本章は、タイのアジア通貨危機による影響を確認した後、支援スキームの組み合わせ、世界銀行・アジア開発銀行との役割分担、個別事業の国別援助計画における位置付け、タイ政府関係者による評価、の4つの観点から分析する。最後に、政策に基づいて実施された個別の支援がどのような成果をあげ、最終的にタイ経済にどのように貢献したかを確認する。
タイは通貨危機の発信源であった。1997年6月より為替市場ではバーツの対ドルレートが下落し、7月2日にタイ政府はバーツの実質的なドル固定制を放棄して、レートの決定を基本的に為替市場に委ねた。そして7月20日にバーツの為替レートと株式市場が大幅な下落を記録した。
3章で述べたように、1997、98年にタイの経済は安定した成長を失った。失業率は1パーセント台から4パーセント台に増加し、経済活動の停滞に伴う税収の減少によって政府は財源不足に苦しんだ。タイ経済はその後プラス成長を取り戻したが、その成長軌道は弱いものとなっている。1999年度以降の実質GDP成長率は、1990年代前半の水準の半分程度である3パーセントから4パーセントである。