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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成18年5月26日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生


1.案件名

1-1.供与国名
 インドネシア共和国

1-2.案件名
 「海賊、海上テロ及び兵器拡散の防止のための巡視船建造計画」
2.無償資金協力の必要性

2-1.二国間関係
 インドネシア共和国は、我が国が中東から石油等を運ぶ際の極めて重要な海上輸送路に位置する上、東南アジア地域において国土・人口・資源の全てにおいて最大規模であり、ASEANの中核国の一つとして東南アジアの安定と発展のために重要な役割を担う国である。したがって、我が国は、インドネシア共和国を我が国の東南アジア外交上の重要なパートナーの一つと位置付けている。
 日・インドネシア関係は、昨年の経済連携協定交渉の開始に代表されるように、主として経済面での相互依存関係を背景として、緊密且つ広範な友好協力関係が築かれている。両国間の要人往来も活発に行われており、文化、人物交流の面でも幅広い協力関係が進展している。

2-2.対象国の経済状況
(1) 所得水準(1人当たりGNP)は、約1,165ドル(2004年)。
(2) インドネシア共和国は1997年のアジア通貨危機において、ASEAN及び韓国の中で最大の経済的影響を受けた。その後、好調な国内消費に支えられ、堅調な成長を見せているが、治安の不透明性や法の支配の確立の遅れなどから外国投資が回復しておらず、失業率も依然上昇傾向にあり、経済状況は依然として厳しい。
(3) 2002年10月及び昨年10月のバリ島爆弾テロ事件の発生等の治安問題に加え、鳥インフルエンザ、原油価格の高騰等の経済に与える影響が懸念される。
(4) 投資環境整備を中心とした諸改革を実施中である。
(5) 対外債務返済が財政の大きな負担となっており、2002年4月のパリ・クラブ会合において、最大で54億ドルの債務繰延が合意された(内、我が国のものは27億ドル)。最近は、債務残高の対GDP比は低下してきている。

2-3.対象国の開発ニーズ
 近年多発している海賊・武装強盗事件は、凶悪化、組織化、国際化し、海上保安対策の重要性が増してきている中で、インドネシア領海は、全世界の海賊事件の約3割が発生する海賊多発地帯となっている。また、我が国をはじめ世界各国にとって極めて重要な海上輸送路であるマラッカ海峡は、通過船舶200隻/日以上、我が国の関係船舶も年間14,000隻が往来する国際的な海運の大動脈である。その一方で、全世界の1割強(2004年:37件)もの海賊事件が発生しており、沿岸国であるインドネシア共和国の海上保安体制の強化は緊急の課題となっている。また、マラッカ海峡を挟んだ密輸や不法入国も問題となっている。
 本計画は、国家開発計画(PROPENAS)の中で国家開発のプライオリティとしている5点の1つである「健全な統治の実施」に寄与するものである。

2-4.我が国の基本政策との関係
 我が国は、インドネシア共和国に対し、「民間主導の持続的な成長」「民主的で公正な社会造り」「平和と安定」の3分野を重点分野として支援しているが、本計画はこのうち「平和と安定」に該当する。
 また、本計画は、我が国のODA重点課題のうち、「地球規模の問題への取組」における「テロとの闘い」に該当するものである。供与予定の巡視船艇は、乗員を保護するための防弾措置を施した結果、輸出貿易管理令に規定される「軍用船舶」に該当し、武器輸出三原則等上の「武器」に当たるため、平成18年6月の官房長官談話で、武器輸出三原則等の例外化を図る予定である。

2-5.当該案件に無償資金協力を実施する理由
 テロリストや海賊は国境を越えて活動しており、国際的な協力が重要である。一方で、マラッカ海峡は沿岸国の領海で占められていることから、沿岸国が同海峡の安全確保に責任を有しており、沿岸国の取締り能力を向上させることが重要である。また、インドネシア共和国の海上保安体制の強化は、インドネシア共和国の安定した経済社会開発に寄与するのみならず、2005年3月に同海峡で発生した日本船の襲撃に象徴されるような事件は、我が国の国民の安全及び我が国の経済活動にとって直接の脅威となっており、緊急に解決すべき課題といえる。また、同海峡を挟んだ密輸や不法入国も問題となっている。
 インドネシア共和国は低所得国であることから、テロ・海賊行為等の取締まりやその防止に必要な資機材等の整備が困難な面があり、その対応能力は不十分であるという状況にある。
 テロ・海賊行為等の効果的な取締り・防止に必要な本案件の実施については、インドネシア共和国政府自身も高い優先順位で要請を行っており、本計画の実施により対象地域の海上保安体制が強化される。
3.案件概要

3-1.目的
 海賊・武装強盗事件が頻発しているマラッカ海峡において、インドネシア共和国に巡視艇を供与することにより、同国の海上保安体制の強化に資することを目的とするものである。

3-2.案件内容
 国家警察海上警察局で使用する巡視船3隻(船舶全長約27m、速力:約30ノット、航続距離:約600海里)を供与し、ベラワン基地及びタンジュンバツ基地、ジャカルタ基地に配備するもの。

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
 次の事項がインドネシア共和国政府によって確保される必要がある。
(1) 予算が確保され、適切に維持管理が行われること。
(2) 巡視船運用に必要な人材が育成されること。
(3) 供与される巡視船がODAの対象であるテロ・海賊行為等の取締り・防止に限定して使用されること。
(4) 供与される巡視船を我が国の事前同意なく第三者に移転しないこと。

3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1) 新たに供与される巡視船と既存の保有船と組み合わせることにより、海賊多発地帯における警備活動が24時間可能になる。
(2) 各基地からの警備範囲が各基地から現状半径170マイルから250マイルまで延長可能となり、海賊多発地域をほぼカバーすることができる。
(3) マラッカ海峡を中心とするインドネシア共和国周辺海域の海上保安体制の強化に貢献することができる。
(4) マラッカ海峡を航行する船舶輸送(日本船も含む)の安定化を図ることができる。
(5) 上記の貢献によって、我が国とインドネシア共和国との友好的な二国間関係を増進させる。

3-5.外交上の効果
(1) 本計画は、2003年6月にメガワティ大統領(当時)より小泉総理に対し、また、2004年2月にハッサン外相より町村大臣(当時)に対して、それぞれ要請がなされたことを受けて案件形成が行われてきたものであり、本計画の実現は外交上重要な意義を有する。
(2) テロ、海賊等の国境を越える犯罪の問題は、国際社会が最優先で取り組むべき課題であり、この対策を推進していくことは、国際社会における責任ある国としての我が国の責務である。
(3) 重要な海上交通路であるマラッカ海峡の航行安全確保は、インドネシア共和国のみならず、我が国をはじめとする各国の物流、経済活動にとっても、その意義は大きい。また、同海峡の安全航行への支援を行うことにより、マレーシアをはじめとする他の沿岸国及び同海峡を利用する各国にとり、テロ・海賊行為等の対策に対する我が国の政策イニシアチブにつき、実例をもって示すことができることのインパクトは大きい。

4.事前評価に用いた資料、有識者等の知見等

(1) 先方政府からの要請書を参照。
(2) JICAの基本設計調査報告書(JICAより入手可能)
(3) 第27回無償資金協力実施適正会議にて検討(予定)。
 (同会議の内容については、外務省ホームページを参照
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/kaikaku/ugoki.html


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