第2章 バングラデシュ国の政治経済情勢と開発計画
2.5 課題と展望
バングラデシュ国の社会経済開発上の課題として以下の課題が挙げられる。
(1)政治の安定とガバナンスの向上
バングラデシュ国が経済的な安定成長を続けるうえでボトルネックとなっている点は、何よりも国内政治の不安定性があげられる。政権交代は利権の構造もドラスティックに変えるといわれ、政権イコール利権という構図がバングラデシュ国政治の特徴と言える。政治的安定性の達成は外国投資の受入環境として非常に重要な要素である。国内政治の不安定性はハルタル(労働ストライキ)を誘発し、企業経済活動にも多大な負担を強いる。
また、トランスペアレンシー・インターナショナルが発表した「世界で最も腐敗した政府」という評価は、国内外に計り知れないマイナスのイメージを与えた。バングラデシュ政府は透明性とグッド・ガバナンスの向上に誠心誠意努力を傾注しなければならない。このようなソフトのインフラに対して外国投資家が敏感に反応することを忘れるべきではないし、軽視すべきでもない。輸出加工区に進出する外国投資家はバングラデシュ国の輸出に貢献し、貴重な外貨を獲得する能力をもっている。外国企業と労働組合との関係も良好に保つ努力が必要である。
(2)インフラの整備と整備財源の強化
インフラの未整備もまた、安定的な経済成長の足を引っ張り兼ねない要素である。輸出振興、投資促進に向けた物流インフラに係るボトルネックの解消、雨期に冠水しない幹線道路の整備、安定供給可能な電力や通信網の整備は発展のための必要不可欠な要素である。インフラ整備のための公共投資は外国援助をソースとする開発資金から捻出されている。
なお、バングラデシュ国に対する外国援助がしばらくは継続するとしても、投資貯蓄バランスを満たすに十分ではなく、債務返済比率をいたずらに増大させるような対外借入を増やすことは今後も慎重を期すべきである。一方、GDPのわずか6~7%にすぎない公共投資額はアジアで最低水準である。投資を支えるには国内貯蓄の動員が不可欠であり、それを国家的スローガンとすべきであろう。同時に財政収入の増大をもたらす租税基盤の更なる強化が求められる。
(3)金融および国営企業部門の改革
最も不安な材料の一つは多大な不良債権を抱える銀行部門である。市中銀行を管理監督する中央銀行の能力が向上することなしには、市中銀行のガバナンスを改善することはできないであろう。もとをただせば独立直後の社会主義政策により政府部門が肥大化したことが原因である。銀行部門の効率性を高めるためには、民営化を含む国有企業(SOEs)の改革を通じて、不良債権の元を同時にただす必要がある。
しかしドラスティックな改革は痛みを伴うものであり、失業の大量発生を回避する形で進めなければ社会不安が増大し、これが政治の不安定性を増大するという悪循環をもたらすであろう。依然として貧困線以下で生活する人々が多数存在する現実を前に、着実に改革を講じることが肝要である。
(4)輸出・投資の促進と経済安定成長へのシナリオ
多角的繊維協定(MFA)が2004年で失効するので、バングラデシュ国からの縫製品輸出の競争力が低下する可能性があり、縫製産業進出企業のなかには撤退が予想される。外国直接投資の誘致にも多角的な角度から奨励および優遇策などを見直す必要がある。
将来的に天然ガスの輸出が恒常化すれば貿易収支の改善に大いに貢献する。また、天候が順調に推移すれば土壌は肥沃であるだけに農業が成長を牽引する。さらに低賃金を武器に多様化した輸出促進型工業化が軌道に乗れば、経済全体で5%以上の成長を今後とも望むことが十分可能であろう。
(5)貧困緩和に向けた対策
1人当りの国民所得水準(373 USドル:1999/00年)は低く、依然として人口の半数近くが貧困の状態にあるという事実に直面する。南アジア5ヵ国平均と比較しても、バングラデシュ国の貧困率は高い。さらに近年は、都市部における貧困の発生率が逆に悪化傾向を示している。バングラデシュ国にとって貧困の緩和は依然として早急な改善が望まれ、かつ最優先の課題である。
バングラデシュ国における貧困緩和に向けた取組み方策は、農村部における雇用機会の創出と都市部における行政サービスの拡充およびフォーマル・セクターの成長である。そのためには、農村部におけるインフラ整備とともに、教育、職業訓練、保健サービスの拡充による人的資源の開発が必要とされる。
バングラデシュ政府全体としては、歳入の増加努力と歳出の効率的な運用努力を含む自主的な取組み、二国間および多国間援助の効率的な受入と実施、NGOのさらなる活用を通じて、発展のためのたゆまぬ努力が肝要である。
添付図2-2-3 バングラデシュ国最新5ヵ年開発計画の体系化(開発目標体系図)(PDF)