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2 アジア通貨危機支援の全体像

2.5 世界銀行・アジア開発銀行との協力

4章以下の分析で作成した援助機関の支援の時系列分析(図4-1、図5-1、図6-1)により、日本による支援と、世界銀行・アジア開発銀の支援の違いを見ることができる。世界銀行やアジア開発銀行は各援助国に対して3年から5年間ほどの中期援助計画を立てており、アジア通貨危機直後に各国に対しても3年間に数億ドルから数十億ドルの支援を行うことを表明した。一方、日本の支援は要請主義を大きな原則としていること、単年度会計であることから、通貨危機が発生した1997年には緊急無償やノン・プロジェクト無償など数億円から30億円以下の支援を行い、翌年から円借款を用いた支援が開始されている。このような異なる支援の仕組みの中で、次節以降に示す協力が行われた。

2.5.1 世界銀行との協力

アジア通貨危機支援に関する世界銀行との協力は、タイ、インドネシアの以下の事業に対して行われた。

表 2-4 日本と世界銀行のアジア通貨危機支援の協力
案件名 国名 支援額  
ソーシャル・セーフティ・ネット調整借款 インドネシア 719億円 2000年1月25日借款契約
世銀6億ドル(約646億円)融資
2回に分けて貸付実行されるが、貸付実行のタイミングはインドネシア側の改革等の状況を勘案し、世界銀行と歩調を合わせて実施
見返り資金は円借款、世界銀行、アジア開発銀行の実施中案件で、インドネシア側で手当てする必要のある内貨、および低所得者層に需要の多い燃料・電力関連の経費に充当
社会投資事業 タイ 134億円(投資計画全額の27%) 1998年7月31日借款契約
タイ政府の投資計画のうち65%(3億ドル(392億円)を世界銀行が融資
経済復興・社会セクター・プログラム・ローン タイ 300億円(タイ政府の投資計画の17%) タイ政府の投資計画のうち41%(6億ドル(683億円)を世界銀行が融資

出典:調査チーム

表2-4のうち、ソーシャル・セーフティ・ネット調整借款は、インドネシア側がコンディショナリティを達成しなかったとして世界銀行が支払いを途中で中止し、円借款の支払いも1回のみ(全体の50パーセント)であった。

世界銀行のインドネシア担当者は、インドネシアではIMFがインドネシア政府の経済安定化政策の立案に主導的な役割を果たし、その中で世界銀行、アジア開発銀行、日本がそれぞれの得意分野(すなわち、世界銀行は構造調整、アジア開発銀行は中小企業対策、日本はフレキシブルな資金の供給による雇用の確保、社会的弱者の救済)で力を発揮した旨、日本のアジア通貨危機支援を評価した。また、日本は世界銀行やアジア開発銀行のように直接コンディショナリティを課すことはないが、日本の支援を通じた暗黙のメッセージや政策誘導は、インドネシアに大きな影響をもっていると考えるという意見も聞かれた。

2.5.2 アジア開発銀行との協力

フィリピン、インドネシア、タイでは、以下の事業でアジア開発銀行と協調融資を行った。融資比率はほぼ1対1となっている。

表 2-5 日本とアジア開発銀行のアジア通貨危機支援の協力
案件名 国名 支援額 内容
保健・栄養セクター開発計画 インドネシア 352億円 1999年3月12日借款契約
ADB3億ドル(約339億円)融資
メトロマニラ大気改善セクター開発計画 フィリピン 363億円 1999年3月10日借款計画
ADB2億9600万ドル(約337億円)融資
貧困地域中等学校拡充計画 フィリピン 72億円 1999年12月28日借款契約
ADB5300万ドル(約60億円)融資
農業セクターローン タイ 360億円 1999年9月29日借款契約
ADB3億ドル(339億ドル)融資

出典:調査チーム

アジア開発銀行のインドネシア担当者は、通貨危機当時のインドネシアに対する支援は、素早く実行すること、経済状況の悪化を食い止めることが最も重要な要素であり、日本の援助はこれらの条件を満たしていた旨、日本の評価を評価している。また、フィリピンのアジア開発銀行本部では、アジア開発銀行と日本の協力は近年特に強化されてきていることを評価しており、最近では援助の川上から協議を開始し、アジア開発銀行の技術協力(TA)段階から日本側と具体的な案件を照合し、円滑な協力ができるような努力をしている。一方、最近では日本が長期的な開発戦略を持ってアジア開発銀行に協力を持ちかけるケースもあり、アジア開発銀行と日本の援助機関の協力は双方向的なものとなりつつあるという意見が出された。

一方、日本の援助関係者によると、日本がアジア開発銀行と協力を行っているのは、日本の経験が少ない分野にアジア開発銀行の経験を生かすケースが多く、例えばフィリピンの「貧困地域中等学校拡充計画」では、大きく分けてソフト部分をアジア開発銀行、ハード部分を国際協力銀行が担当しているとのことであった。


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