「ボゴタ上水道整備事業」有識者評価
平成11年10月15日
太田昭和監査法人ODA部
中込昭弘
<評価対象プロジェクトの概要>
プロジェクト名 |
援助形態 |
協力年度、金額 |
プロジェクトの概要 |
ボゴタ上水道整備事業 |
有償資金協力(円借款) |
1989年度
83.75億円 |
本事業は第4次ボゴタ上下水道事業の一環であり、ボゴタ市の上水需要の増加に対応し安定した上水供給システムを整備し、併せて下水道施設の整備、洪水対策の推進等を行なうものである。本件は世銀との協調融資案件であり、世銀が送配水管網及び下水網の整備、サン・ラファエル貯水池のダム土木工事、洪水制御スタディー、事業実施機関体制強化を行なうのに対し、OECF(円借款)が浄水場への原水供給のためのサン・ラファエル貯水池ポンプ場建設及び浄水場・ポンプ場等の各施設の稼動状況を一元管理する監視・制御システムセンターをボゴタ市内に建設すること等を担当するものである。 |
1. 対コロンビア我が国援助の状況
コロンビアは石炭、石油等の資源に恵まれ、経済運営も比較的堅実で中南米地域における数少ない債務繰延べを行っていない国の一つであること、また、我が国との伝統的友好関係および近年の二国間関係の一層の緊密化等を考慮し、技術協力を中心とした援助を実施している。しかし、91年、92年と邦人の誘拐・殺害事件が相次いだことから人の派遣を伴う援助は対象都市・地域を制限して実施している。
有償資金協力については本件を含め居住環境、エネルギー、農業開発分野において協力実績がある。また、コロンビア政府は最近アジア太平洋地域へのアクセス改善を目的とした整備計画を策定しており、我が国の協力に対する期待が高まっている。
無償資金協力については、水産無償、文化無償、草の根無償が中心であるが、最近では医療分野や94年度の地震被害に対する援助も行っている。
技術協力については、援助関係者の安全確保に配慮しながらおこなっている。
97年末までのコロンビアに対する我が国ODAの累計額は2.64億ドルである。
2.事業の背景
ボゴタ市はコロンビア共和国の首都であり、同国の政治・経済・文化の中心として、最大の人口を有している(98年推定6,164千人)。同市の人口は農村部からの人口流入も多くEAABの推定によれば今後も4.8%弱の増加が見込まれている。また、本事業開始時には上水道の普及率は95%と高かったが配水ネットワークは貧弱なものとされていた。特に、2005年までに必要とする水源開発、導水、浄水施設等の補完施設である貯水池の建設による上水安定供給、送配水施設の拡張、整備が課題として残っており、このため、上水道施設全体として改善の余地があった。本事業はボゴタ市全体への上水供給を対象とするものであるが、特にボゴタ市南西部(低収入層住宅区)への上水安定供給の目的も含んでいる。
このような背景のもと、本事業は第4次ボゴタ上下水道事業として世銀により85年から着手されており、そのうち、円借款対象部分は、貯水池ポンプ場建設及び浄水場・ポンプ場等の各施設の稼動状況を一元管理する監視・制御システムセンターの建設を担当するものであった。
3.事業の進捗状況
世銀ポーションについては85年7月から先行して送配水管網及び下水網の整備等が開始されており93年6月に完工している。しかし、OECFのポーションについては96年中の完工予定に対し貯水池並びにポンプ場の建設についてはほぼ予定通り完工したものの、貯水池建設に伴なう公園建設及び監視・制御システム及びセンターの建設については本件調査の時点で未着工であり、本来98年11月に訪れていた貸付実行期限日を3年間延長している。
4.事業概略
(1)事業範囲(協調融資分含む)
事業内容 |
ファイナンス |
1)送配水施設建設 |
世銀 |
2)送配水管修復 |
世銀 |
3)配水小官、給水官、下水官網整備 |
世銀 |
4)サン・ラファエル貯水池ダム
(貯水量7,500万トン)・ポンプ場(モーター4基)新設 |
円借款・世銀 |
5)監視・制御システム整備 |
円借款 |
6)維持補修用資機材 |
円借款 |
7)ボゴタ川水質汚濁防止・ |
世銀 |
8)事業実施機関体制強化 |
世銀 |
(2)進捗状況
事業内容 |
ファイナンス |
1)送配水施設建設 |
93年6月完工 |
2)送配水管修復 |
93年6月完工 |
3)配水小官、給水官、下水官網整備 |
93年6月完工 |
4)サン・ラファエル貯水池ダム・ポンプ場新設 |
公園造成部分以外96年中に完工 |
5)監視・制御システム整備 |
未着手 |
6)維持補修用資機材 |
98年11月完了 |
7)ボゴタ川水質汚濁防止・ |
スタディーを行った。 |
8)事業実施機関体制強化 |
経営情報管理システム整備以外完了 |
(3)事業費
|
外貨(百万円) |
内貨(百万円) |
借款合計
(百万ドル) |
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計画 |
計画 |
計画 |
実績(%) |
サン・ラファエル貯水池 |
2,968 |
3,195 |
|
|
-ポンプ場土木工事
-ダム・ポンプ場機材 |
1,463
1,505 |
2,360
835 |
監視・制御システム |
794 |
858 |
維持補修用資機材 |
1,524 |
648 |
コンサルタント |
201 |
171 |
不測の事態に対する物理的予備費 |
376 |
355 |
小計 (うち円借款額) |
5,863 |
5,227 |
(5,863) |
(2,512) |
(70) |
78% |
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|
|
|
|
サン・ラファエル貯水池
-ダム土木工事 |
1,830 |
2,640 |
|
|
|
|
コンサルタント |
124 |
1,272 |
不測の事態に対する物理的予備費 |
183 |
265 |
小計 (うち世銀融資額) |
2,137 |
4,177 |
(2,137) |
(4,177) |
(129) |
81% |
合計 |
8,000 |
9,404 |
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|
(Source : 計画については事前資料、実績については国家企画庁提示資料および世銀PCR)
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5.調査結果主要点
(1) |
工期遅延の原因等
(イ) |
公園建設の遅延の原因は当初予定に対し公園建設の規模を大幅に拡張することとしたため(添付資料-1参照)、そのための設計変更に時間を要したことによる。なお、拡張計画については事業実施中に新たに選出された現ボゴタ市長の強い意向によるものであるとされている。また、公園を周回する道路について、公道として開放するか否か、実施機関であるボゴタ上下水道公社(EAAB)と一地主及びカレラ町(ボゴタ市と隣接)との間でトラブルが発生したことも工期が遅れた原因である。
|
(ロ) |
特に現在まで事業の進行が滞っているのは、上記の一地主(EAABによれば現市長の有力後援者であるとのこと)との間で裁判にまで発展し、かつEAABがこの裁判(第一審)に敗訴したため、事業の着工が行なえないことによる。EAABによれば、裁判については現在控訴中であり、また、地主が所有している土地は現在未開発地であることから土地をすべて買い取ることも視野に入れ検討しており、何としても2000年3 月から着工したいと考えている。
|
(ハ) |
この件に関し、当方よりは、実施機関であるEAABに対し、以下の点を指摘した。
(i) |
地主との係争についてはコロンビア国内の法規にのっとり適切に且つ早期に解決すること。 |
(ii) |
公園の拡張については環境に対するインパクト調査を行ない、その結果を受けて着工することが必要であり、また、インパクト調査の結果についてはOECFを始め日本の関係省庁に報告すること。
|
(これに対し、EAABは係争の早期解決への努力と環境インパクト調査(本年11月から明年2月までを予定)の結果につき日本側に報告を行なうことを了承した。)
|
|
(2) |
監視・制御システムの建設遅延の原因等
(イ) |
監視・制御システムのうち無線通信部分について当初計画を拡張したことにより、追加の資金手当が必要となり、融資引き受け先を募っていた(最終的に1,700万ドルの資金調達)ことによる。現在は追加融資の目処もたったことから、OECFの了解が得られれば直ちに入札手続を行なえる状況であるとのことである。
|
(ロ) |
なお、監視・制御システムの拡張については、当初計画では予定していなかった関連諸施設と監視センターとの通信インフラについて投資効果を考え、その機能を向上するためのものであり妥当な計画変更であると思われる。
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6.評価5原則に基づく評価・分析
(1) |
効率性
工期遅延については前述したとおりであるが、もう少し早い段階から問題の把握及び対処ができなかったかという疑問が残る。また、プロジェクト・コストについては計画変更等のため当初計画をオーバーしているといえる。ただし、オーバー分については自前で資金の手当を行なっている。特に公園の拡張にあたっては、この部分の総事業費を3,000万ドルと見込んでおり、公園入場料等により回収する予定でいるが、当初計画どおりに進展しない場合はEAAB及びボゴタ市の将来において大きな財政上の負担となるため、当方よりは充分にスタディを行なった上で実行する必要がある旨環境問題と併せてEAABに指摘した。また、監視・制御システムについては当初予算1,652百万円のほかに1,700万ドルを新規調達し、契約形態もターンキィー契約(プラント等の建設契約において、設計と施工が一括して請負業者に発注される契約形式)とすることにした。この結果、コンサルタント費用として別途見込んでいた372百万円もターンキィー契約の中に含まれることになった。
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(2) |
目標達成度
中間評価のため省略。
|
(3) |
インパクト
サン・ラファエル貯水池は、貯水能力が7,500万トンであり、2億5,000万トンの貯水能力を有するチューサ貯水池(添付資料-1参照)の補完として建設されたものであり、サン・ラファエル貯水池に隣接するウィズネル浄水場では通常チューサ貯水池からの原水を利用して14m3/Secの処理能力によりボゴタ市に上水を給水している。しかし、97年にチューサ貯水池からの導水管トンネルにおいて2個所の落盤事故があり、それを修復する間の半年以上、サン・ラファエル貯水池が代替した。完成間もなかったこと及び当時の気象状況によりサン・ラファエル貯水池の水が満タンでなかったため、必要量の7割ほどの原水供給しかできなかったが、もし、この貯水池がなかった場合には、ボゴタ市全体の半分以上の住宅に、この間給水を行い得なかったことになり、この貯水池の建設は、ボゴタ市住民に対する安定的な水供給という点で非常に大きな効果があったといえる。サン・ラファエル貯水池は現在もメインの貯水池の補完として十分機能している。
また、世銀のポーションとあわせてプロジェクト全体でみると、世銀が貧困層地域を中心にボゴタ市の上下水の配管・送配水網の整備を行なったため、このプロジェクトは貧困層救済という観点からも大きな効果があったといえる。
|
(4) |
妥当性
世銀分を含めた当該プロジェクトは、ボゴタ市への水道安定供給及び上下水の配管・送配水網の整備を行なう上で優先度の高いプロジェクトである。また、97年に起こったトンネルの落盤事故に対しても、サン・ラファエル貯水池が所期の機能を十分果たしたことから、サン・ラファエル貯水池建設の優先度は結果的にみても高かったといえる。しかしながら、ボゴタ市の水道普及率(94%)はいまだ100%に達しておらず、また、約200万人の下水網も整備されていない(生活用水の下水普及率85%、雨水の下水普及率70%)ことから、現市長の強いイニシアティブによるものとは言え、多額の投資を伴う公園の拡張建設にどれだけの優先度があるのかについては疑問が残る。
これに対しEAABの説明としては住民の間にも同様の疑問を投げかける人がいるが、公園を造ること自体は貯水池を建設するときのカレラ市に対する約束ごとであり今さら中止をすることはできないとの返答を受けた。また、工事規模を拡張した理由としては市長の意向として広大な土地(45,000ha)を有するEAABに対し土地の利用方法を見直し住民に還元すべきという点から公園面積が拡張された模様である。そして、ハイキングを嗜好するコロンビア国民にとって完成した公園は絶好の機会を与え週末には25,000人の入場者数を予想している。これに対し公園完成予想図および収支計算者の提示を求めたが、EAABによれば詳細設計については今後入札を行い選定したコンサルタントが作成するとしており、現在具体的な資料の提示は受けられなかった。
|
(5) |
自立発展性
EAABは過去の第一次から第三次上下水道事業においても、その実施能力の高さは評価されており、また今回のEAABとの協議及び現場視察さらに住民に対するインタビューを行なった結果からもその維持管理能力は問題ないものと思われる。 |
7.EAABの財務状況
EAABの財務状況を示すものとして貸借対照表・損益計算書・資金収支表を以下に示す。
損益計算書 (単位:10億ペソ)
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99年6月期半期 |
|
98年12月期 |
97年12月期 |
収益 |
|
|
|
|
|
|
上水道料金収益 |
121 |
|
233 |
|
174 |
|
下水道料金収益 |
58 |
|
107 |
|
76 |
|
|
|
|
179 |
100% |
340 |
100% |
250 |
100% |
原価 |
|
|
|
|
|
|
上水道給水費 |
71 |
|
130 |
|
82 |
|
下水道処理費 |
17 |
|
32 |
|
18 |
|
|
|
|
88 |
|
162 |
|
100 |
|
売上利益 |
91 |
51% |
178 |
52% |
150 |
60% |
|
|
|
|
|
|
|
営業費用 |
|
|
|
|
|
|
人件費 |
61 |
|
116 |
|
103 |
|
一般管理費 |
21 |
|
30 |
|
29 |
|
減価償却費 |
2 |
|
3 |
|
0 |
|
その他 |
5 |
|
19 |
|
0 |
|
|
|
|
89 |
|
168 |
|
132 |
|
営業利益 |
2 |
1% |
10 |
3% |
18 |
7% |
|
|
|
|
|
|
|
営業外収益 |
53 |
|
71 |
|
6 |
|
為替換算差益 |
|
|
|
|
29 |
|
営業外費用 |
|
|
|
|
|
|
為替換算差損 |
15 |
|
40 |
|
|
|
その他 |
16 |
|
22 |
|
13 |
|
|
|
インフレーション会計調整前利益 |
24 |
13% |
19 |
6% |
40 |
16% |
インフレーション会計調整益 |
19 |
|
31 |
|
53 |
|
|
|
当期利益 |
43 |
24% |
50 |
15% |
93 |
37% |
|
|
貸借対照表 (単位:10億ペソ)
流動資産 |
|
現金預金 |
36 |
短期貸付金 |
171 |
未収入金 |
175 |
薬品等 |
13 |
その他 |
8 |
|
|
流動資産計 |
403 |
|
|
固定資産 |
|
長期貸付金 |
140 |
長期未収入金 |
29 |
有形固定資産 |
|
取得価額 |
1,989 |
減価償却累計額 |
(247) |
|
|
|
1,742 |
その他 |
13 |
|
|
固定資産計 |
1,924 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
資産計 |
2,327 |
|
|
|
流動負債 |
|
短期借入金 |
|
国内 |
35 |
海外 |
35 |
|
|
|
70 |
未払金等 |
157 |
偶発債務引当金 |
37 |
その他 |
2 |
|
|
流動負債計 |
266 |
|
|
固定負債 |
|
長期借入金 |
|
国内 |
124 |
海外 |
215 |
|
|
|
339 |
退職給与引当金 |
467 |
その他 |
66 |
|
|
固定負債計 |
872 |
|
|
負債計 |
1,138 |
|
|
資本 |
|
資本金 |
0 |
資本準備金 |
398 |
利益剰余金 |
44 |
贈与剰余金 |
209 |
再評価積立金 |
538 |
|
|
資本計 |
1,189 |
|
|
資本および負債計 |
2,327 |
|
|
|
資金収支表 (単位:10億ペソ)
インフレーション会計調整前当期利益 |
19 |
減価償却費等 |
63 |
事業活動に伴う収支 |
65 |
設備投資活動に伴う収支 |
(180) |
為替換算に伴う調整 |
(14) |
補助金 |
56 |
|
|
差引 |
9 |
|
|
期首現預金および短期貸付金 |
145 |
増減 |
9 |
|
|
期末現預金および短期貸付金 |
154 |
|
|
(Source: EAAB 99年度半期報告書)
財務諸表分析結果
(1) 経営成績・財政状態について
EAABの財務状況は過去数年を比較しても高い利益(98年12月期当期利益497億ペソ(約45億円))及び利益率(当期利益率14%)並びに高い総資産額(2兆696億ペソ(約1,588億円))、高い自己資本比率(自己資本率52%)を示しており、一見非常に優良企業に見える。しかしながら、実際には、これらの数字は国内の物価変動を加味して貸借対照表上の金額を見直す方法(インフレーション会計)を通して固定資産を時価換算した結果であり、実際の現金に裏付けされた数値ではない。ここで、固定資産を時価で再評価しなかったとしたら、98年12月の利益率、自己資本比率は、それぞれ5%、27%となる。EAABの料金の決定は総括原価主義(但し、従来は新規設備投資に対するコストを料金に反映してなかったが、今後数年の間に段階的に設備投資資金についてもコストと同様、料金に反映させるとのことである)によっているため、基本的に利益が確保できる構造となっており、事実、営業利益は毎年確保されてきている。また、流動比率(流動資産/流動負債)は1.52であり、これは、当面、短期的な資金ショートのおそれはないことを示している。ここで参考に主な経営指標に関わるEAABと日本の水道局の比較を以下に示す。特徴的な点としてEAABの営業利益利益率が日本に対し低い反面、人件費率は逆に高くなっている。一方、職員の一人あたり給水人口はEAABと日本で大差ない。以上から言えることはEAABの利益を圧迫している要因としては人件費の高さであるが、職員数としては多いわけでもないことから、一人あたり給与の額が相対的に高いといえる。
EAAB経営指標の対日本比較
項目 |
コロンビア(98年実績) |
日本(95年全国実績) |
有収率(%) |
60~65(過去数年の実績) |
89.58 |
職員1人あたり給水人口(人) |
約2,600 |
2,938 |
自己資本構成比率(%) |
51.10 |
48.96 |
固定資産対長期資本比率(%) |
93.35 |
94.25 |
流動比率(%) |
151.50 |
262.92 |
自己資本営業利益率(%) |
0.84 |
2.46 |
自己資本回転率(回) |
0.29 |
0.14 |
職員給与料金収入割合(%) |
34.12 |
21.12 |
(2) 為替について
為替の動向について以下に示す。ペソは対円および対USドルで過去数年間、年率20%以上の下落をしておりOECFおよび世銀からの外貨建債務を負っているEAABとしては将来的にペソ建債務が相当大きくなるものと思われる。この点についてEAABに確認した結果、EAABとしても問題意識をもっており、公社債市場の整備が進むことを前提に今後はペソ建の債券を市場で発行し順次外貨建借入と借り替えする予定とのことである。この中にはOECFからの円借款に対する繰上弁済も考慮にいれているとのことである。
(3)資金繰りについて
EAABは市政府が所有する公社であり、その総裁は市長の選任により決定されるが、経営面においては独立採算性を強く志向しており、近い将来、民営化が行われるという説もある。したがって、資金収支表に示されるように新規設備投資もEAABが主体として行っている。ただ設備投資に対する負担は大きく、資金的に逼迫したときには現在、市からの補助に頼っている。ただし、前述したように将来的には設備投資資金も料金からまかなわれることになる。EAABでは上水道の普及率を近い将来100%にすることをめざしており、また、下水道の普及率もさらにあげることを考えており、これら上下水網の整備だけでも15億ドル以上かかると予想している。この資金需要もさることながら、外貨建借入金等既往の借入金に対する資金繰りのため、(2)で述べた市場を通じての借り換えの巧拙がEAABの将来の資金融通に大きく影響してくるものと思われる。
(4)水道料金
EAABの水道料金設定は、現在、将来の投資計画も織り込んだ総括原価主義により計算されており、さらに住民の所得階層に対応した料率の傾斜を行なっている(以下 表参照)。この点、よくできた料金テーブルだといえる。また、生活費に対する水道料金はEAABによれば2%前後に設定しているとのことであり、これは世界標準にほぼ匹敵する。しかし、水道料金は今後も引き上げ予想されることから、EAABはさらなる製造コスト低減のための経営改善を行ない、これ以上のコスト増加を極力抑える必要がある。
生活階層
生活階層 |
月収(ペソ) |
1 |
平均所得482,488まで |
2 |
平均所得552,757まで |
3 |
平均所得867,219まで |
4 |
平均所得1,874,249まで |
5 |
平均所得2,441,307まで |
6 |
3,052,031以上 |
8.事業の広報
サン・ラファエル貯水池の建設により、住民への水の安定供給が計られ、さらに97年のトンネル落盤事故においては、これが大きな貢献をなしたが、他方、今回、所得階層別に住民インタビューを行なった結果(添付資料-2参照)、本事業が日本のODAによるものだということをほとんどの住民が知らないことが判明した。また、現場においても、本事業が我が国と世銀との協力によるものであることを示すものはなく、当方よりは、プレートの設置及び広報パンフレット作成の際等に右経緯への言及を要望したところ、EAABも右を了承した。日本のODAの意義を相手国に示す上でも事業の実施にあたっては、広報面にも一層の配慮をすることが重要であろう。
9.中間評価の意義
中間評価は完成後行なう事後評価に比べ、事業途中で早めに問題点を発見し、関係者間でのコミュニケーションや計画の見直しも含めた対応策が迅速にとれるという点で非常に有効な手段といえよう。また、事業実施中であるため、実施機関においても評価内容に関する関心度が高く、担当者からの資料の提供もスムーズに行われることから調査も効率よく行われる。今後、このような外部の第三者による中間評価の実施をできるだけ多く行なうことが望まれる。