2.普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現
開発途上国の「質の高い成長」の実現のためには、一人ひとりの権利が保障され、人々が安心して経済社会活動に従事し、公正かつ安定的に運営される社会基盤が必要です。こうした基盤強化のため、途上国における自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や、平和と安定、安全の確保が重要となります。
2-1 公正で包摂的な社会の実現のための支援
(1)法制度整備支援・経済制度整備支援
経済社会基盤の整備とともに、法の支配の確立、グッド・ガバナンス(良い統治)の実現、民主化の促進・定着、基本的人権の尊重などが開発途上国の発展の礎(いしずえ)となります。この観点から、法令の整備や、法曹、矯正(きょうせい)・更生保護に従事する職員を含む司法関係者の育成などの法制度整備支援、税制度の整備や税金の適切な徴収と管理・執行、公的部門の監査機能強化、金融制度改善など、人づくりも含めた経済制度整備支援が必要です。
●日本の取組

ラオスにおける技術協力「法の支配発展促進プロジェクト」において行われた、民法典に関する勉強会の様子(写真:JICA)
日本は、法制度・経済制度整備支援の一環として、法・司法制度改革、地方行政、公務員の能力向上、内部監査能力強化や民法、競争法、知的財産権法、税、内部監査、公共投資の制度などの整備に関する、人材育成を含めた支援を、モンゴル、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、バングラデシュ、東ティモール、ネパール、ウズベキスタン、コートジボワールなどの国々で行っています。特に、ラオスでは、日本が20年以上にわたり、ラオスに対する法制度整備支援に一貫して取り組んだ結果、2020年5月に同国初の民法典が施行されました。このように、途上国の法制度・経済制度が整備されれば、日本企業がその国で活動するためのビジネス環境が改善されることとなります。法制度・経済制度整備への支援は、日本のソフトパワーにより、アジアをはじめとする世界の成長を促進し、下支えするものです。
日本は、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)*を通じて、アジア・アフリカ諸国等の途上国の刑事司法実務家を対象に、毎年、国際研修(年2回:春期のテーマは犯罪防止や犯罪対策、秋期のテーマは犯罪者の処遇)と国際高官セミナー(年1回:テーマは刑事司法を巡る諸問題)を実施し、国連をはじめとする国際社会での重要課題を取り上げ、変化するグローバル社会への対応を図ってきました。
ほかにも、途上国における基本法令の起草支援、法制度運用・執行のための基盤整備および法曹人材育成の強化等の目的で、国際研修、調査研究、現地セミナー等を実施しています。具体的には、ベトナム、カンボジア、ラオス、インドネシアなどのアジア諸国から、司法省職員、裁判官、検察官等の立法担当者や法律実務家を招聘(しょうへい)し、各国のニーズに応じて、法案の起草や法曹育成などをテーマとして研修を実施したほか、日本から専門家を支援対象国に派遣して、現地でセミナーなどを実施しました。
さらに日本は、途上国のニーズに沿った支援を、積極的に推進していくため、その国の法制度や、その解釈・運用等に関する広範かつ基礎的な調査研究を実施して、効果的な支援の継続実施に努めています。
- *国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI:United Nations Asia and Far East Institute for the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders)
- 国連と日本政府との協定に基づき1962年に設立。法務省法務総合研究所国際連合研修協力部が運営。開発途上国の刑事司法実務家を対象とする国際研修等を実施し、設立以来、139の国・地域から6,000名を超える卒業生を輩出している。