国際協力の現場から 01
「一村一品」プロジェクトを通じて地域コミュニティを再構築
~イシククリ州での成功事例をキルギス全国に展開し、人々の経済的自立を支援~
旧ソビエト連邦の構成国の一つだったキルギスでは、ソ連崩壊の影響により経済活動が停滞し、多くの人が海外に出稼ぎに行き、地域コミュニティが機能不全に陥るなど貧困化が進んでいました。こうしたコミュティを再構築し、キルギスの人々の経済的自立を促すため、日本の支援により、一村一品(OVOP:One Village One Product)事業がキルギスで展開されています。
モデル地域として最初に選ばれたのは、キルギスの北東部にあるイシククリ湖周辺の地域でした。この地域では、塩や羊毛や野生の果実類など、商品化できる可能性の高い物が多く生産されています。しかし、2006年にその商品化を始めた当初は苦労の連続でした。
「家族単位で移動する遊牧民として生きてきた人たちが多く、他人との共同作業に慣れていない人が多いのです。農産物を加工するという経験もほとんどないため、道具の使い方や作業前の手洗いなど、本当に基本的なところから教えました」と、現地で長く活動するJICAの原口明久(はらぐちあきひさ)専門家は振り返ります。ただ作るのではなく、「売れるもの」を作ることでお金を稼ぎ、豊かな生活を送ることの大切ささえも、当初は現地の人々になかなか理解してもらえませんでした。
それでも、2年、3年と経ち、加工製品が売れてお金が手元に入ってくるようになると、人々の意識も変わり、行動も変わりました。製品の品質に対する意識も高まり、一定の規格をクリアした商品をコンスタントに作り出すことができるようになったのです。
特筆すべき成功例のひとつとして、株式会社良品計画(MUJI)とのコラボ企画によるフェルト商品(地元の良質な羊毛を材料にしたぬいぐるみなど)があります。良品計画が世界中で販売する他の商品と品質およびデザインで同等のレベルの商品作りが求められ、その期待に応えることで、生産者の技術力や品質管理力も大きく向上しました。「いまでは、イシククリ湖周辺に点在する約500人の生産者が個人で制作する製品の質が、全て同じ規格内に収まるまでに成長しました」と、原口専門家は語ります。
その他にも、自然豊かなキルギスには、さまざまな種類の植物を筆頭に、多くの潜在的資源があります。そんな中、今後の展開が期待される商品の一つに、同地に自生するフルーツであるシーバクソンを使った製品があります。シーバクソンは、ポリフェノールや各種ビタミンなどに加え、健康効果が期待されるオメガ3、6、7、9脂肪酸を含んでおり、近年、「スーパーフード」として世界的な注目を集めています。しかし、その茎には棘(とげ)があって収穫に手間がかかるなど、製品化が難しい植物でした。しかし現在では、そのシーバクソンの果肉を利用したジャムや、老化予防に効果的な果実のオイルを利用した化粧品など、多彩な商品開発が進んでいます。
イシククリ州における一村一品事業は大きく成長し、プロジェクト開始以降の10年間で、商品数のみならず、商品の生産に携わる人々の数も増加し、当初の500人から2,300人にまで増えました。現在、こうした事業は、イシククリ州のモデル地域から州全体にまで広がり、そこで生産・加工された商品は、「イシククリブランド」として高い評価を受けるまでになっています。これら商品は、地元に開設したショップだけでなく、首都ビシュケクのOVOPセンターでも販売されています。地元の製品と比べ、価格が高めであるにもかかわらず、その品質の良さから、現地の人々も商品を買うようになりました。さらには、海外のバイヤーが購入する動きも始まっています。たとえば、シーバクソンジャムは、カザフスタンで開催されたワールド・フードエキスポにおいて金賞を受賞するなど、海外においても、その品質の良さが高く評価されています。
2017年1月からは、さらに一歩進み、イシククリ州で成功したモデルをキルギス国内の他の州に展開する活動を行っています。現地公益法人「OVOP+1」の最高経営責任者(CEO)であるナルギザ・エルキンバエバさんは、今後の展望についてこう語ります。
「イシククリでも最初はそうだったように、キルギスの人々には、農産物や資源を加工して商品にするという考えが希薄でした。そのため、プロジェクトに参加した生産者たちに、顧客の立場から商品を開発し、生産・販売するという視点を持ってもらえたという点で、日本の専門家による支援は大きな意味があります。継続的に事業を展開していくためには、生産者の経済的自立が不可欠であり、私たちはそのための支援を続けます。そしていずれは、私たちの助けがなくても、各地域が経済的に自立して、自ら事業を展開できる、そんな未来を描いています。」
まずはひとつの地域で、世界に通用する商品を生み出す仕組みを作り、その事業を国全体に広げていく。そのための日本の支援が、ここキルギスで着実に進んでいます。