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米国のシンクタンクによる開発コミットメント指標について

平成18年9月8日

 8月13日、米国のシンクタンク「世界開発センター」(Center for Global Development:CGD)(注1)が「開発コミットメント指標(Commitment to Development Index)」という独自の指標を用いて、7つの政策分野(援助、貿易、投資、移民、環境、安全保障、技術)に基づき先進国のランク付けを行いました。この指標において、日本は4年連続最下位とされています。主要な援助供与国である他のG7諸国も低い順位を付けられています。

 CGDは先進国が途上国に対して持っている影響力について議論を喚起することを目的として、このランク付けを行っているとのことです。勿論、民間のシンクタンクが独自の手法で援助効果を数値化し、公表することを通じ、援助に対する全般的な関心が高めるといった側面もあり得ます。その一方、今回のランキングで使用されている「開発コミットメント指標」は、以下のような問題点があり、先進国の開発問題への取組を公正に評価しているとは言えません。

【指標の具体的な問題点】

  1. 指標の対象となった7つの分野の選択基準が不明確であり、さらには7つの分野が途上国の開発にもたらすインパクトの大小も考慮されていません。すなわち、この指標では、7つの分野をすべて同等のウエイトで単純に合算してランク付けがなされています。これでは「援助」と「移民の受け入れ」が開発に与える影響は同等ということになります。主要な援助国が援助に関し討議する中心的な機関である、OECDの開発援助委員会(DAC)における議論においても、移民の受け入れや平和維持活動が開発にもたらす貢献の程度について特段のコンセンサスはなく、例えば、移民受け入れに関連した事業はDACにおける統計の対象とはなっていません。
  2. この指標において日本は、途上国の農産品への輸入障壁、ODAの対GNI比の低さ、移民をほとんど受け入れていないことや環境面や安全保障面での貢献の低さ等を理由として、低い評価を受けています。

     しかし、指標の各項目についても以下の問題点があり、それらを組み合わせた評価が客観的な判断基準であるとは言えません。

    (1)援助においては、日本が比較優位を持っている分野、重点的に実施している分野が軽視される形で算出されています。具体的には以下のとおりです。

    1)アジアを中心に大きな成功を収めてきた我が国の借款を大幅に割り引いて計算されています。

    • 使用されている日本のODA実績の数字はDAC統計上の数字よりかなり低いことに加え、DACにおける扱いと異なり、同指標においては、借款に係る利子の返済をODA実績から控除しており、日本のODA実績(2004年実績131億ドル、世界第2位)は、借款をほとんど供与していないオランダ以下(約32億ドル、同6位)、カナダ並み(約20億ドル、同8位)となっています。

    2)ガバナンスの良くない国とされている国への支援、実績が一律に割り引かれています。その結果、我が国のイラク、アフガニスタンにおける世界トップクラスの復興支援等が十分に評価されていません。
    • イラクへの援助はブータンへの援助の約10分の1、エルサルバドルへの援助の約5分の1の価値と換算されています。

    3)途上国からも高い評価を受けている我が国の技術協力や草の根・人間の安全保障無償などのきめの細かい援助が、「途上国政府の行政負担を過重にしている」という理由に基づき、大規模な援助に比べて質の低い援助とされています。
    4)各ドナーの開発へのこれまでの貢献や実績が考慮されておらず、一つの指標にすぎない援助のODAの対国民総所得(GNI)比が過大視されています。

    (2)貿易については、農産品への関税が同じように貿易歪曲的な効果を持つ農産品への補助金よりもはるかに否定的なものとして評価されており、欧州諸国に比べ日本の評価を著しく低くしています。また、我が国が途上国の貿易促進のために行っている開発イニシアティブなどの国際協力(含むインフラ支援)の貢献は全く考慮されていません。

    (3)環境については、我が国が、長年に亘って世界トップクラスのエネルギー効率を維持している点を評価しておらず、近年のCO2排出量の削減幅が小さいことを理由に低い評価を行っています。

    (4)安全保障については、平和維持活動を評価対象とする一方で、我が国のPKO分担金の負担、安保理決議に基づくイラク人道復興支援活動やアフガニスタンでの「テロとの闘い」への支援(海自艦船による給油活動)の実績が全く考慮されていません。(安保理決議に基づくイラク復興支援については「米国、英国を利する」という理由で除外されています。)
     (残りの「投資」及び「技術」の指標について我が国は中程度に位置づけられていますが、先進国間で特に大きな差を生む結果となっていません。なお、小泉政権による研究・開発促進策は肯定的な評価を受けています。)

  3. 主要先進国(DACメンバー)は、それぞれの援助において、得意とする分野を活かし、各国と協調することで補い合いながら、途上国の開発に関する諸問題に取り組んでいます。当該指標においては、このような背景が一切反映されておらず、特定の指標に基づき、それぞれの国の規模、経済、社会背景を考慮せず、各国の途上国に対する政策の優劣を比較することは適当ではないと考えます。

    (注1)「世界開発センター」
     2001年に設立されたワシントン所在のシンクタンク。2003年より、開発コミットメント指標に基づく評価を行っています。同シンクタンクによれば、この指標を通じ、「豊かな国の政策担当者に対し、彼らが世界の貧しい人のためにさらにどれだけできるかを啓蒙し」「豊かな国の政策が途上国に対して有する影響に関する新しい議論を喚起し」「どのような方法で(その影響を)測定するのが良いかを研究させる」ことを目的としています。

    (注2)2006年ランキングの結果
     2003年の格付け発表開始以来、4年連続で我が国は総合点で最下位とされています。分野別の成績は、1)援助1.1、2)貿易-0.4、3)投資5.6、4)移民1.7、5)環境4.3、6)安全保障2.8、7)技術6.3で、平均3.1(20位のギリシアは平均4.0)

<順位>

 1位 オランダ
 2位 デンマーク
 3位 スウェーデン
 4位 ノルウェー
 5位 NZ
 6位 オーストラリア
 7位 フィンランド、オーストリア
 9位 独、スイス
 10位 英
 13位 米、アイルランド
 15位 ベルギー
 16位 ポルトガル、スペイン
 18位 フランス
 19位 イタリア
 20位 ギリシア
 21位 日本

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