2019年版開発協力白書 日本の国際協力

巻頭言

開発協力白書は、これまで約40年近くにわたり、内外の開発協力関係者および広く国民の皆様が開発協力への理解を深めていただくよう、日本の開発援助政策の実施状況や援助をとりまく国際的な議論の動向を、データを交えて毎年公表してきました。

1980年代の半ばには世界の約4割の人が極度の貧困の状態にありましたが、現在はその割合が約1割に減少するなど、日本をはじめとする先進国からの開発協力により、教育や保健等多くの課題において進展が見られました。これらの取組の中で、日本は1991年から2000年までの10年間には、連続してトップドナーの地位を占めていましたが、バブル崩壊後の厳しい財政状況から、ODA予算はピーク時から約半減し、現在、日本のODAは世界第4位となっています。

一方、グローバル化の進展に伴い、格差拡大、テロ、難民、感染症、環境・気候変動、プラスチックごみを始めとする海洋問題など、途上国の開発課題、地球規模課題は多様化・複雑化しています。2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成するためには、世界で年間2兆5千億ドルの資金が不足しているとも言われています。今や、政府によるODAだけでなく、民間資金の活用も含め、企業や地方自治体、大学、NGOをはじめとする様々な主体の能力、英知を結集し、開発課題の解決に当たる必要があると言えます。

私は、「積極的平和主義」の立場から日本が推進してきた「地球儀を俯瞰する外交」を更に前に進めるため、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を展開していく考えです。特定の考え方を押し付けるのではなく、各国が育んできた歴史・文化を尊重しつつ持続可能な発展のために何が必要かを一緒に考えていく「包容力」を持ちつつ、自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けてリーダーシップを取っていく「力強さ」を国際社会で発揮していきたいと思います。

特に、世界の活力の中心となっているインド太平洋地域においては、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序が国際社会の安定と繁栄の礎であるとの考え方から、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組をODAも戦略的に活用しつつ、着実に推進しています。最近の取組の一例を挙げれば、カンボジアのシハヌークビル港の開発およびラオスの国道9号線橋梁の改修によって、それぞれコンテナ取扱量および車両通行量が大幅に増加しました。これはメコン地域の自律的な発展に不可欠な東西の連結性を高める上で大きな貢献と評価されています。

開発協力は、まさに包容力と力強さを兼ね備えた日本外交の展開を実現する重要なツールです。各国から寄せられる日本の支援に対する感謝の言葉や親しみの情に触れる度に、これまで日本が開発途上国と共に考え、共に歩むという姿勢で実施してきた地道な支援が、現在の日本に対する信頼に繋がっているとの思いを新たにしています。

開発途上国を含む世界の未来を紡ぐためには、新しい時代を支える人材を育成し、制度を整えることにより、その国の経済の自律的発展を後押しする必要があります。日本の開発協力は、単に資金やモノを提供して終わりではなく、日本の官民が有する高度な技術やシステム、維持管理のノウハウも提供することで、現地の技術者や実務者を育て、新たな雇用を生み出します。このような支援は、途上国との相互信頼に基づく日本ならではのアプローチであるとともに、世界における日本のプレゼンスを高め、日本自身の経済にも裨益する好循環を生んでいます。

今回の白書では、初の試みとして、副題「世界を結び、未来を紡ぐ」を設けました。思い返せば、日本の戦後復興も、糸を紡ぐ繊維産業が海外に製品を輸出し、世界と結びつくことから始まり、現在に至っています。特に昨年は様々な国際会議が開催されました。世界の国と国、人と人とを結びつけたG20大阪サミット、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)および国連で開催されたSDGサミットや、これらの会議において打ち出された質の高いインフラ、教育・人材育成やイノベーションなど、未来を紡ぐためのイニシアティブや取組について第I部の「特集」で取り上げています。さらに、「参加型白書」を目指し、コラムのテーマについてSNSやODAメールマガジンを活用して広く公募を行ったほか、多くの皆様からご応募いただき、「グローバルフェスタJAPAN2019」写真展の展示作品となった写真も、特集ページを設けて掲載しています。

「令和」新時代においても、日本は、国民の皆様のご理解とご協力を得つつ、開発協力、地球規模課題の解決に積極的に貢献すべくリーダーシップを発揮します。世界の各国および各地域を結び、未来を紡ぐため、日本ならではの協力をより一層推進してまいります。

2020年3月

外務大臣 茂木敏充

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る