我が国ODAの分野別配分割合(1990-99年累計割合)を比較すると、共に運輸・通信分野への配分割合が最も高く、それ以外の経済インフラ整備に対する資源配分割合も概ねバングラデシュ政府の重点分野に順じている。我が国からの教育、保健医療などの社会開発分野への資金協力は比較的少ない。
- バングラデシュ国に対しては、南西アジア諸国の中でこれまでに最も多くの協力隊が派遣されている。また、専門家派遣や研修員受入も積極的に行っており、草の根レベルから上位レベルまでの人的支援が行われている。
- 専門家派遣を通じた成果や影響があまり認識されていない。課題を明確に絞込み、成果重視型の専門家派遣が求められている。
- 青年海外協力隊派遣はバングラデシュ側の事情や国民に適合性が高く、かつ受け入れられ易いスキームであり高く評価されている。しかし、隊員の任期は、延長制度はあるも、一般的に2年と短く、1年かけて現場に馴染むと帰国年になるというのが現状であり、改善が要望されている。
- バングラデシュ側有識者に対するアンケート調査結果より、我が国の支援投入量に見合うプレゼンスや広報機会が得られていないと言える。また、貧困削減に向けた取組みの認知度が低い。
- 農村開発に対する我が国支援の期待度が特に大きい。
(3)重点分野別評価
農業・農村開発と農業生産性向上
日本の農業技術援助が肥培管理技術などの向上に大きく貢献し、灌漑施設、道路などの農業基盤整備が補完する形で実施された点は注目される。今後の方向性としては、農村住民を組織し、村落内の相互扶助的関係を強化する地方自治体の育成支援への重点化が検討される必要がある。また、住民参加を可能とする村落組織の評価や、協同組合の再評価、行政機構の改善(財政の強化、地方分権による住民サービスの調整・強化)など制度面(Institutional Building)に関する協力がより一層必要となる。
社会分野(基礎的生活、保健医療等)の改善
・保健医療: |
保健人口セクター・プログラムのようにバングラデシュ政府およびドナー間の協調と連携に基づいたセクター・プログラムが策定されている分野においては、我が国のプロジェクト・ベースによる援助アプローチも効果的に機能する余地が大きい。 |
・教育: |
開発課題のひとつである理数科教育は我が国の経験が生かせる分野でもあり、協力隊による協力に加え、カリキュラム開発や教員養成における質の向上への協力意義が高い。また、教育分野における我が国の援助人材を育成する観点から、特に本分野で経験豊富なUNICEFと連携して協力を実施し、人的交流を含めこの分野における人材育成を進めていくことが必要である。 |
・上下水道: |
砒素流出問題は保健医療との観点からも早急な対策が必要な優先課題であり、今後も我が国が関与すべき課題である。砒素対策は我が国の経験が生かせる分野でもあり、我が国がリーディング・ドナーとして率先して取組める領域と思われる。 |
投資促進・輸出振興のための基盤整備
・産業育成: |
主要産業である肥料製造セクターへの資金協力を重点的に支援を行っているが、農業国であるバングラデシュ国にとって農業生産性の向上という形で貴重な役割を果たしている。一方、バングラデシュの産業構造と発展水準を考慮すると、輸出振興の観点から有望な産業を抽出し、支援を拡大するのは困難であったものと思料される。 |
・インフラ: |
各プロジェクトの妥当性は認められ、橋梁は河川で分断された国土の統合、電力や通信では、その容量の多くの割合が我が国の援助により整備された結果となっている。しかし、整備水準は依然低く、施設の運用やサービスの提供状況もバングラデシュ側の実施運営能力の低さに起因しあまり芳しくないのが現状である。従って、施設の運用・維持管理の改善、制度や組織の改善など組織と制度造りにより焦点を当てたソフト面の強化が求められる。有償資金協力に積極的に技術協力を連携させ、インフラの有効活用を図る必要がある。 |
災害対策
洪水、サイクロン対策および気象・洪水予警報システムの整備に重点が置かれており、「自然災害の克服」は恒久的かつ人道的な性格を有する。従って、我が国が災害対策を優先付け、重点分野とすることは妥当である。援助の効果は数値的に容易に認識できるものではないが、多目的利用を図るサイクロンシェルターなど受益住民の教育機会の向上に貢献しているものもある。課題としては、洪水対策施設建設時の住民参加(貧困層や土地無し層への配慮)、災害対策施設の整備と予警報システムの連携、予警報関連機材の適切な維持管理の必要性がクローズアップされる。
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