巻頭言
世界は今、歴史の転換点にあります。ロシアによるウクライナ侵略、中東情勢、気候変動や感染症を始めとするグローバルな課題といった複合的な危機に直面している一方で、「グローバル・サウス」と呼ばれる開発途上国・新興国の重要性が増しています。
日本は責任ある主要国として、全ての人が平和を享受できるよう、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を踏まえつつ、「人間の尊厳」が守られる安全・安心な世界を実現するための外交を推進していかなければなりません。
そのためには、外交の最も重要なツールの一つであるODAの一層戦略的・効果的な実施が重要です。2023年6月に開発協力大綱を8年ぶりに改定し、開発途上国の課題解決と同時に、対話と協働を通じた開発途上国との社会的価値の「共創」により、日本の社会経済面での成長等の国益実現にも資するようなODAを推進していくことを表明しました。
2024年は、日本がODAを開始してから70年の節目に当たります。国際社会の平和と繁栄、日本の国益の双方の実現に貢献すべく、ODAの実施に当たり、次の3点に重点的に取り組みます。
第一に、新しい時代における「質の高い成長」の実現のための取組の推進です。新たな開発協力大綱の下、日本の強みをいかした魅力的なメニューを提案するオファー型協力や民間資金動員型ODA等を開始し、官民が連携する形で開発途上国の質の高い成長を実現し、同時に日本の課題解決や経済成長につなげます。
第二に、自由で開かれた世界の持続可能な発展に向けた貢献です。「自由で開かれたインド太平洋」のための新たなプランの推進に向けたODAの取組として、法制度整備支援や平和構築、連結性強化、強靱性・持続可能性等の実現に資する取組を進めます。また、力や威圧による一方的な現状変更の試みを許さず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組む決意を力強く示すべく、日・ウクライナ経済復興推進会議の成果も活用し、ウクライナおよび周辺国への幅広い支援に引き続き取り組みます。さらに、ガザ地区における人道危機を始め、脆弱な状況下に置かれている人々への迅速な支援も実施していきます。
第三に、複雑化・深刻化する地球規模課題への国際的取組の主導です。人間の安全保障の理念に立脚し、人類が共通して直面する課題やSDGs達成に向け、食料・エネルギー、気候変動・環境、国際保健、難民・避難民、女性・平和・安全保障(いわゆるWPS)等の分野にしっかり取り組みます。人間中心の開発協力によって日本が培ってきた国際的な信頼は、日本の外交力の源泉となる重要な資産です。こうした信頼に基づき、多様な課題を抱える脆弱国に寄り添い、「人間の尊厳」を守る、日本らしい、きめ細かな開発協力を進めます。その際には、二国間協力と国際機関への拠出を戦略的・機動的に活用し、強力かつ迅速な取組を実施していきます。
これらの取組を力強く進める上では、時代の変化を踏まえ、ODAの一層の戦略的・効果的な活用に加え、その基盤の拡充と強化を図っていくことも不可欠です。同時に、ODAは公的資金を原資とした、国民の理解と協力に支えられている外交ツールであることは言うまでもありません。ODAが国民の平和と安定を確保し、国民生活の維持や日本の経済成長に寄与していることを丁寧に説明していきます。そして、ODAの開発効果を最大化させるために、民間企業、公的金融機関、国際機関、NGO、地方自治体などとの連携を一層強化していきます。日本を含む世界全体は相互につながっており、開発協力を通じて、自由で開かれた秩序の下で、平和で安定し、繁栄した国際社会の構築に一層積極的に貢献していくことは、日本の国益に直結するものです。
2023年版開発協力白書は、日本の開発協力の1年間の実施状況を国民の皆様にご報告するものです。開発協力の実施には、国民の理解と支持が不可欠であり、皆様からの声に耳を傾け、一層の戦略的・効果的な実施に努めていきます。本書が一人でも多くの方々に読まれ、日本の開発協力の取組や意義に対するご理解の一助となることを願っています。
2024年3月