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要約

1.評価の方針

イ)本評価は、インドに対する我が国の援助政策全般を検討することによって、今後の我が国の対インド援助政策の策定・実施改善に向けた教訓・提言を得ること、及び当該評価結果を公表して説明責任を果たすことを目的としている。

ロ)本評価において評価対象となる援助政策は、1997~2001年度に策定された日本の対インド援助政策全般とする。評価基準として、対インド援助政策の(i)内容の妥当性、(ii)結果の有効性、 (iii)策定及び実施プロセスの適切性という観点から評価する。

ハ)本評価の限界として、援助政策の策定段階において重点分野別・サブ重点分野別アウトプット目標値(ターゲット)や測定指標の設定を行っていないため、ターゲットへの達成度測定が不可能であったことが挙げられる。また、本評価の対象期間のうち、1998年5月から2001年10月までの3年半の間については、インドの地下核実験実施に対応した新規円借款の停止等の経済措置が実施されていた期間にあたり、結果の有効性の評価に際しては、この特殊要因からの影響は排除できない。

2.インドの開発政策とわが国、他ドナーの協力

(1)インドの開発政策

イ)インドの開発計画である5カ年計画は1951年以来策定され続け、現在、第10次5カ年計画の策定・実施にまで至っている。同計画は、インドのプランニング・コミッションによって作成されている。本評価対象の第9次5カ年計画(1997~2002年)は、第1、2巻より構成されている。第1巻では、マクロ経済問題、及びセクター毎の政策について言及されている。第2巻では、セクター別プログラムが、第1巻で示された政策をどう実現させるのか、について述べられている。第9次5カ年計画では、1990年代初頭に開始された「新経済政策」による経済自由化と構造改革をさらに推進することにした。さらに年平均6.5%の経済成長等を目標に、最大の優先分野を農業・農村開発と電力や道路等のインフラ整備とし、安全な飲料水の供給や基礎保健医療の充実などの社会セクター、及び持続的発展のための環境保全も重点目標とした。

ロ)前述の「新経済政策」は1991年に導入された。この導入により当初、サービス部門及び工業部門を中心とした成長が促進された。しかし1990年代後半に至って、財政赤字の継続が公共投資を一層圧迫する一方で、電力などインフラへの民間投資も期待した通りには進んでいない。

ハ)その結果、インド全体及び個々の州における経済・社会指標は改善を続けているものの、州間格差は縮小したとは言い難い状況にある。外資規制の緩和など経済自由化の取り組みは、民間セクターによる投資先(州)の選別を促し、今後も州間の経済・社会格差を拡大する可能性がある。また、貧困率の低下のためには、人口の4分の3を占める農村部及び農業部門への対策が引き続き重要である。

ニ)最近のインド側の重要な動きとして、政府は2003年6月に、二国間援助を受け取る相手国を今後は日本、英国、ドイツ、米国、EC及びロシアに絞り込む意向を表明した。同時にインド政府は、将来はタイド援助を一切受け取らない方針を表明している。

(2)わが国の協力

イ)二国間援助国の中では、援助総額において日本は1990年代を通じてほぼ一貫してインドへのトップドナーであった。日本の対インド援助は、双方の立場から非常に重要な位置を占めており、日本の援助は円借款を中心としながらその協力分野を拡大させてきた。1990年代を通じて、毎年の日本の対インド援助実績額の約9割を有償資金協力が占め、残りの1割を技術協力と無償資金協力が分け合う構成となっている。

ロ)対インド国別援助方針としては、1995年3月に派遣された経済協力総合調査団及びその後のインド側との政策対話を含め、「経済インフラ整備」、「貧困対策」、「環境保全」の3分野が重点分野とされた。

ハ)1998年のインドの地下核実験に対して日本政府が決定した新規有償及び無償資金協力の原則停止等の措置により、1990年代末には実施案件数・供与額共に伸びは小さいものとなった。2001年10月の同措置の停止後も、2001年度中の有償資金協力及び無償資金協力は基本的に継続案件の実施のみに留まった。

(3)他ドナーの協力

イ)有償、無償、技術協力合計の金額からみた主要二国間ドナーの動向を概観すると、評価対象期間を通じて、第1位が日本、続いて英国とドイツである。2000~01年の金額を見てみると、日本は786.3百万ドル、英国が474.7百万ドル、ドイツが193.2百万ドルであった。主要国際機関では、世界銀行がトップドナーで、2000~01年の 援助金額は、2488.3百万ドル、続いてADBが1,155.0百万ドルであった。

ロ)現在、英国、オランダ、デンマーク、米国は無償協力のみを実施しており、その額は多くの年度において日本の無償協力の実績金額を上回っている。また、日本、ドイツ、フランスは歴史的に有償協力の比率が大きい。

ハ)各主要ドナーの重点 分野を概観すると、大半のドナーは貧困削減を目標とし、その一環として保健医療、教育、環境、経済改革支援等を重点分野として設定している。英国及び世界銀行は、「保健」、「教育」、「農業・農村開発」を、ドイツは「保健」、「農業・農村開発」を、米国は「保健」、「女性支援」をそれぞれ重点分野としている。また、「環境」については、主要ドナー5カ国すべてが「水・衛生」を重点分野として位置づけている。経済改革支援では、英国が「電力」において、世界銀行が「電力」、「運輸」、「産業その他」においてセクター改革を重点項目として位置づけている。

3.対インド国別援助政策に関する評価

(1)対インド国別方針の内容の妥当性

イ)対インド国別援助方針の、ODA大綱、中期政策等の上位政策、またインド開発ニーズとの関連はあった。国別援助方針の「援助対象国としての位置づけ」、「重点分野」は、ODA大綱の「基本理念」、「重点項目」の項目に対応している。ODA中期政策に関しては、「地域別援助(南西アジア地域)のあり方」の「重点項目」に対応している。

ロ)インドの開発ニーズとの整合性に関しては、インド第9次5カ年計画の「基本理念」、「重点目標」(含む開発戦略)の項目に対応している。また、1997~2001におけるインドからの要請案件については、重点分野に掲げられているセクター間でも、要請案件数の多い分野と少ない(あるいは全くない)分野があった。要請の多かった分野は、「電力」(有償21件、無償1件)、「保健医療」(無償7件)、「農業・農村開発」(有償1件、無償4件、プロ技1件)などであり、「人口・エイズ」については要請がなされなかった。尚、1998年5月から2001年10月までインドの核実験に伴い新規案件が停止されていたため、特に有償資金協力については、その間は既存案件の継続のための要請のみが行われていた。

ハ)こうした重要分野間での要請案件数の傾向は、1998~2001年度の、インド核実験に伴う日印政府間の協議の停止期間も、日印政府協議再開後(2002年)も大きく変化していない。参考までに、2002年度に要請の行われた分野を以下に示す。「電力」(7件)、「運輸」(道路・鉄道・港湾[観光基盤整備含む]等)(6件)、「保健医療」(8件)、「植林」(4件)等である。

(2)対インド国別方針の結果の有効性

イ)一部アウトプット実績を検証できなかった分野を除いて、全ての分野においてインプット及びアウトプット実績があった。

ロ)分野間の投入金額、人数、件数を比較すると、明確な傾向が見られる。「経済インフラ整備」、特に「電力」、「運輸」の規模が大きく、「人口・エイズ」、「公害防止対策」、「都市環境改善」への投入は小さい。「電力」には、5,870億円、研修員受入19人、実施案件36件、「運輸」への投入に関しては、1,290億円、研修員受入79人、専門家派遣32人であった。一方、「人口・エイズ」分野は、研修員受入15人と草の根無償2件(0.04億円)、「都市環境改善」では研修員受入13人、専門家派遣1人、草の根無償4件(0.39億円)、「公害防止対策」分野では、研修員受入18人の投入があるのみであり、これらの分野は相対的に少ない投入量になっている。

(3)対インド国別方針のプロセスの適切性

イ)策定・実施プロセスにおける連携・協議は概ね適切であるが、検証システムは強化の必要がある。

(3.1) 連携・協議の有無について

イ)策定プロセスにおいては、公式ベース、非公式ベースで関係部署及び実施期間の間で協議が行われていた。また、JICA国別事業実施計画、JBIC国別業務実施方針は共に国別援助方針の重点分野に概ね整合しており、政府と実施機関で連携が取られている。

ロ)公式ベースでの協議のみならず、非公式にも関係部署・実施機関がインド政府にニーズを把握するための情報交換・協議を行っていた。しかし、1999年度以降の国別援助方針の作成については、インド核実験に伴う新規案件停止措置の期間(1998年5月から2001年10月まで)にあたり、インド政府との対話がストップしていたためインド政府との協議は行われていなかった。ようやく2002年3月に「対インド経済協力にかかる政策対話ミッション」が派遣され、インド側との対話が再開された。また、インド政府との公式協議の場で援助方針が活用されていた。ただし、インド側援助関係者に幅広く認知されているとは限らない。

ハ)NGOを含む民間との連携・情報交換については、個別案件の実施段階において、JBICが灌漑、養蚕、電力等の分野でNGOとの積極的な連携のもと円借款事業を行っていることが確認された。また、最近では案件形成段階において、大学やローカルNGOも含めてセミナーを開催するなどの試みも成されている。他ドナーとの連携については、インド現地での他ドナーとの定期的な全体協調は開催されていないものの、セクター別会合及び非公式な会合等において他ドナーとの情報交換・協議が行われている。

(3.2) 検証システムの有無

イ)策定、実施プロセスで、検証システムが設定されていなかった。

ロ)ODA中期政策では、評価システムの構築が言及されている。(補足:評価対象期間外であるが、外務省改革に関する「変える会」の文書や新ODA大綱にも政策の実施について言及されている。)

ハ)対インド国別援助方針という政策の実行を定期的に評価する仕組みが欠如している。

4.提言

(1)インド政府との公式協議において国別援助方針(今後は国別援助計画)を活用し、日本の援助政策・方針を周知する。

(2)特に、電力分野への支援を強化する。例えば、電力分野における、事業効率性改善、組織改革、経営改革、及び人材育成・キャパシティビルディングを充実させていく。電力分野への支援においては、ハードとソフトを組合わせることによる相乗効果の創出を目的とした取り組みを実施しつつあり、そのようなニーズへの一層の対応を図る。

(3)我が国援助の重点分野については、我が国の上位政策、これまでのインドへの協力実績、インド側からの要請、インドの社会・経済及び開発動向、他ドナーの協力分野と動向等を総合的に勘案した上で、重点分野の再検討を行う。

(4)国別援助政策の検証体制を整備するために、今後策定予定の国別援助計画に評価の実施を明記する。

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