第4章 他の援助国・国際機関の援助動向
4.3 ドナー間援助協調と我が国の役割分担
4.3.1 バングラデシュ国におけるドナー間援助協調の仕組み
バングラデシュ国に対して50を超えるドナーが援助を行っており、国際機関および欧米主要ドナーを中心としてドナー間援助協調が活発に行われている。その最大のものは世銀主催のもと毎年パリで開催されるバングラデシュ開発フォーラムであり、バングラデシュ国政府と各ドナー間のパートナーシップに関わる調整が行われる。2002年3月に行われた同フォーラムでは、経済成長と貧困削減のためには、ガバナンスの向上、とりわけ法と秩序や汚職問題の改善、断固とした構造改革の早期実施が緊急の優先課題であることがドナー側より表明された。一方、人間開発に力点を置いた、全てのセクターを通じた民間セクター主導による貧困層に直接裨益するような経済成長の重要性がバングラデシュ国政府およびドナーの間で合意された。また、現在作成中のPRSPの内容に沿って、開発計画や開発予算の策定に取組む必要があること、市民社会の役割なかでもNGOの役割の重要性が認識されている
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またバングラデシュ国国内ではLCG(Local Cosulting Group)会合と呼ばれる国際機関および米欧主要ドナーをメンバーとするドナー会合が毎月開催され、現場実務者レベルでのドナー間援助協力および調整、情報交換の場を提供している。LCGには各セクターおよび課題ごとに26の部会が設けられ、バングラデシュ国政府への政策提言、各ドナーの援助方針のすり合わせ、具体的プロジェクトおよびプログラムの調整、情報交換などが行われる。またLCGでは保健・人口および教育などの分野についてはセクターワイド・アプローチを進めている。
従来の開発援助は各ドナーの援助計画に基づいて実施されてきたが、このやり方では個々のプロジェクト相互の調整が充分ではなく、プロジェクトや対象地域の重複、援助投入タイミングの非効率性が指摘されるケースもあった。また被援助国の援助吸収能力の問題とも相まって、必ずしも期待された援助効果を得られないリスクも認識されていた。そのためドナーと被援助国が協力して、特定のセクターごとに各ドナーの援助方針と当該国の開発政策との整合性の取れたセクター開発計画を策定し、各ドナーはその開発計画を基に協調してセクターを行う「セクターワイド・アプローチ」が一部のセクターについて導入されるに至っている
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LCG各部会では各ドナーが議長を務めており、世銀は地方インフラ、上水・衛生、農業、ADBはエネルギー、都市開発、鉄道、イギリスは教育、漁業、道路、カナダはマイクロファイナンス、オランダは水管理、保健・人口などの議長役を担当し、各部会を主導している。我が国が議長を務めている部会はない。また、バングラデシュ政府はLCGにメンバーとして参加しないため、LCGの決定事項に対するバングラデシュ政府のコミットメントの弱さを指摘する声もある。
基本的にドナー間援助協調に関しては、世銀、ADB、UNDP、UNICEF、EU等の国際機関、並びにイギリス、ドイツ、カナダ、北欧諸国を中心とする欧米ドナーが、LCGの機能を戦略的に活用し、活発にドナー連携を進めている。特に一国あたりの援助額が世銀、ADB、我が国と比較して小規模なイギリスやその他の欧州国ドナーなどは、比較的少ない援助額から最大限の援助効果やバングラデシュ国に対する影響力を得るために、他ドナーのリソースが活用できる援助協調は、援助戦略上、大きな意味を持つ。
また多くのドナーが国際・国内NGOの活用と連携を進めている。USAIDなどは開発予算の3割以上を、NGOを通じた支援活動へ直接配分するなど、NGOは対バングラデシュ国援助に不可欠なパートナーである。またガバナンスの改善、公的部門および事業実施機関の能力強化、制度改革等は、貧困削減の実現とそのための開発プログラムの実施にとって、取組むべき最優先課題であるとの認識は、多くのドナーで共有されている。従って世銀主導のもと現在策定中のPRSPに対しても多くのドナーが支持している。
一方、我が国は必ずしもセクターワイド・アプローチの考え方ではなく、相手国政府の自助努力、要請主義、政治介入を行わないとの従来の援助方針を尊重し、コンディショナリティーを付けないプロジェクトベースでの開発協力を行う立場を取っている。
例えばセクターワイド・アプローチの特徴の1つに、コモンバスケット方式の活用が挙げられる。バングラデシュ政府およびドナー間で合意・形成された包括的なセクター開発計画とそれを構成する各プロジェクトおよびプログラムに対して共通資金プールから資金配分するというものである。このような形態での資金協力は、日本からの資金使途の特定やプログラム実施のモニタリング等が難しく、現行の我が国ODAスキームや制度では充分に対応できない点が指摘されている
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従ってLCGにおける主流派の議論には、我が国は一定の距離を置いている。しかし、保健・人口分野では第6章でのべるように、我が国は保健人口セクター・プログラム(HPSP)
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の枠組みを尊重し、各ドナーの動きや進捗と歩調を合わせて、セクター全体の動きと協調しながら個別プロジェクトを進めている。母子保健研修所改修計画(無償資金協力)やリプロダクティブ・ヘルス人材開発プロジェクト(プロジェクト方式技術協力)などは、その例である。我が国の独自性を堅持しながら、一方でセクター・プログラムのとの整合性を求めた対応であった。
4.3.2 我が国のドナー間援助協調と方向性
これまでに我が国と他ドナーとの間で援助協調や連携がなされた案件事例について見てみると、インフラ整備の分野では、ジャムナ多目的橋建設事業(有償資金協力)が世銀、ADBとの協調融資で行われた。また農村電化事業フェーズIV-CおよびV-B(有償資金協力)はUSAIDが策定した5つのフェーズから構成される全国電化プログラムに対して協力を行ったもので、我が国はフェーズIV-CとV-Bを担当し、他ドナーとの調整のもと事業が進められた。
保健・医療・人口分野では第1次および第2次ポリオ撲滅計画(無償資金協力)、新生児破傷風・はしか予防接種拡大計画(無償資金協力)、ヨード欠乏症対策計画(無償資金協力)などはUNICEFとの積極的なパートナーシップにより推進された事業であった。我が国とUNICEFとの協力関係は1988年の緊急救援物資調達への財政支援から始まり、徐々に予防接種や家族計画を含む保健、人口、栄養などの分野への技術協力へと拡大してきた。
このような協力関係の実績を基に、我が国とUNICEFは連携・協力対象分野を、基礎教育、安全な飲み水、緊急産科の分野へと拡大する意向で、両者の間で準備が進められている。例えば基礎教育分野では、現在UNICEFがバングラデシュ国政府と共同で実施・運営しているIDEAL(Intensive District Approach to Education for All)と呼ばれる教育プログラムへの日本の参画準備が進められている。IEDALは、教員へのトレーニング、教授法および教材の改善、学校運営へのコミュニティの参加などを支援することにより、教育サービスの質の向上と、児童の授業参画を促進し、初等教育就学率の向上を狙うものである。
UNICEFでは2001年末までに30のディストリクト内の小学校20,000校、5百万人の児童を対象にIDEALを展開する計画である。UNICEFではこのうち幾つかの地域を日本が協力を行うパイロット地区として指定し、教育分野におけるソフト型援助実績の浅い我が国に対して、UNICEFとの共同事業を通じて、ノウハウの移転や日本側援助関係者の人材育成を支援することになっている。
砒素汚染対策では日本からの技術協力、資機材調達への財政支援、および本邦NGOとの連携を進めたいとしている。救急産科については、現在実施中のリプロダクティブ・ヘルス人材開発プロジェクトとの連携を視野に入れている。
日本とUNICEFのパートナーシップ強化の流れは、重点分野のひとつである保健・人口および教育を含む社会セクターへのソフト型支援の拡大を進めたい日本政府の意向、そのために当該分野で豊富な経験と実績を持つUNICEFとの連携が有用であると考える日本側の立場、一方で主要ドナーである日本との連携協力により、日本が持つリソースを有効に活用し、UNICEFが目指す援助活動の一層の拡大と実効性を高めたいとするUNICEFの意向が一致したことにより促進されたものと考えられる。
行政能力やガバナンスの大きな欠陥を抱えるバングラデシュ国において効率性と実効性を伴う開発援助を進めるには、NGOや市民組織と並んでドナーとの連携や協調は不可欠であり、そのことの重要性は現行の我が国の対バングラデシュ国国別援助計画でも謳われている。
我が国のバングラデシュ国における援助実績と援助規模を見るとき、各ドナーやNGOの日本との一層のパートナーシップ強化を求める声は大きい。バングラデシュ国におけるUNICEFとの連携強化の動きは、その期待の現れである。今後、さらに他ドナーとの援助協調を進めるうえでも、現行のODA制度やスキームの改善が期待される。
【ポリオ撲滅計画(無償資金協力)にみられる援助協調のケース】
バングラデシュ政府保健家族計画省では世界保健機関(WHO)の国別ポリオ撲滅計画のもと、WHO、UNICEF、海外ドナー、およびNGOと協力しながら、ポリオ撲滅を含む拡大予防接種計画(EPI)を進めている。各協力機関の協力内容および役割をまとめると以下のようになる。
- WHO
政策支援、ポリオサーベイランス体制の整備、実施状況のモニタリング等の技術面での指導
- UNICEF
母子保健に協力の対象を絞り、ワクチン供給やコールドチェーン体制の整備等への資金協力、スタッフへのトレーニング
- 世銀、英国、スウェーデン
協力して保健人口セクタープログラムの実施およびUNICEFを通じての支援
- アメリカ
独自にNGOと協力し、都市部におけるEPI活動およびスタッフへのトレーニング
- NGO
ロータリー・インターナショナルとCDCアトランタ(国際NGO)は主にポリオワクチンの提供の提供
- 日本
UNICEFと連携しながら、無償資金協力にてワクチンとコールドチェーンの機材調達を支援している。また海外青年協力隊およびシニアボランティア6名を集団派遣という形態で本プロジェクトと関連する活動に派遣している。彼らは郡レベルの医療施設を定期的に訪問しポリオサーベイランスの活動を行うとともに、年に数回実施される全国ワクチン接種日(NID)に実施の指導、啓蒙活動、ヘルスワーカーへのトレーニング等の活動も進めている。
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添付表 4-2-1 主要ドナーの重点援助戦略およびセクター別重点項目(PDF)
4 世銀ニュースリリースNo: 2002/242/SAR、2002年3月
5 国際協力銀行「貧困プロファイル:バングラデシュ人民共和国」2001年2月
6 このコモンバスケット方式に関してはドナー間でも賛否が分かれており、例えばUNICEFなどはセクターワイド・アプローチの考え方には賛成だが、プール資金には反対している。
7 セクターワイド・アプローチの概念および保健人口セクタープログラム(HPSP)の内容については、本報告書第6章6-2でも説明している。