評価年月日平成18年5月26日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生
1.案件名
1-1.被供与国名
ペルー共和国
1-2.案件名
「タララ漁港拡張・近代化計画(第2期)」 |
2.無償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
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ペルーは、1873年に中南米では最初に我が国と外交関係を樹立し、これまで良好な二国間関係を構築している。考古学、人類学等を中心に我が国のアンデス社会研究の中心的対象国となっており、文化交流も活発に行われている。また、約8万人の日系人の存在等もあり、日本語学習熱は極めて高く、毎年日本文化週間が開催されている。 |
(2) |
2001年、10年間続いたフジモリ政権からパニアグア暫定政権を経て発足したトレド現政権は、貧困撲滅及び雇用創出を最大の目標と位置付け、インフラ整備を前向きに実施してきている。 |
(3) |
我が国は、近年米国に次ぐ第2位の援助国であり、貧困対策、社会セクター支援、経済基盤整備、環境保全を重点分野として経済協力を実施してきている。また、我が国イカ釣り漁船がペルー水域で操業する等、水産分野における良好な二国間関係に鑑み、同国水産業振興のため水産無償資金協力も実施してきている。 |
2-2.対象国の経済状況
(1) |
所得水準(1人あたりのGNI)は2,360ドル(2004年) |
(2) |
主要産業は、製造業、農牧業、鉱業(金、銀、銅、亜鉛等)及び水産業 |
(3) |
トレド現政権は、1990年代のフジモリ政権下におけるネオリベラリズム経済政策を基本的に踏襲した政策を進めている。2001年に操業を開始したアンタミナ銅山をはじめとする鉱業セクターの輸出が好調に推移したことから、2002年以降4%以上の経済成長を記録し、2005年の成長率は6.7%に達した。現在ペルーは、外貨準備高の増加、低いインフレ率、為替の安定など、マクロ経済上では中南米で最も安定した国の一つとなっている。
対外経済面では、ペルーは米国のアンデス貿易促進麻薬根絶法(ATPDEA)の恩恵を受け、多くのペルー産品が関税無しで対米輸出されている。同法は2006年末に期限切れとなるが、これに代わる米国とのFTAが本年4月に署名され、現在両国議会の批准を待っている状況にある。この他、EUからも恩恵関税の適用を受けている。
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2-3.対象国の開発ニーズ
(1) |
ペルーの漁業は、従来魚粉製造の原料であるアジ等浮魚を中心としてきたが、同国水産開発政策に基づき漁業資源の開発を進めた結果、1990年よりオオアカイカの水揚げ量が急増した。これらは食用として国内で消費される他、近年は中国等にも輸出されている)。 |
(2) |
タララ漁港は、同国北部に位置する零細漁民用漁港であるが、オオアカイカ漁場の近くに位置していること、近隣に消費地が存在し、また漁港と都市を繋ぐ道路が整備されていること等を背景にイカ漁業の拠点港として発展し、現在は年間3万4千トン(2004年)と同国最大の水揚港となっている。 |
(3) |
他方、タララ漁港を利用する漁船が増加した結果、港湾内は混雑しており、それに伴い漁獲物の鮮度低下や水揚げ作業の安全性低下といった問題が生じている。また、同漁港は出漁準備港の役割も果たしているが、利用隻数に対し給油等の施設が不足しており、給油待ちの漁船が同漁港の混雑化の一因となっている。さらに、1978年に建設された同漁港の水揚げ処理施設は老朽化が進み、また、取り扱い量の増加と魚類より鮮度低下が激しいオオアカイカへの取扱魚種の転換に対してその処理能力が不足している。このため、自国民に対する安全な動物性蛋白質供給の面で問題があるほか、処理過程で発生する排水や残渣(イカの内蔵)により海域の汚染が進行しており、その改善が急務とされている。 |
(4) |
このような背景のもと、ペルー政府は、上記問題に対処するために本件計画を策定し、我が国に無償資金協力を要請してきたものである。
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2-4.わが国の基本政策との関係
我が国は、政府開発援助の一環として、開発途上国の水産業の振興を通じ、我が国との友好関係の維持強化を図るとともに、長期的展望の下に我が国漁船の漁場確保等に資するため、水産無償資金協力を通じて、水産関係施設の建設等を推進しており、本件支援はこれに合致すると考えられる。
2-5.当該案件に無償資金協力を供与する理由
ペルー政府は本件計画の実施を高い優先順位を付して要請してきている。また、同国水域は我が国遠洋イカ釣り漁船の主要漁場となっている等、水産分野で良好な関係にある。 |
3.案件概要
3-1.本プロジェクトの目的
本計画は、ペルーにおけるイカ漁業の拠点であるタララにおいて零細漁民支援のために水産基盤施設を建設することを目的としている。
3-2.実施内容
供与限度額は10億2,200万円。
(1)水揚用桟橋、処理棟等の施設建設
(2)機材(洗浄台、処理台、解体台等)の供与
(参考)第1期では、残渣処理用小型桟橋、漁民組合棟等の施設建設を実施。供与限度額は2億9,800万円。
3-3.環境社会配慮など留意すべき点
以下の事項がペルー政府により実施される必要がある。
(1) |
本計画により整備された施設の維持管理を適切かつ継続的に実施すること |
(2) |
活動に必要な運営経費(人件費、事務費等)について必要な予算措置を行うこと
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3-4.無償資金協力供与の成果の目標(アウトカム)
(1) |
桟橋の混雑のため帰港後1時間以上の水上待機を強いられていた漁船の割合が、これまでの約15%から4~5%に低減することによって、水揚げ作業の効率化とそれに伴う漁獲物の品質向上、及び安全性の向上が図られる。 |
(2) |
漁港排水中のBOD値(生物化学的酸素要求量)が、現状の約300mg/Lから約160mg/Lに低減する。 |
(3) |
タララ漁港における水産物水揚・一次処理にかかる衛生状況が改善され、出荷される水産物の品質が向上することにより、ペルー国民に対し新鮮かつ良質な動物性タンパク質が供給される。 |
(4) |
本計画の実施により、我が国とペルーの友好関係が促進される。
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3-5.外交的効果
(1) |
本案件は、ペルーの主要産業である水産業の国家開発計画に掲げられている「漁業資源の開発」、「零細漁業の振興」に合致するものであり、同国政府のトップレベルの関心も非常に高いことから(2006年4月3日に行われた第1期工事の交換公文署名には、トレド大統領も出席)、我が国の顔が見える案件として、外交的インパクトが大きい。 |
(2) |
また、我が国イカ釣り漁船が1991年からペルー水域で操業する等、我が国はペルーとの間で水産面においても友好関係を有しているが、本案件の実施は、これを維持強化するものである。 |
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4.事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
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