4.2 我が国の援助実施体制に対する提言
近年、SPが援助の主流となる中で、PRSPやセクター別開発計画の枠組みの外で援助を実施することは難しくなっている。セクター別開発計画の枠外でプロジェクトを実施しても、MTEF等での予算措置なされていないためローカルコストの支出がなされず効果が持続しない。このような現状を考えると、タンザニアのオーナーシップを維持するために必要とされるシステムは、コモン・バスケット、財政支援といった新規援助様態、キャパシティ・ビルディングのための技術協力を必要に応じて組み合わせた柔軟性のある援助体制である。
我が国はタンザニアにおいて、コモン・バスケット、財政支援といった新しい援助様態をメインストリームにすべきとする主要ドナーに対して、そうした新援助様態も認めつつ、我が国がこれまで二国間援助で行ってきたプロジェクト型援助の有効性と、画一的でない目的に応じた援助様態の必要性を主張している。これは状況に応じて最適な援助様態の組み合わせを選択しようとするもので、プログラムの策定段階では各ドナーが協調し、実施段階においては各ドナーそれぞれのスキームで援助を行い、モニタリングでは再び協調して実施するというシステムの構築が望むべき姿であるとするものである。
タンザニアにおける援助課題に対するアプローチとして最も有効である援助モダリティの選択肢を残す配慮が今後とも必要である。また、善意のドナーの支援を阻むものにならないようにするためにも、様態を制限しないことも重要である。この意味で、我が国の援助は、新しい援助様態に傾倒するのではなく、現在有する援助様態を臨機応変に活用するという主張を展開すべきである。この中で、我が国の技術協力は、セクター別開発計画を実施する際に障害となっているキャパシティの問題解決に資するものと期待される。
我が国はこれまで政府の組織的・制度的・財政的キャパシティがあるアジア諸国を中心に援助を行い、要請主義や自助努力支援を基本的要件としてプロジェクト型の案件を形成し、援助効果を上げることができた。しかし、タンザニアにおいてはすでに述べたように政府の組織的・制度的・財政的キャパシティは不十分である。こうした国において、「援助の集中砲火」にさらされればタンザニアの限られた開発資源・能力は分散し、経済協力の成果は現れてこない。政府の組織的・制度的・財政的キャパシティが不十分で、援助吸収能力に限界のある国においてはまず能力強化のためのプロジェクト型援助が重要である。従って、タンザニアにおいては援助協調、SPを念頭に置き、新しい援助様態と各ドナーの知恵と経験を動員した画一的でない援助を実施すべきである。
現在タンザニアでは、政府・ドナー・市民社会の意見を反映する形で、PRSPが開発の核となり、またSPに基づく援助協調が基本的な流れとなりつつある。PRSPの枠組みの外で援助を実施することが難しくなってきている。
我が国は、2000年に外務省により「タンザニア国別援助計画」を策定しているが、同計画では、保健医療、教育等の分野ではSPについて触れており77、今後さらに議論が行われていくと思われる。援助環境が急速に変化している国においては、新たな状況に対応すべく国別援助計画を補足する作業が被援助国のニーズに応えるためにも必要である。また、こうした援助環境の変化に現場の関係者は敏感である必要があり、現場でのマクロ政策、セクター政策策定のための議論に積極的に参加し、こうした変化を日本へ一層迅速に伝える必要がある。
タンザニアにおいてはドナー会合等(テーマ別に非常に多くの会合が開催されている)において、援助のあり方等について積極的な議論が行われている。我が国もこうした議論に参加するようになっているが、今後さらに積極的に議論に参加し、より効果的な援助戦略を形成するための知的な貢献が求められている。
我が国は、タンザニアのPRSP策定時にタンザニア政府とドナーによる政策レベルの議論に参加して、新規援助様態も認めつつ画一的でない、目的に応じたプロジェクト型援助の有効性も主張することを「日本の立場」として表明した。これは、タンザニア政府とドナーが、新たな援助様態について議論を重ねる中で、タンザニアを援助重点国として支援してきた日本の意見を、タンザニアの援助動向へ反映させる機会となった。PRSPがタンザニア援助の中心となっているが、こうした状況下において、外務省の「国別援助計画」とJICAの「国別事業実施計画」を、PRSPとの整合性を深め、我が国の無償資金協力、技術協力等がPRSPを中心とするタンザニア援助においてどのような位置付けにあるのかを他のドナー及びタンザニア政府の双方に対して明確に示すことが必要である。そうすることによって、タンザニアにおける我が国援助の窓口である在タンザニア日本大使館と、JICAを含めたAll Japanでの援助体制の積極的な取り組みが他のドナーに対してもタンザニア政府に対しても明確になり、我が国の政策対話、ドナー会合での発言はより理解されやすくなり、我が国の「声が聞こえる援助」となる。
さらに、世銀等の国際的な援助会合の場やドナー会合で日本が積極的に議論を展開するためには、次のような点で日本側の体制を整える必要がある。第一に、DAC・世銀・SPA等の会合で援助の様態に関する議論に参加し、新規援助様態に限った画一的な援助政策をとるべきでないとする日本の立場を主張し、日本の考えへの理解者を増やすとともに、各ドナーや国際援助の動向を今後とも継続して把握することが重要である。会議で得た情報を、速やかに現地の援助担当者に伝え、日本国政府サイドにも提供して、現地関係者同士、または現地と日本国政府サイドが情報共有することによって、日本大使館とJICAとの連携の下、共有情報を「国別援助計画」及びJICAの「国別事業実施計画」の改訂に反映させていくことが可能となる。さらに、我が国の援助政策を議論・検討する委員会が早急に設置される必要がある。SPによる援助協調は、タンザニアのみならず多くの低所得途上国に対する新しい援助方式として定着することが予測され、我が国は援助モダリティに対する基本的なスタンスを明確にすることが迫られている。現在の「国別援助計画」とJICAの「国別事業実施計画」だけでは、必ずしも対応できるものではない。JICAがとりまとめている「国別援助委員会」委員にも、地域専門研究者だけでなく、援助システムに通暁した委員を配置することが求められる。
第二に、ドナー会合で議論に参加し、議論に対する適切な対応ができるように大使館に開発経済学の知見を有する「ハイレベルの専門調査員」を配置することが必要である。これについては、すでに外務省において検討が行われているので実現を期待したい。これは、開発経済学の知見を有し、実務経験のある研究者もしくはコンサルタントに、専門調査員として業務を必要期間にわたり委託していくことが考えられる。また、こうしたハイレベルの専門家を確保するためには、大学もしくは研究機関と援助実施機関との連携の構築、外国の援助機関との共同研究を通じた開発課題に対する専門能力の強化が必要である。
草の根無償資金協力は、タンザニアに限らず非常に高い評価受けている日本の援助スキームであり、さらに拡大、発展させていくべきである。タンザニアにおいて、草の根無償資金協力は1989年度の1件、400万円から始まり、1999年度は13件、7,700万円に達している。対象分野は、学校校舎建設、水供給、保健医療、民主化教育等多岐にわたっている。今回視察した草の根無償資金協力プロジェクトに、日本人専門家と青年海外協力隊および草の根無償資金協力といった日本の各援助スキームが、地域に好ましい形で連携して展開している例があった。例えば、コースト州バガモヨ県でのバガモヨ・セント・エリザベス病院建設計画では、草の根無償資金協力の申請者であるローカルNGOは、その地域で活動していた日本人専門家から青年海外協力隊の存在を知り、バガモヨ地域の学校へ青年海外協力隊員の派遣を要請した。さらにこの隊員を通じて、草の根無償資金協力というスキームの存在を知り、隊員のアドバイスを得ながら草の根無償資金協力の申請が行われている。この例に見られるように、青年海外協力隊員や専門家が草の根のニーズを汲み上げる手助けとなり、我が国の援助スキームが相乗効果を発揮している。こいうした協力は「顔の見える」点からも好ましいことであり、青年海外協力隊員や専門家の草の根無償資金協力への貢献は一層促進されるべきである。また、現地で活躍する日本のNGOも現地のNGOと連携して、草の根無償資金協力を活用した地域協力を検討しているが、これは案件の担保性を高める上でも、我が国の国際NGO育成の上でも役立つと思われる。
草の根無償資金協力による案件は、他の資金的支援に比べて小規模な支援であるが、即効性のある援助であり、市民レベルに直接貢献できる点からも効果が大きい。実施は、初等教育、水供給、保健・医療等に重点が置かれ、タンザニア国内の地域的なバランスに配慮しつつ行われている。今回の調査における草の根無償資金協力の視察場所では、どの案件も高く評価されており、日本の「顔の見える援助」となっていた。完成した橋や建物の贈呈式に大使が積極的に出席し、テレビ等で扱われる機会も多いことから、我が国の援助としての広報効果も高い。
現在、草の根無償の案件は年間およそ200件の申請が提出されている。メディアによる報道で、草の根無償は広く知られるようになっており、申請件数は今後さらに増加すると思われる。案件は、地域社会への裨益効果、被供与団体の信頼性、実施体制の状況等が検討され実施されている。今後、申請案件が増加した場合、現在の体制では申請処理の作業量が過重となり、十分に対応できなくなる可能性がある。そうした場合、大使館の増員が難しい現状では、現地の経済・社会事情に精通する人物を現地で採用することは有効な方法である。また、開発経済や地域研究を専攻した大学院修了者を草の根案件に関わる補助スタッフとして採用することも考えられる。これは大学院修了者にとって実地経験を積むキャリア・パスとしての効果も期待される。
対タンザニア援助実施体制に対する提言
1.タンザニア政府のキャパシティ・ビルディングに対する支援 a. キャパシティ・ビルディングに繋がる技術協力の継続・促進を図る。
e. 多くのドナーがタンザニアの各省庁の予算管理能力に不安を感じている。こうした問題の解決へ貢献するため予算管理を指導する専門家を派遣する。 2.我が国の援助実施体制に対する提言 (1) 援助様態に関する主張の展開
a. 国別援助計画(外務省)、国別事業実施計画(JICA)の改定・修正を行う。
(3) 草の根無償資金協力について a. 案件の効果、現地の評価も高いので可能な限り件数の拡大を図る。
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77 1997年3月にタンザニア国別援助研究会報告書を作成、1997年2~3月にかけてタンザニア経済協力総合調査団が派遣され、タンザニア政府とタンザニア援助フレームワークが合意された。タンザニアにおいては1995年6月のへライナー・レポート以降、援助協調議論が活発化し、セクター・プログラム導入への動きが顕著となるが、国別援助研究会報告書ではこうした動向には触れられていない。国別援助研究会、経済協力総合調査団の成果に依拠し、1999年にタンザニア国別援助計画、JICA国別事業実施計画が策定された。2000年6月に飯村経済協力局長がタンザニアを訪問、2000年6月のタンザニア国別援助計画、JICA国別事業実施計画においては重点分野の「人口・エイズ及び子供の健康問題への対応」、「基礎教育支援」でセクター・プログラムへの言及がみられる。