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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成25年1月10日
評価責任者:国別開発協力第一課長 横山 正

1 案件概要

(1)供与国名
 ミャンマー連邦共和国

(2)案件名
 社会経済開発支援計画

(3)目的・事業内容
 ミャンマー政府が進めるマクロ経済運営や教育・保健などの分野における各種改革に対する支援を行うもの。また,本計画は,ミャンマー政府が民間からのブリッジローンを活用し,我が国に対する延滞債務を返済することと引きかえに,長期で譲許的な資金を供与することにより,ミャンマーのマクロ経済の安定化及び包括的な経済成長の基盤強化にも貢献する。

供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
約1988.81億円 年0.01% 40(10)年 一般アンタイド

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
 本案件は,特段の環境影響が予見されないセクター(構造調整型借款)に関するものであり,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる影響を及ぼしやすい特性や影響を受けやすい地域にも該当せず,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
 改革の進捗状況については,政策協議等による調査報告を通じ,モニタリングするものとする。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

ア 開発ニーズ
 ミャンマー政府は,2011年3月の新政権発足後,経済の対外開放を通じ経済成長を実現するべく政治・経済改革に取り組み,国際社会との対話を深めており,「国民和解」及び「市場経済の導入による国民生活水準の向上」の2点を重点課題として掲げている。かかる施政方針の下,同政権は1)ガバナンスの向上,2)経済自由化,3)国民に広く裨益する社会開発に取り組んでおり,新政権発足後1年強の間に議会の権限強化,対外直接投資の誘致促進,管理為替制度の導入,教育・保健にかかる予算拡充等の一連の改革を実施している。上記の各分野については,これまで他ドナーの支援を受けつつ各種取組が行われてきたが,さらなる改革の必要性が指摘されている。
 経済運営については,積年の課題として,経済実態と乖離した公定為替レートと市中で使われる市場為替レートが併存し経済活動に支障を及ぼしてきたが,2012/13年度予算より政府予算に市場為替レートが用いられるようになり,また,2012年4月には管理変動相場制が導入され,実質的に多重為替制度が撤廃された。さらに,金利構造の柔軟化をはじめとする金融市場改革に取り組む等,IMFの助言を基に,新政権として安定的な経済運営に向けて各種取組を実施している。一方,2015年のASEAN経済統合に向けて,依然脆弱な国内金融セクターの育成及び自由化,国営企業改革等,依然多くの課題を抱えている。
 教育セクターについては,特に2003年以降「万人のための教育(EFA)」を目標に掲げ基礎教育課程の充実に向けて取り組んでいるが,就学率は依然伸び悩んでおり,教員のトレーニング等による教育の質の向上等の対応が求められている。新政権として,2011/12年度に教育分野に追加予算(約380百万チャット)を付与し,2012/13年度予算では教育にかかる投資支出を前年の2倍とする等,取組に着手したところであり,改革の着実な実施が求められている。
 保健医療セクターについては,これまでミャンマー政府として死亡原因の上位を占めるマラリア,HIVエイズ,結核などの国家対策プログラムの策定・推進や,予防接種の普及・産前検診や専門的技能者立ち合いでの出産の推進等に取り組んできたが,ミャンマー政府発表によると感染症による死亡率,妊産婦・5歳未満児死亡率は依然として高水準にあり,保健医療施設の拡充,医療従事者の人材育成等の対応が必要である。新政権として,保健人材育成・保健サービスの包括的計画を策定中であり,病院のベッド数の増加,医師・看護師数の増加等に着手するなど,さらなる取組の実施が期待されている。
 ガバナンスについては,従来予算案は行政府のみにより作成されてきたが,2012/13年度予算から議会での審議対象とされる等,議会の権限強化が進められている。また,政党登録法の改正を行い,より民主的な議会政治の実現に向けた取組が実施されている。かかる取組は国際社会から広く評価されており,更なる改革努力の継続が望まれている。
 本計画は,ミャンマー政府の我が国に対する延滞債務を解消するための措置であり,本計画を通じミャンマーの社会経済開発支援計画に盛り込まれるマクロ経済運営や教育・保健等の分野におけるミャンマー側の政策や改革の実施の促進に寄与し,以てミャンマーの経済・社会開発を政策面から支援し,ミャンマー経済の安定を図るものであり,本計画のニーズは大きい。

イ 我が国の基本政策との関係
 2011年3月の新政権発足以来の,民主化・国民和解及び経済改革努力を踏まえ,かかる前向きな動きを後戻りさせないためにも,ミャンマー政府・国民が改革の恩恵を実感できるよう,同国に対するインフラ整備を含めた本格的な支援を行うことが必要。ASEAN後発国たるミャンマーの発展は,ASEAN内格差是正を通じてASEAN全体の安定化に資するものであり,またメコン地域開発においても重要な位置を占める。
 また,日ASEAN包括的経済連携構想等を背景に,我が国の製造拠点,輸出市場,エネルギー・資源供給拠点としての将来性が大きく,投資・貿易・ビジネスの環境整備や産業協力等を通じて,我が国の援助が日・ミャンマー間及び日・ASEAN間の経済面での好循環につながることが期待される。
 我が国としては,ミャンマーにおける改革の果実をミャンマー国民が実感することが極めて重要であることを念頭に,対ミャンマー経済協力方針を以下のとおり見直し,2012年4月21日に行われた日・ミャンマー首脳会談後に発出した共同プレスステートメントにおいて表明した。本案件は以下(ア),(イ)及び(ウ)に該当する。

(対ミャンマー経済協力方針)
 ミャンマーの民主化及び国民和解,持続的発展に向けて,急速に進む同国の幅広い分野における改革努力を後押しするため,引き続き改革努力の進捗を見守りつつ,民主化と国民和解,経済改革の配当を広範な国民が実感できるよう,以下の分野を中心に支援を実施する。
 (ア)国民の生活向上のための支援(少数民族や貧困層支援,農業開発,地域開発を含む。)
 (イ)経済・社会を支える人材の能力向上や制度の整備のための支援(民主化推進のための支援を含む。)
 (ウ)持続的経済成長のために必要なインフラや制度の整備等の支援

(2)効率性
 本計画に盛り込まれた政策や改革の実施状況について,ミャンマー政府との経済協力政策協議や個別分野の協議等の機会を活用した調査報告を通じてモニタリングするとともに,技術協力による専門家を派遣しながら支援することにより,効率性を確保する。

(3)有効性
 急速な改革の機運に恵まれたこの時期に,マクロ経済運営から教育,保健・医療などにわたる幅広い支援を展開することにより,必要な政策の形成を一層促し,改革を加速化させることが期待される。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(http://www.jica.go.jp/environment/guideline/index.html他のサイトへ),その他国際協力機構より提出された資料。
 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/anken/zyoukyou.html),借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース(http://www.jica.go.jp/press/index.html他のサイトへ)及び事業事前評価表(http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/before.html他のサイトへ)を参照。
 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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