評価年月日:平成23年12月5日
評価責任者:国別開発協力第三課長 堤 尚広
(1)供与国名
イラク共和国
(2)案件名
バスラ製油所改良計画(I)
(3)目的・事業内容
イラク南部バスラ県の既存バスラ製油所において,流動接触分解装置(FCC)を含む製油プラント(FCCコンプレックス)等を新設することにより,既存の製油所から出る残渣油を利用して石油製品を生産することで,石油製品の品質向上と需給ギャップの縮小,環境負荷の低減・関連技術の移転を図り,もって同国の経済・社会復興に寄与するもの。
ア 主要事業内容
(ア)資機材調達・建設工事等(FCCコンプレックスの新設)
(イ)コンサルティング・サービス(詳細設計,入札補助,施工監理等)
イ 供与条件
供与限度額 | 金利 | 償還(うち据置)期間 | 調達条件 |
---|---|---|---|
424.35億円 | 0.20% | 40(10)年 | 日本タイド(本邦技術活用条件(STEP)) |
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
ア EIA(環境影響評価):イラク環境省は,「予備的環境影響評価報告書」及び同報告書を踏まえ別途作成する報告書を承認済み。
イ 土地収用及び住民移転:計画予定地は,実施機関の所有地内で実施されるため,用地取得や住民移転は伴わない。
ウ 外部要因リスク:対象地域の治安情勢は改善傾向にあるほか,事業実施に当たって安全確保に最大限の措置を講ずる。
(1)必要性
ア 開発ニーズ
イラクの石油セクターは,GDPの約68%,国家歳入の約91%を占める最大の基幹産業であり,同国ほぼ唯一の外貨獲得源である。また,1,150億バレルの原油確認埋蔵量を有するが,多くが未開発で,現在の生産量は240万バレル/日に留まっており,開発の潜在能力が高い。更に石油精製部門は被災・老朽化等により国内14か所の既存製油所では設備能力低下が深刻で,稼働率は60%~75%に留まり,3つの大型製油所でも計58万バレル/日の精製能力という状況が続いている。このためガソリンの国内供給量不足分が4万バレル/日に上るなど,民生用石油製品に大幅な需給ギャップがあり,産油国ながら石油製品を他国から輸入せざるを得ず,関連支出が年間50億ドルにも達する。膨大な復興ニーズを抱えるイラクにおいて石油製品の輸入による外貨流出を防止するとともに,石油製品の増産による輸出を通じて外貨を獲得するためにも石油精製部門への投資は急務であるが,不安定な政治・治安情勢等のリスクが大きく民間部門から十分な投資が得られていない。
イ 我が国の基本政策との関係
我が国は,「経済成長の基盤強化」を対イラク支援の重点分野の一つに設定している。本件計画は,右重点分野の中で重点課題「石油・ガスセクター基盤強化」の下に位置付けられる「石油及びガス産出能力向上プログラム」に合致するものである。
(2)効率性
エネルギーの分野では,我が国はこれまで900名以上のイラク人に対し研修を実施してきており,本計画との高い相乗効果が見込まれ,案件の効率性も確保される。
(3)有効性
同国におけるガソリンの国内需給ギャップは,現在4.0万バレル/日(2009年の実績は,需要量:11.3万バレル/日,供給量7.3万バレル/日)から,将来10.3万バレル/日(2015年の見込みは,需要量:17.6万バレル/日,供給量:7.3万バレル/日)に拡大することが見込まれている。本計画の実施により,2.0万バレル/日の増産が見込まれており,石油製品の増産が可能となることから,石油製品の輸入による外貨の流出を防止し,現在赤字であるイラクの経常収支を改善することができ,経済の安定化に貢献することが期待される。
要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(http://www.jica.go.jp/environment/guideline/index.html),その他国際協力機構より提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/anken/zyoukyou.html),借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース(http://www.jica.go.jp/press/index.html)及び事業事前評価表(http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/before.html
)を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。