評価年月日:平成16年3月31日
評価責任者:有償資金協力課長 石兼公博
1.案件名等
1-1.供与国名
中華人民共和国
1-2.案件名
放送施設整備計画
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2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
わが国と中国は、地理的に隣接し、政治的、歴史的、文化的に密接な関係にあり、わが国にとって最も重要な二国間関係の一つである。経済関係も1972年の国交正常化以降着実に進展し、相互依存関係が一層発展している。中国にとってわが国は最大の貿易相手(2003年のシェア15.7%。出典:国家統計局発表。)であり、わが国にとって中国は第2位の貿易相手(2003年のシェア15.5%。輸入では第1位。出典:財務省発表貿易統計(速報)。)である。2002年までのわが国の中国への直接投資累計額は、416.5億ドル(実行ベース)に達している(中国への対外直接投資全体に占めるシェアは8.3%、世界第3位。出典:商務部発表。)。
2-2.対象国の経済状況
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2003年、中国の一人当たりGDPは1,090ドル(出典:国家統計局発表)となり、初めて1,000ドルの大台に乗ったが、依然として低中所得国である(世銀統計によれば、2002年の中国の一人当たり国民総所得(GNI)は940ドル。)。急速な経済発展を遂げる沿海部と内陸部との格差は大きく、一人当たりGDPが最も高い上海(2002年40,646元。出典:中国統計年鑑2003)と最下位の貴州省(2002年3,153元。出典:中国統計年鑑2003)との格差は約13倍に達する。また、2003年の都市住民の平均可処分所得(8,500元)の伸び9.3%に対し、農村住民の一人当たり平均純所得(2,622元)の伸びは4.3%にとどまっており(出典:国家統計局発表)、都市部と農村部の格差も顕著になっている。 |
(2) |
1978年に始まった改革・開放政策は、1992年のトウ小平による「南巡講話」以降加速され、中国経済の「市場経済化路線」が定着し、2002年にはWTOへの加盟を実現している。その結果、経済成長の加速や貿易・対中投資の伸びがもたらされ、国民の生活水準の向上、対外経済関係の拡大が進みつつある。このような流れの中、2003年の中国経済は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の影響にもかかわらず、最終的には9.1%と1996年以来の高い水準を記録した(出典:国家統計局発表(以下のデータも同様)。GDP(名目額)は約11兆6,700億元、約1兆4,000億ドル)。他方、固定資産投資が対前年比26.7%増と大幅な伸びを記録するなど、不動産、一部製造業を中心として経済過熱を懸念する見方もある。対外経済は順調に推移し、貿易総額は前年実績を37.1%上回る8,512.1億ドルに達した。外資導入については、契約ベースで1,000億ドルを超えるなど(契約額1,151億ドル、39%増、実行額535億ドル、1.4%増)依然堅調であり、投資が貿易を牽引するという好循環が維持されている。
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(3) |
他方、市場経済化の進展に伴う課題への対応も急務となっており、中国政府によって、三大改革(国有企業改革、金融体制改革、行政機構改革)を始めとする取組が積極的に進められている。さらに、長期的に社会的な不安定要因となり得る問題(例:地域間格差、雇用問題、農業問題、社会保障体制の未整備)も顕在化しつつある。加えて、内陸部を中心とした貧困層・貧困地域への対策は依然として未解決の課題である(2002年、中国の国内基準(一人当たり年収627元以下)で見た貧困人口は2,820万人、世界銀行の基準(一人当たり一日1ドル以下)では約2億人)。2001年から開始された第10次5ヶ年計画においては、東部沿海地域と中西部内陸地域の経済格差を是正し、内陸部における貧困問題を解決するために、「西部大開発戦略」が最重要テーマとして位置付けられている。
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(4) |
中国の外貨準備高は2003年末時点で4,033億ドル(出典:国家統計局)であり、わが国(6,735億ドル)に次ぎ世界第2位。2002年の対外債務残高は1,690億ドル(DSRは6.5%、出典:IMF)、円借款の返済についても元利ともに期日どおり返済が行われており、中国の対外債務返済能力について問題となるような要素は見出せない。
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2-3.対象国の開発ニーズ
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2001年3月、2005年までを対象期間とした「国民経済と社会発展の第10次5ヶ年計画綱要」が報告・採択された。同計画は、今後5年間の中国の国民経済と社会発展のあり方について、成長、構造調整、改革・開放、科学技術の発展、国民の生活水準の向上、経済と社会の協調的発展などを主題に課題を述べ、それぞれについて達成目標(例:経済成長率年平均7%など)を掲げている。また、2002年11月の第16回党大会においては、「2020年のGDPを2000年の4倍増、一人当たりのGDPを3000ドルとする」との目標が提示された。同目標を達成するためには、今後も平均7%を超す成長率の維持が必要。 |
(2) |
上記2-2(3)で述べたとおり、市場経済化の進展に伴う課題や長期的に社会的な不安定要因となりうる問題等も顕在化しており、第10次5ヶ年計画などを踏まえた中国における社会・経済分野における開発上の主要課題は以下のとおり。
1)市場経済システムの形成と成長の持続
2)持続可能な発展の実現
3)地域間格差の是正
4)教育振興と人材育成
5)雇用・社会保障制度の拡充 |
2-4.わが国の基本政策との関係
(1) |
対中国経済協力計画との関係
2001年に策定された対中国経済協力計画は、以下の分野を重点分野としている。
1)環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
2)改革・開放支援
3)相互理解の増進
4)貧困克服のための支援
5)民間活動への支援
6)多国間協力の推進 |
(2) |
対中国円借款の重点分野
(1)を受けて、2003年度の対中国円借款では以下の分野を重点分野としている。
1)環境保全、感染症対策等地球的規模の問題に対処するための協力
大気汚染など環境保全への協力は、わが国にとっても国境を越える負の影響(酸性雨、海洋汚染、黄砂等)を抑える点で有益である。感染症対策についても同様に、わが国への負の影響を抑える点で有益である。
2)人材育成
知日層育成、知的財産権などの国際ルール遵守のための人材育成・教育は、日中間の交流が今後一層活発化していく中、わが国にとってもプラスとなる。 |
2-5.有償資金協力を実施する理由
(1) |
わが国の対中円借款は、1970年代末、中国が改革開放政策に転換し、わが国に対して経済支援の協力を要請してきたことに対し、中国の改革開放政策支持の一環として実施されてきたものである。以来、対中円借款による経済インフラ整備等を通じた中国の安定的発展は、投資環境の改善を通じ日中の民間経済関係の発展に大きく寄与したのみならず、わが国を含むアジア太平洋地域の安定と発展にも貢献してきた。 |
(2) |
近年、中国は経済的に目覚ましく成長しているが、様々な開発課題を抱える開発途上国としての側面も有し、依然として深刻な貧困や格差の問題に対する中国自身の自助努力において、なお不足の部分が存在する。また、隣国であるわが国にも直接影響を及ぼしうる環境問題や感染症などの深刻な問題を抱えている。中国が直面するこのような問題を解決し、中国が更に開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくよう引き続き支援していくことは、ODA大綱に掲げるODAの目的「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じてわが国の安全と繁栄の確保に資すること」に適うものである。
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(3) |
他方、中国経済の発展の状況を踏まえ、今年度の案件選定に当たっては、「互恵性」を追求している。すなわち、その実施が中国の経済社会開発に役立つと同時に、日本国民も利益を実感できる案件、実施を通じて日中間の人的交流が促進されるような案件を積み上げることとしている。 |
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3.案件概要
3-1.目的(アウトプット)
放送を通じた国民の教育・知識・文化水準の向上に寄与すべく、地方テレビ・ラジオ局の整備を行う。本邦技術活用条件(注)により、本邦企業の優れた放送設備・技術を導入するとともに、日本への研修生派遣、日本関連番組の購入、日本の放送局との番組共同制作を通じて、日中の相互理解の増進を図る(対象6省・区・市:青海省、雲南省、安徽省、吉林省、寧夏回族自治区、山東省済南市)。
(注)本邦技術活用条件
わが国の優れた技術やノウハウを活用し、途上国への技術移転を通じてわが国の「顔の見える援助」を促進するために創設された日本タイドの借款。
3-2.実施内容
供与限度額: |
202.02億円 |
供与条件: |
金 利:年0.75%(本邦技術活用条件)
償還期間:40年(12年の据置期間を含む。)
調達条件:日本タイド
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借入人: |
中華人民共和国政府 |
実施機関: |
各省・区・市人民政府(青海省、雲南省、安徽省、吉林省、寧夏回族自治区、山東省済南市) |
3-3.当該案件に有償資金協力を実施する理由
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プロジェクトの背景
中国では、社会・経済発展の立ち後れた西部地区を発展させるため、「西部大開発戦略」において、ラジオ・テレビを村々まで普及する事業に取り組んでおり、2005年までにラジオ・テレビの普及率を97%とする等の目標を掲げている。また、第10次5ヶ年計画においては、環境保全、教育の発展、法制度の浸透、市場経済の新秩序の整備、医療・衛生の改革・発展等の政府の取組みや方針を中国の都市農村の末端に至るまで浸透させるためにラジオ・テレビを利用することを掲げている。市場経済化の進展に伴い、中国のメディア業界の競争は激しくなっており、中国国内の各放送局は国民のニーズに沿った質の高い番組の提供、並びに番組の提供量の拡大を図る必要性に迫られているが、地方のラジオ・テレビ局は番組制作技術の低さと資金不足から十分な対応を取ることが困難な状態にある。 |
(2) |
わが国にとっての意義
本邦技術活用条件により、わが国の優れた設備・技術の普及が図られることにより、わが国の顔の見える支援、日本のブランド・イメージの強化が期待される。また、テレビ・ラジオ局職員の日本での研修、日本関連番組の購入、日本の放送局との番組の共同制作により、日中間の相互理解の増進、及び日本の音楽、アニメ、ドラマ等がより多くの中国国民に受入れられる契機となることが期待される。 |
(3) |
対中国経済協力計画との関係
対中国経済協力計画の重点分野「改革・開放支援」、「相互理解の増進」、「民間活動への支援」に該当する。
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(4) |
対中円借款の重点分野との関係
本件は人材育成事業であり、対中円借款の重点分野である「人材育成」に該当する。
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(5) |
その他
本件には、本邦技術活用条件が適用されることから、ODA大綱の基本方針「わが国の経験と知見の活用」にも合致する。
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3-4.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
用地取得あり(寧夏回族自治区における放送センター新設に伴うもの)。
住民移転なし。
中国側が内貨で実施する部分の進展状況、研修員受入れ、共同番組制作に係る日本側関係者の状況といった外部要因リスクが考えられる。
3-5. 有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
テレビ普及率、視聴者数等の拡大、並びに教育番組の普及・増加・質の向上による国民の教育・知識・文化水準の向上。わが国の優れた設備・技術の普及、日本関連番組の購入、共同番組作成等ハード・ソフト両面を通じた両国間の相互理解の増進。
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4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
要請書、国際協力銀行から提出された資料等
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