(3)法制度整備支援、民主化支援
開発途上国の「質の高い成長」の実現のためには、一人ひとりの権利が保障され、人々が安心して経済社会活動に従事でき、公正かつ安定的に運営される社会基盤が必要です。こうした基盤強化のため、開発途上国における自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や、グッド・ガバナンス(良い統治)の実現、平和と安定、安全の確保が重要となります。
その際、公務員が関与する贈収賄や横領などの汚職事件は、開発途上国の健全な経済成長や公平な競争環境を妨げる原因にもなります。そこでドナー国は、公正かつ安定した社会の実現のため、開発途上国における不正腐敗対策を含むガバナンス支援にも取り組む必要があります。
統治と開発への国民参加および人権の擁護・促進といった民主主義の基盤強化も、開発途上国の中長期的な安定と開発の促進にとって極めて重要な要素です。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる開発途上国に対して、公正かつ透明性が確保された選挙を実施するための支援や、国民の知る権利を保障し、表現の自由を守るためのメディアに対する支援などを通じて、民主化への動きを後押しすることが重要です。
●日本の取組
■法制度整備支援
日本は、各国における法の支配の確立、グッド・ガバナンスの実現、民主化の促進・定着、基本的人権尊重、投資環境の改善等のため、法制度整備支援を積極的に実施しています。具体的には、法・司法制度の改革、法令の起草支援、法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上、監査能力強化、制度整備(民法、競争法、知的財産権法、税、監査、公共投資など)に関する支援をインドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、キルギス、ケニア、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、東ティモール、フィジー、ベトナム、モンゴル、ラオスなどの国々で行っています。例えば、カンボジアでは、1990年代まで20年以上にわたって続いた内戦により、多数の法律が廃止され、法曹人材を含む知識人が大量に虐殺された歴史的な経緯もあり、民事法の適切な解釈・運用が定着するには、いまだ多くの課題が存在します。このため、日本は20年以上にわたり、民事法の起草・普及を支援するとともに、裁判官を始めとする民事法を運用する法曹人材の育成支援を行っています。
また、2023年のG7広島サミットにおいて、ウクライナの法制度改革、とりわけ、司法部門および法の支配の促進における改革支援が宣言されたことを踏まえ、効果的な汚職対策支援プログラムの策定と支援プログラムの重複防止等を目的としたウクライナ汚職対策タスクフォースが、同年7月のG7司法大臣会合にて、日本の提案により設置されました。2024年11月には、第3回会合を東京で開催し、G7各国法務省、EU、国連を始めとする国際機関、ウクライナ汚職対策機関からの参加者約40人とともに、活発な議論を行いました。
そのほか、2021年3月に京都で開催された第14回国連犯罪防止刑事司法会議注53(京都コングレス)において採択された「京都宣言」注54の実施においてもリーダーシップを発揮しています。2024年6月には第3回アジア太平洋刑事司法フォーラムを開催し、アジア太平洋地域の23の国・機関の刑事司法実務家が、国境を越えた犯罪収益の回収や女性受刑者の処遇をテーマに活発な意見交換を行いました。さらに、同年6月から7月にかけて、2023年のASEAN・G7法務大臣特別対話において日本の提唱により創設されたASEAN・G7ネクスト・リーダーズ・フォーラムの第1回会合を開催し、ASEANおよびG7の18の国・機関から約60人の法務省等の若手職員が参加し、各国の政策的課題や、法の支配に関する各国の共通の課題についての協議を行う等して相互理解を深め、今後の協力の礎となるネットワークを形成しました。このほか、7月には、第10回太平洋・島サミット(PALM10)の開催に先立つ記念事業として、シンポジウム「太平洋島嶼(しょ)国・地域における法の支配と国際協力」を開催しました。フィジー、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦およびサモアから閣僚を含む政府高官が参加し、また同地域の伝統的なパートナー国であるオーストラリアおよびニュージーランドからも幹部職員が参加し、パネル・ディスカッションを行いました。参加者からは、法の支配の重要性を認識しつつも、能力構築への課題が多く発言されました。特にフィジーからはJICA主催の汚職防止研修に言及しつつ、「更生保護や矯正の分野、その他の法務・司法分野における能力構築のプログラムも実施してほしい。」といったコメントが寄せられました。オーストラリア、ニュージーランドからは、能力構築支援が重複しないよう調整することに加えて、地域のニーズに沿った研修を行う重要性が示されました。
法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上支援について、具体的には、法律実務家などの人材育成の強化などを目的として、国際研修や調査研究、現地セミナーを実施しています。司法省職員、裁判官、検察官などの立法担当者や法律実務家の参加を得て、各国のニーズ、最新の国政情勢、国連等の国際機関の活動を踏まえて、法令の起草、法制度の運用改善や関係職員の能力向上などをテーマとした研修を実施しています。
日本は、開発途上国のニーズに沿った支援を積極的に推進していくため、その国の法制度や解釈・運用などに関する広範かつ基礎的な調査研究を実施して、効果的な支援の実施に努めています。その一つとして、2022年4月からは、インドネシア、カンボジア、フィリピン、ラオスの不動産法制に関する比較研究を行う場として、アジア・太平洋不動産法制研究会を定期的に開催しており、2023年10月には第11回国際民商事法シンポジウムを開催しました。
■不正腐敗対策などのガバナンス支援
第26回汚職防止刑事司法支援研修の様子(写真:UNAFEI)
日本は国連腐敗防止条約の締約国として、同条約の事務局であるUNODCへの協力を通じ、腐敗の防止および取締りに関する法制度の整備や、司法や法執行機関などの能力構築支援に積極的に関与してきました。
日本は、国連との協定に基づき法務省が運営する国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)注55を通じて、法制度整備支援および不正腐敗対策を含むガバナンス支援の一環として、アジアやアフリカなどの開発途上国の刑事司法実務家を対象に、毎年、研修やセミナーを実施しています。
具体的な取組の一例として、1998年から汚職防止刑事司法支援研修を、新型コロナウイルス感染症拡大により中止になった年を除き毎年度1回実施しています。同研修は国連腐敗防止条約上の重要論点からテーマを選出して実施しているもので、各国における汚職防止のための刑事司法の健全な発展と協力関係の強化に貢献しています。2024年10月から11月にかけて、「腐敗の予防、摘発及び訴追の強化と官民の連携」を主要課題として、26回目となる同研修を実施しました。同研修には、20の国・地域から合計25人の刑事司法実務家が参加しましたが、この中にはウクライナからの参加者4人も含まれています。
ほかにも、東南アジア諸国におけるガバナンスの取組を支援するとともに、刑事司法・腐敗対策分野の人材育成に貢献することを目的として、2007年から東南アジア諸国のためのグッド・ガバナンスに関する地域セミナー(GGセミナー)を新型コロナウイルス感染症拡大により中止になった年を除き毎年度1回開催してきました。2024年から同セミナーに代わり新たに「日ASEAN刑事司法セミナー」を開始し、同年12月、その第1回として「ASEANにおける国際協力の強化:効果的な捜査共助のための新たなツールの活用」を主要課題とするセッションと「ASEANにおける過剰収容対策、とりわけ非拘禁措置を活用した加害者処遇の実情とその課題」を課題とするセッションを同時に開催しました。第1回セミナーには、ASEAN加盟国のうち9か国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、ラオス)と東ティモールの合計10か国から刑事司法実務家が参加しました。
UNAFEIの活動は腐敗防止にとどまらず、国際社会での犯罪防止・刑事司法に関する重要課題を取り上げ、それらをテーマとした研修やセミナーを広く世界中の開発途上国の刑事司法実務家に対して実施することにより、変化するグローバル社会への対応を図ってきました。例えば、2024年においては、1月から2月にかけて「21世紀の矯正施設運営-ネルソン・マンデラ・ルールズを中心として」をテーマとする第183回国際高官セミナーを、5月には「人身取引の現状と対策、とりわけ性的搾取を目的とする人身取引の現状と対策」をテーマとする第184回国際研修を、9月から10月にかけて「矯正施設内での不適正処遇や腐敗の防止-矯正施設における更生的風土の醸成」をテーマとする第185回国際研修を、それぞれ対面方式で実施しました。
案件紹介2
タンザニア
タンザニア独自の参加型計画作成手法(改良O&OD)を通じた地方自治強化
技術協力(2022年5月~2025年5月)
コミュニティと行政の協働を通じた包摂的で公正な開発の実現に向けて
1996年の地方分権化以降、タンザニアの地方自治体は初中等教育、医療、ごみ処理、道路整備、地域振興など、多岐にわたる役割を担っています。一方、これら広範な業務を担うだけの人材や予算は限られており、十分な行政サービスの提供は困難な状況でした。
日本はこれらの課題に対応するために、2002年以降、コミュニティ自らが課題・優先事項を特定し、地方自治体とコミュニティが協働して公共サービスを提供し、地域開発に取り組む仕組みである独自の参加型計画策定手法、いわゆる改良O&OD注1の開発や、この手法を全国に普及するための支援を行ってきました。
本事業では、普及した改良O&ODのさらなる定着と浸透を目標として活動しています。大統領府地方自治庁は、JICA専門家の支援の下、全国26州184県の開発担当者の研修や、県の開発計画策定・事業実施状況のモニタリング・評価を行いました。その結果、2023年7月からの1年間で、全国で道路の整備、診察所や学校の建設といった1,600にものぼる自助努力による活動がこの手法に基づき実施されています。
タンザニアでは改良O&ODを通じ、コミュニティ自らが開発の主体として強化され、パートナーとしての地方自治体の役割も強化されてきました。人口が急激に増加するアフリカでは、地方自治体が担う役割は今後も大きくなることが予想されます。日本は、自治体と住民の共助による開発を引き続き支えていきます。
住民によるコミュニティ道路建設。ファシリテーター(行政普及員)がこれらの活動を継続的に支援。(写真:JICA)
コミュニティの切なる願いであった診療所を住民自身で村内に建設。地方自治体が施設天井部の設置を支援。(写真:JICA)
注1 Opportunities and Obstacles to Developmentの略称。
■民主化支援
民主化の促進に向けた支援の一例として、日本は、コソボにおいて、2015年1月から、「公共放送能力向上プロジェクト」を実施しています。同プロジェクトでは、多民族が混在している地域での取材における情報精度の向上にむけて、少数民族地域や他民族混住地域の支局開設の準備や、JICA専門家によるOJTやワークショップを通じて報道・番組製作・技術スタッフの能力向上を支援しています。また、南スーダンでは、公共放送局である南スーダン放送局(SSBC)が南スーダン全国において国民に信頼される放送を行うことができるよう、地方スタッフを含めた同放送局の総合的な能力向上等に向けた支援を行っています。
- 注53 : 5年に一度開催される犯罪防止・刑事司法分野における国連最大の国際会議。事務局は国連薬物・犯罪事務所(UNODC)。
- 注54 : 犯罪防止、刑事司法の分野における国連と国連加盟国の中長期的な指針を示す京都コングレスの成果文書。
- 注55 : 「犯罪の防止及び犯罪者の処遇に関するアジア及び極東研修所を日本国に設置することに関する国際連合と日本国政府との間の協定」に基づいて1962年に設立され、法務省法務総合研究所国際連合研修協力部により運営されており、設立以来、144の国・地域から6,600人を超える卒業生を輩出している。
