第1章 アルゼンティンへの水産分野ODA実績の概要
アルゼンティン沖海域は世界最大といわれる広大な大陸棚で、日本の協力による共同調査ではこの海域の潜在的な漁業資源量は底棲性の魚だけで約2千万トンと推定された(参考資料-1)。アルゼンティンは伝統的に水産物消費量は少なく(一人当たり年間5kgで畜肉消費量の20分の1),漁業への依存度は小さかったが、1966年、早々と200海里の排他的経済水域(EEZ)を宣言して外国漁船を締め出した。その後、大統領令によって外国漁船の入漁を許可するようになり,日本漁船の操業が再開された。
アルゼンティンの水産業は重要な輸出産業に成長し,水産資源はアルゼンティン経済の安定と持続的成長は重要な役割を担っている。国連海洋法条約に基づく新たな海洋秩序の下、EEZ内の水産資源の持続的有効利用と管理はEEZ沿岸国の義務となったが、アルゼンティン沖海域の水産資源から最も大な恩恵を受けているのは日本漁船とスペイン漁船である。この漁場のイカ資源は世界最大とされ,1985年に始まったイカ釣り漁業では,日本漁船が最大の入漁許可シェアを与えられてきた(参考資料-2)。また、日本との合併による船内の工場で漁獲物を洋上処理できる大型底曳き漁船5隻が現在この漁場で操業を続けている。 このような状況の中、アルゼンティン海域の水産資源の開発と持続的な有効利用への支援要請に応え、我が国は、世界の優良漁場が乱獲で次々と衰退していったなか,アルゼンティン沖漁場の資源の持続的有効利用をするため、アルゼンティンに種々の技術協力を行ってきた。こうした我が国の協力は、アルゼンティンと日本さらに世界の食料安保への貢献という観点から,我が国の開発援助の精神・戦略((参考資料-3~6)に沿うものである。
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水産無償資金協力
1983年:国立漁業学校計画(10.8億円)
1987-1988年:プエルト・デセアード漁港拡張計画(25.6億円)
1992年:国立水産開発研究所建設計画(14.3億円)
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プロジェクト方式技術協力
1984?1989年:新国立漁業学校
1990?1993年:ネウケン州立養殖センター計画(ミニプロ)
1994?1999年:水産資源評価管理計画[国立水産開発研究所]
1995?1997年:国立漁業学校アフターケア
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第三国研修
1991?2000年:国際漁業セミナー[国立漁業学校]
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その他
1995?1998年:国立水産開発研究所調査船の航海計器・調査機器等の修理修復と保守管理(OFCF)
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これらの協力事業サイトを図1に示した。
国立漁業学校はアルゼンティン唯一の漁船乗組員養成機関である。アルゼンティン政府は漁業資源開発に必要な質の高い人材を養成するために,自由国家試験を廃止して国立学校卒業者のみ海技資格を取得できるよう制度改革をすることとしたが,国立漁業学校の老朽化が激しく,授業内容も学生収容能力も不十分であった。そのため,協力要請に基づいて,水産無償資金協力によって国立漁業学校の建替え,プロジェクト方式技術協力によって講習内容の充実を図った。ここで移転された技術は,供与施設を利用して行われた第三国研修を通じて,ラテンアメリカ沿岸諸国にも伝達された。
海技資格取得者が大型漁船乗組員として採用された後,技術向上のための再訓練が雇用した会社によって行われる。技術者養成には,このような民間会社の貢献(例えば(株)ニッスイではこれまで約700名の漁船乗組員を訓練)がある。
一方,アルゼンティンの漁獲量は急増し続けたことから,科学的データに基づいた資源管理政策が求められるようになった。この政策策定に必要な科学的データをタイムリーに供給することを求められたのが,アルゼンティン唯一の水産研究機関である国立水産開発研究所(INIDEP)である。極度に老朽化したINIDEPの新築を水産無償資金協力で行い,INIDEPの水産資源評価研究の能力向上支援をプロジェクト方式技術協力で行った。
これらの漁船乗組員養成と水産資源評価研究の能力向上の両方の支援は,漁業振興へのバランスのとれた協力といえよう。
INIDEPと国立漁業学校はどちらもマルデルプラタにあり,従来から密接な関係にあってINIDEPは国立漁業学校に教授・講師を派遣している。国立漁業学校は国防省海軍教育総局に所属し,INIDEP敷地は海軍用地を借用したもので調査船は海軍用岸壁を利用しているが,いずれもODA大綱の原則(添付資料-4)に抵触するものではなく、むしろ、軍用岸壁に調査船を繋留していることで,調査船の警備・管理を容易にしている。
漁港は、漁業生産活動の根拠地であるばかりではなく、水産物の流通・加工の拠点、更には、漁村社会の拠点としても重要な役割を担っている。プエルト・デセアード漁港はマル・デル・プラタ漁港に次いで水揚量の多いエビ漁場に近い漁港で,水産無償資金協力による拡充の後1996年の時点で水揚量が倍以上になり,日本漁船の利用もある。
ネウケン州立養殖センター計画は,養殖した鱒をスポーツフィッシング用に放流する観光振興目的のネウケン州からの要請が基になった事業で,アルゼンティン水産業の振興を目的としたものではなかったが,移転された技術は民間の水産養殖場に伝搬して水産業の振興に貢献した。