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有識者評価:南太平洋大学通信体系改善計画等の報告書



1. 評価対象:
(1)国立大学拡充計画 (サモア:平成7年及び8年度17.22億円 一般無償)
(2)島嶼間貨客船建造計画 (サモア:平成9年度14.43億円 一般無償)
(3)南太平洋大学通信体系改善計画 (フィジー:平成10年度 2.98億円 一般無償
 サモア: 平成10年度 0.67億円 一般無償)
(4)その他 (専門家・シニア海外ボランティア派遣)


2.国名:フィジー、サモア

3.評価者:小林 泉 大阪学院大学教授
     (同行者   貝塚寛子  外務省経済協力局評価室)

4.現地調査実施期間:2001年3月16日~21日

5.現地評価調査日程

3月16日(金) 09:10 スバ着
  10:30 外務次官代理表敬
  11:00 村山日本大使表敬
  11:30 日本大使館経済班との打ち合わせ
  14:00 JICAフィジー事務所
  18:00 村山大使主催夕食会
3月17日(土) 南部視察 (中原JICA専門家の案内)
3月19日(月) 11:00 大蔵次官表敬
  14:15 南太平洋大学視察
  学長表敬
  USPNet関係者面談
  メディアセンター
  シニアボランティア
3月20日(火) 10:30 スバ発・ナンディー経由サモアへ
3月19日(月) 16:50 アピア着
  19:00 外務大臣顧問藤田氏との懇談
3月20日(火) 09:00 JICAサモア事務所
  10:00 外務次官表敬
  10:30 大蔵次官表敬
  11:00 藤田公郎外務大臣顧問
  13:30 サモア国立大学視察
  学長
  原JICA専門家
  シニアボランティア
  19:00 守屋JICA所長による懇親会
3月21日(水) 09:00 南太平洋大学・サモア校視察
  14:00 サモア船舶公社
  総裁、網元JICA専門家
  貨客船視察
  16:00 JICAサモア事務所
  25:00 アピア発


6.評 価

<評価の前提>

 施設等の無償協力援助が成功であったか否かは、通常は中・長期的な観点並びに短期的な観点の双方から判断することが望ましいと考える。前者は、その国、その地域にどのような社会・経済的影響をもたらしたか、後者は、第一に施設等の利用状況、第二には維持管理状況が如何にあるかといった観点からの評価である。
 今回は、プロジェクトの実施終了直後の調査であるため、主として後者の観点から事業の成否を判断して評価した。ただし、プロジェクト全体の意義に関しては、将来的展望を含めて考察する必要性があるため、その点に関しては、現状から考察した評価者の私見として意見を述べている。

(1)国立大学拡充計画

<大学の概要>

 サモア国立大学は、1984年に国内唯一の高等教育機関として首都アピアのマリファ地区に建設された。当初は、大学教養部もしくは外国大学へ留学する前の準備学習機関としての性格を有していたが、国内での本格大学設置の要望が次第に高まり、今日のような総合大学へと発展した。
 現キャンパスは、わが国の無償資金協力を得て、1977年にパパインガラガラ地区に新築された。大学が保有する敷地面積は76,600平方メートル、建築面積は10,460平方メートルで、一カ所に全ての大学機能が集中している。
 人文学部、商学部、教育学部(家政・工芸・音楽)、看護学部が設置され、2001年の前期セメスターには、フルタイム、パートタイム併せて1,480名の学生が在籍している。
 大学の運営経費として、99/00年度で6,077,977タラ(約2億2,000万円)の支出があったが、これら原資は政府供出金80%、授業料8%、事業収入12%であった。

<プロジェクトの背景・目的>

 サモア国立大学は同国唯一の国立大学だが、組織、施設、機材が未整備で、国家の経済的自立に必要な人材の養成に支障を来している。このため、優れた人材が海外の大学、その他の高等教育機関へ流出し、そのまま海外で職に就くなど、国内における人材不足が深刻で、同国の経済自立へも影響を及ぼしているとの認識があった。そのため政府は、国立大学の整備に緊急に取り組むための計画を策定し、この計画の実施のために必要な施設建設と関連機材について、わが国政府に対し無償資金協力を要請してきた。
 そこで本プロジェクトでは、大学設備に必要な施設の建設及び機材の供与により、高等教育の充実をはかることを目的とした。

<調査結果・評価>

 97年から01年の間に、国立大学の学生数は2.2倍に増加した。新キャンパスはこれら倍増学生の受け入れに貢献し、施設の有効利用が実現していた。サモアの伝統建築ファレを模した大集会施設の使用は、有料で一般市民にも休日開放されるなど、多目的な利用が行われている。建物の管理は概ね良好であったが、美観を重んじたファレの木製屋根は、既に腐食箇所が出現しはじめており、近々の一部修理が必要な状況にあった。
 拡大する大学運営に関しては、学長アドバイザーである日本の技術協力専門家の存在が大きい。学事の運営管理はもちろん、日本の大学との研究交流、学生交流計画が積極的に進められており、これらはみなこの専門家が果たし得た成果である。教師として複数人のシニアボランティアが派遣されているが、彼らには総じて、大学が期待する役割を演じられる環境が整えられていた。これは、全体を見渡すことができる政策決定レベルに関わる日本人専門家(1名)が居るからであろう。こうした認識は、大学の学長以下、当局関係者にも共有されている。
 以上のように、施設の利用と維持管理の双方において、当初期待した計画通りの進展が見られ、プロジェクトは順調に推移している。これは、施設等の供与に留まらず、適切な技術協力がともなった点が、プロジェクトを成功に導いた最大の原因だと言えるだろう。

<今後のフォローアップ、改善・留意すべき点等>

 本プロジェクトは、これまでの報告のとおり極めて成功した事例として評価でき、現状においては特段の改善事項は見あたらない。しかし、引き続き、あるいは将来においても同様の高評価を維持するには、留意すべき以下のような諸点があるように思われる。

1) 充実した施設と最新の機器類の維持、管理には経費がかかる。新キャンパスの完成直前とその後の大学運営経費を比較すると、いきなり3倍強に跳ね上がり、政府負担も3倍に増加した。教育への投資は、直接の経済利益を生み出す分野ではないため、特に途上国にあっては独立採算が難しく公的資金への依存が大きくなる。そのため、現状の水準を維持していくための運営・管理については、継続的なアドバイス、支援の体制が不可欠となるだろう。

2) 現状での成功は、無償供与と専門家による技術協力が噛み合った点にあると指摘したが、この好結果は、現在派遣されている専門家個人のパーソナリティーに負うところが大きい。それゆえ、任期切れによる専門家の交代、現地化を念頭にした専門家の引き上げを機械的に実行すると、成功事例が失敗事例に転換する危険性がある。そのため、次代専門家の選定と技術移転終了の時期判断等に関しては、大学運営全般の事情を十分考慮して実施する必要があるだろう。

3) サモア国立大学の運営政策に直接の影響力を行使できるポストに専門家を派遣できたことは、特筆に値する。しかし一方で、ニュージーランド、豪州の影響力が強いサモアで日本の専門家が受け入れられた背景を、南太平洋大学との関連で十分認識しておく必要がある。
 ニュージーランド、豪州は、サモアの初等、中等教育についての支援を行っているが、両国は、サモア国立大学にはあえて積極的な支援を実施していない。それは、地域の大学教育は南太平洋大学の充実によって果たすべきだとする、地域連帯を掲げる太平洋諸島フォーラムの方針に沿っているからである。わが国が大学運営の政策決定に関与できるポストに専門家を派遣できた理由は、ここにある。
 南太平洋大学への支援と国別の独立大学設立への支援は、方向性の対立する行為である。これは太平洋島嶼の連帯による地域発展と各国ナショナリズムの高揚という、この地域が内包している矛盾によるものだが、援助国は域内にこうした矛盾が存在する事実を認識しておかねばならない。その上で、わが国がそれぞれの大学に援助している意図を、日本国民、関係諸国、太平洋諸島フォーラムに対して明確な説明ができるよう準備しておく必要があろう。 



(2)島嶼間貨客船建造計画

<島嶼間輸送事業の概要>

 複数島嶼で成り立つサモアは、経済の中心であるアピアが位置するウポウ島と国内最大面積のサバイ島との交通、さらに同一の民族基盤、社会文化を有するために緊密な関係を維持している米領サモアとの交流には、フェリーによる海運交通が極めて重要な役割を果たしている。
 政府は、安全且つ効率の良い安価な輸送手段としての島嶼間フェリーの定期運行を維持し、同国の経済発展と国民の便宜に貢献することを目的に、1974年にサモア船舶公社(略称SSC)を設立した。SSCの従業員は121人(2000年初頭)、フェリー数4隻(2001年3月)を保有するが、その内2隻はわが国からの無償供与によるもの(1988年:Lady Samoa II、1998年:Lady Naomi)。
 ウポル/サバイ間はLady Samoa IIが火曜日を除く週6日、1日3往復を運航し、年間で旅客数44万人、車輌数3万4,000台の輸送実績を示した(1999年)。また、アピア/パゴパゴ間はLady Maomiが週1回往復し、同じく旅客数2万2,000人、貨物量3,200トンの輸送実績を残した。
 SSCはまた、船舶の修理設備を有している。SSC所有の機器類に加え、JICAの単独機材供与でも各種機器が補充されており、国内唯一の船舶修理工場になっている。この工場で働く作業員も、過去4期にわたる継続的JICA専門家派遣によって教育されており、その修理水準は高く評価されている。保有機器の友好活用のため、自公社保有船舶の修理だけに留まらず、外部の船舶修理はもちろん、それ以外にも鉄構、機械加工などの工事受注にも力を入れている。

<プロジェクトの背景・目的>

 サモアでは特に、人種、言語および文化が同一である米領サモアとの交流が不可欠であり、そことの貿易の拡大、人的交流の推進が求められている。しかし、その島嶼間を運航する運輸客船は、90年代前半に同国を襲った大型サイクロンにより甚大な被害を受け、点検や整備に多大な時間と経費を費やしており、運航に支障を来たしていた。こうした状況を改善するため、サモア政府は「島嶼間輸送貨客船建設計画」を策定し、わが国政府に対して無償資金協力を要請した。
 そこでわが国は、同国の国民生活および経済活動のライフラインであるサモア/米領サモア間の航路確保を図ることを目的として、この要請に応じた。

<調査結果・評価>

 98年供与の貨客船(レディ・ナオミ号)はアピア・パゴパゴ(米領サモア)間を週1便、88年に供与した貨客船(レディ・サモアII号)は本島・サバイ間を1日3往復で週6日といずれもフル稼働し、人および物資を輸送する唯一の定期海運路として利用されている。これを運航するサモア船舶公社は、ここ10年来の累積赤字を解消し、99年には税引き後収支においても黒字に転化した。
 最新計器類を搭載した新造船は、エンジン音も小さく、船長以下、サモア人乗組員の評判は上々であった。ここにも船舶修理の技術専門家が派遣されているが、公社総裁は「フェリー事業の成功は、日本からの船舶供与と技術協力のセットにある」と指摘した。 本プロジェクトは、供与物の利用および維持管理の双方において、当初計画通りの進展が見られる成功事例だと評価できる。ここでも必要な船舶と適切な技術協力が伴った結果が事業を成功に導いた最大の原因だと言えよう。

<今後のフォロー・アップ、改善すべき点等>

 船舶の供与が確実な需要状況の把握の上で実行されたことが、効率的な供与物の利用に繋がった。定期航路での使用船舶という使途目的の明確な援助であったための成功とも言えるが、ここでも前例と同様に、無償供与をフォローする適切な技術協力との連動が実現していたことが重要である。本プロジェクトの好評価を持続させるためためには、良質の技術協力を継続させていくことが望まれる。

(3)南太平洋大学通信体系改善計画(フィジー及びサモア)

<大学の概要>

 南太平洋大学(USP)は、南太平洋地域の効率良い高等教育の実施、並びに島嶼地域の連帯意識の育成を目指して、1970年にフィジーのスヴァに設立された国際機関大学である。現在の加盟国は12カ国で、フィジー本校に大学本部、文、教育、経済、開発、理、海洋の各学部及び付属機関、ヴァヌアツに法学部及び大学センター、サモアに農学部及び大学センターが置かれ、その他の加盟国には大学センターのみが設置されている。医学、工学系の学部はないが、これら分野の教育はフィジー医学校、フィジー技術学院がそれそれの役割を担っている。
 大学センターは、学部に留学できない学生に対して巡回教官による直接授業を行うほか、1974年から開始された本校からの通信による遠隔教育、個別指導の基地としての役割を果たしてきた。これら遠隔教育を受講する学生は、全在籍学生9,208名の内の56%を占めている。

<プロジェクトの背景・目的>

 南太平洋大学では、加盟諸国に所在する分校あるいは大学センターへの遠隔教育を、短波回線や国際商業電話回線を通じた音声により行ってきたが、機材の老朽化や衛星回線使用料の問題から効率的で円滑な遠隔教育の実施に支障が出ていたため、衛星による専用回線への切り替え、映像画面の送受信機能の付加等、通信機能の質量両面に亘る改善・拡充が求められてきた。
 そこで、通信教育に関わる施設及び機材の整備を図り、広域に所在する遠隔教育受講生に良好な高等教育機会を提供することを目的に、日本、オーストラリア、ニュージランドの3カ国が共同協力して無償供与した。
 なお、南太平洋大学通信体系改善計画による裨益国は12カ国。3援助国は、日本がフィジー、サモアに加え、トンガ、ツバル、ソロモン諸島、マーシャル諸島の6カ国、オーストラリアが、ヴァヌアツ、キリバスの2カ国、ニュージーランドが、クック諸島、ニウエ、トケラウ、ナウルの4カ国・地域に分担して援助を行った。

<評価結果・評価>

1) これらプロジェクトは計画通りに実施され、従来の音声による遠隔教育のハード面について質的向上が見られると共に、これまでになかった映像画面を伴う本校と分校間の相互通信が可能になった。これにより、遠隔教育の効率化が一気に進むと共に、画面を通じての理系実験科目の実施や討論、会議等、これまでできなかった分野でのコミュニケーションのシステムが確立された。

2) 2000年5月に起こったフィジーの国会占拠事件に端を発する社会不安により、フィジー本校への留学生が帰国するという事態が発生した。その際、本施設、機材の効力が発揮され、中断された講義や学習指導が帰国地の分校あるいは大学センターを通じて遠隔教育されたため、帰国学生のすべてが所定の期間内に予定カリキュラムを消化した。今回視察したフィジー本校・ハブ局およびサモア校・ミニハブ局の供与施設・機材は、いずれもフル稼働しており、利用状況は良好であった。

3) 最新の施設と機材の導入により、これに関わる大学教職員の教育に関する志気が高まっていた。こうした傾向は、学生たちへも好影響を与えている。

4) 供与の施設、機材の設置により、USPが新たに必要とされる運用・維持管理費用は、年間約58万9,000米ドルと見積もられており、この額を毎年予算化して行かなければならない。これは大学にとって相当の負担だが、加盟諸国からの負担金増額により当面の資金的裏付けはあるとの回答があった。

 以上により、これらプロジェクトは、援助要請目的が十分に達成された成功事例として、高く評価できる。また、二国間援助を基本とする我が国の無償援助スキームの中で、国際共有組織(南太平洋大学)に対して、しかも、オーストラリア、ニュージーランドとの協調プロジェクトとして援助が実現したことは、極めて特筆に値する。
 極小諸国が散在する太平洋地域の特殊性に鑑み、こうした地域事情に対応した柔軟な援助方式が、今後の援助案件を検討する際にも十分取り入れられることを期待したい。

<今後のフォロー・アップ、改善すべき点等>

1) これらのプロジェクトは、国際機関への援助を他の援助国と共同で実施したが、極小諸国が散在する太平洋島嶼国地域の特殊性に鑑み、今後の援助案件を検討する際にも、地域事情に対応した柔軟な援助方式が十分取り入れられることを期待する。

2) 太平洋島嶼国地域への援助に当たっては、次の二点を十分考慮するべきであろう。

(イ) 本件プロジェクトにおいて、最新の施設と機器類を供与したにもかかわらず、テレビのように完全動画が常に送信されるという状態ではない。そのため、講義科目が限定される、語学教育を行うには音声が不明瞭である等、現時点で技術的には種々の制約が見受けられる。そういう状況の中で、教授陣、受講者の双方が新たな施設・技術の利用に慣れるまでには、ある程度の時間を要することになる。一方、技術的な問題は技術の進歩によって解決され、その結果、供与した施設や機器類は短期間のうちに陳腐化する。  供与後の機材の老朽化への対応については従来指摘があるが、IT関連機材は、技術の先進性、進歩の急速性の故に、老朽化する以前に陳腐化するものであり、その時点で最新技術と機器類が求められる。しかし、途上国の自助努力では実際上対応は困難で、陳腐化した供与施設や機器類を放置すれば、わが国援助に対する不評や批判が強まる可能性は高い。太平洋・島サミットにおいて、日本側のイニシアティブの一つとして大洋州IT推進プロジェクトの実施が挙げられているが、IT関連援助については、わが国は、技術の進歩に伴った技術や機材の継続的な供与の可否を含めて、対応振りを用意しておく必要があろう。

(ロ) 南太平洋大学は、島嶼諸国の協調や連帯という理想を推進させる実施機関として、またそのシンボルとして位置づけられているが、他方、島嶼諸国がナショナリズムを競い合う現実のなかで、独自の大学設置を望む国がある。国立サモア大学がその事例で、わが国は両大学への援助を実施している。そのため、地域連帯の方向性を支持しているのか、それに反するかのように見える独自行動を支援しているのか、援助意図は極めて不明確であると思われる。それゆえ、援助しているわが国の援助意図は何処にあるのか、はっきりとした答えを用意しておくべきであろう。さもないと、被援助国に評価されても、他の諸国からは反地域連帯行為としてマイナス評価になるか、あるいは各国から大学創設への援助要請を受け、その全てに対応しなければならないといった可能性があるからである。 


(4)その他

 本評価での調査対象は以上の三項目であったが、その他にもUSP及びサモア大学に派遣された専門家、シニア・ボランティアの方々の職場を視察し、インタビューを試みた。その結果感じた私見を述べてみたい。

<専門家派遣・シニアボランティア派遣の事例>

 サモア大学には日本語及び技術科の教師として、またUSPには日本語及び施設管理技師としてのシニア海外ボランティアが派遣されていたが、この二組織における被派遣者の職場での立場には明らかな相違が存在していた。これは専門家やシニア海外ボランティアの効果的な派遣事例とそうでない事例の典型的なケースである。
 サモア大学のシニア・ボランティアは、派遣要請のあった仕事内容・役割が実際の現場でも一致していたため、学内での自分の役割を十分認識、納得し、仕事への意欲を漲らせていた。一方USPのシニア・ボランティアは、要請職種と現場で期待される職種・役割が必ずしも一致しておらず、今次視察時には、彼らに仕事への意欲があるのにも拘わらず能力を発揮できる環境が用意されない中でもどかしさを感じながら任期を費やさざる得ないように思われた。それを具体事例で説明すると、次のようなことである。
 視聴覚機材保守管理技術者として赴任したシニア海外ボランティアの場合は、管理するべき施設がなく、視察を行った時点では、活躍するための仕事がない。大学側は、本来の業務内容にはないものの、既に老朽化し、故障した語学学習機器並びにその施設を修理し、復活使用できることを期待していたが、修理は技術者の専門外職種であり、仮に修理技術があったとしても老朽化した機器類の部品等の入手ができずに、現実には修復不可能であった。 日本語教師の場合は、派遣教師が大学での唯一の日本語教師であるが、研究室とともに、コンピューターと若干の日本語教材が貸与されているものの、シニア海外ボランティアが効率的に活動しうるような十分なサポート体制が現地側になかった。これは教材や教授体制といった分野だけに留まらず、日本語講座開設にあたっても、学内での受講生集めさえも派遣教師がやらなければならない仕事になっていたのである。
 以上二つの事例は、いずれも大学にとって、赴任後4カ月の現時点ではまだ必ずしも必要な人材とは思われない立場に置かれていた、と言っていいだろう。これらシニア海外ボランティアについては、大学側の一部には、何か有用なことをしてくれれば有り難いが、そうではなくても、ボランティアとして日本の費用で派遣されており、居てもらってもかまわないというような見方があるように感じられた。言うまでもなくこうした状態は、派遣側、被派遣側の双方にとって望ましいものではない。
 では、シニア海外ボランティアの派遣につき、効果的な事例とそうでない事例では何処に違いがあったのか? それは、サモア大学には大学の全体事情を見渡して、何処に何が必要かを見定められる司令塔としての日本人専門家が存在していたが、USPにはこうした人物が居なかったということだろう。派遣先の現場の実際のニーズや、シニア海外ボランティアがその能力と役割を発揮できる環境が受け入れ側に整っているのか否か、この点での事前調査、確認が十分に成されぬまま、単に要請に応じてシニア海外ボランティアを派遣したために生じた結果だったと私は感じた。
 JICA専門家、シニア海外ボランティア、青年海外協力隊員などの技術協力要員は、本来ビジネスではなく、国際協力という使命感を有して赴任する方々である。それだけに、彼らは派遣国でのおおよその困難に耐えることができても、存在意味を認められない立場におかれたのでは、国際協力への意欲そのものが減退する。これはわが国の国際協力事業全体に影響する大事なことなので、派遣要請の中身を十分調査、確認する作業を重視しなければならないだろう。

南太平洋大学通信体系改善計画(援助内容と形態)
支援対象国 支援国 供与形態 援助金額
フィジー ハブ局 日本 当該国政府宛の 一般無償資金協力 2.98億円
サモア ミニハブ局 0.67億円
トンガ
ツバル
ソロモン
マーシャル
リモート局 当該国南太平洋大学センター宛の草の根無償資金協力 各2000万円
ヴァヌアツ ミニハブ局 豪州 南太平洋大学本校への直接資金供与 計 1.26百万豪ドル
キリバス リモート局
クック
ニウエ
トケラウ
ナウル
リモート局 ニュー・ジーランド 南太平洋大学本校への直接資金供与 計 2百万NZドル


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