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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成16年3月30日
評価責任者:有償資金協力課長 石兼 公博


1.案件名

1-1.供与国名
 インドネシア共和国

1-2.案件名
 タンジュンプリオク火力発電所拡張事業
 (Tanjung Priok Gas Fired Power Plant Extension Project)
2.当該案件への有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係

(1) 日・インドネシア関係は、1958年の外交関係開設以来、主として経済面での相互補完関係を背景として、緊密な友好協力関係を築いてきている。両国間の要人往来も活発であり、また、文化、人物交流の面でも幅広い協力関係が進展している。
(イ) 貿易・投資における相互依存関係
 インドネシアは、貿易・投資等の面で我が国と密接な相互依存関係を有している。
 貿易の面では、インドネシアは我が国にとって、米国、中国、韓国、台湾に次ぐ第5位の輸入相手国であり、インドネシアにとって我が国は輸出入両面で最大の貿易相手国である。特に同国は、我が国にとって石油、ガス等エネルギー資源の供給国であり、我が国のエネルギー安全保障の関点からも重要性が高い(日本のエネルギー輸入に占めるインドネシアからの輸入の割合:石油4.7%(8位)、天然ガス24.8%(1位)(01年通商白書))。
 投資の面では、我が国のインドネシアへの民間直接投資は、1997年のアジア経済危機による同国経済の停滞を背景に減少し、未だ十分な回復には至っていないが、我が国は対インドネシア投資国の中で常に上位を占めてきており、1967年から2001年までの直接投資累積額では、我が国は全体の14.4%と第1位を占めている。これらの直接投資により設立された日系企業は約1,000社に上り、その投資額は承認ベースで約350億ドルに達している。また、これによるインドネシア人雇用者の数は20万人を超えている。
(ロ) 重要な海上輸送路
 インドネシアは中東の石油、豪州の食料品等、我が国にとって極めて重要な輸入品を運ぶ重要な海上輸送路上に位置する。特に、我が国の石油輸入の8割以上がマラッカ海峡、ロンボック海峡、スンダ海峡を通過している。
(ハ) 東南アジアにおける重要性
 我が国にとって決定的な重要性を有する東南アジア地域において、インドネシアは国土・人口・資源の全てにおいて最大規模の国であり、ASEANの中核国の一つとして東南アジアの安定と発展のために重要な役割を担う。また、同国は我が国の対東南アジア外交上の重要なパートナーの一つである。
(2) このように、インドネシアは我が国にとって政治的、経済的、地政学的に極めて重要性が高い。我が国の外交手段の一つであるODAを活用し、同国の安定・発展を支援するとともに、強固な両国関係を構築することは、我が国にとって極めて有意義であり、我が国は同国をODAの最重点供与国の一つと位置付けている。

2-2.対象国の経済状況

(1) 所得水準(1人当たりGNP)は、710ドル(2002年)。
(2) インドネシアは1997年7月のアジア通貨危機において、ASEAN及び韓国の中で最大の経済的影響を受け、1998年のGDP成長率は-13.1%という大幅なマイナス成長となった。その後、GDP成長率は、1999年0.8%、2000年4.9%となり、2000年10月のバリ島爆弾テロ事件の発生により、バリ島を中心とした観光関連産業(ホテル、レストラン、運輸等)が打撃を受けたが、当初予想されたよりもインドネシア経済全体に与える影響は限定的であった。2001年のGDP成長率は世界経済全体の落ち込みの中にあって、好調な国内消費に支えられ3.4%を達成。2002年は3.7%の成長、2003年は4.1%の成長(速報値)となった旨中央統計局が発表。
(3) しかし、インドネシアにおける外国投資は、通貨危機以降激減し(1997年には337.9億ドルであったが、98年136.5億ドル。)、さらに治安の不安定性やガバナンスの確立の遅れなどから外国投資が回復しておらず(2002年は98.0億ドル)、市場の信任の低迷等状況は依然として厳しい。
(4) インドネシアは、IMFプログラムによる経済の構造改革を進めるとともに、パリ・クラブ会合ではインドネシアに対する債務繰延が合意された。その後インドネシアは、2003年末をもってIMFプログラム及びパリ・クラブから「卒業」し、同国政府は、これに先立つ2003年9月に(1)マクロ経済の安定維持、(2)金融セクターの再編・改革、(3)投資・輸出の促進、雇用の創出を柱とする「IMFプログラム卒業後の経済政策に関する2003年第5号大統領指令(いわゆる「経済政策パッケージ」)」を発表し、現在、この実施に努めている。
(5) インドネシアの対外債務残高は2001年時点で1,331億ドルに達し、対GDP比91.1%、DSRは41.4%と債務返済が財政の負担となっていたが、2002年時点では債務残高は1,313億ドル、対GDP比76.0%、DSRは31.1%と改善してきている(インドネシア中銀資料)。

2-3.対象国の開発ニーズ

(1) インドネシアにおける持続的経済成長・貧困削減のためには、改革推進と経済成長との好循環の実現に向けた環境整備が必要であり、経済インフラの整備は、ビジネス環境を整備し、民間投資を回復するために重要である。特に、電力の安定供給は、民間投資誘致のために不可欠である。
(2) 特に1997年の通貨危機後の経済回復に伴って電力需要は着実に増加しつつあり、とりわけインドネシア経済の中心であるジャワ・バリ地域においては、2004年頃には電力不足に陥るおそれが指摘されている。そのような中、同地域における発電所の新設、既存設備のリハビリ等の対策が急務となっている。
(3) インドネシア政府は「経済政策パッケージ」の中で、民間投資回復のための主要政策の1つとしてジャワ・バリ系統を中心とした電力インフラの建設・リハビリを取り上げている。


2-4.我が国の基本政策との関係

 本計画は、対インドネシア国別援助方針に定められた、我が国の対インドネシア支援の重点5分野のうち、「産業基盤整備」に該当する。また、メガワティ政権に対して提示した我が国の対インドネシア支援の3本柱のうち「経済ボトルネックの解消等緊急ニーズへの対応」に該当する。

2-5.当該案件に有償資金協力を供与する理由

(1) インドネシアの主要電力網であるジャワ・バリ電力系統の電力ピーク需要は、13,830MW(2002年実績、以下同じ)であり、通貨危機以降の経済回復に伴い、今後、年平均5.0%から7.1%で伸びることが見込まれている。
(2) 一方で同系統における発電設備容量は18,448MWであるが、1997年の通貨危機による国有電力企業(PLN)の財務状況悪化や電源開発の停滞により、発電所新設計画は、将来の需要の伸びに対応するには十分でなく、今後の発電所新設計画を勘案したとしても、供給予備率が2002年の33%から2010年には11%に低下することが見込まれる。
(3) 本件事業は、ジャワ・バリ系統において、特に電力需要が集中するジャカルタ近郊の発電所拡張を行うことにより、電力供給力を増大させるとともに、電力供給の安定性を改善することを目的としており、インドネシアの投資環境整備に貢献するものであり、有償資金協力を実施する意義が認められる。
3.案件概要

3-1.本プロジェクトの目的(アウトプット)

 タンジュンプリオク火力発電所(総出力1,430MW)は、ジャワ・バリ電力系統の一部を成す、ジャカルタ北東部に位置する発電所であり、1961年から発電を行っている。本件事業は、同火力発電所において、ガスコンバインドサイクル発電設備(総出力720MW級、タービン3基)を新設するとともに、関連送変電設備を改良することにより、同発電所の出力増強及び電力供給の安定性の改善を図ることを目的とする。

3-2.実施内容

(1) 供与限度額:586.79億円
(2) 供与条件
金  利:年1.3%
償還期間:30年(10年の据置期間を含む)
調達条件:一般アンタイド
借入人 :インドネシア政府
実施機関:国有電力企業(PLN)
(3) 支出期間
関係借款契約発効の日から8年

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

(1) 環境社会配慮
 発電所にかかる環境影響評価(EIA)は、2002年10月に承認取得済み。用地取得・住民移転は発生しない。
(2) 外部要因リスク
 ガス供給関連設備の整備の遅れ。


3-4.円借款供与の成果の目標(アウトカム)

 本件事業を通じて発電設備を増強し、ジャワ・バリ電力系統における逼迫する電力需要を緩和することにより、民間投資環境を整備し、経済成長の安定化に資することとなる。また、本件事業への協力を通じ、日・インドネシア間の経済関係が強化され、二国間関係の増進、さらには我が国の安全と繁栄の確保に資することとなる。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等

 要請書、F/S、JBICより提供された資料、年次協議結果等


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