匠の技術、世界へ 4
日本の農業技術がブルキナファソのイチゴ生産を変える
~売れるイチゴを増やすための日本の農家の取組~

ブルキナファソのイチゴ畑にて、加藤取締役から栽培方法に関する説明を受ける現地のイチゴ農家たち(写真:秀農業)

ブルキナファソにて、加藤取締役が現地のイチゴ農家にパック詰め方法を講義した時の様子(写真:秀農業)
西アフリカに位置するブルキナファソは、砂漠化が進行し、農業に適しているとは言い難い土地もあります。そこでJICAは、同国の農村住民の収入向上と輸出振興を目指して、2013年から2015年にかけ、「市場志向型農産品振興マスタープラン策定支援(PAPAOM)」開発調査を行い、ブルキナファソで栽培できる有力な商品として、マンゴー、タマネギ、大豆、イチゴを選定しました。特にイチゴに関しては、同国で40年以上も前から生産されており、米国やフランス、オーストラリアなどのイチゴ生産が盛んな国にも劣らないほど美味で、将来の輸出品としても期待できることがわかりました。こうした事情を背景として、2018年、JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業「ブルキナファソ国育苗及び生産の近代化による高品質イチゴの産地育成案件化調査」が実施される運びとなりました。
この案件化調査で中心となって活動したのは、株式会社秀農業(ひでのうぎょう)の加藤秀明(かとうひであき)代表取締役です。加藤取締役は、民間企業で海外勤務などを経験したのち、実家の農業を継ぎ、愛知県一宮市でコメやイチゴの栽培を行っています。2010年頃からは、広大な農地を求めて国外にも進出し、それまでの海外経験も活かして、アジアを中心に、イチゴの栽培・流通・販売のプロジェクトを行いました。その後、ブルキナファソでもイチゴの栽培が行われていることを知り、JICAの上記案件化調査を実施し、同国の首都ワガドゥグ近郊で、日本で培った経験と技術を伝え、イチゴ栽培支援を行っています。加藤取締役は、現地のイチゴ農家の現状を次のように語ります。
「ブルキナファソのイチゴ農家は栽培するのみで、自ら販売をしておらず、『マーケットマミー』と呼ばれる地域の女性たちに委託して収穫・販売をしてもらい、手数料を除いた売り上げの一部を受け取っていました。マミーたちは収穫したイチゴを露店で販売したり、レストランに納めたりしますが、限られた人員で手作業で行うので、収穫しきれないイチゴが大量に畑に放置されたままで、生産されたイチゴの約70%が無駄になっていました。」
ブルキナファソのイチゴ農家が自ら販売をしていないのは、伝統的なマーケットマミーの存在のほか、組織化された収穫を行うための技術や道具がないことに加え、収穫されたイチゴを販売前に保存するための冷蔵庫など、必要な道具や機材が手に入らないことが背景にあります。また、収穫されたイチゴを販売用にパッキングする手法はもちろん、ほとんどの農家がそもそもイチゴを販売できる市場が存在することすら知らないのが現状です。しかし、ブルキナファソのイチゴは美味で、十分に商品として販売可能な品質であるため、収穫や販売方法が確立されれば、より多くのイチゴが市場で流通され、イチゴ農家の収入向上にもつながると加藤取締役は話します。
「まず、収穫技術を指導することで、収穫量を4倍程度増やすことができると思います。加えて、冷蔵庫を設置したパッキング工場を整備することで、より多くのイチゴが販売可能になります。また、日本では出荷できない傷ついたイチゴもピューレ状に加工して販売していますが、ブルキナファソでもピューレ加工用生産工場を作り、製品化して販売すれば、無駄になるイチゴをさらに減らすことができます。現地の農家の方たちがそれをやらないのは、需要がないと思っているからですが、決してそんなことはないと思います。」と熱く語ってくれました。
実際、ブルキナファソのイチゴはすでに、同国内のみならず、隣国のガーナやコートジボワール、セネガルの市場に少量ながらも出荷されています。今後も、日本の収穫技術を伝授し、工場などの設備を整備することで、販売可能なイチゴの数を増やすことができれば、近隣諸国にも輸出品として販売を拡大することができ、ブルキナファソの輸出振興にも貢献することが期待されます。
今回の取組は、ブルキナファソの関係者にも好意的に受け止められています。2018年11月には、加藤取締役が訪日中のカボレ・ブルキナファソ大統領と面会し、秀農業のイチゴを試食してもらう機会を得ました。また、同年12月には、ブルキナファソの農業省経営局の若手スタッフとイチゴ農園の若いリーダーたちを日本に招聘(しょうへい)し、一週間、秀農業のイチゴ作りの視察と簡易的な体験をしてもらいました。彼らは日本のイチゴ作りを体験し、「パッキングはすぐにでもやりたい」、「ぜひ工場を作りたい」と熱心に感想を述べたそうです。
加藤取締役もこの事業を通して多くのことを学んだといいます。
「ブルキナファソで道具も肥料も何もないところからイチゴを育てることによって、改めてイチゴ作りにゼロから向き合うことができました。また、厳しい環境でもおいしく育つ同国のイチゴを目の当たりにして、日本でも、あえて厳しい環境で育てる『スパルタ栽培』を取り入れました。このスパルタ栽培によるイチゴは、2019年のクリスマスシーズンや年末に販売し、『圧倒的においしい』との評価を受けることができました。」
加藤取締役は、日本国内での農法にもこうしたプラスの効果をもたらしたブルキナファソでのイチゴ栽培の未来に、大きな可能性を感じています。