広報・資料 報告書・資料

英国国際開発省(DFID)との合同評価(マラウイ)


(現地調査期間:99年7月12日~7月23日)

(日本側)

団長:牟田博光 東京工業大学大学院社会理工学研究科、教授
ロバ-ト・デロウイン 外務省経済協力局政策課、CIDA/JICA交流オフィサ-
田中由美子 国際協力事業団評価管理室、室長
田中千聖 国際協力事業団社会開発調査部、ジュニア専門員
武藤小枝里 国際協力事業団派遣専門家(教育行政アドバイザ-、在マラウイ)

(英国側)

団長:テリ-・アルソップ DFID中央アフリカ事務所、シニア教育アドバイザ-
その他DFIDから5名、ブリティシュカウンシル1名、英国コンサルタント4名、PCOSPプロジェクト実施チ-ム13名、マラウイ国関係省庁8名

(評価対象プロジェクトの概要)

プロジェクト名 マラウイ国前期初等学校プロジェクト(PCOSP:Malawi Primary Community Schools Project)
援助形態 無償資金協力、技術協力
援助金額 無償資金協力(£15.1 million)、技術協力(£3.2 million)
協力年度 1995年9月-2002年7月
協力の内容 コミュニティ主体(住民参加型)の前期初等教育(小学校1年生から4年生まで)を改善するプロジェクトである。コミュニティ主体により実施・運営が可能で、かつ費用対効果の高いモデルの開発、ならびに、コミュニティ主体の学校運営を支援できる教育文化省のキャパシティビルディング、および両者のパートナーシップの構築を目的としている。具体的には、校舎建設、給水施設設置(井戸)、授業改善、学校運営支援、住民に対する啓蒙など、前期初等教育改善に資する施策を総合的に展開している。

1.はじめに

 今回の日英合同評価は、1998年に実施されたフィリピンにおける我が国による学校校舎建設関連のプロジェクトに対する評価に引き続き、英国国際開発省(DFID)によるコミュニティを中心とした前期初等学校プロジェクト(PCOSP:Primary Community Schools Project)について行われた。
 PCOSPは、コミュニティ主体により実施が可能で、かつ費用対効果が高い前期初等学校の建設と運営に関するモデル開発をおこなうことを目的としている。その一方で、コミュニティが学校運営に深く関わっていく上でも、教育文化省の役割が鍵であるとの認識から、両者のパートナーシップの構築の支援も重視している。
 PCOSPにおいては、進捗状況を把握・監理するとともに、経験ならびに教訓をプロジェクトの進展に反映するために、ほぼ半年毎に「評価」(Review)および「モニタリング」(Monitoring Review)を実施している。前者は、後者よりも規模が大きく、今回の合同評価は、1995年5月、97年6月、98年6月に引き続く「評価」として、また、初めての日英合同評価としておこなわれた。その上、実際にプロジェクト実施に関与しているプロジェクト実施チームを評価団に含めたことも、新しい試みであった。
 なお、当初は計画書、報告書等にはPCOSP(Primary Community Schools Project)と記されているが、1999年以降の印刷物にはPCOSP(Primary Community Schools Programme)と記載されている。プロジェクトの総合性を強調してプログラムと呼ぶように変えたのではないかと思われるが、ここでは「プロジェクト」に統一して記述する。

2.マラウイの教育現状

(1) マラウイの教育行政

 マラウイの教育行政区分は一般行政区分とは異なり、1999年現在、3州(Region)、33郡(District)からなっている。州教育事務所(REO:Regional Education Office)は州内の郡教育部:郡教育事務所(DEO:District Education Office)を管理すると同時に、郡と教育文化省間の調整を果たす。また、中学校、教員養成学校の管理を行う。DEOは郡内の初等学校を管理する。現在行政の地方分権化が進められているが、進捗は遅い。
 教育システムは基本的に8-4-4制を採用している。初等教育は8年間であるが、前半の4年間だけの前期初等学校も農村部には多い。中等教育は前期2年、後期2年に分けられる。
 国民一人当たりGDPは1997年には統計のあるアフリカ諸国49カ国中、下から6番目と極めて貧しい。

(2) 初等教育

 1994年、30年間の一党政治の後、初めて民主的選挙により選ばれたムルジ大統領の新政府は、選挙公約であった初等教育の無償化に着手した。実際には、1990年初頭までに小学校1年生まで、1994年までには4年生までの授業料が無償になっていたが、制服等の他の経費は残されたままであった。しかし、1994年の改革は、制服の廃止も実現し、就学率は急増した。就学者(登録者数)は1993/94年の190万人から1994年度初頭には320万人にまでなり、同年度内には286万人、1997年には291万人に落ち着いた。特に1年生は1993/94年の63万人が1994/95年には101万人になるなど、無償化のもたらした影響は大きかった。ユネスコ統計によれば、小学校の粗就学率は1990年には68%と全アフリカ平均の79%を下回っていたものが、1993年には89%、1994年には134%と短期間に就学率が急上昇した。マラウイ政府の統計では1995年の純就学率は83%である。
 この児童数の急増に対し、教育文化省は1993/94年の現員約2万5千名に対し、約2万人の教員を大量に新規雇用し、1994/95年の教員数はほぼ倍近くになったが、新規雇用分の1万8千人は無資格者であり、従来からの無資格者も含めて、無資格教員比率は42%に達した。さらに、教室の増設、教材の供与を行ったが十分ではなかった。多くの無資格教員を雇用せざるを得なかったことから、その後これらの無資格教員に対し必要な研修を与える事が急務となった。1997年でも無資格教員は全国平均で49%に上る。  
(3) 教育開発の課題

 初等教育の量的拡大は実現されつつあるものの、児童数の急増に伴い、就学率の地域間格差、質の低下も問題となっている。1992/93年の教員一人当たり児童数は平均72人と極めて高く、政府目標値の35人の達成は不可能なため、現実的策として2005年に60名を目指した。1994/95年のあらゆるタイプの1教室当たり児童数は平均130名にも上るが、都市部の恒常的な教室では平均210名にものぼり、欠席率は高いとは言っても、児童は教室の床に座って授業を受けたり、屋外で授業を受けたりしている。机、椅子などの家具の不足は著しい。低学年ほど教室は混雑している。また、1994/95年の恒常的教員宿舎当たりの教員数は3.9であり、新設校の建設の際には教員宿舎を付設することを基本としている。
 内部効率は悪い。1997年の1年から2年への進級率は54%であるなど、中途退学率、留年率、欠席率はいずれも高い。平均23%の児童しか8年間の初等学校を卒業できず、女子は男子と比べて退学率や留年率が高いなど男女格差の問題もあり、8年の初等教育を終了するのに平均12年かかると言われている。2005年までに中退率、留年率を1~7年は5%以下に、8年生は15%以下にすることが目標とされている。
 公的財政支出に占める教育支出の割合は1990年には11.1%であったものが、1994年には18.3%となっている。また、GNPに占める公的教育支出の割合は1990年には3.4%であったものが、1995年には5.4%と増加し、ケニアの6.7%と比較すれば、まだ努力の余地があるものの、経済力に比して、教育を重視する姿勢を見せている。
 さらに、今後、初等教育の普及に伴う中等教育(粗就学率1990年8%、1995年17%)へのニーズの高まりが予想されることをはじめ、他のサブセクターでのニーズの把握、状況改善のための対処は不可欠である。1994年には教育分野における政策および投資枠組みとしてPIF(Policy and Investment Framework)を作成しドナーの支援を求めたが、予算確保に問題があるとして、ドナーの批判を浴び、見直しを余儀なくされた。
 主な教育関連のドナーにイギリス(DFID)、ドイツ(GTZ、KfW)、スエーデン(DANIDA)、アメリカ(USAID)、カナダ(CIDA)、世界銀行、ユニセフ、アフリカ開発銀行などがある。ドナーの多数は、ニーズの高さから初等教育に焦点を当て、教育機会の提供に加え、無資格教員へのトレーニングや教科書・教材供給等、質的向上の課題への取り組みを支援している。
 DFIDはジンバブエのハラレに中央アフリカ事務所(BDDCA:British Development Devision in Central Africa)を置き、マラウイ国ではブリティッシュ・カウンシルのマラウイ事務所を現地コンサルタントとして利用している。


3.PCOSP(前期初等学校プロジェクト)の概略

 PCOSPは、1994年の初等教育の無償化を含む新しい政府の方針を踏まえ、1995年に開始されたDFID支援によるコミュニティ主体(住民参加型)の前期初等教育(小学校1年生から4年生まで)を改善するプロジェクトである。コミュニティ主体により実施・運営が可能で、かつ費用対効果の高いモデル開発、ならびに、コミュニティ主体の学校運営を支援できる教育文化省のキャパシティビルディング、および両者のパートナーシップの構築を目的としている。1999年7月現在、建設計画4フェ-ズのうちのフェ-ズIIIに至っている。PCOSPは、前期初等教育において、物理的のみならず質的状況改善を図ろうというものであり、最適なモデル開発のための「実験」的観が強いが、教育文化省より教員の配置がなされることも含め、正規学校教育と認識されている。また、学校建設は建設会社が行い、その際、住民を未熟練労働者として雇用する事を義務づけており、所得創出活動の一面も持っている。

(1) 総合的、包括的なPCOSPの活動

 マラウイ全土で小学校100校を上限として建設(増築、改築を含む)することに加え、その対象校において、教科書・教材の提供や、校長や教師へのトレーニング実施による質的改善、さらに、学校運営・維持へのコミュニティの参画を促すことで、持続可能性の担保や、就学率の向上や中退率の抑制に努めている。4ブロック8教室(1年生から4年生までを各2教室)、倉庫、職員室、3~4の職員用住宅、トイレ、そして井戸(給水施設)を有することを基準としている。DFIDは、その一方で、末端のオフィサーである初等教育視学官(PEA:Primary Education Advisor)ならびに学校のシニアスタッフの強化を目的に学校教員支援プロジェクト(MSSSP:Malawi School Support Systems Programme)という別のプロジェクトを実施中であり、今後MSSSPとの連携が強調される予定である。
 プロジェクト対象地域は、すべての教育郡(Education District)について、

1) 最寄りの学校から遠い、またはアクセスできない、
2) 学齢人口が多い、
3) 非識字率が高い、
4) 水の確保が可能である、
5) コミュニティの参画意欲が高い、
6) 他の学校プロジェクトの裨益対象外であること、


 という基準に基づいて、地域を限定しないで全国的に選定することで政治的に公正度の配慮をしている。しかし、建設計画フェ-ズIV(2000-01年)においては、10校分に相当する予算をもちながら、フェ-ズIIIまでは不十分であった教育基礎情報の収集・整備も行なおうと、チラズル1郡に対象を絞る予定である。チラズル郡では、スクール・マッピングを実施予定である。
 校舎建設は予定よりいくらか遅れ気味ではあるが、建設計画フェ-ズI(1996-98)では10郡において30校、フェ-ズII(1998-99)では11郡において31校、フェ-ズIII(1998-2000)では11郡において35校の建設を終了/建設中である。
 PCOSPは、2人の英国人アドバイザー(チームリーダー・アドバイザーおよびトレーニング・アドバイザー)の協力を得ながら、チームリーダーの下、地域連絡調整官(CLO:Community Liaison Officer)や給水や建物にかかる建設監督者、ローカルコントラクターの調整者等により、コミュニティの参画やジェンダー配慮を実現しつつ実施されている。チームリーダーは、PIFおよび教育文化省の「マラウイ初等学校建設基準」のドラフト作成にも参加し、これらとプロジェクトの整合性を図ることにも留意している。また、5人の地域連絡調整官は、コミュニティにおける生徒数の予測から、初等教育視学官等との連携によりフィールドレベルでプロジェクトを支援し、概して1人の地域連絡調整官が20弱の学校を管轄している。その上、広報担当者を配置し、プロジェクトの主要な過程・成果を明示したカレンダーや四半期毎のニュースレターの配布、さらに、国営放送ラジオでの毎週30分の番組等の活用により、情報発信にも力を入れている。

(2) 「実験」的プロジェクト

 プロジェクトの経験や教訓を、次フェ-ズ以降に反映させようとする姿勢は自明である。最適な建設技術や教材・教具の選択をはじめ、体験学習や教師・生徒間でやインターアクションのあるクラス運営、学校の近くに井戸(給水施設)を設けての保健衛生教育の実施、および、開校・学校運営のためのトレーニングを含む社会的支援の在り方の模索等をおこなっている。持続可能性の観点にも立ち、職員用住宅を教員定着へのインセンティブとしており、また、家賃収入を学校の運営費として活用している。 
 以下は、事例の一部である。

1) 建築技術:建築資材を費用や耐久性の面から吟味
2) 教具の仕様:費用、耐久性、入手可能性、調達手段などを考慮
3) 開校のためのトレーニング:校長、教員などに必要な訓練をほどこす
4) 社会的契約:親を含めた学校関係者の間で、役割分担に関する契約を取り交わす
5) マニュアル等の作成:学校の管理運営、現職教育などに関するマニュアル作成
6) 雇用機会の創出:学校建設の下働きに地域住民を優先的に雇用する


(3) コミュニティの参画  学校の施設維持管理のみならず、学校運営、さらには、就学率・出席率の向上や中退率の低下には、保護者やコミュニティの「教育」に対する肯定的な支援が必須であるとの認識から、コミュニティの参画を促し、オーナーシップの醸成とともに、啓蒙や能力強化を図ろうとしている。住民の参加をいかに促すかを課題としながら、以下のような事項を具体的に実施する。なお、これらは時系列ではなく、順番は学校によって異なる。

郡開発委員会および地域開発委員会を通して学校の位置の決定
コミュニティの参加による学校のサイトの決定
学校プロジェクト運営委員会の組織化
サイト確認のための、水資源・土壌調査
コミュニティの参加による学校のデザインやレイアウトの決定
水管理委員会の組織化
学校の建設
教師のための住居の確保
机他の教具、教材の配布
校長、教師の確保(ジェンダーを配慮)
開校のためのトレーニング(郡教育事務所、校長他)
開校
学校運営委員会の選出
水管理委員会の選出、訓練
維持管理委員会の組織化、オリエンテーション
社会的契約の交渉
学校運営委員会の訓練


(4) ジェンダーへの配慮  校長や教員ならびに教員の配置、学校建設にかかるコントラクターやワーカーの雇用、さらに学校およびコミュニティにおけるモデルとしてもジェンダーの配慮をおこなっている。


4.評価手法

 評価団は、日本国側から団長以下5名、英国側から7名、関係省庁から8名(教育文化省7名、女性青年地域サービス省1名)、英国コンサルタント4名、さらにプロジェクト実施チームの13名を加えた評価チームにより構成された。
 一方で、参加者の役割や専門性に基づく、いろいろな異なる視点や経験が共有できるよう、横断的な目的別のサブグループを形成し、ログフレームを活用して評価が行われた。

(1) 横断的なサブグループ

 評価団は、目的別に、フォーカス・グループとフィールド視察チームという2つのタイプに分けられた。前者は、文字どおり、その分野に焦点を当てて業務担当内容に基づき評価する課題が課せられたのに対し、後者は、フィールド視察のための班であった。フォーカス・グループには、

1)エンジニアリング、
2)インスティテューション開発、
3)社会開発、
4)経済/財政、
5)トレーニング/教育、

 の5つが設けられ、所属先や役割において片寄りがないようグループが形成された。たとえば、社会開発フォーカス・グループは、プロジェクト実施チーム3名、関係省庁1名、DFID1名、英国コンサルタント1名、そしてJICA2名であった。その一方で、フィールド視察チームとして、

 1)のエンジニアリング・グループが、特に学校施設状況に焦点をあてるということで、エンジニアリング・グループ、および
 2)経済/財政の若干名からなる施設チーム

 を構成した以外は、2)から5)のグループメンバーを必ず含む、3つの混成のチームがつくられた。施設チームは、首都リロンゲを中心に、本プロジェクトのみならず、マラウイ政府や他のプロジェクトによる学校を訪れ、フィールド視察をおこなった。それに対し、混成チームは、1日1校、計3校を訪問し、学校の見学他、村のチーフ、学校運営委員会、水管理委員会等のメンバー、教員にヒアリングをおこない、定量的および定性的な評価に資する情報入手に努めた。

(2) ログフレームの活用

 ログフレームは、PDMに似て、因果関係を明確にしながら、目標達成のためのシナリオを論理的に考察し、検証するのに有効である。

表2 ログフレーム表
要旨 測定可能な指標 実証の方法 前提と問題点
目標      
目的      
アウトプット      
活動      


フォーカス・グループ毎に、ログフレーム表を活用し、以下の8つのアウトプットについて、確認手法や仮定を明らかにしながら、評価を行った。

1) 費用対効果の高い学校建設・増築(給水施設を含む)、
2) 効果的な学習、
3) 効果的な教師配置、
4) 学校運営における積極的なコミュニティの参画、
5) 公平で効果的なコミュニティ・ベイスの小学校建設のための教育文化省の能力の強化、
6) 出席や在籍他にかかる柔軟なコミュニティ・ベイスで公平なアプローチ、
7) 効果的なマネージメントシステム、
8) 効果的なモニタリングならびに評価システム、


 の8項目がある。

(3) 評価の手順

 評価団全体でのPCOSP概況に関するセッションとともに、フィールド視察の準備として、フォーカス・グループ毎に、業務担当内容(グループの話し会いによる必要に応じた変更を含む)を明確にすると共に、1998年6月の中間評価時に活用したログフレームワークに基づき、評価すべき成果や指標について理解を図った。さらに、フィールドで活用する質問票の用意がなされた。
 それに引き続く3日間のフィールド視察においては、施設チーム、およびグループの枠をはずした混成チームに属しながら、フォーカス・グループで確認した各自の担当業務を行った。収集・整理された情報は、評価団全体で共有された後、その情報を元に、評価における重要な観点や因果関係をブレイン・ストーミングにより明確にしながら、その因果関係を図で表し、それぞれの観点がどのフォーカス・グループによりカバーされるか(2つ以上のグループにまたがる場合も有り)否かを明確にした。続くフォーカス・グループによる作業では、重要な観点に、グループ毎の業務担当に基づく観点を加え、図で表し、それぞれについて根拠となる状況、フェ-ズIV以降への提言をまとめた。
 その後、再びフォーカス・グループに分かれ、ログフレームワークを活用して進捗状況を含むプロジェクトの評価、そしてフェ-ズIVへの提言をまとめた。最後は、全体としてフェ-ズIVおよび今後の方向性ならびに提言を取りまとめ、関係省庁や関係機関に対しプレゼンテーションをおこなった。ログフレームに対する進捗状況にかかり、アウトプット8項目につき、進捗状況、ノート/コメントに加え、グループ毎の共同作業により評点をつけた。
 評点は、1の「ほぼ達成」から、2の「かなり達成」、3の「いくらか達成」、4の「ほとんど達成されない」、そして5の「実現されそうもない」まで5段階あり、評価をするには早急である場合には×を記すこととした。


5.評価結果の概要

 PCOSPは、教育の質に焦点を当てており、初等教育のための施設支援にとどまらない。学校建設自体、目に見える成果として、また、対象コミュニティのニーズに合致したものである。その一方で、学校のデザインにおいても、教育の質の向上、さらにマラウイの教育現状を踏まえ、女子生徒の就学や成績・達成度の向上を図れるよう、状況/環境に配慮している。男女別のトイレの設置や、女子教員の配置はその一例といえる。
 また、保健衛生教育の実施や、インターアクションのあるクラスルーム運営支援がなされ、プロジェクト開始からあまり時間の経過のない学校程、概して教室や職員室が殺風景であることも、プロジェクトの教員への正のインパクトを垣間みることができる。
 施設建設アドバイザーを含めても、13人のメンバーのうち、3人のみが外国人であり、効率的な技術移転、および高い費用対効果を期待している。小学校施設や教具においても、コストの削減や維持管理費の捻出等、持続可能性についても配慮が見られる。1998年度の評価に基づく改善提案は概ね達成された。評点が3「いくらか達成」であったのは教育文化省のキャパシティ強化とプロジェクトの効果的なモニタリング及び評価システムの構築だけであった。
 しかし、包括的なアプローチをするための初期投資は決して小さなものではなく、教材も消耗品であるがために、持続可能性には疑問も残る。先進国の基準から考えれば、建物の建設コストは最小限に抑えられている。しかし、簡単な木枠に泥を塗っただけの農村の民家に比べれば、はるかに豪華であり、高価でもある。さらに、教育の質を維持するために学校開設に合わせて準備された豊富な教材も近い内に消耗せざるを得ない。これらの学校を運営する維持費は住民の所得に比して高価であり、現状では政府の支援無しには住民の自助努力だけでは維持できないのが現状である。しかし、政府に、他の伝統的小学校と比較してお金のかかるPCOSPの学校を特別扱いする気はない。詳しい統計は十分取れていないが、見かけ上の就学率は高いものの、現実には欠席率が高く、実際に学校を利用している者の数は当初の予定を下回っていることも、児童一人当たり実質運営費を高くしている。

6.合同評価から学んだ点

(1) 強いコミットメントおよびその重要性

PCOSPのように包括的で実験的なプロジェクトにおいては、ドナー側に、それをおこなうコミットメントが必要である。これが、PCOSPの成功につながっていると考えられるが、DFIDの意思決定をおこなうシニアの支援を得たことが、大きく寄与していると考えられる。

(2) 効率性の追求

 PCOSPにおいては、フェ-ズIのコンクリートブロックより、フェ-ズII、IIIを経るにしたがって同等の品質を保ちながら、建設単価を減少させる努力をしている。工法的には、住民参加を図り、低コストを実現するため、建設現場にある赤土にセメントと少量の水を混ぜて型押しして固めた土ブロック(SSB:Stabilized Soil Blocks)を用いている。フェ-ズIIIの2教室1ブロックの建設単価は$104/m2にまで、低下させている。この金額は、同国内外の類似プロジェクトの中では、最も低いものの1つである。

(3) ログフレームを活用した客観的評価

 ログフレームを活用し、参加型作業によって、測定可能な指標、実証の方法、前提と問題点を明確にしながら評価を行った。最初につくられたログフレームは修正可能とは言っても、それに縛られている観がないわけではない。また、ジェンダーバランスや出席率の向上、施設の増築等は、長期的な目的であり、短期的には測定しがたい。さらに、施設他物理的なインフラストラクチャーを維持管理するための経営、財政面の側面が弱いと思われる。そうは言っても、事前に評価の視点や方法を定め、数値目標を明確にし、モニタリングで指標の達成度をチェックしていく方法は、類似の学校建設プロジェクトのみならず、多くのプロジェクト評価モデルとして活用できると考えられる。

(4) 投入と成果の関係の明確化

PCOSPにおいては、財政的な側面がマネージメントから切り離されて扱われている。ログフレームの中にプロジェクトコンポーネント毎の費用を明記することで、プロジェクト関係者や評価者他へ比重を明確にするだけではなく、費用対効果分析に役立てることができると思われる。

(5) 他のプロジェクトとの連携の重要性

PCOSPを国や援助機関等による他のプロジェクト、たとえば地域開発や経済開発の活動と連携することができれば、コミュニティの所得向上を促し、持続性に寄与すると考えられる。また直接の裨益者がロールモデルになることで、非就学者が就学の意欲をもち実現を図ろうとするなど、間接的なインパクトも期待できるであろう。

(6) 参加型中間評価

DFIDやコンサルタント他、直接プロジェクトに関わっていない人々のみによる評価ではなく、プロジェクト実施チームを包括し、評価のプロセス、結果他を共有できるシステムであった。情報や経験の共有にとどまらず、共通理解に基づき、評価の結果を肯定的に今後のプロジェクト運営に反映出来るようなネットワークの強化に役立つと思われる。

(7) 計画段階での定量・定性ベースラインデータの必要性

定量・定性的データ欠如していれば、成果、インパクト、ならびに効果を測ることはできない。PCOSPが対象コミュニティにおいてインパクトを与えている印象はあるが、プロジェクト実施前段階において、スクール・マッピングや社会調査等が十分行われていないことが、効果測定を困難にしている。プロジェクト後にだけデータをとってもプロジェクトによる変化は測定できない。これほど総合的な実験に、それを最終的にどう評価するかという視点が当初十分でなかったことは教訓とすべきである。


7.最後に

 PCOSPは、実験的とはいえ、DFIDの持続可能な開発へのコミットメントをうかがうことができる。また、マラウイ国側主体を強く支援するものであり、オーナーシップの育成やプロジェクトの持続性に寄与すると考えられる。
 PCOSPは、質の高い教育に焦点をあてている。 プロジェクト実施チーム12名のうち3名のみが施設建設にかかわるアドバイザーであることからもわかるように、小学校建設・増設のみを目的としているわけではない。包括的プロジェクトとして、たとえば、女の子が就学しやすいような環境整備にも配慮している。実際、能力および経験のあるプロジェクト実施チームをフィールドに配置することで、対象コミュニティそれぞれにニーズに柔軟に対応している。
 さらに、毎年の評価をはじめモニタリングと評価に基づく所感と提言が、プロジェクトの実施や必要な変更に生かされていて、これから始まるフェ-ズIVにおいても、今回の評価のレッスンを活用するものと期待される。
 このプロジェクトは就学率の拡大といった量的な普及、学校成績の向上といった質の改善という教育目標の達成のためには、学校を建設するだけではなく、教材の供給、教員の訓練、父兄の参加などを含めた総合的な支援が必要という、一大実験であり、その限りでは現状ではうまくいっているように見える。しかし、親の所得を高めるような他の社会開発プロジェクトなどの支援を得ずに、教育プロジェクトだけを実施することの限界も示している様である。プロジェクト期間が終わって、イギリスが完全に手を引いた後の自助努力の状態について、さめた見方が多かった。質は高くてもこれまでの学校教育と比較して費用のかかるPCOSPの維持を長期にイギリスに求める意見がマラウイ政府の中に強かったこと、コミュニティ主体の学校建設・運営、地方分権という耳障りの良い錦の御旗が、中央政府は財政支援しないという意味で使われていたように感じられたことも印象的であった。
 自助努力は被援助国の意識の問題であると同時に、それを可能にする経済的体力の問題でもある。経済水準に応じた援助のあり方、目標設定を考えなくてはならないことを強く示唆された。

参考文献


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Malawi Ministry of Economic Planning and Development (1996), Social Indicators Survey
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The World Bank (1999), African Development Indicators 2000
UNESCO (1999), Statistical Year Book 1999

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