第5章 開発援助のセクター別インパクト分析
5.2 セクター別開発資源配分状況
本章における分析の主な目的は、これまでのプロジェクト単位のアウトプットに主眼を置く評価ではなく、上位レベルのマクロ的なインパクト評価により、ODAセクターの選択と集中、そして援助形態の組み合わせについて考察することである。そのために必要なのがODAのセクター/タイプ別評価である。具体的な分析手法および分析結果は次節以降で説明する。本節では、政府開発投資と開発援助のセクター別配分実績をまとめることによって、重点開発分野の把握に努める。また、セクター別援助依存度を明らかにし、後のODAセクター/タイプ別評価結果とともに、第8章で展開する今後の援助配分の方向性を論じる際の一助とする。
分析に用いるデータはバングラデシュ国財務省経済関係局発行の「Flow of External Resources into Bangladesh, 2000」に記載されているRevised ADP(1982~99年)である。分析に際しては、同報告書に準じ17セクターに分類した。まず、同期間における開発援助を含まない政府開発投資のセクター別配分実績(平均割合)によると、トップ・プライオリティーは運輸交通分野(16.8%)、次いで電力開発分野(13.8%)、水資源開発分野(13.5%)、教育分野(10.5%)などである。セクター別政府開発投資を資本投資と技術投資に分けると、資本投資のプライオリティー・セクターは、運輸交通分野(16.9%)、次いで電力開発分野(13.9%)、水資源開発分野(13.3%)、教育分野(10.6%)などである。技術投資に関しては、水資源開発分野(31.7%)や保健医療・家族計画(13.3%)などへの配分割合が高くなっている(表5-2-1)。
表5-2-1 政府開発投資のセクター別配分割合:1982~99年平均 (単位:%)
セクター |
政府開発投資 |
資本投資 |
技術投資 |
農業 |
9.8 |
9.8 |
8.8 |
農村・組織開発 |
4.4 |
4.5 |
0.7 |
水資源開発 |
13.5 |
13.3 |
31.7 |
工業 |
6.6 |
6.6 |
8.4 |
電力 |
13.8 |
13.9 |
4.7 |
石油・ガス・天然資源開発 |
5.0 |
5.0 |
3.3 |
運輸交通 |
16.8 |
16.9 |
9.2 |
通信 |
4.2 |
4.3 |
0.4 |
住宅・施設・上水道整備 |
6.9 |
7.0 |
5.9 |
教育 |
10.5 |
10.6 |
2.4 |
スポーツ・文化 |
1.0 |
1.0 |
0.1 |
保険医療・家族計画 |
4.1 |
3.9 |
13.3 |
マスメディア |
0.6 |
0.6 |
0.3 |
社会保障、女性・青少年開発 |
1.4 |
1.4 |
0.4 |
行政組織強化 |
0.6 |
0.5 |
9.6 |
科学・技術研究 |
0.5 |
0.5 |
0.3 |
職業訓練 |
0.3 |
0.3 |
0.5 |
計 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
備考: |
MoF, Flow of External Resources into Bangladesh 2000. より算出。セクター分類はバングラデシュ政府の分類に拠る。 |
|
一方、同期間における開発援助のセクター別プライオリティーは、電力開発分野への配分が最も多く、平均18.0%を占めている。次いで運輸交通(17.1%)、水資源開発分野(14.0%)などである。同資金協力のセクター別配分割合によると、電力開発分野(18.6%)、運輸交通分野(17.6%)、水資源開発分野(13.4%)などが大きな割合を占めている。技術協力の主要なセクターは、水資源開発分野(22.1%)、農業分野(11.6%)、工業開発分野(11.2%)、運輸交通分野(10.9%)の順になる(表5-2-2)。
表5-2-2 開発援助のセクター別配分割合: 1982~99年平均 (単位:%)
セクター |
開発援助 |
資金援助 |
技術援助 |
農業 |
9.0 |
8.8 |
11.6 |
農村・組織開発 |
7.1 |
7.3 |
3.6 |
水資源開発 |
14.0 |
13.4 |
22.1 |
工業 |
7.5 |
7.2 |
11.2 |
電力 |
18.0 |
18.6 |
4.2 |
石油・ガス・天然資源開発 |
7.2 |
7.3 |
3.6 |
運輸交通 |
17.1 |
17.6 |
10.9 |
通信 |
2.0 |
2.1 |
0.6 |
住宅・施設・上水道整備 |
4.3 |
4.2 |
7.7 |
教育 |
7.4 |
7.7 |
5.5 |
スポーツ・文化 |
0.0 |
0.0 |
0.2 |
保険医療・家族計画 |
4.1 |
4.0 |
6.1 |
マスメディア |
0.4 |
0.4 |
0.2 |
社会保障、女性・青少年開発 |
0.5 |
0.5 |
1.0 |
行政組織強化 |
0.9 |
0.4 |
9.4 |
科学・技術研究 |
0.3 |
0.3 |
1.8 |
職業訓練 |
0.3 |
0.3 |
0.4 |
計 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
備考: |
MoF, Flow of External Resources into Bangladesh 2000. より算出
|
|
政府自主財源と開発援助の重点配分セクターを比較すると、ともに「水資源開発」、「電力」、「運輸交通」分野などの経済・社会インフラ整備へ重点的に配分されている。一方、自主財源ではこの他に「教育」や「保健医療・家族計画」分野などの人的資源開発を重点化しているのに対し、開発援助は「農業」や「工業」分野などの生産部門の能力向上を重点化している(表5-2-3)。
表5-2-3 重点配分セクター比較
重点配分セクター |
水資源開発 |
電力 |
運輸交通 |
教育 |
保健医療
家族計画 |
農業 |
工業 |
政府自主財源 |
○ |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
資本投資 |
○ |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
技術投資 |
○ |
|
|
|
○ |
|
|
開発援助 |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
資金援助 |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
技術援助 |
○ |
|
○ |
|
|
○ |
○ |
|
次に、各セクターの援助依存度を比較してみると、農村・組織開発分野(65.3%)、石油・ガス・天然資源開発分野(60.7%)、行政組織強化(62.0%)などに対する援助依存度が大きい。一方、自主財源に依存した開発が行われている分野はスポーツ・文化(95.7%)、社会保障、女性・青少年開発(71.2%)、科学・技術研究(66.0%)、職業訓練(64.7%)、通信(63.2%)、マスメディア(61.2%)などである(表5-2-4)。
表5-2-4 セクター別援助依存度:1982~99年平均 (単位:%)
セクター |
開発援助 |
政府自主財源 |
農業 |
52.8 |
47.2 |
農村・組織開発 |
65.3 |
34.7 |
水資源開発 |
50.5 |
44.3 |
工業 |
47.8 |
52.2 |
電力 |
58.4 |
41.6 |
石油・ガス・天然資源開発 |
60.7 |
39.3 |
運輸交通 |
51.5 |
48.5 |
通信 |
36.8 |
63.2 |
住宅・施設・上水道整備 |
41.3 |
58.7 |
教育 |
45.0 |
55.0 |
スポーツ・文化 |
4.3 |
95.7 |
保険医療・家族計画 |
49.6 |
50.4 |
マスメディア |
33.2 |
61.2 |
社会保障、女性・青少年開発 |
28.8 |
71.2 |
行政組織強化 |
62.0 |
38.0 |
科学・技術研究 |
34.0 |
66.0 |
職業訓練 |
35.3 |
64.7 |
備考: |
MoF, Flow of External Resources into Bangladesh 2000. より算出 |
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