評価年月日:平成26年1月15日
評価責任者:国別開発協力第一課長 宮下 匡之
カンボジア王国
国立母子保健センター拡張計画
首都プノンペンに位置し,行政・臨床・研修機能を兼ね備えたカンボジア最大の産婦人科病院である「国立母子保健センター」に対し,研修棟の新設,医療機材の整備及び既存施設の改修を実施することにより,同センターの母子保健に係る臨床サービス,研修及び行政機能の向上を図り,もってカンボジアの母子保健サービスの質の改善に寄与することを目的としている。供与限度額は11.93億円である。
本事業は既存病院敷地内での施設の新築工事,医療機材の整備及び既存施設の改修を行うものであり,国指定の保護地域等の「影響を受けやすい地域又はその周辺」に該当せず,自然・社会環境に及ぼす望ましくない影響は最小限と想定される。
「国立母子保健センター」は,1997年に我が国の無償資金協力で建設され,当該センターに対して我が国は長年にわたり医療協力を実施してきていることから,現地では「ジャパン・ホスピタル」と呼ばれている。
建設から15年以上が経過し,同センターの機能拡大とともに,特に近年交通網の発達に伴い,首都だけでなく地方からも患者が訪れるようになっている。
また,2006年頃から帝王切開を含む産科手術の数及び分娩数に対する新生児治療室(NCU)利用率が増加しており,何らかの異常を伴う妊産婦及び新生児に対する緊急産科ケアを含む高度なケアが求められている。
更に,同センターは母子保健分野の臨床研修機関として医療従事者への卒前・卒後研修を提供しているが,近年,求められる医療サービスの高度化に伴い,研修コースが多様化及び長期化している。これらのことから施設の拡充が喫緊の課題となっている。
(1)本計画の実施に当たっては,協力対象範囲とする施設内容を決定する上で,「貧困層への適正な母子保健サービスの提供という本来の活動目的に適合しているか」,「国の拠点病院としての必要な臨床活動に適合しているか」,「既存施設の現状では対応できていない新規のニーズを満たしているか」の観点から施設に優先度を与えた上で必要な機材の調達を行うこととする。
(2)計画施設の規模設定に際しては,研修棟は供用開始後3年後の2020年時点の研修計画を基に設定し,周産期医療センター機能及び病棟の整備は,現在の診療実績を基に2020年における目標値を設定し,それを基に病床数等を設定する。
(3)既存センター施設の改修については,1997年に我が国の無償資金協力で建設した当該センター本体施設のみを対象とするとともに,「新規ニーズを満たしているか」,「現状施設は充分に効果を発揮したか」,「改修は必要最小限度となっているか」の観点から改修及び更新の妥当性を検証の上計画する。
(4)建築物については,現地の建築基準に基づく方法とすることで建設コストの低減を図ることとするが,現地基準には存在しない安全上重要な事項は日本の基準を参考にし,かつ過度にならないよう留意した設計とする。
(5)既存施設内には,我が国の無償資金協力や技術協力プロジェクト,他ドナーの支援により整備・供与された機材が存在する。このため,NCUの改修や研修棟の新設により新規に必要となる機材及び更新が必要な機材について「治療サービス改善に直接的な効果が期待できる機材であるか」,「他ドナーや過去の整備・供与機材との重複を回避しているか」,「技術的及び予算的にカンボジア国側の運営・維持管理が可能な機材であるか」を考慮して計画する。
(1)当該センターに研修棟を新設することにより,研修機能の強化・拡充が図られ,年間約650人の卒前研修(現状522人),2,050人の卒後研修(現状1,839人)を効果的に実施する体制が整備され,カンボジアにおける母子保健サービスに従事する医療従事者の技術力の向上が期待される。
(2)NCUやICU(集中治療室)を適正な面積基準,設備内容で整備拡充する等の周産期医療センター機能の充実により,より高度な産科ケア体制を構築することが可能となるとともに,NCUで治療するハイリスク胎児数が現状723件/年から1,400件/年に増加,総分娩件数に占めるハイリスク胎児数の割合が現状11.7%から約20%に増加することが期待される。
(1)カンボジア王国政府からの要請書
(2)カンボジア保健医療分野支援の評価報告書
(3)JICAの準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)