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アジア通貨危機支援評価

1.評価対象テーマ:わが国のアジア通貨危機支援策
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2.評価対象国名:インドネシア、タイ、フィリピン
3.評価調査団:
 長山 勝英、榊原 洋司、足立 圭司
 安部  士、斉藤  淳、湯本 周一
4.調査実施期間:2002年1月30日~3月15日
5.評価の目的:
 アジア通貨危機に対するわが国の支援のうち、ODAにあたる部分について分析・評価する。分析・評価は、政策や、政策と事業の関係について重点的に実施する。また、評価結果を踏まえて、今後、類似の支援を行う際の教訓を導き出すこととする。
6.評価結果:
 以下の4点から分析・評価した結果、日本のアジア通貨危機支援策は各国経済の課題に応えるとともに、日本独自の支援を行うことができたと評価できる。

1. 支援スキームの組み合わせが各国の経済的課題に応えるものであったか

日本の支援は各国の経済的な課題に対応した、柔軟性の高いものであった。インドネシアでは経済は大きく不安定化し、安定を取り戻すことが最重要課題であったが、それに応えるべく柔軟性が高く素早い実施が可能なプログラム借款や、ノン・プロジェクト無償を中心とした支援を行った。フィリピンでは中長期の経済発展軌道の上昇が最重要課題であったため、経済・運輸インフラ整備のためのプロジェクトベースの支援を行った。タイの経済的課題は短期の経済不安定化と経済発展軌道の回復の両方であったため、柔軟性が高く素早い実施が可能なプログラムベースの援助と、経済インフラ整備や人材育成のためのプロジェクトベースの借款を組み合わせた支援を行った。

2. 各国の主要な援助機関である世界銀行・アジア開発銀行とどのような役割分担を行ったか

必要に応じて世界銀行・アジア開発銀行と支援の内容・タイミングで役割分担を行い、日本独自のアジア通貨危機支援を行った。

柔軟性が高く素早い支援を行ったインドネシアとタイでは、世界銀行・アジア開発銀行による同様の支援と異なる時期に支援を行った。この結果、インドネシア政府、タイ政府とも国際収支改善のための外貨や公共事業を実施するための資金を確保することができた。支援の内容では、世界銀行・アジア開発銀行・日本がそれぞれの得意分野に注力した支援を行った。日本の支援は短期の雇用創出と社会的弱者の支援、中長期の経済成長軌道を回復・上昇させるためのインフラ整備支援中心であった。

3. 政策に基づいて実施された支援事業は、各国の援助の根幹である国別援助計画・国別援助方針との整合性の関連でどのように位置付けられるか

日本が実施した支援は、各国の国別援助計画・国別援助方針に掲げる重点支援分野と整合するものであった。また、各国の経済的課題にも応えるものであった。インドネシアでは全国を広くカバーし、貧困層に届く支援を行うと同時に、外貨節約と社会の安定化に繋がる米の生産拡大のための支援を行い、経済の安定化を目指した。タイでは、経済発展軌道の回復のためのインフラ整備の支援を行うと同時に、短期の経済安定化のための社会的弱者への支援も行った。フィリピンでは、経済発展軌道の上昇のためのインフラ整備の支援を行うと同時に、災害対策や都市と農村の格差の是正など、フィリピンがアジア通貨危機発生以前から持つ課題に対する支援も実施した。

4. 各国の政府関係者は日本の支援に対してどのような意見をもったか

タイとフィリピンで実施した政府関係者へのアンケート調査の結果、日本の支援はアジア通貨危機克服に貢献したとの意見が7割以上を占め、高く評価されている。また、インドネシアも含めた3国の政策担当者が感じた具体的な便益と日本側が意図した効果は同じものであり、意図したとおりの効果が発現した。

インドネシアとタイでは、日本の支援は「雇用創出」・「経済の更なる悪化からの回避」・「中長期の経済発展のための人材育成」に貢献したとの回答が多かった。フィリピンでは、日本の支援は「中長期の経済発展のためのインフラ整備」・「中長期の経済発展のための人材育成」に貢献したとの回答が多かった。
7.提言:
 アジア通貨危機支援策のうち、小規模プロジェクトを多数実施するプログラム借款では、雇用の創出や社会的弱者支援の面で成果をあげ、最終的に経済の安定化に貢献した。この事業が成功した背景には、日本がこれまでこれらの国の援助に深く関わってきたことを挙げることができる。経済のグローバル化や金融の自由化が世界的規模で進んだ現在、アジア通貨危機に類似した経済危機はこれからも発生する可能性がある。その時、経済の安定化を回復するために実施する、足が速く柔軟性が高い支援は、日本が普段から援助において重要な役割を果たしている国(例えば政策対話を行っていたり、その国がどのような開発を行っているか熟知したりする国)に実施して初めて有効なものになる。従って、これらの国に対する調査研究や政策対話を継続していくことが、経済危機への素早く柔軟性の高い支援につながることとなる。


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