IV 世界銀行・アジア開発銀行との協力
IV-1-1 世界銀行との協力
アジア通貨危機支援に関する世界銀行との協力は、タイ、インドネシアの以下の事業に対して行われた。
- ソーシャル・セーフティ・ネット調整借款(インドネシア、719億円、2000年1月25日借款契約、世銀6億ドル(約646億円)、世界銀行との協調融資。本借款はプログラム借款として2回に分けて貸付実行されるが、貸付実行のタイミングについては、インドネシア側の改革等の状況を勘案し、世界銀行と歩調を合わせて行われる。見返り資金は円借款、世界銀行、アジア開発銀行の実施中案件で、インドネシア側で手当てする必要のある内貨、および低所得者層に需要の多い燃料・電力関連の経費に充当する)
- 社会投資事業(タイ、134億円(投資計画の27パーセント)、1998年7月31日借款契約、タイ政府の投資計画のうち65パーセント(3億ドル(392億円)を世界銀行が貸し付け))
- 経済復興・社会セクター・プログラム・ローン(タイ、300億円(タイ政府の投資計画の17パーセント)、タイ政府の投資計画のうち41パーセント(6億ドル(683億円)を世界銀行が貸し付け)
しかし、ソーシャル・セーフティ・ネット調整借款は、インドネシア側がコンディショナリティを達成しなかったとして世界銀行が支払いを途中で中止し、円借款の支払いも50パーセント支払いを行った段階で中止した。
JBICの各国事務所の担当者、インドネシア事務所、フィリピン事務所の世界銀行関係者へのインタビューでは、日本と世界銀行の協力について以下の意見を聞くことができた。
- インドネシアへの日本の援助はとても迅速に行われ、IMF、世銀、ADBとの協力体制も強固なものだった(世界銀行)
- 日本、世銀、ADBで対インドネシア援助の80パーセント以上を占めており、日本との協力は重要であると考えている(世界銀行)
- インドネシアではIMFが主導的な役割を果たし、その中で世界銀行、ADBが得意分野(世銀は構造調整、ADBは中小企業対策)で協力した。日本はフレキシブルな資金の供給で雇用の確保、社会的弱者の救済に貢献した(世界銀行)
- 日本は世銀やADBのように直接コンディショナリティを課すことはないが、日本からのSilent Messageはインドネシアに大きな影響をもっていると考える(世界銀行)
- フィリピンでは、近年JBICとの協調融資案件はないが、日本の援助機関との協力は実施している。例えばLTRの3線のリンケージや他の交通モードとの連携についてはJBICと情報交換を行っている6。また、カビテ・ラグナのバス・システムに関しても現在開発調査を実施しているJICAと情報交換を行っている(世界銀行)
IV-1-2 ADBとの協力
フィリピン、インドネシア、タイでは、以下の事業でADBと協調融資を行っている。融資比率はほぼ1対1となっている。
- メトロマニラ大気改善プログラム・ローン(フィリピン、363億円、1999年3月10日借款計画、ADB2億9,600万ドル(約337億円))
- 貧困地域中等学校拡充計画(フィリピン、72億円、1999年12月28日借款契約、ADB5,300万ドル(約60億円))
- 保健・栄養セクター開発計画(インドネシア、352億円、1999年3月12日借款契約、ADB3億ドル(約339億円))
- 農業セクターローン(タイ、360億円、1999年9月29日借款契約、3億ドル(339億ドル))
JBICの各国事務所の担当者、フィリピン本部やインドネシア事務所のADB関係者に対するインタビューでは、日本とADBの協力について以下の意見・評価を聞くことができた。
- 通貨危機当時のインドネシアに対する支援は、素早く実行すること、経済状況の悪化を食い止めることが最も重要な要素だった。日本の援助はこれらの条件を満たしていた(ADB)
- ADBと日本の協力は、近年特に強化されてきている。最近では援助の川上から協議を開始し、ADBのTA段階からJBICに具体的な案件を紹介し、円滑な協力ができるような努力をしている(ADB)。一方、日本には要請主義という制約もあるが、最近では日本が長期的な開発戦略を持ってADBに協力を持ちかけるケースもある。ADBと日本の援助機関の協力は双方向的なものとなりつつある(ADB)
- ADBと日本の協力は円借款だけに止まらず、無償分野にも広がっている(例えば、インドシナ半島の東西回廊開発はADBがTAを行い、その後一部区間の整備のためのローンを実施。同時に日本の無償資金により一部区間の整備を行う。第2メコン橋は円借款により整備)(ADB)
- 日本がADBと協力を行っているのは、日本の経験が少ない分野にADBの経験を生かすケースが多い。例えば「貧困地域中等学校拡充計画」では、大きく分けてソフト部分をADB、ハード部分をJBICが担当している(JBIC)
6 JICAでもLRT関連の開発調査を2件実施している