2025年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス1

揺らぐ国際開発協力と日本の使命

■政策研究大学院大学名誉教授 大野 泉

■政策研究大学院大学名誉教授 大野 泉

2025年は、国際開発協力の大転換点として歴史に記憶されるだろう。象徴的なのは、1月に発足したトランプ政権が打ち出した米国国際開発庁(USAID)の解体と、国連など国際機関への拠出金の大幅削減である。米国は戦後、一貫して世界最大の援助国として資金・理念両面で国際開発を主導してきた(日本がトップドナーとなった1990年代を除く)。それだけに、米国の突然の撤退は国際社会に強い衝撃を与えた。

欧州主要ドナーもウクライナ危機や防衛費増額の圧力でODAの削減を迫られている。経済協力開発機構(OECD)は2024年の9%減に続き、2025年も9~17%のODA減少を予測する。米独英仏などがそろって削減に踏み切るのは約30年ぶりで、今まで開発協力を牽(けん)引してきた欧米中心の枠組みが揺らいでいる。一方、地政学的対立や紛争、気候変動、パンデミック、デジタル格差などの課題が複合化し、開発途上国の脆(ぜい)弱層は厳しい困難に直面している。

こうしたグローバルなODA縮小をどう受け止め、日本はいかなる役割を果たすべきか。第一に、今回の事態は過度な援助依存のリスクを浮き彫りにした。開発途上国は、経済構造転換や税収拡大などを通じた国内資源動員を一層強化し、自立的な開発に取り組む必要がある。第二に、先進国・新興国・民間・非営利など多様なアクターが協働し、ODAを超えて、開発資金の裾野を広げることが不可欠である。アジア・中南米の新興国や湾岸諸国との連携、民間企業や財団との協働は一層重要になっている。第三に、開発パートナーにおいても、協力アプローチを見直し、中長期的な視点で制度構築・人材育成への投資や民間資金との協働をさらに重視すべきである。

その際、後発国の経験をもつ非西洋ドナーとして、日本は「開発を学ぶ側」と「伝える側」の双方で独自の協力アプローチを培ってきた。自助努力や自立的発展の重視、外来の制度や技術を相手国の文脈に応じて翻訳・適応するプロセス、現場で相手に寄り添い、組織や人材の能力開発を支援してきた姿勢などは、今こそ再評価されるべきである。日本は自信をもって開発協力アプローチを対外発信しつつ、欧米に追随することなく、ODA予算の維持と事業量の確保に努めるべきだ。同時に、限られた資金の効果を最大化するために、上流の政策・制度支援、社会セクターや地方開発への円借款活用、民間・市民社会との連携強化などに積極的に取り組んでほしい。

さらに、新興国と連携して三角協力や南南協力を推進してきた経験を基盤に、欧米ドナーが揺れる中で、日本は国際開発の「安定役(スタビライザー)」として、国際連帯の「結節点」となってほしい。

これらの観点を踏まえると、2025年4月のJICA法改正により民間資金動員の金融手法が拡充されたことは、極めてタイムリーだった。ODAが触媒となり、多様なアクターと共創することで新たな価値が生まれ、複雑化する課題の解決に資するはずだ。さらに、8月に横浜で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)では、JICAがアフリカ連合開発庁と共に、東南アジアや中南米の新興ドナー機関との協議の場を設け、地域横断的な連携の端緒が作られたことも注目される。

「自立的発展」や「卒業のための援助」は、日本が一貫して重視してきた理念である。今こそ原点に立ち返り、新興国やグローバルサウスのパートナーを巻き込んで、国際開発協力の転換期を乗り越えていくべき時にある。

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