6. 教訓と提言
(1) 国際機関経由の援助の在り方にかかわる教訓
イ.国際機関経由の援助を行う目的の明確化
日本外交における国益の観点から、国際機関に資金を供与することの目的を明確にする必要がある。二国間援助ではなく国際機関経由での援助の場合、結果として日本のプレゼンス向上は二義的なものにならざるを得ないことをかんがみても、国際機関を経由した援助方式を採る必要性について、政策的な意義を明確にする必要がある。同時に日本国内での国民に対する説明責任も果たす必要がある。なぜ国際機関経由で援助を行う必要性があるのか、それがどうして日本国民の利益に通じるのか、目標体系を明らかにしつつ説明する必要がある。
ロ.国際機関経由の援助と様々な援助スキームとの連携の促進
国際機関経由の援助のみで、特定のODAの政策目標が達成できるわけではない。特に上位の目標については、様々な連携を行うことでこそ達成が可能である。国際機関経由の援助による成果について、二国間協力スキームで成果の拡大や不足部分の補完を行うことは有益であろう。また、ODAだけではなく、課題によっては、学術機関、NGO、民間企業との連携も有効であろう。ただし、そのためには、日本のこれら関係者に対して、国際機関経由の援助の理念と成果について、情報を共有する必要がある。
ハ.国際機関経由の援助における日本の関与の在り方
国際機関経由の援助を活用して、ODAの政策目標を達成するというアプローチは有用であるが、その関与の在り方には注意を要す。特に国連においては、特定のドナーが影響を及ぼすことについては、反発があることから、達成したい政策目標には、「日本色」を付けずに、ユニバーサルなものとして打出すことが肝要である。
(2) 人間の安全保障基金の改善にかかわる提言
イ.人間の安全保障基金の中長期的な目的の明確化
人間の安全保障基金は、人間の安全保障の概念を国連実施機関の活動の中に普及し実践していくことを目的としているが、その目的は漠然としており、将来的に基金として何を目指していくのか中長期での目的の明確化が必要である。なお、基金の拠出金残高が減っている現状をかんがみ、今後は案件を数多くこなすことよりも、モデルとなりうる優良案件を数は少なくても着実に形成・実施することが望まれる。
ロ.人間の安全保障ユニット(HSU)の国連における位置付けの明確化
2010年春に提出予定の人間の安全保障に関わる事務総長報告を機に、人間の安全保障に関する国連総会での議論と決議の採択を通じ、人間の安全保障を正式な国連のマンデートにすることにより、HSUの活動にお墨付きを与えることが必要である。そのためにも、日本政府がイニシアティブをとり人間の安全保障に関する決議案を作成し、総会で採択されれば、より強力な位置付けとなる。
ハ.人間の安全保障基金プロジェクトの成果の普及
人間の安全保障基金では190以上のプロジェクトを実施してきたが、その成果が十分に国連実施機関や国際社会において共有されていない。これまで実施された豊富な基金案件の経験から、複数分野、複数機関などの統合の推進、市民社会との連携、保護と能力強化の包括的アプローチ等のグッド・プラクティスをとりまとめて、何が「人間の安全保障の概念のプロジェクトへの反映であり実践であるのか」について国連実施機関やプロジェクトの関係者に分かりやすく説明することが求められる。
ニ.人間の安全保障基金のビジビリティの強化
人間の安全保障基金という名前が現場において認識されていないという問題がある。末端の裨益者が人間の安全保障の概念を理解することは必須ではないにせよ、人間の安全保障基金によるプロジェクトであることは認識されるべきである。また、現地政府や実施団体(IP)の関係者については、そのプロジェクトが人間の安全保障基金によるものであること(意味合い)を意識してもらうことが、現場レベルの開発従事者への人間の安全保障の概念普及にも資するといえる。
ホ.人間の安全保障基金の実施体制の改善
人間の安全保障基金については、「手続きが遅い」、「使い勝手が悪い」というマイナスのイメージが定着している。こうした点を払拭し、国連実施機関における人間の安全保障の概念に関する認知度を向上させるためには、HSUによる概念の説明だけではなく、現場における国連関係者の声にも考慮した、申請手続き、モニタリング・評価、報告手続きの改善が求められる。
へ.マルチドナー化の推進
人間の安全保障基金の残高が減少している状況の改善と、人間の安全保障の概念の普及のために、他のドナーが基金に参加しやすい環境を整備すべきである。すなわち、その障害となっているジャパン・ファンドのイメージから脱却するため、日本による基金へのかかわりは、人間の安全保障諮問委員会を通じて政策レベルで果たすことに重心を置き、プロジェクトレベルでの基金への関与(コンセプト・ペーパーの審査等)は徐々に減らしていくべきである。 |