6.評価結果
(1)目的の評価
1)我が国平和構築援助政策全般の目的評価
我が国政府が紛争国・地域に対して行う援助について、従来、必ずしも明確で一貫した目的が掲げられてきたわけではないが、各国・地域に対して援助を行う際に掲げられてきた目的を総括すると、概ね次のような共通した目的が掲げられてきたことが分かった。
‐ 日本にとり重要なアジア太平洋地域の平和と安定を促す
‐ 国際社会の一員としての(主要な)役割を果たす
‐ 我が国及び国民の利益と安全を確保する
‐ 「人間の安全保障」を実現する
このような目的は、国際協調・平和主義に立つ我が国外交の基本方針、「平和の構築」を重点課題に掲げるODA大綱及び中期政策、紛争国・地域に対する取り組みを重視する国際社会の潮流等と照らして妥当なものであったと考えられる。
2)我が国の対アフガニスタン平和構築援助政策の目的評価
アフガニスタンに対する支援を行うにあたり、我が国は次のような目的を掲げた。
‐ アフガニスタンの平和と安定を促すことで、日本が原油輸入の8割以上を依存する中東地域の平和と安定に寄与し、日本の石油の安定供給と安全保障上の利益を確保する。
‐ 同国の平和と安定を促すことで、同国が再びテロの温床となることを防ぎ、我が国及び国際社会にとっての脅威であるテロの根絶・防止を図る。
‐ 国際社会が取り組むアフガニスタン支援に積極的に取り組むことで、国際社会の一員としての責務を果たし、我が国のプレゼンスや信頼を高める。
また、我が国は対アフガニスタン支援にあたり、1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興・人道支援を柱とする「平和の定着」構想を掲げて支援に取り組むこととした。
対アフガニスタン支援にあたり、我が国が掲げたこのような目的及び目的体系は、我が国外交・ODAの基本方針、国際社会の取り組み方針、現地ニーズに合致するものであった。
なお、本評価の過程において、我が国の対アフガニスタン支援との関連で、国会の場等でODA大綱とDDRの関係を再整理する必要があるとの問題提起がなされていることが確認された。
(2)結果の評価
本評価では、アフガニスタンを中心に結果の評価を行った。アフガニスタン以外の国・地域については、我が国が平和構築援助を実施してきた主要な国・地域の現在の状況を政治面、治安面、経済面から概観するにとどめた。我が国が積極的な平和構築援助を実施してきた国・地域の状況を概観して分かったのは、我が国及び国際社会が目指す平和の実現が決して容易ではなく、短期間で実現されるものではないという現実であった。紛争国・地域に平和を実現するという目標に向けて我が国及び国際社会はまだまだ道半ばにいると言える。
アフガニスタンに対する我が国援助についても、全てを同じウエイトで調査・評価するのではなく、平和構築援助としての意義が強いと認められ、我が国政府が重視していた分野を選び、重点的な調査・評価を行った。具体的には、1)武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)、2)緒方イニシアティブ、3)幹線道路支援の3つの援助を重点評価対象とすることとした。
1)DDR
アフガニスタンDDRの主要目的は、群雄割拠する旧国軍部隊(軍閥勢力)の解体によって治安を改善し、中央集権による国家の建設を進めることにあった。同時に、DDRを中央政府の主導の下で進めることで、中央政府の求心力を高めることも狙いとされていた。アフガニスタンにおける武装解除は、試行段階から本格段階にかけて段階的に実施された。武装解除は、当初の予定どおり順調に進んだわけではないが、2005年6月末までには目標であった6万人の武装解除が完了し、これらの元兵士に対する社会復帰支援も実施されている。
アフガニスタンにおけるDDRは、和平プロセスと足並みを揃えて実施されることにより、和平プロセスの進展を助けるとともに、中央政府の求心力を高めることに貢献した。一方で、DDRがアフガニスタンの治安改善に与えたインパクトは限定的であった。
アフガニスタンのDDRに対する我が国の最大の貢献は、同分野における主導国として、資金的な側面においても、政治的な取り組みの側面においても、ドナーの中で最も積極的な貢献をし、DDRプロセスの進展に総合的に貢献したことである。資金面での貢献や専門性があり意欲のある人材の登用が我が国の貢献に寄与した。さらに、我が国は、元兵士の社会復帰支援の分野で様々な援助を実施し、貢献をしてきている。このように一定の成果をあげてきた我が国の社会復帰支援であるが、例えば、JICAによる技術協力については、援助プロセスの改善によってより高い成果があげられたのではないかという反省の声も聞かれている。
2)緒方イニシアティブ
緒方イニシアティブは、1)人道から復旧・復興への継ぎ目の無い支援を行うこと、2)優先地域を対象とする総合的な開発計画を推進すること、の2点を主たる目標とし、この目標を達成するために、UNAMAを調整機関として我が国政府が主体的に関与しつつ、国連実施機関の取り組みを推進していくことが目指された。
このような目的と照らして、緒方イニシアティブの目標達成度は残念ながら限定的であった。地方都市マザリシャリフでは国連機関の緊密な協力の進展が見られたが同様の成果は、緒方イニシアティブの下での取り組み全般に見られるものではなかった。国連関係機関等に対するインタビューでは、緒方イニシアティブの理念やアプローチには賛同できるもの、極めて野心的なものであり、その実現のためにはよりしっかりとした枠組みやツールが必要であったという問題点が指摘された。
3)幹線道路支援
アフガニスタンの幹線道路は長年の紛争もあって劣悪な状態にあり、社会・経済活動の大きな障害となっていた。幹線道路整備支援は、幹線道路の整備とそれによる交通の便の向上に加え、アフガニスタンの復旧・復興促進、難民・避難民帰還促進、異なる民族間の往来が増加することによる国民和解促進をもたらすことを目指していた。
我が国が実施した幹線道路支援のうち、カブール・カンダハール間道路整備支援は順調に実施され、利便性の向上、経済活性化等の効果をもたらした。一方、カンダハール・ヘラート間道路整備支援については、本評価現地調査の時点で、安全問題をめぐって半年以上工事が中断されている状況にあり、まだ当初期待されたとおりの成果があがっていなかった。工事が中断されていることについては、我が国政府関係者及び民間関係者との間で協議が行われてはきていたものの、2005年11月の現地調査実施時点において有効な解決策がまだ見出されていない状況であった。
アフガニスタンにおける我が国の道路セクター支援は、異なる支援スキームを活用することで、幹線道路整備支援だけでなく、主要都市の道路や地方の道路を含めて整備することで、我が国援助による平和の配当を幅広く感じてもらえるよう工夫がなされていた。
(3)プロセスの評価
1)我が国の平和構築援助プロセスの適切性・効率性評価
我が国の平和構築援助政策策定は、個別の国・地域毎に行われてきた。したがって、国・地域横断的な平和構築援助政策という一般的な政策体系は存在しなかった。そのため、平和構築援助政策全般を担当する外務省の担当局課というのも存在しない。このような体制により特段の問題が生じているという事実は確認できなかったが、我が国政府が平和構築支援を外交政策の一つの軸に据え、国際社会において積極的な貢献を行おうとするのであれば、平和構築政策を所管する担当局課が存在することが望ましい。
我が国の平和構築援助遂行においては、我が国政府の複数の関係機関が関与している。また、その中心となる外務省の中でもスキーム毎に援助遂行を担当する部局が複数にまたがっている。このような体制下で、我が国平和構築援助の遂行が著しく適切性・効率性を欠くものであったという点は発見されなかった。しかし一方で、平和構築政策全般を総合的に調整・遂行する体制が外務省内に存在しないこと、個別の国・地域毎の平和構築援助を総合調整する担当局課の人員体制が実際のニーズと照らして必ずしも十分でないこと、現地大使館の人員・体制が効率的・効果的援助実施のために必ずしも十分でないこと、現地大使館の安全対策にかかる体制・人員配置及び資機材に対する予算措置が必ずしも十分でないこと、といった問題点が確認された。
被援助国政府、他ドナーとの協議・調整は概ね問題なく行われていたことが確認された。ただし、緒方イニシアティブのように、期待していた連携が実現しなかった事例があることも確認された。
2)我が国の平和構築援助プロセスの発展性
我が国政府は、紛争国・地域に対する取り組みが重視されるようになる中で、柔軟な人材配置・体制構築を行い、援助の実施に取り組んできたことが確認された。しかし、紛争国・地域に対する国内外の関心が薄まるにつれ、外務省内において、援助実施に係る人員配置・遂行体制が手薄になる傾向があることも確認された。
また、我が国政府は、平和構築援助実施にあたり、既存のスキームを活用するとともに、より効率的・効果的な援助を行うためにスキームの拡充・新設を進めてきたことが確認された。そのような例としては、緊急無償資金協力の対象範囲の拡充、紛争予防・平和構築無償資金協力の導入、国連人間の安全保障基金の新設・活用、緊急支援調査(緊急開発調査)の導入、道路セクター・プログラム無償資金協力の導入がある。
このようなこれまでの努力は評価される一方で、スキームの運用改善・拡充が望まれる点もいくつか発見された。我が国のNGO支援スキームの費目に安全対策費目が認められていないこと、NGO支援スキームの申請時に必要とされる見積もりが細かく厳格であり、タイムリーな支援に支障があること、技術協力の実施スピードが必ずしも迅速でないことなどである。技術協力スピードの向上についてはすでにJICA内で改善に向けた努力が行われていることも確認された。
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