1.2 援助政策の基本的な理念
援助政策の妥当性を評価するに当たって、まず「国別援助方針」はどのような目的を持ったものだったのかを把握するために日本の対スリランカ「国別援助方針」(1999年)の体系図を作成した(図3.1-a参照)。この援助方針は、1.基本方針(我が国の援助対象国としての位置付け、我が国の援助の重点分野、留意点、ODA大綱の運用状況から構成)、2.スリランカ経済の現状と課題、3.開発計画、4.援助実績(日本と他ドナー)からなる。まず、わが国の対スリランカ援助政策の政策目標について、「国別援助方針」は、積極的にスリランカを援助する理由として、1995~1997年までは、イ)日本と伝統的に友好関係にあること、ロ)民主的政権運営を行い、構造調整・経済改革の自助努力を進めていること-の2点を挙げている。1998年からは、ハ)インフラ整備・地域開発等、経済発展に向けた援助需要が大きいことが加わっている。これらを勘案してわが国のスリランカに対する援助政策目標は、「経済発展」であったと想定した。また、「国別援助方針」では、この援助政策目標を達成するために「経済基盤の整備・改善」、「鉱工業開発」、「農林水産業開発」、「人的資源開発」、「保健・医療体制の改善」、「環境」という6つの重点分野を設定し、それぞれの分野での取り組みを記述していることから、援助政策目標の下位にはこれら6つの分野の重点セクター目標があり、さらにその下位にはサブセクター目標があると想定した。
なお、この重点セクターは、1991年3月に経済協力総合調査団が派遣され、スリランカ政府関係者と協議の後に、「経済基盤の整備・改善」・「鉱工業開発」・「農林水産業開発」・「人的資源開発」・「保健・医療体制の改善」という5つ重点分野が設定されたことに基づいて設定された1。これらの重点セクターは1994年に「環境分野」が加えられたほかは、1999年まで変更はない。
図3.1-a 日本の対スリランカ「国別援助方針」(1999年)の体系図(イメージ図)(PDF)
1 この「国別援助方針」の策定にあたって、1991年7月に外務省南西アジア課が、「経済・技術協力関係国別調査票」を作成している。これには、「セクター別開発ニーズ」の中の「現状・ボトルネック」に、1)総論で、構造調整計画の課題(財政赤字削減・行政改革・民活促進等)を挙げ、構造調整政策が社会情勢不安などにより遅延することなく実行されることが必要、と述べられている。2)社会インフラでは、「教育と医療はただ」というスリランカの基本政策による教育・医療の近代化の遅れ、3)経済インフラでは、非効率な国営企業サービスや合理化の遅れ、4)生産部門では、非効率な国営生産部門や民営化の遅れが、課題として挙げられている。これらのスリランカの政策課題については、「経済・技術協力の条件と成果」において、協力上の問題点として、「スリランカ行政機構の非効率さによる援助の進捗への影響の可能性」、「構造調整下、省庁の統廃、実施機関の民営化等機構改革が進行中であり、これにより案件実施が影響を受ける例があること」を指摘している。