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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日平成18年5月26日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生


1.案件名

1-1.被供与国名
 ケニア共和国

1-2.案件名
 「アフリカ理数科・技術教育センター拡充計画」
2.無償資金協力の必要性

2-1.二国間関係
(1) 1963年1月、ケニアが独立し、我が国が同国を承認して以来、主に我が国との経済協力を通じて関係は良好である。同国は東アフリカにおいて政治・経済面で指導的役割を果たしている。
(2) 2002年12月に成立したキバキ政権は、汚職対策や司法改革、初等教育の無償化など各種の社会・経済改革に取り組んでいるが、公約に掲げていた憲法改正が2005年11月の国民投票により否決され、全閣僚の解任と再組閣が行われた。
(3) 我が国は、「国別援助計画」にて「人材育成」「農業開発」「経済インフラ整備」「保健・医療」「環境保全」を重点分野として、積極的に支援を行っている。
(4) 近年ハイレベルの人物往来が増加している。(我が国要人のケニア訪問:99年橋本元総理大臣、高円宮同妃両殿下、01年森元総理大臣。ケニア要人の訪日:04年キバキ大統領、ムワクウェレ元外相)

2-2.対象国の経済状況
(1) 1人あたりのGNIは460ドル(2004年)
(2) ケニアは、他のアフリカ諸国と比較すると工業化が進んでいるものの、コーヒー、茶、園芸作物などの農産物生産を中心とする農業国であり、農業がGDPの約25%、労働人口の約60%を占める。90年代後半には旱魃やエルニーニョ現象による大雨のため農作物やインフラに深刻な被害が生じ、一時マイナス経済成長となったものの、比較的高い教育水準を背景に着実な成長を見せ、2004年のGDP実質成長率は4.3%に達している。

2-3.対象国の開発ニーズ
(1) ケニアは、「2020年までに経済基盤を工業に移行する」という国家目標を掲げており、教育をこの目標達成の前提となる重要な分野として位置付け、初等教育の無償化や中等教育における英語・理数科教育の強化などを進めている。しかしながら、中等教育終了資格試験の理数科目の数学、物理、生物、化学が低迷しており、この状況を解消する一つの方策として、1998年7月から我が国の技術協力プロジェクト「中等理数科教育強化計画(SMASSE)」により実験的に一部地域の中等学校理数科教員の再訓練が行われた。
(2) この成果を受け実施された同プロジェクトフェーズ2(SMASSE2)では、再訓練がケニア全土に展開された。また、この動きはケニアを中心に周辺国にも拡がり、アフリカ域内ネットワーク(SMASSE-WECSA)が結成され、アフリカ広域研修も開始された。SMASSE2開始にあたり、これらの研修拠点として、アフリカ理数科・技術教育センター(以下「本センター」という)がケニア側から提供されたが、本センターは、旧職業訓練施設を改修したものであり、収容人数が少ないことから、食堂を研修教室として利用せざるを得ない等十分な研修を行うのが困難な状況である。
(3) このような中、ケニア政府は、ケニア教育5ケ年計画(2005~2010年)を制定し、中等教育の理数科教員に対する研修を制度化する方針を打ち出している。また、ケニア国内及びアフリカ広域研修に対するニーズの拡大に対応するため、本センターの拡充を最重要課題と位置付けている。
(4) 本件は、ケニア政府が本センターの拡充及び研修に必要な機材の調達のための資金につき、我が国に無償資金協力を要請したものである。

2-4.我が国の基本政策との関係
 本案件の前身であるSMASSE2は、我が国の対アフリカ外交の基軸である、アフリカの自助努力と国際社会の連携を重視するTICAD(アフリカ開発会議)プロセスを通じて明確な支援方針を打ち出しているNEPAD(「アフリカ開発のための新パートナーシップ」との初の共同実施案件である。SMASSE2の流れを継ぐ本案件は、SMASSE2と同様、TICADプロセスと理念を共有するNEPAD支援の観点からも、重要な案件と言える。また、対ケニアODA重点分野である「人材育成」に合致している。

2-5.当該案件に無償資金協力を供与する理由
 ケニアは、本案件の実施につき、高い優先順位を付して要請を行っている。本案件の実施により、理数科に関する授業実施体制がケニア国内及びアフリカ域内に普及していくことで、将来的には、ケニアのみならずアフリカ全土の経済発展の一助となると考えられることから実施の効果は大きい。
3.案件概要

3-1.本プロジェクトの目的
 本計画は、アフリカ理数科・技術教育センターにおいて理数科職員に対して授業改善方法を指導し、それを全国に普及させていくことで、生徒の理数科目に対する理解が進むこととなり、ケニアの工業化達成・経済発展に寄与することを目的とする。

3-2.実施内容
 供与限度額は12億1,100万円であり、アフリカ理数科・技術教育センター施設の建設(拡充)、及び研修に必要な機材の供与を行うものである。

3-3.環境社会配慮など留意すべき点
 以下の事項がケニア政府により実施される必要がある。
(1) ケニア政府負担の工事を適切に行うこと
(2) 本計画により整備された施設の維持管理を適切かつ継続的に実施すること

3-4.無償資金協力供与の成果の目標(アウトカム)
(1) ケニア国内及びアフリカ広域研修のニーズ(約4,800人/年)への対応が可能となる。(現在の受入能力は約2,100人/年
(2) 研修受講者がケニア国内及びアフリカ域内で研修内容を普及させることにより、理数科授業の改善が期待される。
(3) 理数科授業の改善により、中等学校生徒の理数科に対する理解が進み、将来的にはケニア及びアフリカ全土の経済社会開発への寄与が期待される。

3-5.外交的効果
(1) ケニアは、独立以来、教育を貧困削減及び国家発展のための重要な要素と位置づけている。また、近年においては、経済基盤を2020年までに工業に移行させるという国家目標を掲げ、教育を目標達成のための重要分野としている。その具体策として理数科教育の質向上のための理数科教員研修を制度化する計画が設定されている。現在、当国において、この計画に対応可能な施設がないことから、当国の国家目標に寄与する外交的効果は大きい。
(2) また、今回の協力は、昨年4月にインドネシアで開催されたアジア・アフリカ首脳会議においてアフリカ支援の観点から小泉総理大臣が表明した「今後4年間で、アフリカにおいて1万人の人材育成への支援」に寄与し、ケニアのみならずアフリカ広域の教員育成という人材育成分野への協力である。
(3) 加えて、「南南協力」としてケニア以外のアフリカ諸国の教員を対象とする広域研修の実施によりアフリカでの人材育成が促進されることから、広域における外交的インパクトも大きい。
(4) このように、本件の実施は我が国とケニアの友好関係を増進するのみならず、アフリカ地域全体における我が国のリーダーシップと友好関係を強化するものである。
4.事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

(1) ケニア政府からの要請書
(2) JICAの基本設計調査報告書(JICAを通じて入手可能)
(3) 第26回無償資金協力適正会議(同会議の概要については外務省ODAホームページ参照
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/kaikaku/ugoki.html


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