(ケニア)
■ | 社団法人海外電力調査会、電力国際協力センター次長 | 中川雅之 |
<評価対象プロジェクトの概要>
プロジェクト名 | 援助形態 | 協力年度、金額 | プロジェクトの概要 |
モンバサ・ディーゼル発電プラント建設事業 | 有償資金協力 | 1995年、107.16億円 | 電力不足の改善、特に渇水期における安定した電力供給、あるいは産業の活性化による雇用の創出、電化率の向上による生活改善を目指し、観光や産業面で重要な第2の都市であるモンバサ市にディーゼル発電設備を建設するものある。なお、世界銀行等で作成された「国家電力開発計画」の一部を構成する最重要事業であり,「電源開発計画」(1994~2013年)においても最優先事業として位置付けられている。 |
はじめに
2000年4月初旬、ケニアに対する有償資金協力プロジェクトであるモンバサ・ディーゼル発電プラント建設事業を評価するため、現地調査を実施した。
外務省作成の「有識者評価マニュアル」によると、有識者評価は事後評価の一形態として実施されるのもで、個別プロジェクト評価を行うと共に、政策レベルでの教訓・提言が引き出されることを主な目的としている。また、客観性並びに中立性が重視され、有識者の専門性が生かされることが期待されている。
このため、本評価では現地調査等で収集した資料・情報を基に、できる限り客観的な評価を加えたつもりであるが、本プロジェクトの商業運転開始時期が1999年12月であり、年間の発電実績がまだ存在せず推測で評価したところもあるため、全てが実際のデータからの評価には至っていない。ただし、現地の電力会社を初め訪問した各機関では、今回の評価調査に非常に協力的であり、可能な限り情報を提供してくれた。このため、かなりの部分を実際のデータから分析できた。
今回の調査では、プロジェクトの開始時期、全体の電力需給との関係、設備の運転・管理状態、電力会社の経営状況などに焦点を当て、それぞれの点から評価を実施した。
なお、本プロジェクトに対する現地の評価は大変高く、ケニアの電力事情の改善に大きな役割りを果たしていることが感じられた。
1. 個別案件の評価<総論>
ケニアでは各国の援助が停止した時期もあり、投資資金の問題から発電設備の増強ができず、激しい供給力不足が続いており、特に発電設備容量の7割り程度を占める水力発電所の稼働率が低下する渇水期には、停電時間が長期化する傾向にあった。
しかしながら、モンバサ・ディーゼル発電プラント(キペブI発電所)が商業運転を開始した1999年12月からは、モンバサ市の停電が全面的に解消すると共に、首都ナイロビにおいても計画停電時間が短縮している。(全国の不足電力量では2,400万kWh/月から1,400万kWh/月への低下)。
このため、同発電プラントは、港湾都市であり東アフリカ地域の流通に大きな影響力を持つモンバサ市への電力供給の改善に大きな貢献を果たすと共に、全国の電力需給の改善にも寄与しており、極めて重要な役割りを果たしていると評価できる。
同発電プラントは商業運転を開始して以来順調な発電を行っており、月別の利用率を見ても80%程度を達成している。
また、1999年から大規模な渇水状態が続いているが、同発電プラントの投入時期(商業運転は1999年12月であるが、実際の本格的な通電は10月から)は、異常気象時の供給力不足をカバーするといった観点からも、絶好のタイミングであったと評価できる。なお、このようなケニア全体の電力需給を考え合わせると、施工管理コンサルタント契約が締結(1995年11月)してから、本体契約同意まで2年間経過しているが、ケニア側の電気事業改革(電気事業の再編成)を考慮すると比較的スムーズに進行したプロジェクトであると思われる。
本プロジェクトの円借款・借入対象者はケニア発電会社(Ken.Gen.)であるが、同社は健全な経営を行っており、Ken.Gen.の売電相手であるケニア電灯・電力会社(KPLC)も電気料金値上げを実施するなど、極めて健全な企業経営を実施している。
モンバサ・ディーゼル発電プラント(7万5,000kW)の設備構成は1万2,500kW×6基から成り、それぞれのユニットは全て順調な運転を続けていた。こうしたユニットの構成は、将来的な運転・保守、あるいは老朽化後の部品の共有などを考慮すると、非常に良い選択であったと評価できる。
さらに、予備品管理についても予防保善的な考え方が導入されており、管理体制の充実などの点から見て、総体的に信頼度の高いプラントであると思われる。
ただし、運転は全面的にコンピューター制御を採用していたことから、制御系の故障を引き起こした場合、その対処について多少の懸念を感じた。このため、納入メーカーとの連絡体制の強化が必要であろうと思われる。
また、将来において供給力が確保され、需給調整運転が必要になった場合、運転操作についても相応な訓練が必要であろうと思われる。現在は納入メーカーの関係者が2名常駐して、運転・保守の訓練を行っているが、メーカーとの訓練期間は限られていると思われることから、今後の日本の技術協力があればより一層信頼度の高い運転が確保されるものと思われる。
通信や情報産業が高度に発達した現代社会において電力は欠くことのできないエネルギーであり、産業育成や生活改善には低廉で安定した電力供給が必要である。
しかしながら、ケニアにおいては電力需要に的確に対応した供給ができておらず、未電化地域や自家用発電設備(工業、事務所、ホテル等に設置している)の存在を含めた電気事業者としての潜在的な電力需要量を考慮した場合、供給力は極めて貧弱である。また、モンバサ・ディーゼル発電プラントが投入された現在においても電力供給の信頼度は低く、まだ計画停電や電圧・周波数変動が続いている。さらに、電力損失率が大きく(国内供給電力量に対する送配電損失率は1998/99年度で19.2%)、必ずしも効率の良い電力供給が行われているとは言えない。
このため、工業化や生活改善を図るためには、発電所や送配電網の整備など、さらなる供給力の確保や流通設備の拡充が必要である。
電源開発(発電所の開発)に当たっては、できる限り自国内にあるエネルギー源を利用し、総合的に発電原価が安い電源を開発する必要があるが、ケニアにおいては水力資源と地熱資源が存在することから、総体的に発電原価の安い両者をベース負荷に対応させ、ピーク負荷時や乾季の渇水期にディーゼルなど火力発電を対応させることが理想であろう。
(こうした意味においては、我が国の援助で建設中の「ソンドゥ・ミリウ水力発電計画」は絶好のタイミングで投入が予定されていると言える。)
また、安定した電力供給や今後の地方電化などを考慮した場合、送配電網の整備など流通設備も拡充していく必要がある。
近年においては、発電部門(主に火力発電所と地熱発電所)に外資を中心にした民間資金の導入を図ることが計画されているため、今後の政府援助は、流通設備の改善(送配電網の整備、損失率の改善など)や季時別電気料金の設定、人材育成など、民間投資を誘発しにくい部門やソフト面を重視したものに転向していく必要があると思われる。ただし、発電部門についても各ドナーの動向によって開発されるプロジェクトや開発時期が左右されることから、民間資金が導入されにくい中規模以上の水力発電プロジェクト等には引き続き政府援助が必要である。
なお、当然のことながら、電源開発の推進に当たっては、世界銀行等で作成した「国家電力開発計画」やそれに基づき作成された「Least-Cost Power Development Plan」などのマスター・プランとの協調(他国の援助や民間資金の導入等との協調)を考慮する必要がある。
(1).電気事業の再編成と円借款電力案件の開始時期に対する評価
(イ).電気事業の再編成と現在の体制
ケニアはIMFや世界銀行による構造調整計画を最初に導入したアフリカの国であり、1)公共投資の削減、2)インフレの抑制、3)経済成長を妨げる各種規制の撤廃などを実施し、安定した経済成長を達成することを目指している。
しかしながら、1990年代に入り、アフリカ東南部を襲った旱魃の影響、総選挙に関連し通貨を無秩序に供給したことによるインフレの進行、あるいは汚職など腐敗政治の拡大に伴う拡大構造調整融資の凍結などが実施され、構造調整計画は当初の目的を達成できなかった。
このため、1997年8月にIMFとモイ大統領の会談が実施された。
会談の結果、拡大構造調整融資を再開するための条件として、1)エネルギー部門の改革、2)ケニア国税庁の強化、3)独立した汚職摘発機関の設立などが提示された。
こうした構造調整プログラムの一環として、電力部門においても規制緩和・民営化政策が実施された。
1998年1月に交付された電気事業法(Electricity Power Act)に従い、エネルギー省(Ministry of Energy:MOE)の機能が政策部門と規制部門に分離され、規制部門が新設された電力規制局(Electricity Regulatory Board:ERB)に移管された。
ERBのメンバーは、エネルギー省次官および同省長官が任命する5名のメンバーから成っており、5名の構成は民間企業から2名、中央労働組合等から推薦を受ける3名となっている。ERBの機能は、1)ケニア電灯・電力会社(KPLC)と発電事業者で取り交わす電力売買契約の認可、2)末端需要家へ摘要される電気料金の認可、3)電気事業に関わる環境規制・安全規制の執行などである。
なお、地方電化に関しては、引き続きエネルギー省が管轄することになっている。
また、電力事業者も再編成され、従来、電力供給を独占していた以下の5機関が、ケニア電灯・電力会社(Kenya Power and Lighting Co.:KPLC:政府出資比率60%)とケニア発電会社(Kenya Electricity Generating Co.:Ken.Gen.:政府出資比率100%)の2社に統廃合され、同時に発電部門への民間資本(独立系発電事業者:Independent Power Producer:IPP:)の参入が可能になった。
<再編成以前の電気事業体制>
<現在の電気事業体制>
(2).電力需給の状況とプロジェクトの評価
(イ).電力需給バランスの状況
1998/99年度における総発電電力量(IPPの発電量を含む)は44億9,700万kWhであり、所内用の3,500万kWhを引き、ウガンダからの輸入量である1億4,000万kWhを加えた46億200万kWhが国内供給量になっている。販売電力量は国内供給量から送配電損失量の8億8,500万kWhを差し引いた37億1,700万kWhであり、この内34.2%に当たる12億7,000万kWhが家庭用など低圧需要家で消費され、18.3%(6億8,000万kWh)が中圧・商工業用、40.7%(15億1,300万kWh)が高圧・商工業用、2.7%(1億100万kWh)が公共照明等および4.1%(1億5,300万kWh)が系統外の低圧需要家でそれぞれ消費されている。
なお、ケニアの電力需要の特徴として、高圧・商工業用の割合に対して家庭用の割合が高いことが上げられ、工業化の進展がそれ程進んでいない経済状況が反映されている。
このため、最大電力も夕方から夜にかけて発生しており、電灯需要が大きくなっている。
ただし、電気事業者の供給信頼度が低いため、多くの工場やビル、ホテルなどではそれそれ自家用発電設備を設置しており、こうした潜在的な需要を含めた実際の負荷曲線がどのように変化しているのかは不明である。また、ここ数年間は計画停電(輪番停電)を実施していることから、実際の最大電力の数値が低めに出ているものと推察される。
なお、1998/99年度の系統内における最大電力は73万4,000kWとなっており、国内供給量に対する負荷率が71.6%を達成している。地域別にはナイロビ首都圏が40万kW、モンバサなど海岸部が13.4万kW、西部地域が7万9,000kW等となっている。
最近10年間における発電電力量の増加率は年平均4.8%で推移しているが、販売電力量の増加率は年率4.2%と、発電電力量の伸び率よりも低くなっている。これは送配電損失率が増加しているためであり、1988/89年度の15.4%に対して1998/99年度は19.2%と、この10年間に4.2ポイントも増加している。
(なお、送配電損失率は、他の途上国、例えばフィリピンなどと比較すると低い値であり、
盗電などノン・テクニカル・ロスが低いものと考えられることから、KPLCの管理能力の高さが伺える。)
また、1990年代に入り発電設備がそれ程増強されなかったため、発電電力量や販売電力量の伸び率が急激に上昇することはなく、いずれの年度も増加率が10%を下回っている。
(1990年代の増加率は▲0.7%~7.9%である。)
(ロ)発電電力量の状況
1998/99年度における総発電電力量の構成は、水力-72.8%(32億7,400万kWh)、火力-18.5%(8億3,300万kWh、内IPPが4億6,300万kWh)、地熱-8.7%(3億9,000万kWh)となっている。
水力による発電量は降水量やダムへの流入量によって大きく変化するが、この10年間の平均では年率3.0%で増加している。(1988/89年度の24億5,000万kWhから1998/99年度の32億7,400万kWhへと増加している)。しかしながら、1997/98年度は対前年比でマイナスしており、1999年後半から大規模な渇水状態が続いていることから、1999/2000年度も前年比でマイナスになることが予想される。(小雨季-11月、大雨季-3~5月)
1998/99年度における各水力発電所の運転実績を見ると、ギタル2号機、カンブル1号機など一部の大型水力発電所で年間停止時間が2,700時間を越えるユニットが存在する他、ワンジ1、2号機、ヌドゥラ2号機、サガナ1号機、ソシアニ2号機など4カ所の小規模水力発電所でも年間停止時間が3,000時間を越えるユニットがあるが、同年度は雨季に一定の降雨量があり、乾季においても水力発電所の利用率が低下せず、全般的には特に大きな問題はなかった模様である。なお、1998/99年度における水力発電所の利用率(平均)は62.9%である。
火力による発電量は、1988/89年度の5,900万kWhから年平均30.0%で増加し、1998/99年度には8億3,300万kWhまで増加している。特にIPPが本格的な発電を開始した1997/98年度(商業運転は1998/99年度)やキペブ・ガスタービンが増設された1998/99年度には発電量を飛躍的に増加させている。ただし、老朽化した石油火力や小規模なディーゼル・プラントは発電量を低下させている。このため、火力全体の利用率は、1998/99年度において32.7%となっており、水力発電所よりも低い結果となっている。前述の通り、Ken.Gen.としては、効率の悪い老朽火力や小規模なディーゼルを廃止したいところであるが、計画停電を実施するなど供給力不足状態であるため、効率とは関係なく老朽設備等も運転している。
1998/99年度の運転実績では、キペブ火力(汽力)発電所の年間停止時間が6,700時間を越えており、年間の利用率も35.5%と低効率であるが、新しい設備であるキプブ・ガスタービン(運転開始年は1号機-1987年、2号機-1999年)は比較的好調な運転を続けている。また、同年度におけるIPPの利用率は60.4%となっている。
地熱の発電量は保守等の関係から多少の増減があるものの、2.6~3.9億kWhを維持しており、この10年間における設備利用率も66.2%から98.9%を達成している。(10年間の平均では91.1%)。
(ハ).電力需給上から見たモンバサ・ディーゼル発電プラントの評価
モンバサ・ディーゼル発電プラント(キペブI発電所)の商業運転の開始は1999年12月であるため、上記の実績には同プラントの発電量は含まれていないが、ナイロビ地域においては現在も計画停電が続いているため、まだ供給力は不足している。なお、同発電プラントの投入によりナイロビの停電時間が大幅に短縮しており、電力需給の改善に大きく寄与している。
計算上では、モンバサ・ディーゼル発電プラントの年間発電量は、5億2,560万kWh程度(利用率を80%として計算)と見込まれるため、1998/99年度の年間発電実績(総発電電力量)から11.7%の増加が可能であるが、2000年4月の状況では首都ナイロビにおいて計画停電(1日3時間程度の輪番停電)を実施していたため、同発電プラントが投入される以前は極度な供給力不足であったと推定される。
(最近の実績を見ても、不足電力量は1999年11月以前の2,400万kWhから12月以降の1,400万kWhへ1,000万kWh低下している。)
こうしたことから、モンバサ・ディーゼル発電プラントは、モンバサ市だけではなく、ケニア全体の電力需給に大きな役割を果たしていると評価できる。
(3).電力設備(発電設備)の状況とプロジェクト評価
(イ).発電設備の状況
発電設備は1988/89年度の75万1,100kWから1998/99年度の85万5,600kWへとこの10年間に10万4,500kWが新増設されているが、増加分の内、8万7,500kWはIPPの設備であり、Ken.Gen.の設備としてはキペブ・ガスタービンが増設(3万kWの増設)されたに過ぎない。(なお、同期間中、石油火力のユニット数基が廃止されている。)
これは、主要先進国の援助が停止した時期もあり、ODA資金による発電設備の増強ができなかったことによるものである。
このため、IPPが発電を開始する以前は極度な供給力不足が続き、大規模な計画停電が実施されていた。2カ所のIPPが導入され、さらに日本の援助で完成したモンバサ・ディーゼル発電プラント(キペブI発電所)が商業運転を開始したことにより、モンバサ市の計画停電は完全に解消され、合わせて首都ナイロビにおいても計画停電時間が短縮しているが、まだ供給力不足であり新規電源の完成が待ち望まれている。
(ロ).全体の発電設備の中でのモンバサ・ディーゼル発電プラントの位置付けと、モンバサ・ディーゼル発電プラントの評価
モンバサ・ディーゼル発電プラントが商業運転を開始した1999年12月の総設備容量は93万600kWであり、電源構成は水力-63.9%、火力-31.2%(内IPPは9.4%を占める)、地熱-4.8%、風力-0.1%となっている。この内、モンバサ・ディーゼル発電プラントの占める割合は設備容量では8.1%(有効出力の割合では8.3%)であるが、年間発電量(年間利用率を80%として計算した場合の年間発電量想定)の構成では10%程度を占めることになると予測できる。
また、同発電プラントは水力発電所と違い、季節間(雨季、乾季)や異常渇水期など天候に左右されずに発電できることから、ベース負荷対応のみならず、季節間調整などが簡単にできるため、将来的な電力需給調整を考慮しても重要な電源であると言える。
なお、同発電プラントが投入された1999年は大規模な渇水が続き、水力発電所の稼働率が極端に落ち込んだという報告を受けており、こうした意味では、同発電所の運転開始時期は非常に良い時期であった模様である。Ken.Gen.からの聞き込み調査によると、もしもモンバサ・ディーゼル発電プラントが運転開始していなければ、電力不足量は夜のピーク時で16万kW(朝は11.5万kW、昼は10.5万kW)と想定され、現在の不足量であるピーク時-9万kW(朝-4.5万kW、昼-3.5万kW)を大幅に越えていたことになる。
さらに、同発電プラントの構成は1万2,500kW×6基(合計7万5,000kW)であり、保守(定期点検や補修等)や老朽化した後の部品の共有、あるいは需給調整運転などを考えると、大規模なユニットで構成するより有利であり非常に良い選択であったと評価できる。
しかしながら、運転は全面的にコンピューター制御に頼っており(もちろんマニュアル操作も可能であるが)、制御系の故障を引き起こした場合、コンピューターの内部はブラック・ボックスであるため、日本からの距離(納入したメーカーとの距離)を考えると多少の懸念を感じる。これについては、納入メーカーとの連絡体制の強化等が必要となろう。
また、将来的に需給調整を実施するようになった時のことを考慮すると、運転操作についても相応な訓練が必要であろうと思われる。なお、現在は納入メーカーの関係者が2名常駐しており、運転・保守の訓練を行っている。しかし、メーカーとの契約では訓練期間が限られているため、運転・保守等について今後の日本の技術協力があれば、より一層信頼度の高い運転が確保されるものと思われる。
予備品に関しては、全て整備されてはいなかったが、近々完備する予定であり、倉庫の受入れ準備が進んでいた。予備品の管理はコンピューターで行われ、補充が必要なものについては、コンピューターから警告が発せられるシステムになっていた。こうした意味においては、予防保善を重視した保守に対する考え方が採用されており、総体的に信頼度の高い発電プラントであると評価できる。
(4).電力設備(流通設備)の状況と今後の援助課題
(イ).送配電設備の状況
1998/99年度における送配電線の電圧別回線亘長は、220kV-877km、132kV-1,997km、66kV-574km、40kV-126km、33kV-4,516kmおよび11kV-10,029kmとなっており、近年送電線は拡充されていないが、高圧配電線(33kVと11kV線)は増強されている。
(ロ).流通設備についての今後の援助課題
現在、モンバサ・ディーゼル発電プラント(キプブI発電所)を初め海岸部に発電設備が増強され、今後もソンドゥ・ミリウ水力発電所の建設(西部地域)など、ナイロビ以外の地域で電源開発が進む予定であることから、系統の安定度を考慮した送電線や給電設備の増強が必要であろうと思われる。
また、同時に送配電損失率が上昇していることから、送電線と同様に配電設備の増強も必要であろう。
なお、電力損失率の改善は供給力の確保にも通じるため、電力会社の経営効率の面からも非常に重要である。しかしながら、流通設備はそれ自体が生産設備ではないことから、託送料金などコスト回収のシステムが設定されなければ民間投資の対象にはなりにくい。
このため、モンバサ・ディーゼル発電所などをさらに効率的に活用し、ケニア全国の電力供給システムを確立するためには、流通設備に対する援助が重要であろうと思われる。
(5).電源開発計画とプロジェクトの評価
(イ).電源開発計画の概要
ケニアでは電気事業者が供給している地域が首都圏と主要都市に限られており(全国の電化率は10%前後)、また自家用発電設備が工業やビル、ホテルなどに多数あることから、電気事業者としての潜在的な電力需要は限りなく存在している。
しかしながら、電気事業者としての供給力(発電所)や流通設備(送配電設備や給電設備)の整備状況によって供給できる電力量(需要量)が決まってくるのが実態であり、今後の電力需要量は電源開発の進展によって大きく左右されることになる。さらに、電源開発プロジェクトは、投資資金の問題から全面的に海外の資金協力やIPPなど直接投資に依存しているため、各ドナーの動向によって開発されるプロジェクトや開発時期が左右されている。
ただし、全国を網羅する電源開発計画は完成しているため、各ドナーは同計画に従ってプロジェクトを選定することになっている。
KPLCが発表した電源開発計画(Update of Least-Cost Power Development Plan:June 1998)によると、今後の電力需要(販売電力量)は、1997/98年度から2000/01年度まで年平均5.9%で増加し、その後2010/11年度までは年率6.2%で増加することが予想されている。これに対する供給量(発電電力量)は電力損失率を低下していく方針であるため、1997/98年度から2000/01年度まで年平均5.2%で増加させ、その後2010/11年度まで6.1~6.2%で増加させる予定である。
また、系統内の最大電力も1997/98年度の76.3万kWから2010/11年度には164.1万kWと、1997/98年度に対して2.2倍も増加することから、早急な電源開発が必要であるとしている。
現在の計画では、2002/03年度までの短期計画として、既存のキペブ・ガスタービンのリハビリテーション(3万kW)、キペブ・ディーゼル発電プラント(合計15万kW:1カ所は日本の援助ですでに完成したモンバサ・ディーゼル発電プラント)、ギタウIII水力発電プラント(7万2,500kW)、オルカリアII、III地熱発電プラント(合計12万8,000kW)、ソンドゥ・ミリウ水力発電プラント(6万kW:日本の援助で建設中)などがある。
また、2016/17年度までの長期計画として、多数の地熱発電所やディーゼル発電所、ガスタービンのコンバインド・サイクル化、あるいは数カ所の中規模水力の開発などが検討されている。
(計画によると、1997/98年度から2016/17年度にかけて開発が予定されている発電所は、水力-31.5万kW、地熱-57.6万kW、ディーゼル-101.2万kW等となっている。)
また、電源の開発に伴い送電線の建設も計画されており、ナイロビ-モンバサ間の220kV(2回線)の建設を初め、ナイロビ-西部地域間の220kV線(2回線)、モンバサ-マリンディ間の132kV線などの建設が計画されている。
なお、ナイロビ-モンバサ間の220kV線が完成すると(計画では2014年)、東南部の220kV系統がループ状になり、タナ水系の水力発電所やモンバサ地域の火力発電所などが効率良く運転でき、信頼度も上昇することになると思われる。
(ロ).電源開発計画におけるモンバサ・ディーゼル発電プラントの位置付け
同計画によると、モンバサ・ディーゼル発電プラントは、供給力不足時の緊急プロジェクト(Fast-Track Project)という位置付けになっており、建設期間が比較的短いディーゼル発電プラントの中においても一番コストが安いプラントとして、最優先プロジェクトとして取り上げられている。
こうした意味においては、同プラントを建設したことは、ケニア側の意向にも合致しており、主要先進国が発電事業に援助しない傾向にある中、電力事業の改善(供給力確保と今後の需給バランスの改善)からは、非常に良い選択であったと評価できる。
(6).電気料金の概要と電気事業者の経営評価
(イ).電気料金の概要
前述の通り、KPLCではこの10年間に5倍もの電気料金(平均販売単価)の値上げを実施している。
各用途別には、家庭用(低圧)が1.182K.Shs/kWh(1988/89年度)から5.218K.Shs/kWh(1998/99年度)へと4.4倍の値上げ、中圧・商工業用が1.163K.Shs/kWhから5.996K.Shs/kWhへと5.2倍、高圧・商工業用が0.990Kshs/kWhから4.636K.Shs/kWhへと4.7倍、公共照明等が1.020K.Shs/kWhから4.079K.Shs/kWhへと4.0倍および系統外(低圧供給)が1.171K.Shs/kWhから5.562K.Shs/kWhへと4.7倍の値上げとなっている。
なお、値上げ幅は中圧・商工業用が大きく、次いで高圧・商工業用、系統外、家庭用、公共照明となっているが、これは、工業化や低所得者への保護などを目的に値上げ幅を調整した結果である。特に家庭用の逓増率には大きな格差をつけており、消費量の小さい需要家を保護している。
また、近年DSM(Demand Side Management:需要調整による負荷管理)の概念が取り入れられ、時間帯別料金制度が導入されており、家庭用、灌漑用および公共照明以外の各用途には、ピーク時料金(平日の8時~22時および土曜日の8~14時に摘要)とオフ・ピーク時料金(平日の22~8時、土曜日の14~8時および日曜日に摘要)が併用されている。(ピーク時とオフ・ピーク時の差はkWh当たり1.63~1.69K.Shsとなっている。)
さらに、現行の電気料金では燃料費変動や為替変動に対する自動調整条項などが付加されているため、諸物価の変動は需要家負担となっている。このため、KPLCの経営は諸物価の影響を直接受けることがなく、KPLCに売電しているKen.Gen.についても安定した収入を得ることができるシステムになっている。
なお、地方電化計画推進のために、使用量価格に5%を付加するシステムになっている。
(ロ).電気料金と電気事業者の経営評価
KPLCでは、この10年間に電気料金水準を5倍に値上げし、1998/99年度には平均販売単価が5.185K.Shs/kWhとなっている。
このため、同年度にはKPLCの総収入が184億K.Shsを上回り、営業費用や利子、税金など総支出を差し引いても6.7億K.Shsの収益が出ている。
なお、同社は盗電などのノン・テクニカル・ロスや料金回収については、厳しい管理を実施しており、不正や料金未払いに対してすぐに供給を停止するとのことであった。
また、KPLCに売電しているKen.Gen.の経理を見ても、1998/99年度の総収入74億K.Shsに対して、営業費用や利子、税金などの総支出が72億K.Shsであり、2億K.Shs程度の利益が出ている。
過去のデータをみても、両電気事業者は収支バランスが取れており、企業経営は健全であると評価できる。
なお、Ken.Gen.からの聞き込み調査によると、モンバサ・ディーゼル発電プラントの発電原価は3~4K.Shs/kWh(燃料費に変動があるため、1K.Shs/kWh程度の変動がある)とのことであり、当然のことながらKPLCの平均販売単価(5.185K.Shs/kWh)よりも低く、同発電プラントはKen.Gen.の利益を上乗せしても、KPLCの電気料金収入でカバーできる計算になる。
以上の点から見ると、モンバサ・ディーゼル発電プラントの円借款事業は政府保証が付いているものの、借入対象者がKen.Gen.であり借款返済能力は十分にあると評価できる。
また、現行の電気料金表を見ると、DSMなど負荷平準化対策を実施していることや、社会開発事業であり採算とは関係なく実施されることが多い地方電化計画に対して、特別の配慮がなされている点など、ケニアの電気事業に関係するの方々の意識の高さが感じられる。
外務省・ケニア国評価調査(日程表)
月 日(曜) | 内 容 | ||||||||
4月 8日(土) | <移動>成田発 → ロンドン着(JL401便) (JALの出発遅延(5時間遅延)のため、4月8日はロンドン泊) |
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4月 9日(日) | <移動>ロンドン発 → KQ101便(航空機変更) |
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4月10日(月) | <移動> → ナイロビ着
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4月11日(火) |
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4月12日(水) | <移動>ナイロビ発 → モンバサ着(KQ602便)
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4月13日(木) | 日本の援助で完成した橋を見学 <移動>モンバサ発 → ナイロビ着(KQ613便) |
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4月14日(金) |
<移動>ケニア発 → (BA2068便) |
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4月15日(土) | <移動> → ロンドン着 <移動>ロンドン発 → (JL402便) |
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4月16日(日) | <移動> → 成田着 | ||||||||