5.3 事業の効果と経済への貢献
5.3.1 社会投資事業
社会投資事業は、タイ政府がアジア通貨危機による影響を最小限に食い止めるために、雇用創出効果の大きい事業や短期職業訓練などの社会サービス支援を行ったものである。事業はチャンネル1とチャンネル2からなり、チャンネル1は7つの省庁の小規模プロジェクトを実施するものであった。また、チャンネル2は地方分権を推進するために小規模プロジェクトを実施する2つの基金を整備し、有償・無償の資金援助を行うものであった。
旧海外経済協力基金(OECF)は、チャンネル1のうち、農業協同組合省が実施する灌漑施設のリハビリ・改良など約600件、タイ観光公社(TAT)の管理の下、内務省、農業協同組合省、教育省が行う約150件の事業(全体の約27パーセント)に対して円借款を供与した。日本の円借款は全てタイ国内の資材の調達や労働者の賃金支払い部分に貸し付けられた。チャンネル1の残り部分とチャンネル2は世界銀行とタイ政府が資金を準備した。また、社会投資事業全体の調整のために国連開発計画(UNDP)が参加していた。
この事業の評価レポートが地域ごと(北タイ、東北タイ、南タイ、中央および東タイ、バンコク首都圏)にタイ国内のコンサルタント会社や大学によって作成されている。しかし各レポートの評価手法はまちまちである。これらレポートによると、例えば北タイ(8県)では、円借款が供与された小規模灌漑リハビリとタイ観光公社(TAT)の事業で1万1,000人の雇用が発生した(全ての事業の受益者は33万人と推計している)。また、東北部19県では、2万人の受益者が発生したとしている。
5.3.2 経済復興・社会セクター・プログラム・ローン
タイ政府は、IMFへのLetter of Intent(1998年12月)で公共支出を増加させる計画(GDPの1パーセント程度)を表明した。この公共支出増は全て借り入れによって実現することを想定していた。それに対し、旧OECFが300億円(約2億5000万ドル)、世界銀行が6億ドル、旧日本輸出入銀行が6億ドルの資金援助を行った。
この借款は、円資金を国際収支の改善に利用し、円資金と同額積み立てるバーツ(見返り資金)を雇用創出効果の高い労働集約的な公共事業の実施に用いたものである。
公共投資増は表5-5の4つのプログラムからなる。円借款ではこの4プログラムの20事業を実施した。
プログラム | 金額 | 事業数 | 内容 |
雇用創出プログラム | 161億円 | 8事業 | 小規模灌漑、地方給水、地下水開発など |
生活の質改善プログラム | 114億円 | 7事業 | 観光地廃棄物処理、保健所建設、地方若年層訓練、貧困緩和プロジェクトなど |
産業競争力強化プログラム | 16億円 | 3事業 | ISO9000取得、食品産業の競争力強化など |
公共部門効率化プログラム | 3億円 | 2事業 | 地方政府財務管理改善など |
出典:外務省資料
この公共支出増の事業評価をタイ企業や大学の研究所が実施している。その報告書によれば、増額約540億バーツ(うちセクター・プログラム・ローン部分は93億バーツ)の支出によって、1999年のGDPを0.8パーセントから0.9パーセント、2000年のGDPを0.3パーセントから0.5パーセント押し上げたと推定している。また、年間8万人相当の熟練労働者の雇用、年間37万人相当の非熟練労働者雇用を発生させた。その他にも、40万人の高齢者への生活費、44万人の子供の給食、96万人分の学校の制服などを支給することができた。
また、この事業評価で実施されたオピニオン調査によれば、この公共投資増による雇用機会の創出、所得の増加、社会的弱者への支援、インフラの整備に対する満足度は高かった。