評価年月日:平成25年1月21日
評価責任者:国別開発協力第二課長 徳田修一
(1)供与国名
ネパール連邦民主共和国
(2)案件名
タナフ水力発電計画
(3)目的・事業内容
ネパール・タナフ郡において河川の水量が減少する乾季においても安定的な発電が可能な貯水池式水力発電所を建設することにより,電力不足による計画停電の影響が顕著なネパールの電力供給の安定化及び増加する電力需要に対応し,同国の経済発展,民生の向上に貢献するもの。
(ア)主要事業内容
(イ)供与条件
供与限度額 | 金利 | 償還(うち据置)期間 | 調達条件 |
---|---|---|---|
151.37億円 | 0.01% | 40(10)年 | 一般アンタイド |
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
(ア)EIA(環境影響評価): 2009年8月に本事業のダム建設に係る環境影響評価(EIA)報告書が,2010年6月に送電線建設に係る初期環境調査(IEE)が,それぞれネパール政府により承認済み。
(イ)用地取得及び住民移転:本事業による用地取得は約112ヘクタール,住民移転対象は86世帯(本発電所建設予定地(ダム予定地)に37世帯,アクセス道路等の付帯施設の整備予定地に49世帯)。用地取得と住民移転は,同国内手続き及び住民移転計画(RAP)に沿って進められる。RAP作成に際しては,被影響住民との協議が継続的に行われており,反対意見は見られない。
(ウ)外部要因リスク:特になし。
(1)必要性
(ア) 開発ニーズ
ネパールは豊富な水資源を有し,包蔵水力83,000 メガワット,経済的に有効活用可能な水力発電容量は42,000 メガワットと推定されているが,2011年時点の発電容量は約706メガワットに留まる。同国は発電電源の9割を水力発電に依存しているが,既設の水力発電所の多くは流れ込み式の発電方式であり,発電に使用する流量を季節間で調整可能な貯水池式水力発電所は我が国が過去に支援した2発電所(計92 メガワット)のみとなっている。そのため,乾季においては発電量が著しく減少し,現時点で400 メガワットを超える供給不足に陥っており,ネパールでは乾季には一日最大16時間程度の計画停電が実施され,生活及び経済活動に大きな支障をきたしている。このことは,ネパールの国民一人当たりの年間販売電力量が91 キロワット時(2009年)と世界でも最低レベルの水準にあることにも表れている。以上の状況に加え,ネパール電力公社の予測ではピーク時の電力需要は今後も年率9%程度で伸びるとされており,同国における発電能力の増強は同国の民生の向上,経済成長の観点から,喫緊の課題となっている。
(イ)我が国の基本政策との関係
本件は,2012年4月策定の対ネパール「国別援助方針」に掲げられている「社会環境・基盤整備」という開発課題に合致した支援となっている。また,我が国は,MDGsの達成のための支援,南西アジア地域の貧困削減への支援を重視しており,本件計画の支援は我が国の基本政策に合致する。
(2)効率性
本件は,過去の類似案件の事後評価において,事業費,工期,事業範囲に影響を与える重要な要因として地質条件があげられていることを踏まえ,JICAによるF/Sに加え,ADBによるF/Sの見直しも実施し,詳細な地質調査を実施しており地質条件に係る不確定要素が排除されている。また,発電所の効率的な運用,事業効果の持続的な発現を担保する観点から,堆砂量の把握と管理を行い,堆砂対策の経験のないネパール側実施機関に対してコンサルティング・サービスなどを通じて組織体制・実施能力の強化を支援し,コンサルタントが最低5年間維持管理を支援することとしている。
(3)有効性
ネパールの発電電源の9割は水力発電によるが,河川の水量が減少する乾季には1日16時間に及ぶ計画停電が実施されている。季節間で発電に必要な流量を調整することが可能な貯水式水力発電所建設により,計画停電の影響が顕著なネパールの電力供給の安定化及び増加する電力需要に対応し,同国の経済発展,民生の向上に貢献する(完成2年後見込み:最大出力140メガワット)。また,本計画は同国の民主化プロセスの進展にも貢献することが期待される。更に,ネパール経済・社会の発展を通じた我が国との二国間関係の強化が期待される。
ネパール政府要請書,国際協力銀行環境社会配慮ガイドライン(http://www.jica.go.jp/environment/guideline/archives/jbic/index.html),その他国際協力機構より提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/anken/zyoukyou.html),借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース(http://www.jica.go.jp/press/index.html)及び事業事前評価表(http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/before.html
)を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。