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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成15年8月5日
評価責任者:有償資金協力課長 石兼公博


1.案件名

1-1.供与国名
 ブラジル連邦共和国

1-2.案件名
 「サンパウロ州沿岸部衛生改善計画」
2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係
(1) 外交関係・人的紐帯
 我が国とブラジルは1895年に外交関係を樹立して以来、伝統的に友好関係にあり、要人往来も盛んである。
 1908年、日本人のブラジルへの組織的な移住が始まり、現在、ブラジルには、日系人・日本人移住者約140万人(海外日系人の半数以上)が在住する世界最大の日系社会が築かれている。
 また、1990年の我が国の「出入国管理及び難民認定法」の改正以降、日系人を中心とする在日ブラジル人が急増し、2000年現在、我が国には、在日外国人第3位の規模である約27万人が在住している。
(2) 経済関係
 1970年代に入ってから、本邦企業のブラジルに対する関心が高まり、製鉄、アルミ、紙・パルプ等の大型合弁事業が推進され、経済関係が急速に緊密化した。現在、サンパウロを中心に本邦企業約280社が進出している。1980年代半ば以降、対ブラジル直接投資総額に占める我が国のシェア及びブラジルの貿易における我が国のシェアともに低下傾向にあるが、我が国の鉄鋼石輸入においては、ブラジルが第2位を占める等、依然として結びつきが強い。
(3) 以上のような伝統的友好関係及び緊密な経済関係、中南米地域におけるブラジルの政治・経済面での重要性、及びアマゾン地域等における熱帯林の保全に対する世界的な関心等にかんがみ、外交手段の一つとして我が国の政府開発援助を有効に活用し、更に強固な両国関係を構築していくことは、双方にとり有益であると考えられる。


2-2.対象国の経済状況
(1) ブラジルの所得水準(1人当りGNI)は、3,070ドル(2001年/世銀統計)であり、同国は円借款対象国の中進国に位置付けられる(2002年の統計では2,850ドルになり、2003年4月以降、中所得開発途上国の位置付けになる)。
(2) 1998年にはアジア経済危機及びロシア通貨危機の影響から経済は低迷したが、1999年以降は急速に回復した。経済成長率は2000年4.4%、2001年1.4%、2002年1.5%と緩やかに成長を続け、インフレ率は2000年7.1%、2001年6.8%、2002年に8.4%となっている(IMF統計)。
(3) 2002年のブラジル経済は、アルゼンチンの経済危機の影響や大統領選挙の政治状況から、レアルが下落、金融市場が不安定化した。その後、IMFとの間で総額約300億ドルの新規融資プログラムが合意され、さらに大統領選挙が終了すると、金融市場は一定の落ち着きを取り戻した。
(4) 対外債務残高は2001年末で国民所得比46.9%(世銀統計)と高く、DSR(債務返済額/輸出額)も、2001年末に75.4%と高水準にある。他方、公的部門の財政均衡を義務付ける「財政責任法」の施行、税制・年金制度改革など、財政赤字及び公的債務を縮小させる取組みは確実に進展しつつある(政府部門の財政プライマリー収支は2000年3.5%黒字、2001年3.6%黒字、2002年4.0%黒字)。また、2003年1月に発足した新政権は堅実なマクロ経済運営を続け、前政権から引き継いだIMFとの合意事項も遵守しており、これを好感する国際金融市場からの資金調達も順調に推移している(外貨準備高対月間輸入比は2000年7ヵ月分、2001年8ヶ月分、2002年10ヶ月分)。このことから、ブラジルの対外債務返済能力が中期的に問題となる蓋然性は低い。

2-3.対象国の開発ニーズ
 ブラジルは、全土にわたって豊かな自然環境に恵まれ、特にアマゾン川流域の熱帯林やパンタナル湿原は世界的に貴重な自然資源である。しかし近年、急激な開発に伴い、これらの自然環境は急速に大きなダメージを受けている。また、都市部では、工業化と人口の急速な増大により、大気汚染、水質汚濁、廃棄物処理対策の遅れなどを通じた生活環境の悪化が深刻化している。
 このような、ブラジルの環境問題は、世界的な関心を集める地球的規模の問題となっており、1992年、リオデジャネイロで国連環境開発会議(UNCED)が開催された際、我が国は今後環境分野へのODAを拡充・強化する旨表明し、下水処理、河川流域の汚染改善などの環境改善案件に対し、円借款を供与している。ブラジルの環境問題に対する協力は、地球環境問題の解決に資するだけでなく、前述の我が国の環境問題に対する積極的な協力姿勢と貢献を国際社会において強くアピールするものとして極めて効果的である。

2-4.我が国の基本政策との関係
 ODA中期政策の中で挙げられている中南米地域への援助の重点支援の「豊かな自然環境の保全や経済成長に伴う環境負荷の増大に対応した環境保全のための支援」に該当する。

2-5.有償資金協力を実施する理由
 サンパウロ州はブラジル経済の中心として発展を続けているが、社会インフラの整備が十分に追いつかず、住民の生活環境は劣悪なまま放置されている。既存の上下水道サービスは未だ十分に行き届いておらず、特に下水道サービスの欠如から未処理汚染の流入による深刻な海洋汚染が懸念されている。このため、サンパウロ州は長期計画の中で本件を重要事業と位置付け早期実現を目指している。
 我が国は、環境問題を地球的規模の極めて重大な問題であるとの認識のもと、「政府開発援助大網」においても環境保全を我が国援助の基本理念と位置付け、途上国の持続可能な開発の実現に向けた努力を積極的に支援している。
 かかる我が国の積極支援の反映として、環境保全が人類共通の課題であることならびに採算性に乏しい環境事業には依然として譲許的資金が必要であることに鑑み、環境案件については、ブラジルのような中進国も含め、積極的な支援を行うこととしている。
3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)
 サンパウロ州沿岸部(バイシャーダ・サンチスタ地方)において、下水処理場を含む下水道整備と環境モニタリングシステムの導入。

3-2.実施内容
 供与限度額:216億3,700万円
 金  利:年1.8%(ただし下水管部分は2.5%)
 償還期間(据置期間):25(7)年
 調達条件:一般アンタイド
 借入人:サンパウロ州水道公社(ブラジル連邦政府保証)
 実施機関:サンパウロ州水道公社

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
(1) 数世帯が移転対象となっているが、移転対象住民に対し本計画の実施を説明済み、かつ移転住民の中に本事業を実施するにあたり支障となるような反対をしている者がいない旨確認済。
(2) 本事業に係るサンパウロ州環境局による環境ライセンス取得済。


3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
 下水処理場を含む下水道整備と環境モニタリングシステムの導入により、放流先河川・海域の水質が改善されることで、周辺住民の生活環境の改善が期待される(現在、対象都市の下水道の普及率は約53%であるが、これが約95%まで向上する。)。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、F/S、国際協力銀行から提出された資料等


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