要 約
1.評価の背景・目的・視点
本調査は、1974年度から中断されていたわが国のカンボジアに対する二国間援助が1992年度に再開され、その後10年あまりが経過したことを節目として行われた。評価の対象は、再開後の援助のうち特に案件数の多かった道路・橋梁分野において行われた一連の協力事業であり、本調査では、これらの協力事業を1つの目的を達成するためのまとまった「プログラム」と見なして評価した。
本評価調査の目的は、わが国のカンボジアに対する道路・橋梁分野における一連の協力を1つのプログラムとして客観的に把握・評価し、(1)今後のカンボジアに対する道路・橋梁(道路網整備)分野での協力のあり方について有意義な教訓・提言を得ること、(2)評価結果を公表することにより説明責任を果たすことである。
本調査では、目的・プロセス・結果という3つの視点から総合的に評価する方法をとった。
わが国のカンボジアに対する道路・橋梁分野での一連の協力は、当初から計画された「プログラム」として実施されたわけではないが、本調査ではこれらの一連の事業が全体としてどのような共通の目的をもって実施されたかを本調査の時点で分析・想定し、一連の事業がその目的を達成するために実施されたものと見なした。
プログラムの目的を想定した上で、(1)目的はわが国の援助方針、カンボジアの上位計画(国家開発計画・運輸分野の開発計画)・ニーズと整合・適合したものであったか(目的の妥当性)、(2)目的(方向性)が設定されていくプロセスは適切であったか(プログラム策定過程の適切性)、プログラムのもと各事業は適切なプロセスで(連携・調整されながら)要請・採択・審査されたか(プログラムにもとづく各案件の要請・採択・審査の適切性)、プログラムに含まれた事業は適切に実施されたか、すなわち、要請・採択・審査時に意図された連携・調整が各事業の実施時に実際に行われたか(プログラム実施の適切性)、(3)プログラムの目的がどの程度達成され、目的達成の結果としてどのような直接効果・波及効果をどの程度生んだか、生み続ける見通しはあるか(プログラム実施の結果:プログラム実施の効果・インパクト・自立発展性)を客観的に評価し、また可能な限り数量的に分析するよう試みた。
これらの分析・評価をとおして、今後のカンボジアに対する道路・橋梁(道路網整備)分野での協力をより効果的・効率的に行っていくための教訓を引き出し、有意義な提言を得るように努めた。
2.評価対象の把握
(1) |
カンボジアの運輸分野・道路交通の概要
カンボジアの運輸インフラストラクチャー(以下インフラと略す)は道路、鉄道、内陸水路、港、空港があり、道路交通は旅客輸送の65%、貨物輸送の70%を占めている。
カンボジアの道路網は主要国道(総延長:約2,000km)、一般国道(総延長:約2,180km)、州道(総延長:約3,560km)、地方道(総延長:約26,000km)からなっている。主要国道は首都プノンペンを中心とした放射状に展開しており、プノンペンと地方の開発拠点となる都市とを結んでいる。
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(2) |
わが国の道路・橋梁分野への協力実績
1992年以降のわが国のカンボジアに対する道路・橋梁分野での協力事業は、1970年から20年あまり続いた内戦・抗争による維持管理の欠如や戦闘による破壊のために壊滅的な状況にあった道路網(主要国道)の復旧・改修であった。また、70年代以降の国内紛争、75年~79年のポル・ポト時代の特異な政治により、司法・行政機能が基本的な機能を失うまでに打撃を受けていた中で、道路・橋梁の修復・維持管理を担当する公共事業運輸省に対しての人材育成のための技術協力が並行して実施された。
事業としては、一般プロジェクト無償(プノンペン郊外のチュルイチョンバー橋(日本橋)復旧、コンポンチャムにおけるメコン架橋(きずな橋)建設、および国道6A号・6号・7号線復旧・改修の道路・橋梁復旧・改修・建設プロジェクト、ならびに道路建設センター改善プロジェクト、本文29ページ表-14および本文30ページ図-7参照)、技術協力事業(研修員受入・専門家派遣・開発調査)、さらに草の根無償による溜め池アクセスロード改修プロジェクトが実施された。
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(3) |
他ドナーによる道路・橋梁分野への協力実績
1991年のカンボジア和平協定、1992年のカンボジア復興閣僚会議以降、わが国の他にアジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)、米国国際援助庁(USAID)、国連開発計画(UNDP)等が主要国道の復旧・改修を対して支援を行っている。ADBは国道1号・2号・3号・5号・6号・7号線の修復を支援している。世界銀行は99年以降に国道3号・6号線等の修復を支援している。USAIDは国道4号線改修を96年に終えた。また、UNDPは国道5号線の復旧を中心に支援した。
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(4) |
想定したプログラムの目的
(a) |
プログラム策定の流れ
カンボジアの陸上交通を考える際に重要なことは、トンレサップ湖・川(トンレサップ水系)およびメコン河により陸上交通網が3つに分断されていることである。また、カンボジアの主要国道は首都プノンペンを中心として、7つの重要な地方開発拠点を結んでいる。
わが国の協力による道路・橋梁の復旧・改修・建設プロジェクトは当初からプログラムとして計画・実施されたものではなかったが、結果的にはある一定の目的(方向)をもって実施されたように見受けられる。
まず(トンレサップ川を跨ぐ)チュルイチョンバー橋・国道6A線の復旧の実施が決定され、続いてメコン河本流架橋建設計画調査における3ルートの検討の結果、現在のコンポンチャム・ルートが選定され、道路・橋梁の復旧・改修・建設プロジェクトの方向が定まっていった。
無償プロジェクトの計画・実施と歩調を合わせて、技術協力事業においては、(1)優良案件の選定・要請のための道路・橋梁全般に亘る管理職レベルの人材育成、(2)円滑なプロジェクト実施のための施工・施工管理に関する人材育成、(3)完成後の維持管理に関する人材育成に重点が置かれてきた。
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(b) |
道路・橋梁の復旧・改修・建設プロジェクト群の目的(プログラムのサブ目的1)
上記の背景・流れを考慮して、道路・橋梁の復旧・改修・建設プロジェクトの目的を、『プノンペンとトンレサップ水系・メコン河の北東の開発拠点・隣国との間、開発拠点と後背地との間を結ぶ主要国道の修復・改修』と想定した。
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(c) |
道路建設センター改善プロジェクトの目的(プログラムのサブ目的2)
同案件は『首都近辺の主要国道を中心とする道路の修復・維持管理用建設機械の増強と建設機械修理工場改善』のために実施された。また、機械・工場の運転・保守・管理のための教育・訓練の必要性を考慮して「実習室の設置」も含まれていた。
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(d) |
技術協力事業の目的(プログラムのサブ目的3)
研修員受入事業、専門家派遣事業、開発計画調査の実施内容から、技術協力事業の目的は『国道・プノンペン首都圏の道路・橋梁の整備・維持管理、公共交通管理、交通管理に関する技術者・技能者の育成』であったと想定した。
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(e) |
想定されたプログラムの目的
プログラムの目的は、以上のプログラムのサブ目的を包含する『プノンペンとトンレサップ水系・メコン河の北東の開発拠点・隣国との間、開発拠点と後背地との間を結ぶ主要国道、首都近辺の主要国道の修復・改修・維持管理』と想定した。なお、草の根無償による溜め池アクセスロード改修プロジェクトは2000年以降に行われたパイロット的なプロジェクトで、本プログラム内での事業とは位置づけなかった。
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3.評価結果
3.1. 目的体系の分析・評価
(1) |
カンボジアの国家開発計画と道路・橋梁分野開発計画
1994年の国家復興開発計画(NPRD)では国家目標を達成するためのアプローチの1つとして「インフラ・施設の修復・整備」が選定され、NPRD内のインフラ整備計画(道路・橋梁分野)では、最重要戦略として、「3つの開発拠点(プノンペン・シハヌークヴィル・シアムリアップ間)のリンクの強化(国道4号・6号線の修復)」が掲げられた。第1次社会経済開発計画(SEDP I)でも「インフラ改善・整備への充分な投資(特に地方道)」を重要戦略として掲げ、SEDP I内の運輸分野開発計画では「主要国道・一般国道の修復・改修」「メコン架橋、フェリーの修復・改修」が重点とされた。道路・橋梁分野の開発計画においては、農村の市場へのアクセス向上を達成するためにも、主要国道⇒一般国道⇒州道⇒地方道の優先順に整備していくという方針が貫かれている。
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(2) |
わが国のカンボジアに対する援助方針と重点分野
わが国のカンボジアに対する援助方針については、政府開発援助大綱(ODA大綱、1992年)、政府開発援助に関する中期政策(1999年)、および、ODA白書下巻の「カンボジア」の項(1992-2001年度)を中心に分析した。わが国のカンボジアに対する援助方針は一貫して「運輸インフラ整備」と「(行政能力向上・援助受入能力向上のための)人材育成」を重点分野としてきた。さらに東南アジアでの広域協力にも力点が置かれてきた。
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(3) |
プログラム目的の妥当性
プログラムの目的がわが国のカンボジアに対する援助方針、カンボジアの国家開発計画・運輸分野の計画およびカンボジアのニーズと整合・適合していたかを評価した。
(a) |
わが国のカンボジアに対する援助方針・計画との整合性
プログラムの目的は、わが国のカンボジアに対する援助方針で一貫して重点分野とされてきた「運輸インフラ整備」、「(行政能力向上・援助受入能力向上のための)人材育成」の一部をなすものである。また、プログラムの対象区間は、アジア・ハイウェー整備ルート(東南アジアでの広域協力)の一部である。プログラム目的はわが国の援助方針と整合性の高いものであったといえる。
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(b) |
カンボジアの開発計画・ニーズとの整合性
プログラムの目的は、カンボジアの道路・橋梁分野の開発計画で最優先とされた「主要国道の修復・改修」の1部であり、中でも優先度の高い「プノンペン-シアムリアップのリンクを強化する」ものであり、「メコン架橋」を含んでいる。さらに「地域経済への統合」というカンボジアの国家開発目標にも対応している。
加えて、公共投資計画(PIP)では道路・橋梁分野への必要投資額が高いとされてきており、公共投資を外国からの援助に頼っているカンボジアのニーズにも対応している。プログラムの目的とカンボジアの開発計画・ニーズとの整合性は極めて高いと評価できる。また、他ドナーも主要国道の修復に力点を置いてきたことから、プログラムの目的は他ドナーの把握するカンボジアのニーズとも合致していたといえる。
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3.2. プロセスの分析・評価
(1) |
プロセスの分析
わが国の政府開発援助は相手国からの要請にもとづき、要請内容の検討、採択(選定)、実施というプロセスで行われる。また、一般プロジェクト無償では案件選定後、実施計画策定のための調査(予備(事前)調査1・基本設計調査)が行われ、審査2、実施となっている。
今回のプロセス分析で判明したことは、わが国・カンボジア双方の努力による改善の積み重ねにより、案件の要請-採択までのプロセスが改善されてきたことである。上述のとおり、プログラムの目的はわが国の援助方針、カンボジアの国家開発計画・運輸セクター開発計画といった上位計画との整合性が非常に高かったが、このことは改善されたプロセスにより担保されたものであったと評価できる。
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(2) |
プログラムの策定過程およびプログラムにもとづく各案件の要請・採択・審査過程の適切性
(a) |
プログラム策定過程の適切性
以下の分析から、プログラム策定は十分な協議にもとづき、適切な過程で行われたと評価される。
わが国のカンボジアに対する道路・橋梁分野での協力の方向性が決まっていったのは、チュルイチョンバー橋復旧・メコン架橋建設という2つの架橋プロジェクトが計画・要請・採択された時であった。これらのプロジェクトは、それぞれの要請時にカンボジアの運輸セクター開発計画内に具体的に名前が掲げられていたプロジェクトである。したがって、これらのプロジェクト要請前にカンボジア政府内で十分に協議されたと見なすことができる。
わが国はチュルイチョンバー橋復旧計画の採択、無償プロジェクトと並行した技術協力の重視という方針決定の前に2度に亘る調査団をカンボジアに派遣し、カンボジア政府関係諸機関との協議を行った。また、メコン河本流架橋建設については、開発調査においてルート選定・フィージビリティー調査が行われた上で要請・採択に至った。この開発調査では5回にわたる運営委員会が開催され、道路・橋梁整備を担当する公共事業運輸省のみならず、外国からの援助窓口であるカンボジア開発評議会(CDC)等の関係機関も含めて協議・検討が行われた。さらに、両架橋プロジェクトのみならず無償プロジェクトの審査(基本設計)時には調査団が関係機関・他ドナーを訪問し、報告・協議を実施した。
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(b) |
プログラムにもとづく各案件の要請・採択・審査過程の適切性
事業間の連携への配慮
わが国の無償プロジェクトは首都プノンペンから順に北東方面に拡大していった。このことは一般的な道路交通の観点から見て、受益者(交通量)の多いところから地方へ延長して、その延長に伴ってそれまでの整備区間の効果が益々増大するという、理にかなった計画であったといえる。
運輸インフラ整備のための無償プロジェクトを重視するという方針策定と並行して、適切な事業計画立案・事業実施能力向上のための技術協力を重点分野とする方針が打ち出された。さらに、無償プロジェクトと技術協力の連携がとられるような仕組みが各プロジェクトの要請・採択・審査のプロセスに織り込まれてきた。
他ドナーとの重複の有無
プログラムを構成するわが国の協力事業が他ドナーの関連事業と重複した例はなかった。わが国を中心とする援助国・国際機関間の連携、カンボジア側での公共投資計画策定・要請案件選定時におけるチェックシステム確立の結果と評価される。
プログラム策定時における代替案の検討
メコン架橋建設に関しては、開発調査においてカンボジアの地方開発計画の観点、経済財務面・技術面からルート選定が行われた。それ以外の無償プロジェクトにおいても、施工性・コスト面・維持管理の面からさまざまな代替案が検討され、仕様が決定された。しかし、都市間部分(地方部)における整備水準(拡幅するか否か)に関して、費用便益分析を含む経済性も比較した上で、整備水準と整備延長についての検討が含まれれば、さらに効率的な支援となったものと思料される。
上位計画変更に対する対応の柔軟性
わが国の援助方針は一貫して運輸インフラを重視してきており、カンボジア側・他ドナーの上位計画における重点分野も一貫していた上に、カンボジア側・他ドナーとの緊密な協議が行われたため、上位計画・他ドナーの方針変更に急遽対応しなければならないような事態は生じなかった。
外部条件の変化・リスクに対する考慮
本調査では、プログラムを構成する事業全部が行われることにより、もしくは他ドナーの道路・橋梁の修復プロジェクトが並行して行われることにより生じる可能性のあった外部条件の変化・リスクについて計画・審査時に十分配慮されたかを評価した。具体的には道路・橋梁プロジェクトが並行して行われることによる技術者不足・資機材高騰等の弊害への対応が計画・審査時に検討されたかを評価した。
技術者については他ドナーのプロジェクトでも外国人技術者を雇用することが計画され、資機材については入念な調達計画が立てられた。特に、砕石等のカンボジア内で調達する必要のあった資材に関しては、それら資材の生産能力・他ドナーの類似プロジェクトの進捗状況が考慮された施工計画が立てられた。したがって、多数の道路・橋梁プロジェクトが並行して実施されることによる弊害が起きないような事業実施計画が立てられたと評価される。
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(3) |
プログラム実施の適切性
(a) |
プログラム実施のタイミング・スムーズさ
1991年・92年のニーズ確認調査団の派遣、チュルイチョンバー橋復旧計画基本設計調査が素早く実施された。道路・橋梁整備の方向性検討のための開発調査が早い時期に実施され、結果としてプノンペンから順次、道路・橋梁の復旧・改修工事が完成していった。さらに、特に初期の事業では戦火の余波が残り、熟練労働者の少ない困難な状況の中で、全てのプロジェクトが予定通りの工期で終了したために、プログラムとしてスムーズに進捗したと評価される。
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(b) |
プログラム実施時における各事業間の連携
以下の実施状況から無償プロジェクトと技術協力は連携良く実施されたと評価される。
最初の無償プロジェクトの審査・実施と並行して1992年・93年度に「カンボジア道路・橋梁特設コース」が実施され、局次長クラスを中心に12名が参加した。参加者はその後の無償プロジェクトのカウンターパートとして活躍した。無償プロジェクトで改善された道路建設センターはその後の専門家派遣のベースとなり、建設機械の操作・保守管理、道路・橋梁整備・修繕に関する施工管理に関する専門家が派遣された。その結果、同センターはわが国の無償プロジェクトで復旧・改修された道路・橋梁を含む修繕工事や他の国道の復旧・改修工事の中心となって活躍している。
本プログラム内では、無償プロジェクトの現場を活用して、主に道路建設センターの職員に対してOJTが行われた。予算不足で工事経験を得る機会の少ない中で、公共事業運輸省職員の実務への参加機会を増やすユニークな連携であった。
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(c) |
他ドナーの関連プロジェクト実施状況へ対応
わが国の無償プロジェクトの大半はプノンペン-コンポンチャム間に集中し、同区間の整備はわが国の協力事業のみで復旧・改修されたため、他ドナーの事業実施状況への対応の必要性は少なかったといえる。唯一、国道6号線シアムリアップ区間は世界銀行の道路・橋梁修復プロジェクトと隣接し、調整を要したが、要請・審査の時から協議がなされ、わが国の協力による整備が計画された区間にあった古代橋(1つ)を世銀プロジェクトの整備区間とし(その分わが国の協力区間を反対側で伸ばした)、他の9古代橋とあわせて景観上の統一が図られた。また、施工計画策定の際にも世銀プロジェクトの施工計画との調整がなされ、問題は生じなかった。
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(d) |
プログラム実施時における外部条件の変化・リスクへの対応の適切性
プログラムにもとづく各案件の要請・採択・審査過程の適切性の評価と同様、プログラムを構成する事業、他ドナーの道路・橋梁修復プロジェクトが並行して行われることによって生じる可能性のあった外部条件の変化・リスクについて、実施時に適切に対応がなされたかを評価した。
各事業の実施計画策定時に時に入念な検討が行われたため、同種プロジェクトが並行して実施されることの弊害は実施時には特に見られなかった。さらに想定・検討がなされていなかったような並行実施による弊害も生じなかった。
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3.3. 結果の評価
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プログラム目的の達成度
プログラムの目的については本調査の時点で想定したが、プログラムの目標値に関しては設定しなかった。しがたって、(1)プノンペンとトンレサップ水系・メコン河の北東の開発 拠点・隣国との間、開発拠点と後背地との間を結ぶ主要国道の復旧・改修、(2)首都近辺の主要国道を中心とする道路の修復・維持管理用建設機械の増強と建設機械修理工場改善、(3)国道・プノンペン首都圏の道路・橋梁の整備・維持管理、公共交通管理、交通管理に関する技術者・技能者の育成、を目的としたの3つのサブプログラムについて、それぞれの成果を整理した。
また、無償プロジェクト-技術協力事業間、技術協力スキーム間の連携の結果について定性的・定量的な評価を試みた。
(1) |
については、全ての道路・橋梁の復旧・改修・建設プロジェクトは目標を達成し、約148.7kmの道路が復旧・改修され、2橋の長大橋(チュルイチョンバー橋(日本橋):709m、メコン架橋(きずな橋):1,360m)と国道6A号線上の3橋(橋長計:300m)が復旧・改修・建設された。道路の復旧・改修プロジェクトにおいても多数の橋梁・カルバート3が整備された。
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(2) |
については、計画どおりの機材が供与され、修理工場・管理棟の改築・新築が行われ、道路建設センターは施設・機材面では計画どおりの工事能力を持つに至った。
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(3) |
については、研修員受入、専門家派遣、開発調査の各事業の成果は以下のとおり。
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※研修員受入: |
42名の日本での研修(1,631人・日:一人当たりの研修の平均研修期間約39日)、9名の第三国研修4での受入が行われた。本調査で行った14名(本邦研修員の33%)の元研修員に対するアンケート調査では、内容に満足した者は93%で、自分の仕事に活用できたとする者が85%であったことから高い成果といえよう。 |
※専門家派遣: |
9名の長期専門家、14名の短期専門家が派遣され、派遣月数は167人・月(一人当たりの平均派遣期間は約12ヶ月)に及び、計画・設計・施工・積算基準の作成、施設データベース整備等に関する技術移転が行われるとともに、建設機械の操作・保守管理、測量実習等の様々な指導、および、無償プロジェクトの施工現場でのOJTの調整・実施が行われた。
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※開発調査: |
メコン河本流架橋計画調査、プノンペン市都市交通計画調査の2件が実施され、1件はわが国の無償資金協力によるメコン架橋プロジェクトとして実現に至り、プノンペン市都市交通計画調査で提案された環状道路の一部が自己資金により実現された。
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無償プロジェクト-技術協力事業間、技術協力スキーム間の連携については以下のとおり、高い成果をあげたと評価される。
- 道路建設センターの道路復旧・改修・修繕工事の実績は上述のOJTを経て大幅に増え、供与機材のかなり高い稼働率を達成した。無償プロジェクトと専門家派遣の連携の結果といえよう。最近の工事実績は大きく落ち込んだが、理由は予算面の問題であり、人材育成面での制約ではないと分析される。
- 元研修員に対するアンケート調査では、無償プロジェクトに参画した者は71%(10名)で、その全員が無償プロジクト参加中に研修成果が活かされたと回答した。また、回答者の50%が派遣専門家とのチームワークに役立ったとしたことから、スキーム間の連携の結果は良好であったと評価される。
- 派遣専門家は計画・設計に関する基準類の整備、インベントリー作成等の全体的な指導を行い、開発調査では、具体的な案件について、インセプション・レポート(着手報告書)の提出・協議時から、調査方針・計画手法に関しての説明・検討が行われ、実際の計画策定作業がカウンターパートとともになされた。両スキームがうまく補完し合いながら計画技術の移転が行われたと評価される。
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(2) |
プログラム実施の効果
プログラム実施による直接的な効果として、(1)移動時間・費用の変化、(2)道路・橋梁の復旧・改修による交通量の変化を分析・評価した。
移動時間・費用の変化
プノンペン-コンポンチャム間の移動時間は約6時間から約2時間に減少し、行き先で仕事をしても、日帰りで十分に往復できるようになった。また、旅行時間が予測可能となったという。シアムリアップ-ロリュオス間(国道6号線改善シアムリアップ区間の両端)の移動時間は30分から15分に短縮された。
プノンペン-コンポンチャム間のバス運賃がUS$7.4-9.3からUS$1.8に下がった。移動・輸送費用については、全整備区間で、旅行者一人当たりの時間コスト5(US$0.35/時間)が移動時間の短縮に伴い節減され、1台当たりの車輌運行コストが30%~40%節約されたと推計される6。
道路・橋梁復旧・改修後の交通量の変化
交通量の変化(増加)については、A. 事業実施後のそれぞれの整備区間での増加、B. 後続の事業実施後の、以前に整備された区間での交通量増加(例えば、メコン架橋建設後の国道6A号線での交通量の増加)、C. 車種の変化(大型車の増加)について分析・評価した。
評価結果としては、いずれの整備区間でも、事業実施後の交通量は大幅に増加し(ただし国道6号・7号線修復については、事業実施前後を比較できるデータがなかったため、単独の効果は不明)、さらにプノンペン以遠の事業が実施されるにつれて、プノンペン付近の四輪車(特に大型車)の交通量が増加している。各プロジェクト実施による整備区間内の交通の増加のみならず、後続のプロジェクトが完成するにつれて以前の整備区間での交通量(特に大型車)が増加し、事業全体として長距離輸送・移動の増加・効率化に寄与したと推定される。
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(3) |
プログラム実施により期待されたインパクト(地方経済・社会開発への寄与)
プログラムの実施は、以下のとおり、多大な良いインパクトを地域経済・社会にもたらした。
- 沿道住民の雇用・所得: プノンペン-コンポンチャム間で、縫製工場2社、多数のゴム加工工場の他、木材製材工場等の誘致により、17,000人(2000年での全国失業者数の12%に相当)以上の雇用機会が創出された。職業としては、小売業・飲食業・輸送業を主業とする者が増え、副業ができた者の数が多い(13%)。
沿道住民の世帯収入(1月当たり)は平均で1992年の24万リエルから1997年には32万リエルとなり、30%程度増えたが、1997年から2002年にかけては1%減った7(ただし、1996年から2000年にかけて、全国の労働者1人当たりの平均収入は12%減少した8)。また、収入の増加は、低所得者層に対して起こっている(沿道住民の世帯収入が20万リエル/月以下の世帯数割合は1992年-97年-2002年と大きく減り続けた)。
- 沿道住民の生活変化等: 国際建設技術のヒヤリング調査では、「プノンペンへ行きやすくなった」「市場へのアクセスが向上した」との住民からの回答が非常に多く、「治安が向上した」「患者をプノンペンの病院へ連れていけるようになった」「色々な種類の物を買えるようになった」「交通の便が良くなった」という回答が多かった。防災面での道路・橋梁整備効果(避難路および避難地の提供)を認める行政官の回答も非常に多かった。
- 沿道の商店、レストランの数: 統計データは入手できなかったが、国道6A号線沿道の事業実施前の様子9、今回の現地踏査・インタビューによれば大幅に増加したといえる。国道6A号沿道のプノンペン付近は普通の農村から、駐車場も備えた大型レストランが軒を並べる地区へと変貌し、特に週末は、プノンペン市民のみならず外国人訪問者で賑わっている。
- 沿道の農業生産: ゴム・大豆・ゴマ・タバコ(コンポンチャム州が主要生産地である作物)の全国生産高を分析すると、プログラムの実施がコンポンチャム州の農業生産増加に寄与したという可能性が高いと分析されるが、自然条件(洪水等)、農業開発プロジェクトの実施状況等の要素も大きいと考えられ、数量的なモデルを使用しての寄与度の推計はできなかった。
- 沿道の工場数・資本金: 2001年と2002年の州別小規模企業の企業数・資本金・雇用者数のみが収集できた。北東諸州(クラチエ・モンドキリ・ラタナキリ・ストゥントレンの各州)では、企業数・資本金・雇用者数ともに大幅な増加率を示し、メコン架橋(きずな橋)建設により、企業活動が活性化したと推測される。しかし、北東諸州はもともと企業数・資本金・雇用者数が少なく、同橋建設の投資規模に比べて効果はまだ出ていないと考えられる。メコン架橋建設等の協力に見合った効果が出てくるには、国道7号線コンポンチャム区間、ADBプロジェクト等北東諸州の道路修復事業の完成が必要であろう。
- 観光開発(ホテル・客室数): 1998~2002年のシアムリアップでのホテル・ゲストハウスの数とそれらの客室数についてのデータを入手したが、2002年に完成した国道6号線シアムリアップ区間改善事業の数量的な影響は見いだせなかった。同地区間での交通量調査の結果、大型観光バスが大幅に増えたことが判明したことから、観光開発への寄与はあったといえよう。
- 沿道の土地資産価値(価格): 国道6A号・6号・7号線のわが国の協力により整備された区間の土地価格は、1992/93年から2002/3年の間に約4倍~100倍となった。整備以前は価格の低かった土地ほど高倍率で上昇した。以前は農地として利用されていた土地、もしくは荒地であった所が、プログラムの実施により農業以外の用途も可能となったことによる上昇と考えられる。
- カンボジア国民のプログラムの認知度: 以下に列挙することから、カンボジア国民の認知度は非常に高いといえる。(1)沿道住民の97.5%が道路・橋梁の復旧・修復が日本の援助であると知っていた(国際建設技術協会ヒヤリング調査)。(2)カンボジアで最大の発行部数を誇る(発行部数2万部)「レスマイカンボジア」紙には最近5カ年間でわが国の道路・橋梁復旧・改修に対する協力に関する70件の記事が掲載された。(3)フン・セン首相自らが出席した数多くの起工式・竣工式の様子がテレビ・ラジオ・新聞等で報道された。(4)1999年12月より国道6号・7号線の修復工事現場の様子が描かれた1000リエル紙幣が印刷され、日々国民の目に触れている。
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マクロ経済への寄与度
プログラムの上位目的を、わが国のカンボジアに対する援助目的の一部である「運輸インフラの整備」に、整備されたインフラの「維持管理」を加えた、「運輸インフラの整備・維持管理」として設定し、上位目的達成の効果として全国の人の移動・物流について分析した上で、一般的に人の移動・物流促進がマクロ経済に与える指標についての情報を収集し、プログラムの目的達成がその指標変化にどう寄与したのかの分析を試みた。分析結果として、時期的にはマクロ経済指標の変化とプログラムの進捗との間の高い相関を示すデータが多いが、どの程度寄与したかの数値的な解析結果を得るには至らなかった。
- 全国の人・貨物の移動・輸送: 1987年から1995-99年の間に人の移動が1.38倍に、6,300万人・キロ増加し、貨物輸送は3.71倍に、2億9,000万トン・キロ増加した。道路交通については人の移動が1.46倍に、4,600万人・キロ増加し((鉄道・内陸水運を含めた全体の増加分の70%)、貨物輸送は6.14倍に、2億3,000万トン・キロ増加した(同じく全体の増加分の80%)。道路貨物輸送量は1994年~96年および99年に大幅に増加した。道路貨物輸送の増加した年は、それぞれチュルイチョンバー橋・6A号線の復旧、6号・7号線修復の完成時期にあたり、プログラムの実施がこの増加に寄与した可能性も高いが、寄与度に関しての数値は得られなかった。
- 国内総生産: 道路貨物輸送が大幅に増えたのは1994年~96年および99年である。それぞれの年の経済成長を見ると、かなり高い成長率を達成しており、貨物輸送量と経済成長との間には相関関係が認められる。復興以前に、貧弱な経済インフラ(運輸インフラ・電力・通信等)が経済復興のボトルネックであったとされたことから、道路・橋梁の復旧・改修が経済成長に寄与したといえる。プログラムの実施の経済成長への寄与については、特に農業生産が自然条件等の影響を強く受けていること等から、数値的には解析できなかった。
- 輸出・輸入: 1994年・95年の輸出額増加の一部を支えたのは材木・ゴムの輸出で、プログラムの実施はこれらの品目の輸出を支えた可能性が高い。前述の縫製工場の沿道への誘致から、1999年・2000年の輸出増加を支えた縫製業の発展にも寄与したといえるが、寄与度は不明である。
- 物価: インフレの沈静は運輸インフラ整備・物流促進以外の原因(94年・95年は通貨発行量の減少、1999年以降は94年・95年と同様の通貨発行量減少の他に、リエルの安定、米の国際相場の低下)によると見られるが、貨物輸送の増加・プログラム実施の進捗が寄与している可能性もないとはいえない。
- カンボジアへの訪問客数: 1994年・95年および99年に訪問客数が大幅に増加しており、プログラム実施・道路網整備の寄与も考えられるが、他の理由(国内の政情安定等)が主原因と推測される。
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(5) |
プログラム実施による負のインパクト
本調査でのインタビュー調査、国際建設技術協会によるヒヤリング調査では主な負のインパクトとして、(1)交通量増加・走行速度上昇に伴う交通事故の増加、(2)大型車増加に伴う過積載車による道路・橋梁への損傷が指摘された。その他、少数ながら土地価格上昇で住宅がもてなくなったという回答もあった。
- 交通事故の増加: 1994年以降の全国での交通事故による死者数・人口10万人当たりの交通事故死者数を見ると1999年・2000年、2002年での伸びが大きい。州別・路線別データが得られなかったため、プログラム実施による増加は推計できなかったが、インタビュー調査・ヒヤリング調査でも多くの住民・行政官がプログラム実施の負のインパクトとして交通事故増加をあげている。事故対策が必要である。
- 過積載車による道路・橋梁への損傷: インタビュー調査・ヒヤリング調査で過積載の問題を指摘する回答が多かったが、数値データは得られなかった。在カンボジア日本国大使館からの働きかけもあり、過積載に対する対策は徐々にではあるが進められつつある。
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(6) |
自立発展性
(a) |
道路・橋梁維持管理の現況
本調査団が現地踏査した時点(2003年2月)では全区間で外観上目立った損傷は見つけられなかった。国道6号・7号線、6号線シアムリアップ区間は完成してから日が浅いこともあり、目立つような損傷は起きていないのは当然のことかも知れない。しかしながら、JICAによる走行速度調査の結果、国際建設技術協会によるヒヤリング調査結果からすれば、国道6A号線において過去に、走行に支障をきたすような損傷が起きてもすぐに修繕されなかった例があったことも事実であろう。
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(b) |
今後の維持管理の見通し
今後維持管理が継続して行われる見込みがあるかを、道路建設センター(RCC)を中心に、公共事業運輸省の「人(人材)・物(建設機械・修理施設)・金(予算措置)」の観点から考察した。
人材面では、建設機械の操作・保守、道路・橋梁の施工・施工管理・維持管理について研修員受入事業、専門家派遣事業が実施され、プログラム内での連携の成果も見られたことから、公共事業運輸省の本省については、人材は育成されていると分析される。機械・施設面では、建設機械の保守に関しての技術移転が十分になされ、実際に道路建設センターに供与された機材の点検・保守のレベルが向上していることから当面は大きな問題はないと見受けられる。
以上から考えれば今後の維持管理は予算次第といえるが、予算面は政府予算全体にも関わる問題で今後の見通しを議論することが難しい。近年、カンボジア政府は維持管理のための独自財源の確保に向けての取り組みを始め、道路維持管理基金の設置、ガソリン・ディーゼル油売上税の追加と追加分の同基金への繰り入れを決めたが、維持管理のための予算確保の状況はまだ改善されておらず、予断を許さない。
限られた予算で維持管理を効果的・効率的に行うためには、日常点検・清掃と早めの修繕が必要であるが、これらを担当する州レベルの人材育成もこれからの課題である。
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(c) |
自国資源による類似プロジェクト実施の見通し
今後の維持管理の見通しと同様、予算が最大の制約要因といえる。これまでの、あるいは、予定されているドナーの支援により、主要国道の復旧・改修は一段落してきたといえる。今後の類似プロジェクトは、一般国道・州道・地方道の復旧・改修、首都等のバイパス・環状道路整備等となると考えられるが、膨大な延長距離から、まだまだ外国からの資金協力が必要となろう。
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4.教訓と提言
4.1. 評価を通じて得られた教訓と提言
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目的・プロセスの評価からの教訓と提言
案件要請・採択までのプロセスの他国援助への適用
カンボジアの道路・橋梁分野への支援においては、上位目的と整合性のとれた案件が要請・採択され、適切な実施が確保できるようなプロセスがうまくでき上がっている。特に、わが国・カンボジア側双方がお互いの計画・方針を理解し合い、協調しながら案件要請・統一要望調査票を作成していくための適切なプロセスが確立しているといえる。また、プログラムが全体として効果が増すように事業間の連携が図られ、実施されてきた。特に、支援の重点分野として道路・橋梁分野が掲げられるとすぐに多数の研修員受入が行われたことは、その後の無償プロジェクトのスムーズな実施に大きく寄与したと考えられる。他国での援助のモデルとしても適用可能な点が多いと考えられる。
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結果の評価評価からの教訓と提言
ベースライン調査10・モニタリングの実施と援助効果に関するデータの蓄積
今回の評価調査を通じて、評価指標に関するデータ収集の困難さが痛感された。特に古いデータがなく、完成したばかりの部分については効果が充分現れているとはいい難い点が多かった。また、ベースライン調査も1993年にJICAの支援で行われた国道6A号線復旧計画の実施前のもののみであった。
最近の無償プロジェクトでは基本設計時に評価指標が設定され、指標データの入手手段まで検討されている例が多い。今回の無償プロジェクトにおいても、事業効果としてどのようなものが予測されるかについては、全ての基本設計調査報告書に記載されていたが、近年のものを含めてプロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)にまとめられ、効果の論理性をチェックし、指標データの入手方法までカウンターパートと具体的に協議した記録は見受けられなかった。
プログラム・レベルでいえば、同じ分野については共通の指標・データ入手方法(交通量調査の場合、測定地点・時期・時間帯、車種分類)がとられることが必要である。
ドナー側の評価者にとっては、評価時になって情報を集めようとしても集められない情報もたくさんある。費用のかかるような効果指標についてはドナー側の支援も必要であろうが、カンボジア側においてもカウンターパートとしてベースライン調査・モニタリングを行い、少ない費用でも可能なデータの収集・分析を行えば、各事業やプログラムの効果を客観的に示すことができ、より効果的・効率的な援助資源の活用と将来の優良案件の要請にもつながると考えられる。
維持管理財源確保のための制度整備・運営支援
無償プロジェクトにより復旧・改修された道路・橋梁は、同じく無償プロジェクトで改善された道路建設センターを中心に、修繕に向けての努力がなされており、かなりの効果を上げている。しかし、整備後ずっと維持管理が十分になされてきたとはいい難い。そのボトルネックは予算確保といえる。
カンボジア政府・公共事業運輸省は車輌登録税(年間登録時のものを含む)、通行料金、国境通行税、燃料税等の徴収により、道路・橋梁の維持管理に充てることを計画している。しかしながら、道路維持管理のための独自財源の確保については、基金設置および追加の燃料・ディーゼル油売上税の徴収と同基金への繰り入れが始められたばかりである。車輌登録に関しては、新規の登録制度はあるが、定期的な保有登録・車検制度、自動車保有にかかる税金(重量税等)の徴収制度は整備されていない11。
車輌の重量は道路への負荷であり、重量税の維持管理基金への繰り入れは独自財源の徴収方法として合理性が高いものである。この面を中心とした、わが国の経験を生かした制度整備・運営のための支援が提言できる。カンボジアへの適用可能性については十分な検討が必要であろうが、車検制度・道路整備特別会計を設置・運営してきたわが国の経験を生かした協力が有効であると考えられる。
日常点検・清掃・早めの修繕の実施
限られた予算で維持管理を効果的に行うためには、日常的な点検・清掃・早めの修繕が重要であることは論を俟たない。まず、カンボジア側に着実な実施を提言したい。
日常的な点検・清掃・早めの修繕のためには、公共事業運輸省の本省による作業実施体制の構築およびマニュアル・フォーム類の整備(記録・報告や本格的な修繕の要請のためのものを含む)とともに、作業の第一線に立つ各州公共事業運輸局およびその傘下にある数多くの地方事務所職員の人材育成がこれからの課題である。
公共事業運輸省は省内の教育研修システムの整備・強化を志向している。そのテーマとして日常的な点検・清掃・早めの修繕はふさわしいものといえよう。当初は日本人講師(専門家)によるセミナー開催も必要となろうが、最終的には本省スタッフが講師となって州公共事業運輸局職員等を対象としたセミナーを開催できるように、カリキュラム・教材の開発および講師育成のための支援が提言される。
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4.2 今後のカンボジアの道路網整備への協力のあり方についての提言
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マスタープラン
国土のグランドデザインにもとづくマスタープラン策定への協力
今後は、一般国道・州道・地方道といった様々なレベルの道路に対しての支援が求められ、優先度・整備レベルについても地方々々の社会経済開発の方向性によって異なってくると考えられる。援助資源の最適配分のための、全国的な視野に立った道路網整備に関するマスタープランが必要である。また、重要なことはマスタープランのさらに上位に位置する、日本でいう全国総合開発計画のようないわば国土のグランドデザインがあってこそ有効なマスタープランの策定が可能になるということである(メコン架橋建設の開発調査で焦点となったのは基本的にはこの点であったと見受けられる)。この点でのわが国の経験を生かした技術協力が提案できよう。
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一般国道・州道・地方道の修復
これまでにわが国をはじめ、アジア開発銀行・世界銀行等のドナーの協力により、主要国道の本格的復旧もしくは改修が行われ、あるいは行われる見通しが立ちつつある。また、これからの主要国道の拡幅等の規格向上・都市でのバイパス等の建設は、外国からの資金援助よりも、利用者負担による費用回収が主体となろう。
一方、主要国道の修復・改修は、第1次および第2次の社会経済開発計画(SEDP I・II)および国家貧困削減戦略(NPRS)で重視されている農村と市場あるいはその他の経済機会のある町とを結ぶための入口・前提に過ぎない。今後も道路網整備への協力は必要であり、わが国の協力対象としては大きく分けて以下の2つレベルが考えられる。
一般国道、州道の修復に対する協力
一般国道・州道を合わせると距離でいえば主要国道の2倍以上となる。上記のマスタープランにもとづく、協力の対象となる候補区間もしくは地区の絞り込み・整備水準の検討、および、地元業者等のより一層の活用等が課題となると考えられる。
道路網整備における整備水準と整備延長は相反する関係にあるといえる。社会性・経済性等の検討結果にもとづくドナー側・カンボジア側双方の協議により整備水準と整備延長を決定し、ドナーの援助資源の最適な活用を期すことが求められよう。
地方道の修復に対する協力
これまでの手法とは異なった、住民参加を主体とする事業の計画・要請・実施・維持管理による事業が好ましいと考えられ、適切な支援のためにはこれまでにないスキームの構築が求められよう。
地方道を含めて一般的に道路整備網事業においては、受益者が明確でないことから住民のオーナーシップが得られにくい。一方、地方道といえども整備・大規模な修繕のための工事には地方開発省/州地方開発局や州公共事業運輸局(技術的サポート)と地方事務所による支援が必要であるが、その膨大な延長(約26,000km)から、日常的な手入れは住民によって行われることが望ましい。住民により企画され、計画・建設段階から住民が参加した溜め池アクセスロード改修プロジェクトはモデルとなりうる成功事例と考えられる。
農村における道路整備は灌漑施設・社会インフラ施設とも密接に関わる。学校・保健所にしても施設建設場所の選定と、アクセスが悪い集落からのアクセス向上に寄与する道路整備とは関係がある。農村におけるインフラ整備はセクター毎のアプローチよりも、農民組織を単位とするアプローチの方がうまく機能する可能性が高いと考えられる。コミューン(Commune)等を単位とするコミュニティーが主体となる計画・実施、および、地方開発省(中央・州・地区(District)レベル)による計画立案支援と計画審査のための技術協力と事業実施のための資金協力とを組み合わせた仕組みの構築が必要となろう。草の根無償プロジェクトの溜め池アクセスロード改修プロジェクトのような事業を本格的・全国的(もしくは重点地区)に展開するための新たな協力スキームの構築が提言される。
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1
基本設計調査の内容・時期等を決める準備のために必要に応じて実施される調査。以前は事前調査と呼ばれ、本調査の評価対象案件でいえば、国道6A号線橋梁整備計画以降が予備調査となっている。
2
本調査では、事前調査・基本設計調査を審査のために行われる調査として、プロセス評価においては基本的には審査過程の一部と見なしている。
3
道路等の下を横切る排水溝・地下水路・暗渠・下水溝
4
第三国研修とは、開発途上国において、社会的あるいは文化的環境を同じくする近隣諸国から研修員を受け入れて行われる研修をわが国が資金的・技術的に支援する手法(ODA白書、2000年、外務省)。
5
移動時間を労働のために使用できないことにより失われる費用。
6
メコン架橋建設開発計画調査で用いられた経済分析モデルを適用して算出。
7
インフラプロジェクト効果分析(カンボジア)(中間報告-ヒヤリング単純集計結果とりまとめ)、国際建設技術協会。
8
カンボジア開発資源研究所(CDRI)によるデータ。
9
国道6A号線復旧計画基本設計調査報告書(1993年)、および、Report on the Baseline Survey for Impacts of Route No 6A(1994年、計画省・農林水産省、公共事業運輸省)による。
10
プロジェクト・プログラム等の活動による結果を事後に客観的に評価することを目的として、活動の実施により変化が予測される社会経済指標について、活動実施前に情報・データを収集・整理しておくための調査。
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プノンペン市都市交通計画調査調査報告書、2001年11月、(株)片平エンジニアリング・インターナショナル