第6章 重点分野別の援助実績
6.1 農業・農村開発と農業生産性向上
6.1.1 農業・農村開発セクターの現状と課題
(1)現状と動向
農業部門は、マクロ経済においてGDPで22%、雇用における半分を占める最大の産業部門である。1990年代後半の農業部門の成長は独立後において特筆すべきである。第2章で述べたように1990年代後半GDP成長率5.6%は農業部門に牽引されたといってよい。農業部門の成長は、1980年代における 1)灌漑事業の進展、2)農業投入財(主に種子と化学肥料)の供給による農業生産の増大による。加えて、肥料供給制度の規制緩和による改革の効果があった。
表6-1-1 農業生産実質成長率 (単位:%)
年 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
平均 |
成長率 |
2.2 |
2.5 |
2.5 |
0.9 |
-0.3 |
3.1 |
6.0 |
3.2 |
4.8 |
7.4 |
3.2 |
出典:ADB
|
表6-1-2 主要農産物の生産高
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
米 |
17,856 |
17,852 |
18,252 |
18,340 |
18,042 |
16,833 |
17,687 |
18,882 |
18,862 |
19,905 |
23,066 |
さとうきび |
7,423 |
7,682 |
7,446 |
7,507 |
7,111 |
7,446 |
7,165 |
7,521 |
7,380 |
6,951 |
6,910 |
ジュート |
812 |
962 |
957 |
808 |
808 |
964 |
739 |
883 |
1,057 |
812 |
711 |
豆類 |
512 |
523 |
519 |
502 |
530 |
534 |
525 |
525 |
519 |
417 |
383 |
油性種子 |
438 |
448 |
440 |
449 |
470 |
480 |
471 |
478 |
483 |
448 |
406 |
香辛料 |
330 |
319 |
322 |
321 |
325 |
318 |
313 |
319 |
316 |
395 |
406 |
タバコ |
41 |
34 |
34 |
36 |
38 |
38 |
39 |
38 |
37 |
29 |
35 |
出典:ADB
|
表6-1-3 主要農産物の灌漑耕作面積指数 (1990=100)
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
米 |
100.0 |
103.0 |
112.4 |
112.5 |
112.9 |
118.0 |
122.2 |
125.5 |
129.9 |
135.3 |
小麦 |
100.0 |
101.8 |
93.8 |
98.2 |
979.3 |
102.0 |
108.1 |
115.5 |
124.6 |
130.4 |
豆類 |
100.0 |
75.8 |
52.5 |
45.7 |
91.1 |
102.6 |
50.8 |
98.4 |
105.5 |
113.5 |
油性種子 |
100.0 |
97.8 |
103.1 |
117.1 |
123.8 |
142.8 |
152.6 |
177.3 |
199.1 |
238.2 |
ポテト |
100.0 |
104.3 |
101.9 |
105.1 |
112.4 |
122.3 |
128.3 |
138.5 |
144.6 |
155.1 |
野菜 |
100.0 |
110.4 |
110.1 |
115.5 |
125.6 |
127.0 |
125.9 |
132.8 |
142.5 |
148.8 |
さとうきび |
100.0 |
75.2 |
67.6 |
85.7 |
95.0 |
105.3 |
104.5 |
115.4 |
119.1 |
142.5 |
綿花 |
100.0 |
100.7 |
94.3 |
89.4 |
142.0 |
160.9 |
186.3 |
192.1 |
193.5 |
143.5 |
出典:バングラデシュ国統計局
|
表6-1-4 稲作面積に占める灌漑稲作の割合 (単位:%)
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
面積比 |
23.0 |
23.8 |
26.4 |
26.6 |
27.2 |
28.6 |
29.6 |
29.7 |
30.4 |
32.2 |
出典: バングラデシュ国統計局
|
表6-1-5 米の生産高の占める高収量品種(HYV)の割合 (単位:%)
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
HYV |
56.8 |
5.8 |
64.6 |
65.6 |
67.0 |
67.6 |
69.7 |
70.5 |
73.5 |
78.5 |
出典: |
バングラデシュ国統計局およびADB
1990年代を通して、表6-1-6~7で示されるように、主要穀物(米と小麦)の国内生産高が国内の総需要量1
にほぼ追いつき、主要穀物産品の自給を達成したといえる2。食料自給率の向上により、90年代中頃から後半にかけて穀物輸入の減少が貿易収支構造に良好な影響を与えたものと考えられる。
|
|
表6-1-6 穀物自給量 (単位:千メトリック/トン)
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
米 |
17,856 |
17,852 |
18,252 |
18,341 |
18,041 |
16,838 |
17,687 |
18,883 |
18,862 |
19,905 |
小麦 |
890 |
1,004 |
1,065 |
1,176 |
1,131 |
1,245 |
1,369 |
1,454 |
1,803 |
1,908 |
合計 |
18,746 |
18,856 |
19,317 |
19,517 |
19,172 |
18,083 |
19,056 |
20,337 |
20,665 |
21,893 |
出典:バングラデシュ国統計局およびバングラデシュ銀行
|
表6-1-7 穀物需給バランス (単位:百万メトリック/トン)
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
米+小麦 |
1.4 |
1.2 |
1.3 |
1.1 |
0.4 |
-0.1 |
-0.4 |
0.5 |
0.6 |
1.5 |
出典: |
The Independent Bangladesh Yearbook 1999, 2000.およびADB, Key Indicators 1999, 2000.より算定。上記数値でプラスは超過供給、マイナスは超過需要を示す。
|
|
1990年代後半には、実質賃金は上昇傾向にある。貧困層の中核部分を占める農業労働者が受け取る日当で購入しうる下級米比率は、1990/91年を100として、1996/97年には121と上昇している。このように絶対的貧困は着実に減少しているが、多くのドナーが注目するのは、相対的貧困者が依然として多いこと、また所得分配の不公平性を表すジニ係数が増加傾向にあり、貧富の格差が拡大していることである。
農業部門に牽引された経済成長(穀物自給達成、所得増加)により、食料需要構造に変化が始まっている。特に都市部において食料需要の多様化、高度化に対応した所得弾力性の高い肉や魚の需要が増加し、畜産・養鶏、漁業のサブセクターの年成長率が増大している。
表6-1-8 農業サブセクター別年成長率 (単位:%)
サブセクター |
1997/98
to
1998/99 |
1995/96
to
1998/99 |
1990/91
to
1998/99 |
1973/74
to
1989/90 |
農業部門 |
5.0 |
4.8 |
2.7 |
2.6 |
農業 |
4.3 |
4.0 |
1.4 |
1.7 |
林業 |
4.1 |
4.2 |
3.8 |
3.8 |
畜産 |
7.6 |
7.8 |
7.2 |
5.2 |
漁業 |
8.0 |
8.4 |
7.8 |
2.3 |
非農業部門 |
5.2 |
5.6 |
6.2 |
6.0 |
国内総生産 |
5.2 |
5.6 |
4.9 |
4.1 |
出典: バングラデシュ国統計局およびCentre for Policy Dialogue
|
農村開発に関して以下の二点を指摘する。
第一点:青年海外協力隊員の貢献が指摘できる。バランスよい農業技術分野の派遣に加えて一定比率の村落開発普及員が参加している。これにより農業技術普及や普及制度整備への支援がなされ、移転された技術を支える人的資源の向上に資していることは特筆される。
第二点:農村開発研究および農業技術普及を目的とする農村開発研究所(BARD)をカウンターパートとした「農業・農村開発研究」プロジェクト(1986年~1990年)は、継続性を持った「農村開発実験(JSRDE)」プロジェクトをへて、住民のニーズに沿った行政サービスに対するアクセス向上を目的とする農村開発の制度づくりを側面から支える「住民参加型農村開発行政支援計画(PRDP)」に発展している。
上記プロジェクト(PRDP)は、次の点で注目される。1)青年海外協力隊員の活動と連携し、長年、多くの隊員が各地で蓄積した経験を集積した地方行政制度整備支援が計画されている。2)県職員が派遣され、我が国地方自治体が戦後経済復興の過程で蓄積した農業改良普及制度・生活改良普及制度などの農村開発に関するノウハウを移転させる目的で協力している。人材派遣の観点からODAへの幅広い国民参加が促進されている。
(2)農業・農村開発分野の課題
穀物自給達成に見られるように、1990年代後半の農業技術、農業生産性上昇は顕著であった。しかし、バングラデシュ国の第5次5ヵ年開発計画の最優先課題である貧困緩和の観点からは課題が残されたと言える。以下の課題に対処し、経済成長の成果を農村部へ波及させる努力と農村部から変化を起しうる開発のモデル形成と適用が望まれる。なお、農村開発の課題については、6.1.3節「教訓と提言」で述べることとする。
- 生産と生活の現場である集落・地域における組織づくりを通して、所得格差の是正、BHN充足のための施策整備など、「広義の農村開発:統合型農村開発プログラム」を進める目的で、財政と政府行政諸サービスを地方に移譲し、住民参加の下で決める地方行政改革が不可避である。
- 農産物の付加価値を高めるアグロ・インダストリー育成を目的とした流通、加工、販売に関する基盤整備は充分進展しておらず更なる支援を要する。
- 高い生産力を維持しつつ環境保全型農業への転換が急務である。広範な砒素汚染に象徴される農業環境条件の劣悪化が進んでいる。砒素の原因は特定されていないが、化学肥料の多投、病虫害対策の農薬散布、乾季灌漑用水として多量の地下水汲み上げなどを要素とする「緑の革命」技術すなわち穀物自給達成と関係していることは疑えない。
- 道路および鉄道による陸上交通網が整備された結果、既存の水系が分断されてしまった。化学肥料や農薬の害と相乗して、雨季にデルタ低地氾濫源に広がり繁殖する淡水魚類の生息地環境が著しく劣悪化している。農村人口の貴重なタンパク源が急速に失われている。
- 米に加え、野菜やジャガイモなど収益の高い作物が増加し、作季が重なる乾季作の豆類やカラシ菜などの油脂作物は減少している。植物性タンパクや脂肪摂取の観点から改善が指摘されている。単一作物栽培に特化せず、栄養摂取、地力維持、環境保全などにも配慮した多様で複合的な作付け体系の導入が望まれる。
表6-1-9 農業所得の部門別比率 (単位:%)
部 門 |
1973/74 |
1989/90 |
1998/99 |
2020 (予測) |
年平均成長率 2000-2020(予測) |
農業 |
80.0 |
71.5 |
57.8 |
47.0 |
1.7 |
林業 |
4.2 |
9.8 |
10.9 |
11.8 |
3.2 |
畜産 |
7.6 |
9.3 |
12.9 |
19.9 |
5.0 |
漁業 |
8.2 |
9.5 |
18.4 |
21.3 |
3.5 |
計 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
2.8 |
出典: バングラデシュ国統計局およびCentre for Policy Dialogue
|
6.1.2 我が国の取組みと貢献
(1)援助の特色
1971年独立の直後、戦闘で破壊された国土、疲弊した国民には、食料、家屋、保健医療などBHNそのものが絶対的に不足していた。我が国政府やNGOはいち早く緊急援助を開始した。インド、パキスタン、スリランカなどは、早い時期から我が国の稲作技術に強い期待を抱いていた。
遡って1953年、パキスタンに対する農業協力のための日本の調査団が東西両パキスタン調査を行っている。我が国は1954年10月6日(国際協力の日に制定)にコロンボ計画に参加し、1956年には同計画の下で各々4人ずつの青年が東西両パキスタンに派遣された。続いて1960年には、東パキスタン(現在のバングラデシュ国)のダッカ近郊のテジガオンに農業訓練センターを開設する協定が結ばれた。専門家はこの年からコミラの農村開発研究所(Pakistan Academy for Rural Development、後のBARD:Bangladesh Academy for Rural Development)に定着し、同所の農業技術部門を担当した。正条植え、田打ち車による除草、足踏脱穀機などは、同研究所から1960年代に普及した稲作技術であった。
BARDが位置するコミラ県は、雨季にも水没しない野菜栽培に適した耕地があり、かつダッカとチッタゴン港を結ぶ幹線国道が通過し、2大市場へのアクセスがあるなど恵まれた立地条件から野菜産地を形成していく。パキスタン時代に稲作の技術協力が行われていたことから、1973年から派遣が始まった青年海外協力隊(JOCV)によるキャベツ、カリフラワー、大根など特に冬野菜栽培の技術指導が受け入れられ、重点的に後発の隊員に継続され、一大野菜産地となっている。労働集約的な稲作、冬作野菜などの日本農業の経験と技術を生かした農業技術協力が独立以前から始まっていた。「緑の革命」が1970年代後半以降、急速に普及した背景として日本の農業技術援助の貢献は大きい。
(2)援助の実績
(A)資金協力
表6-2-1は、1990年以降の資金協力と技術協力の実績である。道路と灌漑施設で代表される農業基盤整備が重点的に実施された。生活の場である集落と市場、ユニオン事務所を結ぶ道路建設、灌漑施設などの援助により実施された農村基盤整備は、農産物および農業投入財市場へのアクセスを通して、稲作生産性上昇を支えた。
ハードなインフラ整備が中心であったが、人と組織づくりを組み入れた総合的な農村振興策であるモデル農村整備計画や、村落組織とユニオン・ウポジラなどの地方行政機関との連携強化を目指した研究プロジェクト「農村開発実験(JSRDE)」(1992年~1995年)は、2000年から開始された技協プロジェクト「住民参加型農村開発行政支援計画(PRDP)」に繋がる一連の制度整備支援プロジェクであったと位置付けられる。また、1980年代に実施された農業大学院拡充計画、グラミン銀行への資金協力など人材育成、雇用創出支援も実施されている。草の根無償は、人的資源の開発、ジェンダー・ギャップの解消、社会的安全網の構築などこれまで手薄であった分野における貴重な実績となっている。
表6-1-10 農業・農村開発分野における資金協力実績 (1990~99年)
開発目標 |
事 業 |
スキーム |
農村生活水準の向上 |
モデル農村整備計画 |
無償、プロ技、JOCV派遣 |
バングラデシュ農業大学院拡充計画 |
無償、プロ技協 |
農村開発信用供与事業(グラミン銀行) |
有償 |
農村電化事業 |
有償 |
北部農村インフラ整備事業 |
有償 |
貧困女性雇用創出(養鶏)計画 |
草の根無償 |
農業生産性の向上 穀物自給の達成 |
ナラヤンガンジ・ナルシンジ灌漑施設建設計画 |
無償 |
ナラヤンガンジ・ナルシンジ排水灌漑事業(E/S) |
有償 |
モノハカリ水揚・貯蔵施設建設事業 |
無償 |
シェルプール郡食糧増産計画 |
草の根無償 |
シェライ村小作農組合農業機械整備計画 |
草の根無償 |
零細農家簡易給水ポンプ普及計画 |
草の根無償 |
国際エンジェル農業研修拡充計画 |
草の根無償 |
農業カレッジ地域植林計画 |
草の根無償 |
肥料工場建設改修事業 |
有償 |
出典:ODA白書などより作成
|
(B)技術協力:青年海外協力隊の派遣
バングラデシュ国には、南西アジアで最も多数の協力隊が派遣されている。内訳は1991年までは農林水産業向けが48%を占めたが、2001年までの累積では40%と低下傾向にある(表6-2-2)。農業・農村開発分野におけるサブ分野別の派遣割合は表6-2-3のとおりである。ほほ、各分野がバランスよく派遣されており、継続的に多量の協力隊員派遣が行われ、草の根レベルでの技術支援、人づくりに貢献している点が対バングラデシュングラデシュ国援助の特色といえる。
農村開発庁(BRDB)によると、ベンガル語を話し、現場で農民と同じ食事をし、農村住民の日常生活の中から改善を導き出している協力隊援助に対しては、非常に高い評価を与えている。他のドナーは資金提供が中心であるのに対し、我が国の協力隊による援助協力は、隊員を通じて、農業技術や生活技術の移転と組織づくり、人づくりにおいて顔の見える信頼されるものとなっていると言える。
表6-1-11 JOCV分野別派遣実績 (単位:人)
年 度 |
1991年度 までの累計 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
累計 |
農林水産 |
226 |
7 |
10 |
11 |
7 |
11 |
11 |
10 |
5 |
3 |
3 |
304 |
農産加工 |
15 |
2 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
20 |
保守操作 |
72 |
1 |
7 |
4 |
3 |
3 |
4 |
3 |
4 |
2 |
3 |
106 |
土木建築 |
18 |
1 |
1 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
23 |
保健衛生 |
29 |
6 |
5 |
4 |
11 |
5 |
7 |
8 |
9 |
4 |
6 |
94 |
教育文化 |
85 |
7 |
9 |
11 |
6 |
8 |
5 |
6 |
6 |
10 |
8 |
161 |
スポーツ |
27 |
2 |
2 |
3 |
3 |
3 |
2 |
1 |
5 |
2 |
4 |
54 |
合 計 |
472 |
26 |
34 |
35 |
32 |
30 |
29 |
28 |
29 |
23 |
24 |
762 |
|
表6-1-12 農業・農村開発サブセクター別派遣累計割合 (単位:%)
サブセクター |
累計割合 |
養蚕 |
0.3 |
食用作物 |
0.3 |
家畜飼育 |
11.8 |
稲作 |
15.8 |
養鶏 |
1.6 |
園芸作物 |
5.3 |
獣医師 |
0.7 |
野菜 |
18.4 |
農業協同組合 |
3.0 |
果樹 |
1.0 |
村落開発普及員 |
9.5 |
きのこ |
1.3 |
森林経営 |
0.3 |
土壌肥料 |
0.3 |
漁業生産 |
0.3 |
農業土木 |
1.3 |
養殖 |
7.9 |
農業機械 |
20.7 |
合計 |
100.0 |
出典:国際協力事業団
|
(C)技術協力:専門家派遣とプロジェクト方式技術協力
農業・農村開発分野においては、専門家派遣と研修員の受け入れが非常に積極的に実施されている。バングラデシュ国に対し、毎年1~2件ペースにてプロ技協案件が実施されているが、農業・農村開発分野での実績が多い。モデル農村開発計画、バングラデシュ農業大学院拡充計画では無償と技術協力を組合わせた連携支援が行われ、施設の維持管理、技術移転の観点から個別の単独事業より支援の効果は包括的かつ持続的である。モデル農村開発計画は、無償、技術協力、協力隊派遣が連携のうえ援助が実施された事例である。
(3)我が国援助の貢献と課題
我が国の農業・農村開発分野における援助の包括的な貢献度合いを定性的にみるとすれば以下のとおり評価されるものと思われる。
- 穀物自給の達成、農業生産性の向上、農村インフラ整備を通じた住民による農村資源活用と外部資源へのアクセス向上における著しい改善が見られた。しかしながら、農村での所得創出を通した貧困緩和に対しては戦略が不明確であった。
- 穀物自給の達成、農業生産性の向上、農村インフラ整備については、我が国が長年にわたり多くの国々で豊富な援助経験とノウハウを蓄積する分野である。所得格差是正を含む農村生活水準の向上については、我が国の戦後復興期において重点的かつ包括的な取組みがなされ、高い達成度を誇っている。しかしながら、所得格差是正を含む農村生活水準の向上は、他の多くのドナーやバングラデシュ政府自身が重点化している。よって、我が国の戦後復興期の経験が、バングラデシュ国における農村開発協力の経験に基づいて修正された形で積極的に生かされることが望まれる。
農業・農村開発分野において、我が国の援助効果が良好に発現され、とりわけ食糧の増産と農業生産性の向上に貢献したと報告される事例としては、ナラヤンガンジ・ナルシンジ灌漑施設建設計画(無償)が挙げられる。
大河川の氾濫原は、雨季には降雨と河川増水により耕地が水没する。乾季には河床が低下し、耕地に水が届かず旱魃状態になり、食料の増産を阻む。1981年にナラヤンガンジ・ナルシンジ地区の末端区域に無償資金協力により建設した灌漑施設事業の成功を受け、隣接区域についても計画を拡張した。対象区域を洪水防御堤で囲み輪中化し、河川と隣接した堤防上にポンプ場を設置し、雨季には輪中内から排水し、乾季には河川から揚水灌漑する洪水制御型施設である。 |
ナラヤンガンジ・ナルシンジ
灌漑施設建設事業(ポンプ場)
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天水依存の不安定な雨季の稲1作から改良品種を導入した3期作を達成し、土地利用率上昇(約2倍)、安定化した稲生産により生産高の顕著な増加(約5倍)が達成された。また、自動車道路兼用の堤防によりダッカとの物流が著しく改善された。果樹、野菜作、採卵鶏・ブロイラー飼養など農業経営の多角化や家内工業が育った。通勤圏となり非農業者の宅地も増加している。このように農業および生活基盤が整備された結果、この20年間で人口が増加し、地価が高騰(約10倍)している。 |
ナラヤンガンジ・ナルシンジ
灌漑施設建設事業(用水路堤)
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なお、農業生産の増加は達成されたが、維持管理費不足から堤防および水路の維持などが十分ではないと報告されている。最末端水路の維持管理を目的とする水利組合の強化や組合員からの水利費徴収などがこうした新たな事態に対する改善策として一層強化される必要がある。
6.1.3 教訓と提言
今後我が国の援助が目指すべき方向と具体的な支援策に関する提言は以下のとおりである。
(1)改善方向の提示
「緑の革命」技術が80年代後半から農業生産力を大きく引き上げる以前に、日本の農業技術援助が肥培管理技術などの向上に大きく貢献し、灌漑施設建設、道路などの農業基盤整備が補完する形で実施された点は注目される。こうしたソフトとハードを組合わせた農業技術協力の経験をふまえた今後の方向は、大きく2つに分けられよう。
- 「緑の革命」という技術革新により食糧穀物の自給はほぼ達成された。一方、灌漑による地下水位の低下、砒素汚染問題、化学肥料や農薬使用による地力低下、氾濫による定期的攪乱で作り出された多様な農業生態環境が著しい負荷を被った。地下水は無尽蔵に利用できず、希少資源であることが明らかになっている。
例えバングラデシュ国土の約3分の1に当たるデルタ地氾濫原は、稚魚の放流により漁獲高を増大させうる潜在力があるとされる。農業環境改善のインフラ整備に加え、氾濫源養殖の投資費用をどのように負担するかについて、組織化・制度づくりおよび養殖技術に対する調査研究が不可欠となろう。
安定した国際収支を維持するためにも、高い食料自給率の維持は今後とも大きな目標であり、食料の生産性と両立する環境保全型農業の実施が推奨される。
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貧困の更なる削減を達成するにあたっては、行政の網の目から取り残された貧困層の所得向上を図らねばならない。諸政策の対象を拡大するために、住民参加を促し、地方行政との連携を強化する地方行政改革と住民の組織化を一層推し進める必要がある。住民の組織化が進めば、行政サービスの受け皿が明確化し、行政側では住民ニーズに応じセクター横断的な調整を行った的確なサービス提供が可能となる。また住民側からすれば、行政サービスに対するアクセスが容易になり、行政サービスの効率化や透明性確保に対する関心が高まることが期待される。
農村住民を組織し、村落内の相互扶助的関係を強化するための支援および地方自治体の行政機能強化にかかる支援の強化も重要である。今後は住民参加を可能とする村落組織の評価や、協同組合の再評価、行政機構の改善(財政の強化、地方分権による住民サービスの調整・強化)など制度面(Institutional Building)に関する協力が必要である。こうした協力の一つとして、ある1つのウポジラにおいて技協プロジェクト(PRDP)が先駆的に試みられている。将来的には、こうした試みの成果を全国的に普及させる支援が必要になると考えられる。持続可能性とは、住民の組織化なしには達成されない。例えば、灌漑施設(ハード)の管理移管は、受け皿となる組織(ソフト)がなければ不可能である。
換言すれバングラデシュ政府開発援助大綱でいう「自助努力支援」への方向に沿った協力が一層強く求められる。
(2)具体的な改善案
- インフラ整備と組み合わせた人的資源の開発、保健衛生、初等教育などの社会資本の整備を一層強化する。無償、有償と組み合わせたプロジェクト方式技術協力、協力隊派遣、草の根無償などをセクター別、或いはセクター横断的に地域を対象にして組立てる。事例からこうした援助スキーム総合化の有効性は示唆される。地域におけるスキームの総合化とバングラデシュ国による地方分権化の流れは、我が国の農業・農村開発の経験を生かした適切な制度づくり支援が実施されるならば、住民参加を促進する要因になりうる。間接的に、中央省庁の調整を容易にする可能性が秘められている。
具体的な方策として、灌漑設備建設とその受け皿である維持管理、費用負担組織の育成を同時に進め、かかるソフト・コンポーネントに対する支援パッケージを組み合わせたうえで協力を行う。我が国技術協力スキームを通して育成した組織によるソフトプログラム監理のもと、現地NGOに実施を任せるのも一案であろう。
- 地方行政の末端であるユニオンを地域単位として、住民の生産活動から生活に対する各省庁の出先機関、スタッフによる行政サービスの調整強化および住民参加への支援を行う。
貧困撲滅、社会開発にはこうした地域単位、またはセクター内での連携強化が大きく貢献すると考えられる。1997年の改正地方自治体法は、ユニオン評議会への権限委譲を規定している。中央政府が行っている行政サービス(保健、農業技術普及、識字教育など)のよりの村落のニーズに合った実施を促進する観点から、ユニオン庁舎の建設が進められている。一方、バングラデシュ政府の地方分権化に関し具体的な進捗が見られないこともあり、ユニオン庁舎も所期効果の発現には至っていない。したがって、バングラデシュ国政府による地方分権の推進(特にユニオンの農村開発調整能力強化)、その結果としての末端レベルにおける行政サービスの効率・効果の改善が期待される。
中央省庁の出先機関、地区住民、様々な団体、組織を市町村レベルで調整し、社会的公正度の高い農業・農村発展を達成した我が国の経験から多くの示唆を得ることができよう。
1 The Independent Bangladesh Yearbook 1999, 2000およびADBより、1999年の国民一人当りの平均需要は約159キロと推計される。各年の穀物需要量は、同推計値に年次人口統計値を掛け合わせたものである。
2 穀物需要量は、人口と一人当たりの平均消費量(159キロ)の積である(表6-1-7参照)。これにサイクロンなどの自然災害により生産が減少した年の備蓄用米の確保、および種子用と輸送・加工調整時のロス(約2%)の合計が全生産高の約10%を考慮する必要がある(Raisuddin Ahmed, Retrospects and Prospects of the Rice Economy of Bangladesh, 2001)。