評価年月日:平成25年4月22日
評価責任者:国別開発協力第二課長 德田 修一
ブータン王国
サルパン県タクライ灌漑システム改善計画
本件計画は、安定した灌漑用水の供給を目的として、洪水に脆弱な既存の灌漑システムを改善するため、気候変動や洪水被害軽減に配慮して施設の新設・改修を行うもの。更に、灌漑システム全体の効果的、効率的な運用と維持管理能力の構築を目的として、水管理、維持管理に関する技術支援(ソフトコンポーネント)も併せて行う。洪水対策の施された施設の導入と適切な維持管理により、同国政府の維持管理費用の大幅削減が見込まれる。
供与限度額は10億5,100万円。
特になし。
(1)農業は、就業人口の65%以上が従事するブータンの基幹産業であるが、国土の大部分が山岳地帯であり、農地が狭いこと等から生産性が低く、食糧自給率は5割にとどまる。このため、ブータン政府は、国家開発計画(第10次5カ年計画)において、コメの自給率の向上、農産物による平均年収の向上、地方の貧困層の削減などの目標を掲げている。
(2)本件事業対象地を含む南部地域は、ブータンでは例外的に温暖な気候に恵まれた広大かつ平坦な地形であり、農業生産のポテンシャルが高い。タクライ灌漑施設は、1980年代に整備された国内最大規模の施設であり、タクライ灌漑地区は乾期灌漑面積の拡大、農業生産性の向上のための重点地区として、国内で唯一、国営管理地区とされている。しかしながら、タクライ川上流は急峻かつ転石が多く、洪水被害も頻発する。このため、タクライ灌漑施設は、毎年補修されてはいるものの、水の供給が不足しており、灌漑面積は当初計画の7割弱にとどまっている。このため、耐久性の高い取水施設の整備と適切な維持管理能力の向上が急務となっている。
(3)ブータン政府は本件事業対象地を含む南部において、効率的な水利用や灌漑用水の取水環境の改善により、乾期の灌漑率を4割から7割に引き上げる計画であり、本件はこうしたブータン政府の計画に合致している。
本件計画では、灌漑システム全体の効果的、効率的な運用と維持管理能力の構築を目的として、水管理、維持管理に関する技術支援(ソフトコンポーネント)も併せて行う。洪水対策の施された施設の導入と適切な維持管理により、同国政府の維持管理費用の大幅な削減による高い効率性が見込まれる。
本件の実施により、以下のような成果が期待される。
(1)灌漑面積が現在の883haから最大1,120haに拡大するとともに、乾期の取水が可能となり(最大2.24立方m/s)、乾期のコメの作付け面積が10haから560haに増加することで、2期作が拡大する。これにより、穀物生産が増し、農家所得が向上することで、対象地区の約530世帯、約4300人の生活向上への貢献が可能となる。
(2)運営・維持管理面の技術支援(ソフトコンポーネント)により、施設機能が良好な状態に保たれ、年間維持管理費の削減につながる(平均350万ニュルタム → 175万ニュルタム)。また、防災施設の導入により、洪水時に水利施設機能の安定性が確保され、穀物増産、農家所得の向上が図られる。
(1)ブータン政府からの要請書
(2)JICAの準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)