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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成16年3月12日
評価責任者:有償資金協力課長 石兼公博


1.案件名

1-1.供与国名
 トルコ共和国

1-2.案件名
 アンカラ給水計画
2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係

(1) 共通の価値観の共有
 トルコは、欧州とアジアの接点にあって、NATO、OECD、欧州評議会及びOSCEの加盟国として西側諸国と伝統的な協力関係にある民主主義国家であり、わが国とも民主主義、市場経済という価値観を共有する。

(2) 政治的重要性
 トルコはイスラム諸国の中では最も早くイスラエルを国家承認する一方で、PLOの「国家」宣言についても一早く承認するなど、対中東政策においてバランスを重視している。トルコは、宗教的及び歴史的繋がりからパレスチナやアラブ諸国と密接な関係を有すると同時に、イスラエルとも緊密な関係にあり、和平プロセスの両当事者と太いパイプを有しており、中東和平の重要なアクターとしての潜在的可能性を持つトルコを引き続き支援する意義は大きい。

(3) 経済的重要性
 トルコは、大きな国土と市場(人口6,963万人(2002年)、一人当たりGNI2,610ドル(2002年))を有しているほか、欧州・中東の市場に隣接するという地理的好条件を有し、また、優秀なテクノクラートと良質な労働人口に恵まれているので、今後の経済発展に期待が持てる。特に、巨大な欧州市場と豊富な資源・将来的に高いポテンシャルを有する中東、中央アジア・コーカサス地域の中間に位置することから、エネルギー資源の輸出経路として、わが国企業の関心も高い。
 また、1996年1月に発効したEU関税同盟との関係で、有力な投資先として重要性は増している。

(4) 中央アジア・コーカサス地域との関係における重要性
 わが国は、中央アジア・コーカサス諸国をエネルギー供給源の多元化、将来の有力な市場として重要視しているが、同諸国へのアプローチの手段として、同諸国と歴史的・文化的繋がりが深いトルコとの一層の関係強化の必要がある。

(5) わが国との二国間関係
 トルコとわが国とは歴史的・伝統的に良好な関係を有しており、2000年には修好百十周年を迎えた。トルコでは、非欧米の国として高度経済成長を遂げたわが国への関心が高く、わが国を経済発展のモデルとして捉える考え方も広く見られる。アンカラ大学など8大学で日本語学部・講座が設けられ、1998年には日・トルコ官民の協力により土日基金文化センターが建設されるなど、伝統的な親日国であり、国民の対日感情は非常に良い。また、自動車産業等の分野で大型投資が行われている。また、2003年は、「日本におけるトルコ年」であり、様々な交流のプロジェクトが企画・実施された。

2-2.対象国の経済状況

 トルコは、経済構造改革の遅延に伴い、2000年11月、2001年2月と2度にわたり金融危機が発生、変動相場制へと移行した。この危機による急激なリラ下落による輸入物価上昇、短期名目金利の急激な高騰による投資・消費の急速な落ち込みにより、2001年のGNP成長率はマイナス9.4%となった。
 2001年3月に任命されたデルビシュ経済担当国務相(当時)は、4月に新経済プログラムを発表し、翌月にはIMFと合意に至り、スタンドバイ融資80億ドルの増額が決定された。同年9月の米国同時多発テロ後の2002年2月には、IMFは3年間(2004年末まで)の経済改革の支援を目的とした160億ドルの新規スタンドバイ融資を承認した。
 2002年GNP成長率は、同国経済の大きな割合を占める民間消費が上昇傾向に転じたことや、輸出が堅調に推移したことなどから、プラス7.8%と回復した。2003年について、トルコ政府はGNP成長率5%を目標としており、イラク戦争による同国経済への影響が当初懸念されたが、比較的早期に終結したこともあり、現在のところ大きな影響は出ていない。2003年第1四半期は7.4%のプラス成長。IMFの経済改革支援は継続しており、今後ともトルコ政府の経済構造改革の進展を注視していく必要がある。

2-3.対象国の開発ニーズ

 トルコにおける公共投資は、国家計画庁(SPO)が策定する開発5ヵ年計画に基づいて実施されており、2001年からは第8次5ヵ年計画が開始している。同計画においては、人的資源の開発と雇用機会の拡大・創出、所得格差と地域間格差の是正、科学技術能力の強化、農業開発、都市・地方インフラの充実等を主要課題としている。
 同計画の中でも、急速な都市化による人口増加に対応するための水供給インフラ整備の必要性が述べられている。

2-4.わが国の基本政策との関係

 わが国は、トルコに対しては、(1)環境(都市環境の改善、海洋汚染対策)、(2)経済社会開発促進のための人材育成、(3)地域間格差是正のための農漁業等主要産業の振興と保健・医療等基礎生活分野の改善、(4)南南協力を重点的に支援していく方針。
 また、有償資金協力では、これまで運輸、エネルギー、水供給分野をはじめとするインフラ整備を中心に実施してきている。
 本事業は、上記のうち基礎生活分野の改善にあたるほか、有償資金協力を重点的に実施してきた水供給分野に該当する。

2-5.有償資金協力を実施する理由

 トルコでは、人口増加と同時に急速な都市化が進んでおり、1997年に60%であった都市人口は、2023年には90%になると予想されている。首都のアンカラ市の人口も1990年から2000年の間に約27%増加し、同期間のトルコ全土の人口増加(約20%)を上回る人口増加となっている。同時に1人当たり水消費量も約120リットル/日(1990年、有収ベース)から約160リットル/日(2000年)へ上昇しており、人口増加と水消費量増加の相乗効果によりアンカラ市の水需要はこの間約2倍に膨らんでいる。今後も同市の人口及び水消費量は堅調な増加が予想されるのに対し、アンカラ市の年間平均降水量は約370mmに止まり、地下水取水可能量は限定的であることから、地表水源開発は緊急の課題となっている。
 トルコ国家水利庁は2050年までの水需要対応を想定したマスタープランを1995年に作成し、アンカラ市北西約100kmに位置するゲレデ川水源の開発を目的とした本事業は最優先に位置付けられた。1996年には同水源開発及びそれに伴う導水路建設、浄水場増設を内容とするF/Sが作成されている。
 アンカラ市の人口は引き続き増加しており、右マスタープランの一部として本事業を実施することによって長期的な水需要に対応する必要性は高く、有償資金協力を実施する意義が認められる。
3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)

 ゲレデ川、マルクサ川に取水堰を設け、両河川の水を既設のチャムルデレ貯水池に導水し、あわせてチャムルデレ貯水池からイベディキ浄水場間の導水管増設及びイベディキ浄水場の設備増設、その他水質維持設備等の整備が実施され、年間約1.7億トンの水をアンカラ市に供給する。

3-2.実施内容

 供与限度額:268億2,600万円
 金  利:年1.5%
 償還期間(据置期間):25(7)年
 調達条件:一般アンタイド
 借入人:財務庁
 実施機関:国家水利庁

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

本プロジェクトに伴う住民移転は発生しない。また、用地取得はウシュクル、キョルレル各堰予定地及び導水管敷設予定地について必要である。取得予定面積の概数は把握されているが、最終的な取得面積は詳細設計時に決定される。
外部要因リスクとしては、気象条件の変化による水源からの取水量の変化、アンカラ市の人口増加率の変化、アンカラ市での水消費量の変化、等がある。


3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)

 本プロジェクトの実施により、アンカラ市の住民(2000年時点で約339万人)に対して2020年まで水需要を賄うことができ、これにより公衆衛生の状況が改善される。また、本プロジェクトへの協力を通じ日・トルコ経済関係が強化され、二国間関係の増進、更にはわが国の安全と繁栄の確保に資することとなる。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、F/S、国際協力銀行から提出された資料


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