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添付資料2:主要ドナーのアフリカに対する貿易・投資分野協力の動向

 本調査では、我が国による貿易・投資分野協力における研修員受入と専門家派遣の総体をプログラムと位置付け評価を実施したが、他ドナーによる同分野における協力の実態についても調査を行った。
 ここでは現地調査で聴き取り調査並びにアンケートに対する回答に基づき、次の援助実施機関による貿易・投資分野協力の動向について整理した。

  • 米国国際開発庁(USAID)カイロ事務所
  • 欧州連合(EU)代表部カイロ事務所
  • 英国国際開発庁(DFID)ナイロビ事務所*1


(1)エジプトに対する米国国際開発庁(USAID)の貿易・投資分野協力の現状
 USAIDでは在外事務所への権限委譲が進んでおり、在外事務所が当該国の戦略プロセスとして通常5年程度の計画を立案する。現在のエジプトへの支援戦略は2001~2009年を念頭に置いたものである。USAIDが実施する評価では、「戦略レベル」と「プロジェクトレベル」に大別され、その評価指標として、経済成長に寄与するものを当てると言われる。例えば、「プロジェクトレベル」の評価例として、EUと共に進めている関税円滑化支援では、どの程度早い時間で通関を行えるようになったか、どの程度コストが削減されたか、という定量的な指標を用いる。
 貿易・投資分野協力において、専門家を派遣することも多く、その場合には必ず競争入札が行われる。最初の事前競争入札のステージ(4~5週間程度)から、その後の本格的な競争入札のステージ(3~4ヶ月)へ移行し、最終的な決定に至るまでには7~10カ月近い時間を要することになる。
 入札する組織は、教育機関、民間シンクタンク、NGO等を含め多様であり、USAIDは、受注機関から業務実施の途中、中間報告を適宜受けることになっている。貿易・投資分野の場合、米国の主要経営コンサルタント会社や民間組織による応札が多い。当該国のニーズに照らして、経済協力開発機構(OECD)やWTO、さらには米国政府機関に対して適当な専門家派遣の検討を打診する場合もあるが、プロジェクトベースの場合、競争入札を行うのが基本である。
 USAIDが実施してきた対エジプト貿易・投資分野協力の趨勢としては、1995年頃は「輸出振興」の分野での支援が多かった。その後、WTOドーハ開発ラウンドの立ち上げの影響を受け、2001年からは「貿易円滑化」(Trade Facilitation)を推進し、どのように当該国が国際経済環境の中で競争力を高めることができるか、という観点からの支援が目立っている(下表1参照)。特に貿易円滑化分野への支援の場合、公共部門への支援が中心である。
 一方、こうした貿易・投資分野協力と、エジプトの開発ニーズとのリンケージについては、できる限り社会的側面を考慮した協力が行われていることも確認された。例えば、貿易自由化によって、過度の競争に曝される脆弱な産業のための国内対策も必要となる。そのため、貿易自由化への支援と並行して、農業開発や情報通信インフラの整備、中小企業育成といった支援とのリンケージも考慮に入れるとのことである。その場合、ビジネス部門支援を担う非営利組織との連携を図っている*2

表1 米国のエジプトに対する貿易・投資分野協力の経費推移

表1 米国のエジプトに対する貿易・投資分野協力の経費推移
出所:米国国際開発庁(USAID)Trade Capacity Building Database: Egypt

 

(2)エジプトに対する欧州連合(EU)の貿易・投資分野協力の現状
 エジプトとEUの間の援助関係は、1995年に締結された「バルセロナプロセス」*3を基本としており、エジプトへの援助スキームとして2つに大別される。第一は「パートナーシップ協定」による政治的、経済的、社会的な支援である。エジプトは同協定に既に署名はしているものの、まだ発効していない。第二は、National Indicative Program(NIP)と呼ばれる3年間の協力計画で、国家政策への支援を行うものである。これら以外の支援策としての取組みは、6年間の協力計画の柱としての国別戦略ペーパー(Country Strategy Paper)の作成が挙げられる。
 現地聴き取りでは、TICADやNEPAD等の国際的な支援策は、指針として位置付けられても、それを念頭に置きながらEUがエジプトへの援助協力を進めているとは言い難いとのことであった。特にEUはパートナーシップ協定を通じて、EUの関税削減等を進め、貿易促進を図ろうとしているが、現実にはエジプトの輸入超という状況が改善されないことから、代償的な措置として、「貿易拡大プログラム」(Trade Enhanced Program:TEP)を進めているとのことである。
 TEPはカテゴリーA~Cに分類され、「カテゴリーA」は20百万ユーロ規模の技術援助の供与、「カテゴリーB」は予算支援策による経済協力、そして「カテゴリーC」は税関管理の円滑化を図るための支援である。現在、EU代表部関係者並びに外部コンサルタントの共同作業で、これらの協力評価のため報告書作成が進められているとのことである。
 なお、EUによる貿易・投資分野の研修事業は、受益国政府職員を対象に提供され、二国間プログラム(例「エジプトのための貿易円滑化」)や地域プログラム(例「地中海沿岸諸国外交官のためのセミナー」)という形態で実施される。研修は、受益国内での実施を基本としているが*4、EU内で実施される場合もある。

(3)ケニアに対する英国国際開発庁(DFID)の貿易・投資分野協力の現状
 DFIDの貿易・投資分野協力としては、グローバル及び地域レベルでの、アジェンダ達成に向けた政策提言活動、貿易政策や貿易交渉における途上国のキャパシティ・ビルディング構築が挙げられる。また、ジュネーブに設置されている「国際貿易情報センター」(AITIC)や「WTO法支援センタ?」に対する協力を通じ、ジュネーブのアフリカを含めた途上国代表団や交渉参加に関し、途上国の立場にたった環境作りを支援している。
 DFIDはアフリカ全土に対する「アフリカ貿易・貧困プログラム」(The Africa Trade and Poverty Programme: ATPP)を通じたアフリカ政府機関内部のキャパシティ・ビルデングに重点をおき、地域統合の議論や国際的な討議において、アフリカ各国政府の貿易交渉分野のエンパワーメント並びに包括的且つ貧困者への影響に配慮した、貿易改革戦略における能力向上の協力を行っている。DFIDは、WTOへの参加を通じ途上国が貿易・投資を拡大し、そこから利益を得られるように支援することが開発援助の重要な役割であるという視点を有している。
 DFIDはまた、ATPPを通じ、ケニアでの諸活動に向けた一定の資金供給を行っている。ケニア貿易産業省は、貿易政策上のアジェンダに積極的に参画し、ケニアの知識、組織、技術、アウトリーチ状況を改善するため、DFIDに対して資金供与を依頼していたと言われる。
 2001~02年にかけてDFIDは、ATPPの一環として貧困削減や持続可能な開発に向け、アフリカ諸国を対象とした貿易改革キャパシティ・ビルディングのための6つの主要ミッションを完了させた。また、受益対象の中でも「貧困層」を主要な社会グループとして位置付け、その生活状況に対して、貿易自由化がもたらす影響について評価を行った。
 DFIDは貧困者に配慮した貿易アジェンダ理解の普及、「貧困削減戦略書」(PRSP)における貿易課題のアフリカ全土に及ぶ統一化に向けて検討しているところでもある。例えば、アフリカ最貧国における貿易政策に関するPRSP型分析のための道具として、DFIDは、世界銀行や国連貿易開発委員会(UNCTAD)が進めるIntegrated Framework(IF)*5の活用を進める重要な役割を担っており、アフリカの貿易上の優先課題が、最近のWTO交渉におけるアジェンダに対しても優先度の高いものとして位置付けられていることを確認している。また、DFIDはWTOにおけるアフリカ諸国政府の活発な交渉参加を望んでいる。
 さらに、DFIDは、アフリカにおける地域経済統合を促進し、アフリカ商品の市場アクセス拡大を促進する「EU―アフリカ・カリブ・太平洋諸国(EU-ACP)経済パートナーシップ協定締結」も支援している。




*1 DFIDナイロビ事務所の活動に関する情報は、同事務所より入手した資料に基づく。
*2 例えば、エジプト輸出協会(Egyptian Exporters Association)はエジプト民間企業の出資による非営利組織で、Growth Through Globalization(GTG)Programと呼ばれるUSAIDの資金を通じ、エジプトの輸出部門強化に従事している。(http://www.expolink.org.eg/index.asp)
*3 1995年EUと北アフリカ地中海諸国11カ国(リビアを除く)とパレスチナとの外相会議で提唱された。北アフリカを中心としたアラブ・イスラム諸国とEUの対話及び協力を深めることを目的とする。「カイロ宣言」や「カイロ・プロセス」がアフリカ全体の対話・協力の枠組みであるのに対し、「バルセロナ・プロセス」は北アフリカ諸国を対象に自由貿易地域の構築、エネルギーの安定確保を図ろうという構想で、欧州・地中海パートナーシップ(バルセロナ・プロセス)という。(「TICADIIIの開催ヘ向けての支援調査」外務省委託、IDCJ、2001)
*4 EU代表部カイロ事務所の情報に基づく。
*5 IF:Integrated Framework for Trade-Related Technical Assistanceは1997年WTOの高級事務レベル会議で採択された。IFは、それまで宣言、協定、コミットメント等各種イニシアティブや支援プログラムを総合的に国別レベルで実施する技術協力を指し、IMF, International Trade Center, UNCTAD, UNDP, World Bank ,WTOの6つの国際援助機関の共同案件(Joint Project)である。DFIDはケニアに対して、このIFに沿った技術協力支援を実施している。(UNCTAD Website. Review of Technical Cooperation Activities of UNCTAD,September,2002)


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